AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 22, 1995


緩やかなアルカン活性 (Mild alkane activation)

アルカンの炭素水素結合(C-H)は強く、非分極性であり、化学的反応性を示すのは極 限状態であるか、或は超強酸のような反応性の強い種があるときのみである。Arndts enとBergman(p.1970)によると、10°Cの溶液中で、メタンと末端アルカンを熱活 性化出来る陽イオン性イリジューム化合物の合成について報告している。この反応は 選択的で、エーテルやエステルのような官能化した分子のC-H結合を活性化すること もできる。

小さなNMR (A little NMR)

核磁気共鳴(NMR)は構造決定の有力な手法であるが、通常、微量の試料のための解析 には使われない。Olsonたち(p.1967)は、このNMRの感度を上げる方法について述べて いる。彼らは微小毛細管の回りを包むように、0.5ミリメートル径で、1ミリメートル 長のラジオ周波数(RF)コイルを作った。電場は十分均一であり、ナノリットルの体積 のサンプルから0.5Hzのスペクトル線幅が得られた。この装置の応用としては、毛細 管分離法や、微量な生物分子の検出が考えられる。

ヒトのゲノム地図 (Human genome map)

配列の標識部位(STS)は、大規模なクローニングライブラリーから決定された配列を 関連づけるためのゲノムの物理的な地図の作成に、更に、病気の遺伝子を同定し遺伝 子的な構成を解析するのを助けるために利用される。Hudsonたち(p.1945;およびMarx によるニューズ解説p.1919)によると、15,086 STSを含んだヒトゲノムの地図を提示 した。これは、マーカー間が平均199 キロベース(kilobase) あることに相当する。

宇宙線の起源 (Cosmic ray origins)

外宇宙から来るエネルギーを持つ原子核宇宙線の起源は謎のままである。Siglたち(p .1977)は、1018eV以上の超高エネルギー宇宙線に関する実験データの解析結果を報告 し、エネルギースペクトルの異常な構造について示している。これは、1020eV付近に スペクトルの落込みが見られ、これ以上のエネルギーの宇宙線は、加速機構によって 出来たものではなく、むしろ、更に高いエネルギースケールからの粒子崩壊によるも のらしい。Glanz(p.1923)が、これらの背景やコメントをニュース解説に述べている。

ゴルジGAP (Golgi GAP)

輸送小胞(transport vesicle)の発芽と融合は、細胞内の細胞小器官(organelle)の統 合性を作りだし、これを維持するのに不可欠である。この小胞発芽にいくつかのタン パク質が関わっている;特に小さなグアノシントリフォスファターゼ(GTPase)ARF1( アデノシン2リン酸-リボシル化因子1=adenosine diphosphate-ribosylation facto r 1)は、輸送小胞の発芽の前提条件としてゴルジ膜上のコートタンパク質を補給す る役目を負っている。Cukiermanたち(p.1999)は、GTPase活性化タンパク質、即ち、G APを分離した。これはARF1に作用し、ゴルジ複合体から輸送小胞が発芽するのに関与 しているらしい。同定されたGAPはゴルジ複合体に局在しており、GAP活性に必要なジ ンクフィンガーモチーフ(zinc finger motif)を含んでいる。

キナーゼのカスケード (Kinase cascade)

トランスフォーミング成長因子β(TGF-β)の受容体は膜貫通セリントレオニンキナー ゼであるが、それらが活性化するシグナル経路はよく分かってない。Yamaguchiたち( p.2008)は、受容体チロシンキナーゼのように、TGF-β受容体は、マイトジェン活性 タンパク質キナーゼ(MAPK)ファミリーの各々を活性化する「タンパク質キナーゼの多 段反応(カスケード)」を通じてシグナルを伝達すると思われる証拠を提出した。彼 らはTGF-βによるシグナリングに寄与する新発見のMAPKキナーゼキナーゼ(MAPKKK)に ついて述べている。

若さの泉 (Fountain of Youth)

葉の老化は、秋の色を作ったり、最良とは言えない(suboptimal)作物収穫を与える植 物の正常な成長である。GanとAmasino(p.1986)はこの正常なプロセスを阻止する方法 を見つけ、葉を植物に付けたまま、より長く健康に保つことを可能にした。著者たち は、正常な老化中に誘導された遺伝子からのプロモーターと、サイトカイニン合成に 重要な酵素をコードする遺伝子を組合せた。老化のシグナルに反応して、ハイブリッ ド遺伝子を発現するこのトランスジェニック植物は小量のサイトカイニンを生産した 。これは老化を阻止する。ある種の作物の寿命を伸ばしたり生産性を増加させるのに このシステムは有用かも知れない。

より良い循環モデル (Better circulation models)

ラングミュアー循環は風に起動される渦で出来ているが、これが大洋の表面水をかき 混ぜる機構の鍵となっている。しかし、これは大洋のモデルと協調することは難しか った。Liたち(p.1955)は、このプロセスの効果を取り入れたモデルの機構を表し、Sa rgasso海のデータを使って、混合層の深さを決定するのにはせん断力よりも、時とし てこの機構の方がより重要であることを示している。これはまた、大洋の季節の、あ るいは日周の成層化現象に影響していると思われる。

チチュウカイミバエの操作 (Medfly manipulation)

生殖系列の形質転換システムが欠如していることは、ほとんどの昆虫を遺伝的に操作 しようとする努力の阻害要因となってきた。特に、農業や病気に関するものについて は。Zweibelたち(p.2005)は、主要な農作物の害虫であるチチュウカイミバエ(medfly )のwhite遺伝子を同定した。彼らは、これがショウジョウバエの生殖系列の形質転換 のマーカーとして利用できることを示した。Loukerisたち(p.2002)はこのwhite遺伝 子を転位因子(transposable element)のMinosと組み合わせてマーカーとして利用し 、チチュウカイミバエの生殖系列の形質転換を達成した。Minosの利用は、他の昆虫 の形質転換にも利用できるものと期待されている。Ashburnerは、この物語の背景を 解説記事(p.1941)で述べている。
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