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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science November 22, 1996, Vol.274
人工分子(Artificial molecules)
量子ドットは、電子が小さな体積中に閉じ込められ、原子と同様の離散的なエネルギーレベルを有 する半導体構造である。Livermore たち(p. 1332)は、連結した量子ドットを作成した。この 中では、電子はドット間をトンネル効果によって通過することができる。すなわち、『人工分子』 を創製したのである。トンネル効果の弱い極限と強い極限の両方で観測されたコンダクタンスは、 多体理論からの予測と一致している。(Wt)
輝けるクラスター(Glowing clusters)
もし、化学反応により生み出されるエネルギーが、初期は励起状態に蓄えられ、その後崩壊するな らば、その化学反応は、可視光の放射、すなわち、化学発光を伴う可能性がある。Konig たち (p.1353)は、金属クラスターの形成は化学発光を伴いうることを報告している。彼らは次の説を提 案している。不活性ガス中でのクラスターの凝集過程で、不安定な中間体が形成され、それにより 励起された断片が放出される。そして、それらは可視光を放射しながら崩壊するのである。(Wt)
新鮮な空気?(Fresh air?)
対流圏から成層圏への、また、成層圏からの空気の輸送と、空気の成層圏中での滞在時間は、オゾ ンを破壊する化合物がオゾン層に到達する割合と、航空機からの放出物の効果を決定することがで きる。しかしながら、空気の地球的な輸送状況を詳細に把握することは困難である。Boering たち (p.1340)は、NASA ER-2 航空機に乗って、1992年と1996年の間の対流圏および成層圏の高度 において、種々のガスを測定した。そして、彼らは、空気が年間を通じて連続的に成層圏に流入し 、流入すると直ち分配されることを示した。この測定により、成層圏中の空気の平均年令を決定す ることができた。この寿命は、成層圏中での汚染物資の滞在時間に関連している。(Wt)
それほど安定でもない(Not so stable)
地球の底部マントルはほとんどペロヴスカイト(perovskite=(Mg,Fe)SiO3)で出来 ていると思われており、底部マントルの多くの地球物理的モデルはこの仮定に基 づいている。しかし、いくつかのこれまでの研究によれば、鉄を含むペロヴスカ イトは、底部マントルの圧力範囲全体に渡って安定性を保ち得ないかも知れない ことを示している。Saxenaたち(p.1357)は、MgSiO3を端組成とする高圧、高温で のシンクロトロンX線による研究を行った。その結果、ペロヴスカイトは約60ギ ガパスカルにおいてMg0(ペリクレース=periclase)とSiO2(スティショバイト= stishovite)に分解することを示唆している。(Ej,Fj)
アスピリンとグルタミン酸(Aspirin and glutamate)
神経伝達物質であるグルタミン酸は、発作中によくあるように、その濃度レベル が余り長い間上昇し過ぎると、却ってニューロンに有毒となる。Grilliたち(p. 1383)は、関節炎の治療のためにたびたびアスピリンを利用している程度の用量に おいて、1次培養や海馬のスライス中で、アスピリンがいかにしてグルタミン酸 誘導化神経毒性からラットのニューロンを保護するのを助けているかについて述 べている。(Ej,Kj)
腫瘍回避(Tumor evasion)
活性化T細胞はFasリガンド(FasL,Apo-l,CD95 ligand)の発現によって免疫応答が 完結した後に除去されるのが通例であり、目のような免疫反応の生じない体内の 部位でもFasLを発現する。Hahneたち(p.1363;およびWilliamsによる解説;p. 1302)は、正常な皮膚細胞と異なり、悪性黒色腫細胞は、免疫応答を回避するため にFasLを発現することを示した。FasLを発現しているマウス黒色腫細胞を注入す ると、正常なマウスでは急速に腫瘍を形成するが、Fasの不足するマウスではその ような事は生じない。(Ej,Kj)
肝臓の回復(Restoring the liver)
成人の肝臓細胞(hepatocytes)は急速に複製することができ、そのため有毒素によっ て被った損傷から回復することができるとともに、そのほとんどを除去するよう な外科手術の後でも、数日で再生出来る。Cressmanたち(p.1379)は、インターロ イキン-6(IL-6)が、この回復に決定的な役目を担ったサイトカインであることを 示した。IL-6を作る遺伝子を欠いたマウスは、肝臓の組織が除去された後、外部 からIL-6を投与されない限り肝臓組織を再生出来ない。IL-6の必要性は、硬変の 治療に利用されるような肝臓障害を制御するためにサイトカインの活性抑制をも たらすような戦略にとって、十分考慮すべきことである。(Ej,Kj)
インシュリン抵抗性、糖尿病、肥満(Insulin Resistance, Diabetes, and Obesity)
肥満はシンシュリン抵抗性と糖尿病を導くが、この2つは動物モデルでは不可分 のように見える。Hotamisligilたち(p.1377)は、脂肪細胞からの脂肪酸結合タン パク質であるAP2をコードする遺伝子を持たないマウスにおいては、食事性肥満か らインシュリン抵抗性や糖尿病は生じないことを報告している。ともかくも、 AP2は、肥満からインシュリン抵抗性を導く代謝経路に決定的役割を演じているに 違いない。この結果からは、肥満の結果、グルコース恒常性異常や糖尿症状を起 こすプロセスに原因が介在している可能性に注目すべきことを示している。(Ej, Kj)
帽子を脱ぐ(Hats off)
細胞の様々な機能を制御するために、選択的タンパク質分解がどのように利用さ れているかについて、膨大な知見が最近得られてきた。Tamuraたち(p.1385;およ びSchneiderによる展望、p.1323)は、多触媒性複合体の部分を形成するらしいタ ンパク質分解酵素複合体の発見について述べている。このタンパク質分解酵素の サブユニットは、電子顕微鏡写真において特異な構造が見られ、これは3つの角 のつばを持った3角帽子に似ている。(Ej,Kj)
ストレス信号(Stress signal)
線虫(Caenorhabditis elegans)が、その住む環境が快適でないと判断すると、有 害な条件でも生き延びられる休眠(dauer phase)幼虫へと発達する。Renたち(p. 1389)は、dauer phaseを誘発するフェロモンへの応答には、トランスフォーミン グ成長因子βに関連する成長因子の転写の変化が含まれている ことをしめした。転写性変調は、幼虫の化学感覚神経内で起きる。(Ej,Kj)
後部白亜紀の大量絶滅(Mass extinction of late Cretaceous)
小惑星の衝突による後部白亜紀の大量絶滅現象説は、多くの支持を集めた反面、 ずっと以前から絶滅に向かっていた現象に少し寄与したに過ぎないとの根強い反 対があった。その、理由は、発見されるアンモナイトなどの貝化石が衝突のずっ と以前から徐々に減少しているというものだが、古代の生物が化石として発見さ れる確率を厳密に検証した結果、やはり、突然の破局が訪れたと見なせることが MarshallとWard(p.1360;及びKerrによる展望,p.1303)で述べられている。彼らの 結論によれば、(1)多分衝突のために、いわゆるK-T境界の付近で主要な絶滅があっ た、(2)アンモナイトの少なくとも9種類は、K-T境界の直前に絶滅している、(3) 2枚貝のinoceramidのほとんどは、K-T境界のずっと前に徐々に起きている、(4) 約6種のアンモナイトは、白亜紀最後の期間を通して絶滅の傾向にあった。(Ej,Og)
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