AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 15, 1996, Vol.274


ホヤのシッポ(Tails of ascidians)

脊椎動物を含む脊索動物は発生のある段階で脊索をもつ。脊索は動物の背側に沿っ た細胞の内部可動性の竿である。被嚢亜門動物(ホヤ)は最も簡単な脊索動物で あり、脊索の発生に対する遺伝的ヒントを与える。Molgula oculataなどのほとん どの種は尾部をもつオタマジャクシ幼生から発生するが、関連種であるM. occultaなどの いくつかの種は進化して幼生時に尾部と脊索構造を欠く。しかし、 ハイブリッド胚では尾部の発現が回復できる。SwallaとJeffery(p.1205; Pennisiによるニュース解説を参照, p.1082)は、脊索の特徴を発生する細胞中で はジンクフィンガー遺伝子Manxが発現しており、尾部のない種で下方制御してい ることを見いだした。(Ej)

マントルの鉱物(Mantle minerals)

下層のマントルの組成は地球内部の対流の性質を教えてくれる。この下層マ ントルの組成に関するキーとなる情報は、およそ 660 kmの深さで生じて いる上層と下層のマントル間の遷移に関する、地震と鉱物学的なデータを整 合することにより得ることができる。Estabrook と Kind(p. 1179)は、 660kmでの相転移層の直下から折り返してくると予想されていた地震波の反 射が存在しないことを示している。もし、660kmにおける遷移層を横切って のP波の速度ジャンプが、2%程度、すなわち、以前予測されていたよりも 小さな値であれば、これらのデータは説明可能である。この解析は、下層お よび上層のマントルが似通った組成であることを示唆している。(Wt)

気候を冒して(Affecting climate)

今世紀の間に観測された気候変動が、自然な変動範囲か、それとも人類の影 響の結果であるかについては、激しい議論が続いてる。Tett et al.(p. 1170)は、3つの要因を含むいくつかの気候シミュレーションを行った。こ の要因は、人類の発生に伴うもので、気候に影響すると信じられている。す なわち、硫酸塩エアロゾル、温室効果のあるガス、そして成層圏におけるオ ゾンである。観測との詳細な比較の結果、これらの要因の部分集合のみを含 むシミュレーションに比較して、上記3つの要因を組み合わせたシミュレー ションの結果が最もよい一致を与えることが判った。多くの疑問や不確かさ が残っているとはいえ、最近の気候変化は、全く人類の影響を受けない自然 な変動によるものではありそうもない。(Wt)

光屈折性有機ガラス(Photorefractive organic glass)

光屈折性有機ガラス 光屈折性(PR)材料は、光学デバイスや記憶システムへの応用がある。有機 PR 材料は、主要な無機 PR 材料である、リチウムナイオベトに匹敵するか あるいは凌駕する特性を有するものを作ることができる。しかしながら、1 つの問題は、 PR 応答を生ずるために用いられる発色団は、材料が光学的に 有用であるガラス状態を保つためには、過剰なポリマー中で溶解しなければ ならない。 Lundquist et al.(p. 1182)は、発色団自身が安定なガラス を形成し、その結果ポリマーの割合を実質的に減らすことのできる、改良さ れた有機PR材料のクラスを報告している。(Wt)

同期した間氷期(Timing deglaciation)

最終最大氷期(Last Glacial Maximum)に続く間氷期に、より寒冷な気候に戻った ことが知られているが、その最も顕著なものが、約12,000年前の Younger Dryas期である。しかし、この原因となると、当時の北大西洋各地域の 経時的な相関のある気候の記録を得ることが困難なことから、 良く分かっていなかった。Bjorckたち(p.1155)は、Younger Dryas期と、それに 関連する気候変化についてのグリーンランドの掘削アイスコア、北ヨーロッパ の木の年輪や湖底堆積物などの気象記録を調べた。彼らの示唆するところに よれば、Younger Dryasは、約11,400年まで続き、これは大西洋の熱塩潮流 (thermo-haline circulation=温度と塩分による潮流)に起因している。(Ej)

分裂を引き起こす(Causing division)

真核生物の細胞分裂では、有糸分裂の終了と後期の惹起には後期促進複合体(APC) の活性化を必要とする。APCは細胞周期のコントロールに決定的なタンパク質の制 御されたタンパク質分解を仲介するタンパク質群である。Petersたちと Zachariaeたちの報告(p.1199及びp.1201)によると、酵母およびアフリカツメガエ ル(カエル)から得たAPCサブユニットはいずれもAspergillus nidulans(真菌) から得たBIMEと呼ばれるタンパク質と似ているので、APCサブユニットは進化の過 程で保存されていると考えられる。AspergillusのBIMEの性質は、APCが有糸分裂 の終了と同様に開始も制御していることを示す。(Ej)

油断に乗じる(Caught napping)

起きている時と寝ている時の脳の化学の違いは長年研究者の興味を引いてきた。 Cirelliたち(p.1211)は、脳皮質と海馬の広い領域と連絡する脳の狭い領域である 青班核が、ラットでは覚醒時よりも睡眠時の方がはるかに低い活性パターンをも つことを示した。青班核が睡眠-覚醒サイクル間にその他の脳領域の活性をコント ロールする神経調節物質として作用することを示す証拠を彼らは提出している。(Ej)

変異する病原体(Mutating pathogens)

メチル指示性ミスマッチ修復(MMR)は、新しく合成されるDNA中の変異率と種間の 遺伝子伝達をコントロールするのを助ける。LeClercたち(p.1208)は、 Escherichisa coliやSalmonella enteritidisを含む食物伝達性のヒト病気に関連 する細菌性病原体種を単離して検査したところ、予想外の高い変異率を発見した。 検査した全ての場合において、高変異はMMRの欠損によるものであった。この高変 異が細菌性病原体で最近見られる抗生物質耐性の急速な増加の原因かも知れない ことを彼らは示している(Gradyによるニュース解説、p.1081)。(Ej)
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