AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約 |
炭素-炭素結合を形成するための最近の戦略は、酸化還元活性なエステルと有機金属カップリング・パートナーとの反応を含んでいる。この方法は、有機金属へのエステルの反応過敏性に加えて他のさまざまな官能基の反応過敏性に悩まされている。Harwoodたちは、有機金属を回避する、ニッケル触媒と組み合わせた汎用性のある電気化学的方法を報告している。銀ナノ粒子による電極の修飾が、この方法の幅広い応用可能性の鍵であった。著者たちはこのことを一連のテルペン天然物の全合成と形式全合成において示した。(KU,nk,kj,kh)
リチウム金属電池の充放電繰り返し中に、電極上に樹枝状結晶が形成されると、時間の経過とともに電池が故障する可能性がある。Liuたちは、カルボキシル基を含む自己組織化単層膜(self-assembled monolayers SAM)を用いて、リチウムの剥離とめっきを促進することができた。SAMは、酸化アルミニウムでコーティングされたポリプロピレン製分離膜上に堆積され、全体的な安定性の向上とリチウムイオン輸送の増強を示す、フッ化リチウムが豊富な固体電解質の中間相の形成を促進する。(Wt,ok,nk,kj,kh)
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のオミクロン株は2021年11月に報告され、その急速な広がりのために懸念される変異株と即座にみなされた。最初の武漢株(Wuhan-Hu-1)と比べ、この株は宿主細胞への結合と侵入を担うスパイク・タンパク質に37の変異を持つ。15の変異は受容体結合ドメインにある。これは宿主のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体に結合するものであり、そして多くの中和抗体の標的でもある。Mannarたちは、ヒトACE2に結合したオミクロン株のスパイク・タンパク質の構造を報告している。この構造は、以前のワクチン接種や感染により誘発された抗体からの回避を説明し、ACE2との結合を弱める変異が新たな相互作用を作る変異によりどのように補償されるのかを示している。(MY,ok,nk,kh)
感染力を高めたり或いはワクチン接種した人や回復期の人からの血清による中和反応に抵抗する、懸念する幾つかの重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)変異株が出現した。変異株のベータ株とオミクロン株は特に、SARS-CoV-2スパイク・タンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)を標的とする、多くの中和抗体にもはや結合しない。Reinckeたちは、ベータ株に感染した患者から抗体を単離し、そして抗体の一部はベータ株と野生型のRBDの両方に結合するが、ベータ株に対してのみ特異的なものもあることを示した。ベータ株抗体の一部は、ベータ株に感受性のある野生型抗体に類似した遺伝子的特徴を持っていた。抗体の一部は非標準的な結合様式を使用しているようであるが、一方では既知の結合様式でベータ株に対応している抗体もあった。この研究は、次世代のワクチンの設計と抗体治療のための洞察を提供している。(KU,kj)
「ねじれた」2層2次元(2D)グラフェンが示す超電導は、それぞれの層を精密に制御された角度で慎重に重ね合わせることを要求する。Zhouらは、精密な制御を必要としない、Bernalと呼ばれる最も一般的な2層グラフェン形状において超電導を発現することを見出した(Heikkilaの展望記事参照)。研究者らはサンプルを外部電場にさらしたが、超電導は面内磁場を印加した後にだけ超電導が発現した。磁場のこの特異な効果は、通常は超電導を抑制する働きをするのだが、Bernal2層グラフェンにおけるエキゾチックなスピン三重項の対生成を示唆している。(NK,KU,kh)
ヨーロッパ中世の物語文学の多くは、図書館の火災を含む、写本の物理的な劣化と破壊のために失われてきた。Kestemontたちは、未発見の 種の数を推定するための生態学での確立された方法が、文化的遺物(本、絵画、彫像など)を表す存在量のデータに適用して、昔の文物が何世紀にもわたって受けてきた損失を推定できることを示している。著者たちは、本の歴史から既存の仮説を裏付けるだけでなく、これまでずっと見過ごされてきた予期しない地理的差異も明らかにする目算を得た。たとえば、アイスランドやアイルランドのような島国の文学は、驚くほど強力な文化的永続性と分布の普通よりも高い均一性が組み合わさっている。(Sk,nk,kj,kh)
いわゆる「ビッグデータ」と呼ばれる研究方法は、天文学から遺伝学に至るまでの研究分野に革命をもたらした。このような研究方法は、元々数理的と思われる分野に限らない。なぜならば、迅速なデータ収集と高度な分析技術の組み合わせは、ほとんどすべての科学的な問題に適用することができるからである。Nathanたちは、こうした最新の研究方法が、動物の追跡や 監視という非常に古い分野にどのように適用されているかを概説している。大規模なデータ収集は、以前は不可能だった、動物がどのように環境を利用し、相互作用しているかということを詳細に明らかにすることができる。このような方法論の転換は、種を超えた研究および保全に新たな道を開くだろう。(Wt,nk,kh)
環境中の内分泌かく乱化学物質への暴露は、ヒト患者にさまざまな健康問題を引き起こすことがある。しかし、そのような曝露は単独でなされるわけではなく、個々の化学物質の暴露量だけを考慮している環境安全性の規制は、多物質の曝露を考慮に入れていない。Caporaleたちは、ヒトの母子組からなる大規模調査対象群で化学物質曝露データを調べ、共通する一群の内分泌かく乱化学物質を同定した(LiewとGuoによる展望記事参照)。著者たちは次に、これらの物質の混合物が2つのモデル生物に異常を引き起こしうること、および、ヒトにおいても言語発達の遅れと関係するかもしれないことを示した。これらの知見は、化学混合物の影響へのさらなる研究とそのような組み合わせの影響を考慮に入れた規制の必要性を示唆している。(MY,kh)
脳は、頭蓋骨だけでなく、血液から中枢神経系(CNS)細胞外液中への物質の移行を制限する、血液脳関門(BBB: blood-brain barrier)によっても保護されている。BBBが破られると、神経障害が発生する。それゆえに、その機能を回復することによってBBB欠陥を是正する介入戦略を開発することが望まれている。Wntシグナル伝達タンパク質はBBBを調節することが示されており、Martinたちは、Wnt7aの露出面の半分以上を覆うアミノ酸残基について、単一残基変異の大規模なスクリーニングを展開した(McMahonとIchidaによる展望記事参照)。著者たちは、BBBのGpr124/Reck Wntシグナル伝達モジュールに対して厳密な特異性を示す変異体のあるクラスを同定した。これらのGpr124/Reck 作用物質は、他の組織での「オフ・ターゲット(目標外れの)」Wnt活性化なしに、マウスにおける脳卒中および神経膠芽腫モデルで「オン・ターゲット(目標的中)」神経血管保護特性を示し、それによってBBBを修復することでCNS障害を軽減する戦略を明確にしている。(KU,kj,kh)
リソソームとミトコンドリアの間の情報交換は、長期間食物を与えられないショウジョウバエの代謝制御の維持に役立つようである。食物が制限されている時、ラパマイシン標的複合体1(TORC1)の標的であるタンパク質リン酸化酵素複合体は抑制されるが、これは栄養を供給するための異化作用と自食作用を促進するものである。新たに供給されたアミノ酸はTORC1を再活性化する可能性があるが、Jouandinたちは、リソソームから放出されたシスチンが、長期絶食中に継続的な異化作用を可能としていることに関係していることを示した。シスチンは、システイン2分子に還元されると、ミトコンドリア内のTCA回路の中間体の形で再結集したアミノ酸の一時的な貯蔵を促進し、したがって長期絶食期間中のTORC1の再活性化を制限する可能性がある。(Sh,kh)
アクトミオシン・フィラメントの細いものと太いものは、筋肉の主要な構成要素である。骨格筋では、ネブリンというタンパク質が細いフィラメントの長さと強さのために必須であり、ネブリンの変異はしばしばネマリンミオパチーと呼ばれる筋疾患につながる。Wangらは、低温電子線断層撮像法を用いて、生来の骨格筋の薄層フィラメント内に統合されたネブリンを同定した。彼らは、ネブリンの、原子に近いあるがままの構造を決定し、ネブリンがいかにして細いフィラメントを安定化させ「分子定規」のように機能しているかを明らかにした。薄層フィラメントに沿ったネブリンの構造は、ネマリンミオパチーの病原性を理解する重要な鍵である。(ST,kh)
水力発電プロジェクトは世界の多くの場所で大幅に増加しつつあるが、それらがもたらす電力提供の便益はしばしば環境コストによって相殺されてしまう。国際共同研究において、Fleckerたちはアマゾン盆地における水力発電増加に対して、生態系サービス維持の最適化を目指す研究を報告している(HoltgrieveとAriasによる展望記事参照)。著者たちは、複数の基準(土砂の運搬作用、河川の接続性、流量調節、魚類生物多様性そして温暖化ガス排出)の同時評価がダムの大きさと位置の最適化に必要であること、そして計画の地理的規模が同様に重要(より小規模の計画から得られる便益は、盆地の規模において弊害をもたらす可能性がある)であることを見出した。彼らの計算手法は、それぞれの相殺要素を個別的に、もしくは全ての相殺要素を同時に評価することを可能にし、他の盆地の状況に広く適用できる。(Uc,KU,nk,kh)
トカゲは、攻撃を受けると、敵の気をそらすためのくねくね動くおとり(尻尾)を残しながら、捕食者から逃れる方法として尻尾を切り落とすことがある。この尻尾は、ほとんどの場合はしっかりと取り付けられている必要があるが、通常の活動中は使うことのない急速離脱機構を備える必要もある。Babanたちは、トカゲの尻尾の連結のための多重規模の階層モデルを考案した(Ghatakによる展望記事参照)。尻尾の分断面の顕微鏡データは、破断面が上部にナノ細孔を備えたキノコ型の柱(の集合体)で構成されていることを示した。これらの柱は、引っ張りや剥ぎとり力を受けた時には尻尾の付着力を強化するが、振動性の曲げは破断を可能にする。著者たちは、高分子の微小な柱と計算による破断モデル化を用いて彼らの仮説を確認した。(Sk,ok,nk,kj,kh)