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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science November 29, 1996, Vol.274
水域は動く(Pool moves)
赤道下の西部太平洋は、暖水域、すなわち海面の温度の高い領域として特徴的で ある。 その暖水域 は、世界中で最も激しい大気の対流を引き起こし、その東側の端における遊走が、 エルニーニョの 南側の振動の本質的な特徴となっている。Picaut たち (p.1986) は、ブイと衛 星のデータを海 洋のモデル研究と結び付けて、表面近傍と表面の流れ場を求めることにより、こ の遊走のメカニズ ムを研究した。水塊が帯状に収束し、暖水域の東側の端で、輪郭のはっきりとし た塩分の前線が存 在する証拠が得られている。これは、帯状の移流がその遊走を支配していること を示している。低 密度の塩分の薄くて暖かい水からなる、暖水域は、比較的周囲の太平洋領域から孤立し ており、これは、 なぜその暖水域が、風で駆動される流れによって容易に置き換えられてしまうの かを説明している 。(Wt,Nk)
月の上の水?(Ice on the moon?)
クレメンタイン宇宙船は、月の極の構造と組成を定めるために、バイスタティッ クレーダー (bistatic radar)実験を行った。Nozette たち (p.1495) は、南極の恒久的に 影となる領域 で観測されたレーダーエコーの偏光が同方向に増強される現象は、氷の存在によ るものであると信 じている。この氷は、恐らくは衝突で出来た石屑(regolith)と混ざっているか、 あるいはそれに覆 われているであろう。氷の小さな地面があるという考えは、レーダーの信号を説 明する唯一の解で はないかもしれないが、著者達はそれらの存在のメカニズムを示唆している:原 始の月から脱気さ れたか、あるいは彗星によりもたらされた揮発性の物質が、月の極にある恒久的 に影となる月面に おいて、凝縮し、濃縮したのである。(Wt,Nk)
早く小さな塵(Fast, tiny dust)
ユリシーズ宇宙船に搭載された宇宙塵検出装置は、1991年と1992年の木星への最 接近において、そ の前後とその間で11回の塵の流れを検知した。この流れの多くのものは、木星 の方向から流出す るようにみえるものである。Zook たち (p.1501) は、検出器に衝突した粒子の 軌跡を、時間的 に遡って木星近傍のある特定の源までシミュレートした。そして、彼らのモデル に適合するような 塵粒子は、以前考えられていたよりも速くまたずっと小さなものでなくてはなら ないことを見出し た。これらのシミュレーションは、粒子の特性のより正確な評価を与えるととも に、木星の塵粒子 がその源泉から加速される上で、太陽磁場が強い影響を持っていることを示して いる。(Wt)
大洋における気候の記録(Open-ocean climate record)
人類による放出物質が気候に及ぼした影響を評価するには、過去数百年から数千 年におよぶ詳細な気候の記録を使ってその基線を作る必要がある。地上において は、例えば氷の掘削コアのようにいくつかの詳細な気象記録が得られるものがあ るが、大洋でこれに相当するものは、急速に堆積した体積物の掘削コアであり、 これはなかなか得られない。Keigwin(p.1504)は、北大西洋Sargasso海での、十分 な解像力を持った堆積物コアについて記述している。その記録によれば、小氷 期(約400年前)における海の表面温度は現在より約1℃低く、中世温暖期( Medieval Warm Period)(約1000年前)には現在より約1℃高かったことを示して いる。(Ej,Fj)
炭水化物ライブラリ(Carbohydrate library)
細胞表面の炭水化物は、生物学的認識プロセスにおいて重要な役割を演ずる。し かし、特定のタンパク質の標的に結合する炭水化物の誘導体を同定するというス クリーニング戦略を取ろうとしても、炭水化物の合成が難しいことが問題であっ た。ペプチドや核酸と異なり、炭水化物ではモノマーを糖鎖に付加するとき、立 体化学が制御されていなければならない。Liangたち(p.1520)は、アノマーのスル ホキシドを使って、1300の二糖と三糖の固相ライブラリを作った。彼らは、天然 のリガンドに比べ、より強力にBauhinia purpureaレクチンに結合する2種類のリ ガンドを同定した。(Ej,Kj)
特別扱いの配達(Special delivery)
高等植物における受精は花粉管の成長に依存している。この管を通じて精子細胞 が卵まで運ばれる。WilhelmiとPreuss(p.1535)は、シロイヌナズナ(Arabidopsis) 中に、変異したとき各花粉管を可能な卵に導くガイダンス機構を損なうような、 2つの遺伝子を同定した。ガイダンス機構が損なわれるためには、花粉と雌ずい 組織の両方がこの遺伝子をもっていなければならないことから、この遺伝子は細 胞と細胞の接着を仲介する分子をコードしているらしい。(Ej,Kj)
カタツムリの神経栄養性因子(Snail neurotrophic factor)
神経細胞の成長を促進させる物質が軟体動物中に存在すると言うことについては 異論が多い。Faizilberたち(p.1540)は、神経細胞の出芽と成長を起こすペプチド をカタツムリから単離したことについて述べている。この新しい因子は哺乳類の 神経栄養性因子受容体---p75として知られている---の1つに結合しているが、因 子そのものは既知のどのニューロトロフィンとも相同性を示さない。(Ej,Kj)
HIV-1感染におけるT細胞代謝回転(T cell turnover in HIV-1 infection)
HIV-1(ヒト免疫不全症ウイルス-1型)感染の過程において、なぜCD4+細胞数が減 少するかについての1理論によれば、これらのT細胞を置換しようとして、急速 な代謝回転をする結果、再生能力を消耗させてしまうことによる。もしそうなら、 染色体端部の構造であるテロメアの長さが、CD4+細胞中において次第に減少する ことが期待される。Wolthersたち(p.1543)は、HIV+感染患者から数年間に渡って 得られたサンプルから抽出されたCD8+,CD4+中のテロメアの長さを調べ、テロメア 長はCD8+細胞中で減少するが、CD4+細胞中では有意な変化はないことを見つけた。 この差異は、これら個人から得られたCD4+細胞が細胞培養中で分裂した後テロメ アの長さが減少するので、テロメアの処理過程の変化で生じたものではない。こ れらの結 果の示唆するところによれば、HIV-1感染はCD4+細胞中の細胞更新を妨害するのか も知れない。(Ej,Kj)
日本における産学共同(Japan hopes to cash in on industry-university ties)
日本は長い間産学共同をタブー視した結果アメリカに比べ先端分野での産業が著 しく遅れたと認識されているが、Normile(p.1457)はこの問題に焦点をあてて記事 をまとめている。日本の代表的な産学共同の例として、東北大学のベンチャービ ジネスラボラトリーを取り上げ、文部省と通産省のバックアップによってマイク ロマシニング技術の産業界への新技術移転を押し進めている江刺教授を紹介して いる。また、企業の例としてリコーを取り上げ、同社の竜新栄研究開発本部副本部長 にインタビューし、現在日本市場で大きなシェアを持っている同社のOCRは、かつて、 名古屋大学と共同研究をやった経験が生かされていると紹介している。(Ej)
インターネットは科学を分裂させる?(Could the internet balkanize science?)
かつて科学者たちは、相互交流が可能な小さな地域的なグループに分けられて活 動していたが、インターネットの出現で、自分の好きなテーマや興味について世 界中と交信出来るようになった。これは、地理的な障害を乗り越えてより大きな グループが出来る基盤を与えるものとなった。しかし、実際は、様子がいささか 異なってきた。興味有ると思われるニュースが有ると、これに関するグループに 自由に参加できるが、更にもっと面白い話題があると、前のグループへの参加を 止めて新しいグループに移る。これがすすむと、グループはどんどん細分化され る。実際、科学者は、細分化された小さな領域の中で自分の存在意義を見つけ易 くなるため、自分の研究の励みとすることがより容易に出来るのである、と 、AlstyneとBrynjolfsson(p.1479)は展望記事で述べている。(Ej)
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