AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science January 8 2021, Vol.371

太古の隕石における最近の流動体の流れ (Recent fluid flow in ancient meteorites)

炭素質コンドライト隕石は、外部太陽系を周回する母天体から砕けた断片で、それの形成以来ほとんど変化していないと考えられている。これらの隕石には、数十億年前に失われたか完全に凍結してしまったと考えらていた液体の水との反応を示す証拠が含まれている。Turnerたちは、いくつかの炭素質コンドライト中のウランとトリウムの同位体を調べ、ウラン・イオンが流動体の流れによって輸送されたことをうかがわせる非平衡分布を発見した。この特徴は放射性同位元素の半減期数回分の後に消えるので、隕石は過去百万年以内に液体にさらされたに違いない。著者たちは、母天体から隕石を放出した衝撃の期間中に氷が溶けた可能性があることを示唆している。(Wt,kh)

Science, this issue p. 164

タイヤ接地面からの粒子は川を毒性化する (Tire tread particles turn streams toxic)

米国太平洋岸北西部のギンザケにとって、都市・郊外の川に戻って放卵することは無駄死になる可能性がある。規則的に発生する急性の大量死事象は、とりわけ雨水流出と関連が深いが、要因となる毒性物質の正体は未だ不明のままである。Tianたちは、クロマトグラフィー分取を新・旧タイヤの接地面摩耗粒子浸出液から開始し、クロマトグラフィー手順を重ねて毒性物質分画を追跡し、最終的に1リットル当たり1マイクログラムの閾値濃度で急性毒性を誘発しうる、単一種の分子を単離した。6PPD-キノンと呼ばれるこの化合物は、オゾンからのタイヤゴムの損傷予防を意図した添加物の酸化生成物である。道路上の雨水とそれを直に受けた小川の水からの計測結果が、急性毒性事象の主要因となるのに十分な6PPD-キノン濃度を示している。(Uc,ok,kj,kh)

Science, this issue p. 185

フラビノウイルスに対する2つの抗体 (Two antibodies against flaviviruses)

フラビノウイルスは、ヒト病原体であるデング・ウイルス、ジカ・ウイルスおよび西ナイル・ウイルスなどのRNAウイルスの分類群である。ウイルス表面のエンベロープ・タンパク質(E)がワクチン開発の標的であったが、Eに対する抗体への問題が生じ、感染増強につながっている。今回、ModhiranたちとBieringたちは、フラビノウイルスNS1タンパク質に結合し、このタンパク質が上皮細胞を壊し、その結果、重症疾患を伴うことになることを防ぐ、2つの違う抗体について記述している。両方の抗体は、複数のフラビノウイルスNS1タンパク質と交差反応する。これらの抗体は、フラビノウイルス疾患のマウスモデルで、ウイルス血症を低減し、生存率を向上させる。両方の論文とも、抗体に結合したNS1の構造を収録しており、これは、抗体の防御機構への洞察を与える。(MY,kh)

【訳注】
  • エンベロープ:ウイルス粒子を覆う膜。
  • 交差反応:産生した抗体が、その抗体産生反応を引き起こした抗原ではない別の抗原に結合すること。
  • ウイルス血症:ウイルスが血流に侵入し全身へと移動してしまった状態。
Science, this issue p. 190, p. 194

免疫寛容に対する正確療法 (Precision therapy for immune tolerance)

多発性硬化症(MS)などの自己免疫疾患は、自己免疫寛容の破れと、自己反応性Tリンパ球による組織損傷から生じる。現在の治療は、全身の免疫抑制と感染症の危険性の増加などの副作用を引き起こすことがある。Krienkeたちは、アジュバント活性がなく、MSに対する自己抗原を樹状細胞に送達する、メッセンジャーRNAワクチンによるやり方を考案した。この方法は、ある異なった細胞型の抗原特異的なエフェクター制御性T細胞を増やし、標的自己抗原に対する自己反応性を抑制し、また他の諸々のミエリン特異的自己抗原に対する自己反応性T細胞のバイスタンダー抑制を促進する。MSのマウスモデルでこのワクチンは、一般的な免疫抑制による明らかな症状を示すことなく難治性疾患の発症を遅らせ、またその重症度を軽減した。(MY,kj,kh)

【訳注】
  • 免疫寛容:自己抗原(自己免疫疾患を起こしうる原因物質)に対する免疫不応答のこと。
  • 多発性硬化症(MS):神経細胞の軸索の表面をおおう円筒状の被膜であるミエリンが自己抗原化して、免疫の攻撃を受けてしまうことで生じる疾患。
  • アジュバント活性:ここでは、免疫増強物質(メッセンジャーRNAワクチン)が自己抗原に対する免疫を促し、それにより免疫自己寛容の破れを起こす活性のこと。
  • 樹状細胞:T細胞に抗原を提示して活性化する能力を持つ抗原提示細胞の一種。
  • エフェクター制御性T細胞:病原体への炎症性応答に関わるT細胞であるエフェクターT細胞の過剰活性化を抑制するT細胞で、通常、制御性T細胞と呼ばれる。このT細胞の異常は自己免疫疾患やアレルギー性疾患を引き起こす。
  • バイスタンダー抑制:ここではある抗原によって誘導された制御性T細胞が、それと異なる抗原に対する免疫応答に関与するT細胞を抑制すること。
Science, this issue p. 145

短い水素結合の本質 (The nature of short hydrogen bonds)

水素結合が化学系及び生物系で重要な役割を果たしていることは疑いの余地がなく、またいくつかの特異な特性の原因となっている。短くて強い水素結合は、異なる(水素結合)分類の1つとなっているが、そのとらえどころのない特性故に過去数十年にわたり争点となっている。Derekaたちは、量子化学計算と共にフェムト秒二次元赤外分光法を駆使して、短い水素結合の性質を調べる強力な方法を示している(BonnとHungerによる展望記事参照)。著者たちは、水溶液中の2フッ化物アニオン[F-H-F]- からなるモデル系での複数の連成運動の定量的な特性解析を行い、従来型水素結合を越えて短くて強い水素結合に移る際の独特な特性のいくつかを明らかにしている。(NK,kj,kh)

Science, this issue p. 160 see also p. 123

息のできないところ (Where they can't breathe)

気候温暖化は、海洋酸素欠乏帯域の拡大を引き起こしている。そこは、多くの海洋動物が生き残れないほど溶存酸素濃度の低い領域である。この現象は、海洋における炭素、硫黄、窒素、微量金属の地球規模の循環にも影響を与えるかもしれない。Ravenたちは、海洋の酸素欠乏が、沈下していく海洋粒子中の微生物の硫黄処理にどのように影響するかを示している。彼らは不可解な微生物の硫酸塩還元を観察した。それは、酸素不足の水柱の下にある堆積物の炭素保存を強化するかもしれない過程である、酸加水分解に耐性のある有機硫黄を形成している。これは、地球の歴史上の海洋の酸素欠乏に関連した、有機体炭素保存のもっと極端な出来事のいくつかを説明するのに役立つかもしれない。(Sk,kh)

【訳注】
  • 水柱:海域の海表面から最大水深までの部分。
Science, this issue p. 178

公衆衛生の手段としての検査 (Testing as a public health tool)

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染症の検査は、接触者追跡調査によって判定しながら、有症状者と感染の危険性が高い人に対して用いられてきた。展望記事において、MinaとAndersenは、どうすれば検査が診断を超えて、監視と患者選別における公衆衛生の手段として使用可能になるかについて論じている。これらの応用には、検査の種類と必要な精度についてのさまざまな要件があるが、伝染の連鎖を防いで大流行を制御するための重要な手段になるかもしれない。(Sk,kh)

Science, this issue p. 126

共通の道具箱から作られる複雑な多様性 (Complex diversity from shared toolkits)

神経の発生は共通の道具箱から、共有の機構、転写因子、および細胞シグナル伝達系を備えた多様な回路を構築する。SitkoとGoodrichは、視覚系と嗅覚系の発生を比較して対比させ、論理の類似点と感覚情報処理の違いを解析している。(Sk,kj,kh)

Science, this issue p. eaaz6317

RNA処理装置を再構築する (Remodeling an RNA processing machine)

メッセンジャーRNA前駆体(pre-mRNA)のスプライシングは、組み立て、活性化、触媒作用、分解を経ていく、非常に動的な超分子複合体であるスプライソソームによって実行される。これらの本質的なスプライソソームの再構築事象は、進化的に保存されたアデノシントリホスファターゼ(ATPase)/ヘリカーゼのファミリーによって駆動される。補助活性化因子Spp2の存在下で、ATPase /ヘリカーゼ Prp2が活性化されたスプライソソームと結合し、一本鎖の pre-mRNAをその3’末端に向かって移動させる。Baiたちは今回、活性化されたスプライソソームに動員される前後両方のPrp2の低温電子顕微鏡構造を報告している。これらの構造および関連する生化学的分析は、Prp2が活性化されたスプライソソームをどのように再構築するか、および 、Spp2がPrp2の機能をどのように保護するかを明らかにしている。(Sk)

【訳注】
  • スプライシング:メッセンジャーRNA前駆体(pre-mRNA)からイントロン(タンパク質設計に不要な部分)を除去し、エキソン(タンパク質設計に関する部分)を繋ぎ合わせる過程。
Science, this issue p. eabe8863

種を越えたHIVの収斂進化 (Convergent HIV evolution across species)

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、ヒト細胞を標的とするために使用する非常に多様なエンベロープ・タンパク質を持っており、ウイルス・エンベロープの複雑さがワクチン開発を妨げている。Roarkたちは、HIVエンベロープの即時的および短期的な進化の可能性が、抗体回避を含む多くの重要な機能のために、制約されていることを報告している。その結果、ヒトにHIVのように、またはアカゲザルにキメラのサル-ヒト免疫不全ウイルスのように、導入された場合、相同エンベロープ糖タンパク質は、進化的に保存された配列進化の様式を示し、場合によっては両方の宿主で広域中和抗体を誘発するらしい。ヒトとサルにおける進化的に保存されたエンベロープ変異の様式とB細胞の相同的応答は、HIVワクチン開発を導くのに役立つかもしれない収斂進化の例を表している。(KU,kj,kh)

【訳注】
  • 収斂進化:系統の異なる生物種が同様の生態的地位についたとき、類似した形質を個別に進化させる現象。
  • 広域中和抗体:抗原に結合してその毒性や増殖能力を抑制する抗体で、多様な抗原に対して能力を発揮するもの。
Science, this issue p. eabd2638

細菌は植物の根の透水性を変更する (Microbes modify plant root permeability)

根は植物に無機栄養物と水を供給する。拡散障壁が根を密閉し、内部にある水と栄養物の損失を防ぐ。Salas-Gonzálezたちは、モデル植物であるシロイヌナズナの根の表面と内部に棲息している細菌が拡散障壁の形成に影響を与え、その結果、植物中の無機栄養物の均衡に影響することを見出した(BuschとChoryによる展望記事参照)。根の拡散障壁が変更された植物は、細菌群集の組成変化を示す。細菌は宿主植物のアブシジン酸ホルモンのシグナルを利用して、環境栄養物入手可能性の不安定さに抗する根の拡散障壁を安定化させ、こうして植物のストレス耐性を向上させる。(MY)

【訳注】
  • アブシジン酸:乾燥.低温などのストレスがあると合成される植物ホルモン。
Science, this issue p. eabd0695; see also p. 125

グリシル化は軸糸ダイニンを調節する (Glycylation regulates axonemal dyneins)

微小管細胞骨格の生理学的機能は、チューブリンの多様な翻訳後修飾によって調節されると予想されている。例えば、チューブリンのグリシル化は繊毛と鞭毛にほぼ例外なく見出されているが、これらの細胞小器官の機能におけるその役割は不明なままである。Gadadharたちは今回、マウスにおいてグリシル化が、繊毛と鞭毛の形成に対しては必須ではないが、精子鞭毛の拍動波形を調整していることを示している。この活動は前進する精子の泳ぎ、したがって雄性の生殖能力に必須である。超微細構造レベルでは、グリシル化の欠如が軸糸ダイニンの高次構造の分布を乱し、このことが鞭毛の拍動で観察された欠陥を説明するものかもしれない。(KU,kh)

【訳注】
  • 軸糸ダイニン:かってはダイニンと呼ばれていたが、真核生物の鞭毛・繊毛の運動を生み出すタンパク質複合体で、微小管上を運動する。
Science, this issue p. eabd4914

痛みとそれからの解放の社会的伝達 (Social Transmission of pain and relief)

マウスでは痛みと恐怖の両方が、短い時間の社会的接触で、あるマウスからその痛みを見ているマウスへと伝達されうる。痛みを見ているマウスの前帯状皮質と呼ばれる脳領域にある神経細胞が、これらの伝達を仲介する。しかし、共感に関係するそのような行動に関与する前帯状固有の投射は知られていない。Smithたちは、マウスにおける痛みの社会的伝達には、前帯状皮質から側座核への投射が必要であることを見出した(KleinとGogollaによる展望記事参照)。しかし恐怖は、前帯状皮質から扁桃体基底外側部への投射により仲介されていた。興味深いことに、痛みを持つ動物では、痛みからの解放もまた社会的に伝達されうる。(MY,kj,kh)

Science, this issue p. 153; see also p. 122

ミンク農場での双方向伝播 (Two-way transmission on mink farms)

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は人畜共通感染ウイルスで、他の種からあふれ出て人に感染し、人の間で伝播する。我々は、人が飼い猫やさらには動物園のトラのような他の動物をSARS-CoV-2に感染させる可能性があることを分かっている。Oude Munninkたちは全ゲノム配列決定法を使用して、SARS-CoV-2感染がオランダ南東部のミンク農場に蔓延していたことを示した。これらの農場のすべては、2021年3月までに閉鎖される予定である(ZhouとShiによる展望記事を参照)。2020年6月末の少し前に、ミンクの農場労働者の68%が検査でウイルス陽性と確認されたり、SARS-CoV-2に対する抗体を持っていた。これらの大きな感染クラスターは、D614G変異を有するウイルスを持ったヒトCOVID-19患者によって引き起こされた。その後の配列決定により、ミンクからヒトへの伝播も起こっていたことが示された。イタチ科動物がSARS-CoV-2の保菌宿主になる危険性があるかどうかを理解するために、さらなる研究がなされなければならない。(KU,kh)

Science, this issue p. 172; see also p. 120

未成熟TCRは横方向の結合配置を使う (PreTCRs use horizontal docking geometry)

T細胞受容体(TCR)は、ペプチド結合した主要組織適合遺伝子複合体分子(pMHC)を認識し、β鎖を伴うα鎖からなる。両方の鎖には、特定のTCRが所与のpMHCを認識できるかどうかを知らせる高頻度に変化する相補性決定領域(CDR)がある。胸腺から正常に送り出すために、αβT細胞を目指す細胞は機能的なTCRを作り出さないといけない。この過程のある初期チェックポイントの間、β鎖は最初に未成熟Tβ鎖と対になって未成熟TCRを形成する。Liたちは、X線結晶学を用いて、未成熟TCRがpMHCをどのように認識するかを視覚化した。彼らは、未成熟TCRβ鎖のCDR3ループが、特有の横方向の構造を持つpMHCに接触していることを報告している。これは成熟したTCRの確立された結合様式とは対照的であって、そこではα鎖とβ鎖の両方の3つ全てのCDRループが縦方向に結合する。これらの複合体は、CDR3ループを用いて機能的に再配列された適格性のあるβ鎖のみが、如何にして未成熟TCRの段階でpMHCにぴったりとはまるか、という謎を解くのに役立つ。(Sh,kj,kh)

【訳注】
  • 主要組織適合遺伝子複合体:免疫反応に必要な多くのタンパクの遺伝子情報を含む、細胞膜表面にある糖タンパク質。
  • 相補性決定領域:抗体はY字形状だが、その上半分のV字の先端近辺でループ状に突出し、直接抗原と接触する領域。
  • αβT細胞:α鎖とβ鎖からなるほとんど大半のT細胞。
Science, this issue p. 181

白色矮星上のカリウムとリチウム (Potassium and lithium on a white dwarf)

白色矮星は、死にゆく親星がその外層を脱ぎ捨てるときに残された高密度な恒星の残骸である。強い重力場は、白色矮星の表面から内部に向けて重元素の急速な沈下をもたらすはずである。それにもかかわらず、いくつかの「汚染された」白色矮星は、その表面に重元素が存在する証拠を有している。これは、取り囲む惑星系から岩石が最近になって降着したためと考えられている。Kaiserたちは、カリウムとリチウムに汚染された白色矮星について報告している。この観測は、数十億年前に惑星系が形成された時の、降着した岩体の組成と銀河系のリチウムの存在量に関する記録を与えている。(Wt)

Science, this issue p. 168