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- 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約
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Science January 5, 1996
調節可能な磁石 (Tunable magnet)
分子化合物において磁気相転移を制御できることは、磁気記録やデバイスへの 応用に有用であろう。Satoたち(p.49)は、磁気転移を電気化学的に制御出来るような 混合原子価シアン化クロミウムの一群を合成した。この化合物は初期においてはフェ リ磁性であるが、可逆なレドックス(酸化還元)反応によって、フェリ磁性と常磁性 の状態を可逆に変換できる。(Ej)
硬い計算 (Hard calculations)
窒化炭素は、ダイヤモンドと同等なあるいはそれ以上の硬さを持って いることを含め、極限的な性質を持つ物質のクラスとして精査されて いる。 Teter and Hemley (p. 53)は、理論計算を用いて、いくつかの C−N化合物の構造と安定性を研究した。 高圧下で安定なC3N4の立 方体の形は、ダイヤモンドの体積弾性率よりも大きい可能性がある。 彼らの解析はまた、以前予測されていた-C3N4 化合物は実際は安定で はないかも知れないことも示唆している。(Wt)
並列処理の臨界性 (Critical parallelism)
巡回セールスマン問題のような組み合わせ最適化の課題 は、通常ある数学的な関数の最少値ある いは最大値を見出すような、算法として記述された局所探索 手法を用いて解かれる。 Macready et al. (p. 56)は、より良い解をより速く見出すため、その様な探索 の並列的実行が含んでいることについて議論 している。並列性の度合が増すに連れて、解を見出すこと の遂行度合は増加するが、しかし、その後、ラ ンダム探索より優れてはいないある臨界点に到達する。 この挙動は、スピングラスモデルや巡回 セールスマン問題の両方においてみられる。(Wt)
水のクラスター (Water clusters)
液体の水の構造についての洞察を得る一つの方法は、小さな水の クラスターの構造と力学挙動を調べることである。 Cruzan et al. (p. 59) and Liu et al. (p. 62)は、それぞれ、水の4量体および5量体の 振動−回転順位のトンネルスペクトルの解析を与えている。4量体 のデータは、擬似的に平面上のリングを形成しているが、これは、 集合体としての水の相互作用のポテンシャルを束縛することに寄与して る可能性がある。5量体は、液体の水における主要な配置の一つであろ うが、これは、ややしわのよったリングを形成している。(Wt)
否定された清浄化? (Denied clearance?)
嚢胞性繊維症(cystic fibrosis=CF)患者は緑膿菌バクテリアによって呼吸器系 感染にかかりやすい。Pierたち(p.64)は、CFトランスメンブランレギュレータ (transmembrane regulator=CFTR)における突然変異が、呼吸管からこのバクテリアを 除くのに 重要な役目をしている宿主防御メカニズムを崩壊させるのかも知れない、という証拠 を提出している。最も 普通に見られるCFTR突然変異体を発現している、培養された気道上皮細胞は緑膿菌 インターナリゼーションを行わないが、他の細菌性病原体にはそうではない。マウス モデルでは緑膿菌インターナリゼーションの阻害は、肺の中にバクテリアを生じさせ る。(Ej)
性と絹について (Of sex and silk)
今週はクモに注目した2つの報告がある。雌のセアカグモ(redback spider)は、自然 状態での 65%の交尾において、体の小さな雄が精子を雌に移動している間に雄を食べてしま う。何故、雄は喜んで自らを食べさせているのだろうか。Andrade(p.70)は、この雄 の協力が、雄が交尾後生き残る場合に比べて2つの父性血統上の利点を餌食にされた 雄は得るため、適応的な行為であると報告している。即ち、交尾時間の稼げることと 、次にやってくる求婚者を雌が拒否するから。 クモの糸の優れた力学的性質は今まで解明が難しかった。Simmonsたち(p.84;およびT irrellによる解説p.39)によれば、重水素(原子量2)の核磁気共鳴スペクトルを得 、クモが引き出すクモの絹は2種類のアラニンに富む領域を含んでおり、1つは高度 に整列し、他方は緩く詰められていることを示した。かれらは、クモの絹が持つ圧縮 =変形の性質を説明する上記モデルに合致する構造モデルを提案している。(Ej)
貝殻あそび (Shell games)
多くの生物が成長に従って炭酸カルシウムから生物起源鉱物を作ることが 出来る。更に、この様な生物は炭酸カルシウムの2つの多形(polymorph=原子の構成 は同じだが構造が異なる結晶(訳注))であるカルサイト(方解石)かアラゴナイト (あられ石)を、しばしば選択生成することが出来る。Faliniたち(p.67)は、軟体動 物の殻の鉱物成分に接触しているマクロ分子が、どちらの多形が形成されるかの主要 な役割を果していることを示す実験について報告している。アラゴナイト部分から抽 出されたマクロ分子は生体内でアラゴナイト生成を誘導し、カルサイト部分から抽出 されたマクロ分子はカルサイロ生成を誘導した。これらマクロ分子は、自分たちの属 する炭酸カルシュウム結晶の多形を積極的に作りだしており、競合する他方の構造を 阻害しているのではない。(Ej)
言語学習における機能障害の克服 (Overcoming impairments in language learning)
経験の結果としての脳の機能適応性--即ち、入力刺激に対する処理の変化--が、ヒト と、ヒト以外の霊長類での実験で示された。Merzenich たち(p.77)とTallalたち(p.8 1)はこの効果の一例を、言語学習に機能障害を持つ子供たち(LLI=Language learning Impaired)による言語に基づく変形音韻(modified phoneme)(*)の理解について示した 。そして、この訓練(コンピュータゲームの様な特定刺激に対する反応訓練(訳注)) が、通常の 言語理解においても改善されたことを示している(Barinaga.p.27によるニュース解 説参照)。音の刺激に対して一時的に処理能力を向上させるよう設計されたコンピュ ータゲームで訓練したLLIの子供たちは、訓練の後、ゲームのスコアを向上させただ けでなく、通常の音声を使った標準的なテストのスコアも向上させた。 (*)変形音韻とは、機能障害を持つ聞き手に分かりやすくさせる目的で、しゃべる音 韻列の中で、急激に変化する成分だけ、より大きな音量で表現されるように変化させ たもの。(Ej)
抜け殻の後に (Behind the shedding)
昆虫の脳ペプチドである羽化ホルモンは、成長に従って角皮を脱ぐ脱皮の引金である と考えられていた。Zitnan たち(正確には、Zと、t直後のnの上には、^の逆さまの 記号が付いた文字で、発音は英語の記法で"Zhitnyan"に近い (訳注))(p.88,および表紙、Trumanによる解説p.40参照)は、 以前は性質の分からなかった昆虫の内分泌システムの発見に付いて記述している。分 泌腺セグメントが繰り返し構造をとるepitracheal腺はMas-ETHホルモンを生産する。 これを、幼虫、さなぎ、成虫に注射すると前脱皮段階に到り、続いて脱皮を起こす。(Ej)
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