AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

・・・
Science August 18, 1995


ヒト染色体1とアルツハイマー病 (Chromosome 1 and Alzheimer's disease)

65歳以前に発病する、通常と異なる早期発病のアルツハイマー病(AD)は、染色体2 1(アミロイド前駆体タンパク質)と14の遺伝子が関係していると言われてきた。 Levy-Lahadたち(pp.970, 973;およびBarinagaによる解説p.917)によると、Volga Ge rman(VG)一族に見つかった早期発病型ADは染色体1上の候補遺伝子STM2に関連してお り、これは染色体14AD上の遺伝子S182に類似するタンパク質の配列を持っている。 感染したVG一族の中では、アスパラギンからイソロイシンへの点突然変異がヒト遺伝 子S182やそのマウス相同遺伝子に保存されている残基で生じる。


広範囲の衝撃 (Wide impact)

メキシコ、ユカタン半島沖のChicxulub大クレーターは白亜紀ー第三紀境界に生じる イリジュウム異常、衝撃型石英、その他の特徴の起源であろうと見なされている。これ らの特徴から大規模な衝突の力学的な説明が可能となる。この衝撃型石英は北アメリ カに分布する主要噴出物の上部に見られ、特にクレーターの西側に多く分布し、時に は驚くほど遠くにまで広がっている。Alverezたち(p.930)は、衝突の瞬間のモデルを 提案し、高温の火球、溶融岩屑やその他の岩屑の噴出物のカーテン、蒸気化した石灰 岩の凝結で出来た温火球などが生じたであろうと言う。


移動の少ない側へ (Down the side less traveled)

細菌性光合成反応中心(RC)は、化学反応が引き続いて起きるように電荷を分離す るプロセスである一連のコファクター(補助因子)中の電子移動を起動するために光を 利用す る。L-とM-ポリペプチド(polypeptides)とRCを形成するコファクターは高い対称性 を持っているが、電子の移動はL-側に偏って進行する。Hellerたち(p.940)はRhodoba cter capsulatus の光合成反応中心を持つ、2重突然変異体を作った。このRhodobac ter capsulatus は、L-側の補助細胞であるバクテリオクロロフィル近傍のアスパラギン 酸残基を取り込み、M-側のロイシン(leucine)212をヒスチジン(histidine)残基で置換 されたものである。 この突然変異体の中では、70%の電子の移動はL-側で進行し、 15%はM-側で、15%は不活性化される。単一の突然変異は電子移動 経路を再設定するために電荷分離状態の自由エネルギーを変化させる事が出来る。


異なる角度 (A different angle)

もしタンパク質ミオグロビン(myoglobin)が1酸化炭素(CO)と酸素分子を区別できな いなら、COは、現在よりももう1桁も毒性が強いであろう。これらの分子がミオグロ ビンタンパクと結合する相対的な方位が結合の区別をしているのであろうと長い間信 じられてきた。Limたち(p.962; およびService による解説参照p.921)は、溶液中で スペクトル測定を行い、COの結合角は‾90度であり、他の原因で分子の区別をしてい るに違いないと結論した。


土星のオーロラ (Saturn's aurora)

Voyager 1 は土星のそばを通り過ぎる時、その北磁極を回るオーロラを見つけた。Ja ffelたち(p.951)はハッブル宇宙望遠鏡の微弱天体カメラ(Faint Object camera)の観 測からこの事実を公表し土星の大気にエアロゾル(霧や塵)が存在することを報告し た。このオーロラには極地のエアロゾルが関与している。


じっとしていた (At a standstill)

1億2千万年から1億年前の白亜紀中期、太平洋プレートの上で、プリュームに関係 していると思われる幅広く大量のマグマ活動があり、これがOnrong Java高原を形成 した。Tarduno and Sager(p.956)は、古磁気データを利用し、この時期太平洋プレー トは基本的にじっとしており、代わりに、回りのプレートが太平洋プレートから高速 に遠ざかる方向に動き、その結果プレートを囲むリッジ(海嶺)は見かけ上、じっと していたと言う。その後、火山活動が終ってから極の方向へ高速に動き始めた。


捕らわれのタンパク質 (Trapped proteins)

力学的な研究によると、タンパク質は立体配座的(conformation)に見て、低温で準安 定な状態に凍結されるようだ。これはタンパク質のガラス状遷移に相当する。Hagen たち(p.959)が示したところによると、この準安定状態へのトラップは内部エネルギ ーの障壁が寄与していると言うよりは、溶剤の粘性が決め手となっていることから、 構造変換を促進している運動は自然界に一般的な現象であると見られる。タンパク質 分子が溶媒を置換する、緩慢だが全般的な動きは、溶媒の高い粘性によって抑制され るようだ。


過負荷を避けて (Avoiding overload)

霊長類の大脳皮質における神経細胞のシナプス接続は興奮性であり、これはほとんど の場合隣接細胞の上に生じる。興奮性刺激が皮質に入力されたとき、どうやって活性 が爆発的に増殖することを避けているのか?Douglasたち(p.981)は、解剖学的なデー タを使って、皮質内の接続は回帰的であり相補的であると結論づけた。この構造を電 気回路でモデル化し、安定な条件を得るとともに、どのような抑制効果で視覚信号処 理の方向が制御出来るかを探索した。


目的に沿った視覚 (An objective view)

知覚や行動は参照される知覚状態に大きく影響される。「視覚無視」として知られて いるように、視野の中の知覚可能部分に対象となる物が入っているにもかかわらず片 側損傷患者は対象物を注目することが出来ない。この振舞いは、神経細胞の活動が、 目や体に固定された座標系ではなく、対象物中心の座標系で規定される感覚細胞や運 動細胞が存在することをうかがわせる。OlsonとGettner(p.985)は、猿の皮質の補助 視覚領域で、対象物中心に活性化する神経細胞を同定した。この細胞は、水平な視覚 刺激用バーの一端から目が動いている間、目の動きが左方向であるか右方向であるか によらず、一端からの差分に依存して活性化されていた。


[インデックス] [前の号] [次の号]