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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science May 17, 1996
島の旅(Island tour)
東太平洋の海膨において顕著である、熱水噴出孔からの盛んな活動は、 ヘリウム3を含む水の多量のプルームを海洋の 深海に注入する。これらのプルームは、深淵における海洋の循環を トレースする自然のマーカーを与えるととも に、海洋山脈におけるマグマ活動によりもたらされる熱水系 の活力の証拠でもある。Lupton (p. 976)は、ハワイ島の 側面の Loihi 海山から発散する大規模なヘリウム3のプルーム を発見したことを報告している。このプルームは 、ハワイ諸島の400キロメーター北および2000 キロメーター東まで追跡することができる。(Wt)
太陽活動の変動と気候(Solar variability and climate)
太陽の輝きは11年の太陽黒点の周期で変化するが、気候へのこの変動の影響を真実 らしい形でシミュレートす ることは困難であることが判っている。Haigh (p. 981; Robockによる展望 p. 972も参照のこと)は、太陽の輝き の変動のみならず、結果としての成層圏のオゾン面の変調もまた考慮すべきで あることを、シミュレーションに おいて示した。そのモデルの結果は、太陽の輝きが強まるのに呼応して、 成層圏の温度が上昇し、夏の東からの 風をより強めることを示唆している。これは、太陽活動の影響を 成層圏から対流圏へ伝達するようになる。温度 や、嵐の軌跡の位置、帯状の風の変化は、一般的に小さくはある ものの観測されるものと類似している。(Wt)
分裂を乗り越えて(Getting over a breakup)
巨大大陸の分裂は白亜紀に激しくなったが、恐竜は、この大陸の分裂と分離に大いに影 響を受けている。この地理的変化が恐竜の進化にどの様な影響を与えたかを理解するに は、 南部の大陸からの化石の数が少なく、今まで、研究の進展が妨げられてきた。Sereno たち(p.986;および表紙とCurrieによる「展望」p.971)は、北アフリカ、モロッコのK em Kem地方から採れた肉食の大きな頭蓋骨を含む恐竜化石について報告している。こ れらの発見は、後期白亜紀のアフリカで恐竜化石が突然分化し、大型肉食恐竜の地球 規模の早期拡散が起きたことを示唆している。(Ej & Kj)
別の銀河の若い星( Young stars from another galaxy)
大マゼラン星雲の背後のクエーサーを探索する過程で、Beaulieu et al. (p. 995)は、 星の形成のごく初期の段階にあると見える7つの星を発見した。彼らがこれらの星を 前主系列星の候補天体に分類した根拠は、不規則な変光曲線と水素の輝線スペクトル である。もし、これらが別の銀河の若い星であるならば、それらは星の 初期の進化を研究するまれな機会を代表している。(Wt)
亜鉛と虚血(Zinc and ischemia)
脳に酸素が不足すると神経細胞は急激に死ぬ。一過性の虚血によって脳の特別な部位が 死 滅する過程がKohたち(p.1013)によって調べられた。退化しつつある神経細胞の回り に、細胞外亜鉛が蓄積することが、多分、選択的な神経細胞死に寄与しているらしい ことが彼らによって調べられた。実際、脳内に亜鉛キレート化剤を注入することに よって神経細胞の退化を防止することができた。(Ej & Kj)
下垂体の生産(Producing the pituitary)
恒常性、成長や生殖に必要なホルモンを分泌する下垂体は、通常、脳胚と 口腔外胚葉の細胞から形成される。この初期誘発性相互作用は、分化のプロセスを開始 し 、結果として、大人の下垂体のいくつかの特別な細胞系列を作り出す。Shengたち( p.1004)はノックアウトマウスを使って、LIMホメオボックス遺伝子Lhx3 が、この発 生経路のキーの調節因子であることを示した。通常、Lhx3遺伝子は胚の下垂体にも 大人の下垂体にも発現している。正常機能のLhx3を欠くマウスでは、下垂体細胞系列 の増殖と分化の欠如により、初期の下垂体形成が起きない。(Ej & Kj)
分別機構(Sorting machinery)
上皮増殖因子(EGF)受容体は、リガンドのEGFに結合した後、 原形質膜からクラスリンで コートされたピットに取り込まれる(インターナリゼーション)。一旦細胞内に取り 込まれると、受容体=リガンド(配位子)複合体は、分解の為にリソソームに運ばれ る。Kurtenたち(p.1008)は、受容体と相互作用をし、リソソームへの効率的な移動を 促進する、sorting nexinと呼ばれるタンパク質を発見した。このタンパク質は、エ ンドサイトーシスの輸送を調節することに携わっている類似タンパ ク質ファミリーの原型かも知れない。(Ej & Kj)
長い命綱(Long lifelines)
線虫のCaenorhabditis elegans のある種の遺伝子は、生物の寿命に影響することが 知られている。例えば、幼虫の代替的(alternative)休眠期(dauer フェーズ)の 形成に関与して いるdaf-2遺伝子の突然変異は、寿命を伸ばすことが出来る。LakowskiとHekimi(p.10 10;およびPennisiによるニュース解説p.949)は、突然変異によって、dauerフェーズ とは独立の、寿命を伸ばすことが出来るもう一つの遺伝子(クロック遺伝子)を見つ けた。この2つのシステムは相互作用があり、2重突然変異(daf-2と、最近発見さ れたclk-1遺伝子)によって、線虫の寿命を5倍にまで伸ばすことが出来る。(Ej & Kj)
老化した脳(Aging brains)
脳が加齢すると神経細胞は、より脆弱になる。ThibaultとLandfield(p.1017)は、こ のような脳の脆弱性をもたらすかも知れない加齢プロセスの一部は、老化した神経細 胞のカルシウムチャンネル数の増加によるものかも知れないことを示した。この変化 は、年取ったラットの学習能力の低下と相関があることも示されている。これら可齢 に伴う神経生理学上の変化は、年と共になぜ神経細胞の退化を受け易くなるかを説明 する糸口になる。(Ej & Kj)
超高圧下での弾性率(Selected elastic moduli under ultra high pressure)
多重アンビル装置において多結晶測定用に開発された超音波干渉測定機を、単結晶 の測定に応用し、San Carlosのカンラン石(olivine) と 苦土カンラン石(forsterite) の弾性率が測定された。 Chenたち(p.979)によると、San Carlos olivineの弾性率 C22とC55,および純粋な forsteriteのC55について13ギガパスカルまで測定された。 San Carlos olivine のC22とforsteriteのC55 は、以前の研究結果に合致したが、 San Carlos olivine のC55は以前の非線形な振る舞いをすると言う報告に反して、 圧力に比例して増加した。(Ej)
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