AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science November 27 2020, Vol.370

危険な傾向 (A dangerous trend)

人類活動により突き動かされる気候変動がどのように熱波や干ばつに影響を与えているかは、世界中で社会が直面する最も重要な環境問題の1つである。Zhangたちは、より高温でより乾燥した状態への急速な移行を示す、内陸東アジアの260年にわたる気温と土壌湿度の記録を提示している(ZhangとFangによる展望記事参照)。過去20年にわたるより高温でより乾燥した気候の極端な事象は、それより前の記録には例が見られないもので、土壌の水分不足と地表の高温化との間の正のフィードバック・ループによって引き起こされており、もしかすると元に戻ることのない傾向の開始であるかも知れない。(Uc,nk,kj,kh)

Science, this issue p. 1095; see also p. 1037

ミトコンドリア内の品質管理 (Quality control in mitochondria)

ヒトのミトコンドリアは、それ自身のゲノムとミトリボソームと呼ばれるリボソームを持っており、これらはそれぞれ、代謝物の酸化から得たエネルギーを使ってアデノシン三リン酸(ATP)の合成を駆動する複合体の必須サブユニット群のコードと、それら必須サブユニット群の合成を行っている。これらの複合体はミトコンドリアが属する細胞の健全性に対して重要である。Desaiたちは、ミトリボソームに関係した異常翻訳を防ぐ品質管理経路を研究した。彼らは、合成停止を誘起するよう作られた条件でミトリボソームを精製し、救出経路における2つの中間体の構造を決定した。これらの構造は、合成停止したリボソームから未完成のポリペプチド鎖とペプチジル-tRNAを排出する2つのタンパク質を明らかにした。それらの低温顕微鏡構造のデータ群は、ミトコンドリアの翻訳伸長サイクルにおける中間体に対応するかもしれない、もうひとつ別の状態も明らかにした。(MY,nk,kj)

【訳注】
  • ペプチジル-tRNA:mRNAからタンパク質への翻訳過程で、伸長中のポリペプチド鎖に結合した状態になっているtRNA。
Science, this issue p. 1105

全ての経路が例外的な時 (When all routes are exceptional)

非エルミート物理とパリティ‐時間対称性の探求により、多様なエキゾチックな物理効果を発現させる方法が見出されてきた。このような散逸系においては、系の利得と損失の均衡が、最適な素子動作や材料物性に関連するいわゆる例外点または「スイート・スポット」を生み出す。一連のシステム特性にわたって利得と損失を調節できると例外弧がもたらされる。Tangたちは、複数のパラメータを調節することで、例外弧の交差点または結合点(nexus)をもたらす系を設計できることを示している。音響系においてその効果を例証しているが、同様の特性が様々な散逸系において実現できるはずで、その結果、材料と素子の最適性能を微調整できる多様な経路をもたらすに違いない。(NK,nk,kh)

Science, this issue p. 1077

細孔を押しやる (Driving the pores away)

付加製造法(additive manufacturing)での加工中の「キーホール」(蒸気で満たされたくぼみ)の形成は、合金の性能、特に破壊特性を低下させる多孔性をもたらし、いまだ金属の3D印刷にとっての大きな課題となっている。Zhaoたちは、高速X線撮像法を用いて、キーホールの形成がチタン合金の多孔性にどのように関連しているかを詳細に調べた。彼らは、細長いキーホール先端部分の不安定さが細孔を押しやって、凝固前面(固液界面)に閉じ込めることを見出した。この過程とそれが発生する際の操作因子の理解が、多孔性を回避し、高品質の金属部品を形成するための行程表を提供する。(Sk,nk,kj,kh)

【訳注】
  • 付加製造法:材料を結合させる(通常は層の上に層を重ねる)ことにより、3Dモデルデータから立体形状を製造する方法(3Dプリンタもその一種)。
Science, this issue p. 1080

細胞間認識への論理素子 (A logic to cell-cell recognition)

ガン患者自身の免疫系を利用してガン細胞を殺すガン免疫療法は、刺激的な進歩が遂げられてきた。しかし、ガン細胞の正確な認識の達成は依然として挑戦が必要である。合成ノッチ(synNotch)受容体を用いて遺伝子操作で作られた細胞は、特定の抗原に結合し、結合により規定の遺伝子群の発現が引き起こされる。Williamsたちは、複数の受容体を一緒に連結する転写連結子としてsynNotchからなる部品を用いた。彼らは、ガン細胞の表面あるいは内部に発現された標的抗原を3つまで認識できるT細胞を遺伝子操作で作り、これらの入力を統合して、NOT、AND、ORの論理素子を達成した。この遺伝子操作細胞は、標的ガン細胞の正確な認識を達成した。(MY,kh)

【訳注】
  • ノッチ受容体:1回膜通過型タンパク質で、隣接する細胞からの近傍分泌型シグナルを受取ることにより、受容体の細胞内ドメインが切り離されて核内に移動し、ターゲット遺伝子の発現を活性化させる。
Science, this issue p. 1099

父系因子が雌バチを指定する (Paternal factor specifies female wasps)

すべての動物が性を決定するための特殊な性染色体を持っているわけではない。例えば、膜翅目昆虫においては、未受精卵は雄になり、受精卵は雌になる。以前の研究は、父系のゲノムが雌の発生に向けての指示を与えることを示していた。Zouたちは、寄生バチであるキョウソヤドリコバチにおいて、片親起源効果を有する性決定指図遺伝子(wasp overruler of masculinization)を同定した。それは、受精卵中で父系から提供されたゲノムからのみ転写され、雌の発生を開始する。この発見は、性決定の分子的基礎と進化への洞察を提供している。(Sk,kh)

【訳注】
  • 片親起源効果:一方の親家系(本例では父系)でのみ連鎖が見られる遺伝。
Science, this issue p. 1115

免疫応答を遺伝子操作する (Engineering immune responses)

サイトカインはさまざまな免疫応答を仲介しており、ガンおよび他の病気の治療薬の可能性がある。しかし、サイトカインは多様で競合的な役割を持っている。すなわち、幾つかのサイトカインを用いた治療法は認可されているが、それらは副作用を伴い、また、その有効性は限定されることがある。LiとLimは展望記事で、サイトカインに基づくより優れた薬を作る合成生物学的取り組みについて論じている。彼らは、自然起源のサイトカインの改良、遺伝子操作細胞療法で使うためのサイトカイン-シグナル伝達回路の遺伝子操作、および、自然には存在しないサイトカインの設計可能性、について論じている。効果があればそのような取り組みは、薬としてのサイトカインの効能を改良でき、また、我々の理解に、サイトカインに基づく体内での情報交換を加えることができるだろう。(MY)

【訳注】
  • サイトカイン:免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、情報伝達の役割を果たす。細胞表面の受容体に結合し、細胞内シグナル伝達経路を起動して細胞の作用を変える機能を有する。
Science, this issue p. 1034

何がンパク質を駆動かを理解する (Understanding what drives proteins)

計算分子物理学(CMP)は、物理法則を活用して、生体分子の静的構造だけでなく、運動と作用をも理解することを目的としている。タンパク質にCMPを適用するには、物理モデルを単純化するか、生物活性よりも短い時間尺度でのシミュレーションを実行する必要がある。Briniたちは、CMPを、タンパク質の折り畳み、リガンドの結合解除、およびいくつかの立体構造変化などの生物学的事象に合致する時間尺度に移行させている進歩を概説した。彼らはまた、その分野を前進させる上での目隠し競争(blind competition)の役割を強調している。深層学習手法などの新しい方法は、作用中のタンパク質を記述する上でCMPをますます強力な手段にする可能性がある。(KU,MY,nk,kh)

【訳注】
  • 目隠し競争:ここでは、例えば分かっているタンパク質の構造や物性を、それらと直接的に結びつかない入力データからシミュレーションすることを幾つもの方法で競わせて、シミュレーションの進化を促すことを指している。
Science, this issue p. eaaz3041

自閉症発症危険遺伝子の体内での分析 (An in vivo analysis of autism risk genes)

生体内、特に哺乳類においてのCRISPR標的指向化は、単一遺伝子の影響を決定しようとする場合、困難で時間を要することがある。しかし、そのような研究は、特定の細胞で影響を持つ病原遺伝子多様体を、発生の経路に沿って同定するのに要求されるかもしれない。Jinたちは、自閉スペクトラム症(ASD)に関与する遺伝子群の機能を研究するため、遺伝子編集と単一細胞RNAの配列解析を行うPerturb-Seq法を適用して、複数のマウス胚で35のASD候補遺伝子をノックアウトした(TreutleinとCampによる展望記事参照)。この方法は、ASD関連遺伝子群での新しい機能を示唆する神経細胞とグリア細胞での遺伝子発現網を同定した。(MY,kj,kh)

【訳注】
  • ノックアウト:ゲノム上の狙った遺伝子を大きく欠失させること。
  • グリア細胞:電気的な信号伝達活動をしない神経系を構成する細胞で、神経細胞に対して、信号伝達の高速化・機械的支持・栄養補給する機能を持つ。また、神経細胞の活動を感知し支配するなど多様な機能が明らかになりつつある。
Science, this issue p. eaaz6063; see also p. 1038

コロナウイルスの特性を明らかにする (Profiling coronaviruses)

ヒトに感染するコロナウイルスのうち、4つは軽度の風邪を引き起こすが、現在流行している重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を含む他の3つは重度の感染症を引き起こす。Shrockたちは、VirScanとして知られる技術を使用して、数百人のコロナウイルス疾患2019(COVID-19)患者とCOVID-19の流行前の対照群の抗体レパートリーを調査した。彼らは、軽度と重度のコロナウイルスにより共有される幾つかの抗体エピトープと、SARS-CoV-2に固有の多くの抗体エピトープを含む、数百の抗体標的を同定した。機械学習モデルは、SARS-CoV-2に感染した患者を正確に分類し、SARS-CoV-2抗体を迅速に検出するための分析法の設計図を導き出した。この研究はまた、多岐にわたる治療成績を有する患者で抗体反応とウイルス曝露履歴がどのように異なるかを調べた。これは、改善されたワクチンの生産と抗体療法に情報を与えてくれるかもしれない。(Sk,MY)

【訳注】
  • 抗体エピトープ:抗体が認識する抗原の一部分のこと。
Science, this issue p. eabd4250

RNA合成酵素IIの脱リン酸化 (Dephosphorylating RNA polymerase II)

後生動物の転写には、合成酵素の連鎖とそのRNA産物の完全性を制御するための複数因子の連携が必要である。Zhengたちは、タンパク質リン酸化酵素2A(PP2A)からなるコア酵素と複数サブユニットのRNAエンドヌクレアーゼからなるインテグレーターで構成されるINTACと呼ばれる新しい二重酵素複合体を同定した。構造的および機能的研究は、INTACがRNA合成酵素IIのC末端領域を脱リン酸化して転写を弱める非標準的なPP2Aホロ酵素として機能することを示している。この研究は、2つの基本的な細胞過程である、PP2Aを介した脱リン酸化と転写調節の間の直接的な関係を提供する。(Sh,kh)

【訳注】
  • 後生動物:原生動物以外のすべての動物。
  • タンパク質リン酸化酵素2A:足場タンパク質であるAサブユニットと活性を持つCサブユニットからなる二量体コア酵素と、酵素全体の反応を調節するBサブユニットからなる、真核生物細胞におけるリン酸化活性の大部分を担うタンパク質リン酸化酵素。
  • サブユニット:他のタンパク質と会合して多量体タンパク質やオリゴマータンパク質を形成する単一のタンパク質分子。
  • RNAエンドヌクレアーゼ:RNA分子を鎖の内部で加水分解する酵素。
  • インテグレーター:RNA遺伝子のプロセシングに関わる12個のサブユニットからなる複合体。
  • ホロ酵素:酵素本体となるタンパク質分子に、非タンパク質性の分子が結合したもの。
Science, this issue p. eabb5872

複数細胞が出会う場所の張力 (Tension where multiple cells meet)

細胞はさまざまな環境に存在し、特定の刺激に応答する必要がある。発生中、上皮細胞は、上皮の完全性を損なうことなく、張力を受けて迅速に再編成する必要がある。Yuたちは、ショウジョウバエの上皮細胞が、3つの細胞が出会う三細胞接合部で接着を一時的に固定することによってこれを達成することを示している(RaghavanとVasioukhinによる展望記事参照)。進化的に保存された接着調節因子であるカヌー/アファディンは、張力を受けて数秒以内に三細胞接合部に動員され、張力が解放されると、Abl依存性のチロシンのリン酸化を必要とする機構によって解離する。これらの結果は、三細胞接着を生理学的力に動的に結び付ける、生体内の機械的情報変換経路を同定している。つまり機械的情報変換経路が細胞が環境の機械的変化に応答してその挙動を迅速に調節できるようにする。(Sh,nk,kh)

【訳注】
  • カヌー:アファディンとも言い、線維状アクチンに結合する細胞膜の裏打ちタンパク質で、上皮細胞や内皮細胞、線維芽細胞の接着結合部に局在し、細胞接着分子のネクチンと結合して細胞間接着の形成や組織や器官の形態形成を制御する。
  • Abl:チロシン・リン酸化酵素の1つ。Abelson tyrosine-protein kinase.
  • チロシン:細胞でのタンパク質生合成に使われるアミノ酸の1つ。
Science, this issue p. eaba5528; see also p. 1036

水素原子を用いて物理学をテストする (Testing physics using the hydrogen atom)

水素とミューオン水素の分光法データから決定された陽子の半径の不一致、いわゆる「陽子半径パズル」は、10年以上にわたって物理学学界の焦点となっていた。Grininたちは、1キロヘルツ未満の精度の2光子紫外線周波数コム分光法を用いて、水素原子の 1S-3S遷移周波数の高精度測定を報告している(Ubachs による展望記事参照)。著者たちは、この測定値を 1S-2S遷移のデータと組み合わせることで、正確度が向上したリュードベリ定数と、プロトンの荷電半径に対する独自の値を得た。後者は、ミューオン水素からのデータに有利な値である。しかしながら、ここに示した1S-3S遷移周波数は、以前に別の分光技術を用いて得られた値とは異なり、依然、パズルは未解決のままである。(Wt,kj)

Science, this issue p. 1061; see also p. 1033

成長期の限界 (Limits to the growing season)

温帯林の成長期の長さは、より早い葉の出現とより遅い葉の老化のために、最近の気候変動の下で増加している。しかしながら、Zaniたちは、増大する光合成の生産性が秋のより早い葉の老化を推進し始めるので、この傾向が逆転するかもしれないことを示している(Rollinsonによる展望記事参照)。ヨーロッパの森林樹木に基づく実験的、観察的、およびモデル化の研究の組み合わせを用いて、研究者たちは、葉の老化が、現在の生物季節学的モデルが予測してきたように1〜3週間延びるのではなく、21世紀の終わりまでに3〜6日早まるであろうと結論付けている。そして次に、この予測された生物季節学的傾向は、炭素吸収を通じて気候変動を緩和する温帯林の能力を制限するであろう。(Sk,MY)

Science, this issue p. 1066; see also p. 1030

実時間でのローミング動力学 (Roaming dynamics in real time)

ローミングは、化学系が普通とは異なる幾何学的配置を用いて最小エネルギー経路を迂回するため、従来の反応経路とは異なる。これは比較的新しい現象であり、通常、ローミング生成物の分光学的特性評価により、ローミングであることが実験で決められる。Endoたちは、時間分解クーロン爆発イメージング(time-resolved Coulomb explosion imaging)と準古典的軌道分析を併用して、重水素化ホルムアルデヒド(D2CO)がローミングを起こして解離する原型的な反応でできた個々の解離断片に対して、超高速時間規模での実時間観察を報告している。彼らは、ローミングが以前の予想よりも数桁早く発生するだけでなく、よく知られている分子(D2 + CO)生成物経路ではなく、ラジカル(D + DCO)で終結する可能性があることも示している。(KU,MY,kh)

【訳注】
  • ローミング:ホルムアルデヒドの解離反応で2004年に発見された反応様式。この反応では、活性エネルギー最小の経路を通らずに、ホルムアルデヒド分子中を水素原子が歩き回り(roaming)、別の水素原子と結合し、最終的に解離に至る。
  • 参考:筆者たちによる紹介動画:https://www.youtube.com/watch?v=HvUCNDFfH-w
Science, this issue p. 1072

最も変わりやすいものが生き残る (Survival of the most variable)

人間活動のために、より多くの種が絶滅の危機に瀕しているので、野生集団または飼育下集団からの個体を再導入或いは転地させる最善の方法を理解することがますます求められている。提案は、最も環境的に類似した地域からの個体を選ぶことから、新しい環境に適応するための最良の能力を持っているかもしれない個体を選ぶことまでさまざまである。Scottたちは、これらの疑問を調べるために、以前にペットとして養われていた動物を含む、アメリカ西南部のモハベ砂漠のカメ(Mojave Desert tortoise)の移住期間に収集された長期データを使用した。転地場所でのすべてのカメ(再導入されたカメと在来カメの両方)の全体的な生存率は極端に低かったが、最も高いヘテロ接合性を有する転地個体が、生存率が高いとされる集団に類似していると遺伝子解析で決定された転地個体よりも、はるかに高い割合で生存した。(KU,MY,kh)

【訳注】
  • ヘテロ接合:二倍体生物において相同染色体対上にある対立遺伝子が双方の染色体で異なっていること。
  • 生存率が高いとされる:ここでは、転地元と転地先が地理的に類似している(生息環境面で有利)ことや距離が比較的近い(同じ遺伝子グループに属する)ことを指している。
Science, this issue p. 1086

ワクチン候補の構造 (Structure of a vaccine candidate)

多くの努力が、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)に対する防御を提供するワクチン開発に注がれている。ウイルスを飾る三量体棘突起タンパク質は宿主免疫系の主要な標的であり、ワクチン開発の中心である。Bangaruたちは、有力なワクチン候補の構造を報告している。それは、ポリソルベート80非イオン性界面活性剤中で調製され、安定性の向上を目的としたいくつかの変更を加えた完全長の棘突起タンパク質である。この研究は、完全長の免疫原が安定した融合前高次構造であることを確認し、ワクチンに対する免疫応答を理解するための基礎を提供する。(KU,kj)

Science, this issue p. 1089

有益なカクテル (A beneficial cocktail)

コロナウイルス疾患2019(COVID-19)の世界的大流行が始まって以来、治療薬として使用できる中和抗体の生成と特徴を明らかにすることに多くの努力が払われてきた。ヒト化マウスおよび回復期のヒトにおける研究は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の棘突起タンパク質に同時に結合し、ウイルスが宿主細胞に侵入することを防ぐ、2つの強力な抗体カクテルの開発につながった。Baumたちは、軽症のモデルとなるアカゲザルと、より重い症状を示すゴールデンハムスターを用いて、この抗体カクテルであるREGN-CoV2の有効性を評価した。この抗体カクテルは、予防的または治療的に投与した場合、両方のモデルにおいて有効性が認められ、現在臨床試験が行われている。(ST,kj,kh)

Science, this issue p. 1110

失われた淡水がハワイ沖で見つかる (Missing freshwater found off Hawai'i)

海洋島では淡水資源が限られており、その不足は持続可能性への取り組みを複雑なものとする。Attiasたちは、ハワイ島沖合の海底環境において、新たに重要な淡水資源を特定した。以前の研究は、陸上帯水層へ注入される水の40%もが失われ、利用不可能であることを示唆している。海水の塩分により海水は淡水よりも導電性が高くなるので、ハワイ海岸沖の電磁画像調査により、沖合の深海底堆積物の中に大量の淡水が含まれていることが明らかになった。これらの代わりの水資源は、ハワイにおける水の抽出の持続可能性に対する見通しを改善する。そして、著者たちは、同じ機構が他の火山島でも働く可能性があると推測している。(Wt,MY,nk,kj,kh)

Sci. Adv. 10.1126/sciadv.abd4866 (2020).