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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science May 10, 1996
転写開始を見る(A look at transcription initiation)
DNA転写は、プロモーターで開始前複合体(preinitiation complex=PIC)を形成すること により、RNA polymerase-II によって開始される。PICの中心成分であるTFIIDと、プロ モーター のTATA box との結合によって、PICの形成が始まる。基底因子TFIIAは、TFIIDのTBP サブユニットに結合することによってPICに会合する。Geigerたち(p.830;および JacobsonとTjianによる「展望」p.827)は、酵母TFIIA/TBP/TATAプロモーター複合体の結 晶構造を解明した。TFIIAはヘテロダイマーとして、もう一方の基底因子であるTFIIBの 反 対側でTBP/プロモーター複合体に結合しており、TBP/TATAプロモーターの相互作用には 関 与しない。TFIIAはTBPのアミノ末端に会合している。(Ej & Kj)
オスミウムの流浪の旅( Osmium odyssey)
大洋の地殻と地殻の堆積物のあるものは、しずみ込み帯において地球のマントルへ返る 。今度は、しずみ 込むスラブ上のマントルウェッジの中の溶融物に由来する島弧のマグマが地殻を再び満 たすことにな る。しずみ込みスラブと島弧のマグマにおける多くの化学的なトレーサーの分配と存在 量の比較から、この 全体としての再循環過程の鍵となる詳細な事実が明らかとなった。Brandon たち(p. 861 )は、島弧の火山 から噴出したマントルウェッジの断片の中のオスミウムの同位体を確かめた。このオス ミウムの同位体は、 多くの研究への応用が広がっている発見である。(Snowによる「展望」 p. 825を参照) データは、マントルウェッジは15%に至るまでのしずみ込みスラブから再循環された 物質を含んでいる可 能性があることを示唆している。(Wt)
ラジカルを制御する( Controlling radicals)
自由ラジカルによる重合は、通常、広がった分子量分布の生成物に終わることになる。 アニオン重合のよう な連鎖成長と終結ステップを避ける方法は、狭いレンジの分子量を持つポリマーを生成 することに用いられ る。Patten たち(p. 866)は、ラジカル生成は生ずるが、銅(I)の複合体によって制御さ れるような重合方 法を開発した。この銅の複合体は、モノマーや成長しつつあるポリマーからハロゲン原 子を抽出し、定常状 態では低濃度の反応鎖を生成する。彼らは、ポリスティレンとポリアクリレート両方に 対して、低い多分散 度を達成した。(Wt)
社会的な寄生者( Social parasite)
寄生じが蜂の女王は、他の種のじが蜂の巣を侵略し、植民地化する。 Bagneres たち(p. 889)は、化学的 な擬態が寄生の過程には伴われていることを明らかにしている。種と植民地のメンバー であることは、表皮 の化学的な署名の方法により、相互に認識される。Polistes biglumis bimaculatisの女 王蜂を強奪する時、 寄生するP. attrimandibularisの女王蜂は、寄生される女王蜂の化学的署名と符合する よう自分の署名を変 える。実際、侵略する女王蜂によって示される署名は、植民のサイクルの間じゅう変化 するのである。こ の外皮の腺の機能である「同調性」は、依然理解されていたものより、顕著により多彩 であり、不飽和炭化 水素を変化せさる能力と関連している。(Wt)
ミニ RecA(Mini RecA)
相同組換えは、遺伝の多様性を生じるには不可避のプロセスであるが、ホ モロジー領域に於て2つのDNA分子が対をつくる必要がある。大腸菌では 、RecAタンパク質が相同組換えを促進する。Voloshinたち(p.868;およびStasiakによる 「展望」p.828)は、RecAから得られた20-アミノ酸のペプチドは、RecAタンパク質全体 の機能の一部を模倣することを示した。すなわちこのペプチドは1本鎖DNA(ssDNA)を DNA2重らせん上の相同部位と対を作らせることが出来たり、また、2つの基質DNAを 結合させ、ssDNAを解き放したりすることが出来る。(Ej & Kj)
融合と侵入(Fusing and entering)
CD4はHIV-1(ヒト免疫不全症ウイルス、タイプ1)の1次受容体であるが、このウイル ス が融合して細胞に侵入するにはヒト補因子もまた必要である。Fengたち(p.872;および Cohenによる「展望」p.809)は、cDNAライブラリーからファンクショナルスクリーニ ングによって、この侵入補因子を同定した。1.7キロベースのインサートの配列を決 定することによ って、fusinと呼ばれるタンパク質は7つのトランスメンブランセグメントを持つGタン パ ク質結合受容体のスーパーファミリーのメンバーであることが判明した。CD4と組換えfu sinの両方を発現 する非ヒト由来の細胞は、HIV-1を感染させることができた。(Ej & Kj)
スプライシングの段階(Splicing stages)
イントロンは、小さな核RNA(snRNA)とタンパク質の複合体であるスプライセオソーム (spliceosome)によってプレメッセンジャーRNAから除かれる。AstとWeiner(p.881)は、U 5 snRNAに相補的なオリゴヌクレオチドを使ってスプライシングの過程における反応中間体 の候補を調べた。スプライシングの過程で、彼らはU1/U4/U5 snRNP複合体を見つけた。 こ れは、特異的に5'スプライス部位を認識し、U5によってU1を置換する、その中間体とし て 機能するのかも知れない。(Ej & Kj)
ウイルス対ウイルス(Virus versus virus)
デング(DEN)熱や、関連する熱帯の病気はコントロールが難しく、これは感染した節足動 物(例 えば、蚊)からのデングウイルスによって媒介によって起こされる。これらのウイルス は 、ポジティブセンスRNAゲノムを持ち、節足動物宿主の中で自由に再生産される。Olson たち(p.884;およびJamesによる「展望」p.829)は、このデングウイルスに組換えシンド ビス(Sindbis)ウイルスを感染させ、蚊の中でのDEN-2ウイルスの複製を制限した。この シ ンドビスウイルスは、DEN-2ウイルスのプリメンブラン(premembrane)コード領域に対す るアンテ ィセンスRNAをコードしている。この処置によって、DENウイルスが蚊の唾液を通じて伝 染す ることが阻止された。(Ej & Kj)
NFAT1は今や否定的?(NFAT1 now negative?)
転写因子のNFATファミリーは、T細胞の活性化に重要な役割を演じると思われてき ており、NFAT1を欠くマウスはT細胞区画に何等かの中間的な特徴を持つことが期待され る。 Xanthoudakisたち(p.892)は、実際はそうではない、と報告している。すなわちT細胞の 発生も、 in vitroの機能的応答も正常である。さらに驚くことに、NFAT1-/- マウスから得られた T細胞は、抗原の刺激に対して、より強い応答を示した。このような思いもよらぬ発見 を説明するメカニズムはまだ良く解らない。もしかしたら、NFATファミリーに機能的な 重複があるのかも知れない。これらデータは、NFAT1の負の制御機能とつじつまが合っ ている。(Ej & Kj)
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