AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science June 26 2020, Vol.368

ペンギンにとって、より容易となるポーラ・プランジ (Easier polar plunge for penguins)

温暖化気候に影響される極地方において、海氷の年次変動の何が動物の採餌と繁殖成功に対して影響を与えるかを理解することは益々重要になっている。Watanabeたちは、氷の存在量の異なる4回の南極南極調査期(four Antarctic field seasons)の間、175羽のアデリー・ペンギン(南極海の生態系の指標種)に活動監視装置と動画撮影装置を取り付けた。凍結の無い年の間、ペンギンたちは歩行よりも游泳によってより多くの距離を移動し、移動距離当たりのエネルギー費用を低下させていた。凍結の無い年には採餌場は増加し、より多くのオキアミがダイビング時間毎に捕獲され、結果として採餌効率、成長速度、そして繁殖成功を増加させていた。南極大陸領域におけるアデリー・ペンギンの個体数は、海氷の減少に伴い次の数十年間に増加する可能性がある。(Uc,KU,ok,kh)

【訳注】
  • ポーラ・プランジ:寒冷の湖や海に飛び込む催し
Sci. Adv. 10.1126/sciadv.aba4828 (2020).

クロマチン繊維の一次構造(Primary architecture of chromatin fibers)

単一のクロマチン繊維に沿って調節タンパク質を収容するヌクレオソーム領域とヌクレオソームの無い領域の位置決めを含めて、染色体DNAの組織化はゲノム機能の基本である。しかしながら、ほとんどの配列決定方法は、この組織化をヌクレオチドのレベルで解明することができない。ハエとヒトの細胞において、Stergachisたちは、メチル基転移酵素を使用して元となるDNA鋳型上にクロマチン繊維をマッピングし、一種の謄写版印刷を作成する Fiber-seqという方法を報告している。この方法は、ほぼ単一分子レベルでクロマチン構造を識別し、ヌクレオソームの位置を観察することができる。著者たちは Fiber-seqを使用して、調節性DNAの活性化がヌクレオソームの位置決めとDNAの多様性にどのように関連しているかを明らかにしている。(KU,kj,kh)

Science, this issue p. 1449

溝がかっこいいキラルな金粒子 (Groovy chiral gold particles)

プラズモニック光学活性は、金と銀のナノ粒子からなるキラルな集合体から生じることがあるが、固有のキラリティーと高い光学活性を持つ金ナノ粒子の例はほとんどない。Gonzalez-Rubioetたちは、特に異方性の高いナノロッドに対しては、金ナノ粒子の 種結晶成長中に形態学的キラリティーを誘発可能であることを示している。補助界面活性剤としてのキラルな添加剤は、シード成長を配向させるらせん状のミセルを形成し、キラル形態を持つ溝を作成した。得られた粒子は、近赤外波長で異方性係数が0.2に近い高強度の円偏光二色性を示した。(Sk,kh)

【訳注】
  • 種結晶成長:種粒子の表面で粒子の構成物質を反応・析出させて粒子を成長させること
  • 円偏光二色性:物質が円偏光を吸収する際に左円偏光と右円偏光に対して吸光度に差が生じる現象
Science, this issue p. 1472

太陽内部のプラズマの流れ (The flow of plasma inside the Sun)

太陽黒点の発生を含め、太陽の活動は、その表面下の荷電プラズマの運動から発生する磁場によって駆動される。地震学が地震を用いて地球内部を探査するのと同様に、太陽の音響型振動を利用して太陽内部を探査する。Gizonたちは、1996年から2019年までの太陽の11年間周期の2回分を含む日震学的なデータを分析した。彼らは、太陽における深さの関数としてプラズマの緯度方向と半径方向の流れを測定し、それが時間とともにどのように変化するかを調べた。その結果は、磁束輸送ダイナモ・モデルを支持するものであり、各太陽周期にわたる太陽黒点の分布を説明することが可能である。(Wt,KU,nk,kh)

【訳注】
  • ダイナモ・モデル:地球や太陽の天体内部で導電性流体の運動によって磁場が発生・維持されるというモデル
Science, this issue p. 1469

メタレンズ配列を用いた量子光源 (Metalens-array-based quantum source)

自発的パラメトリック下方変換は、非線形結晶で生じるエキゾチックな光学的過程であり、高いエネルギーを有する単一光子が低いエネルギーを有する量子力学的にもつれた二つの光子に分裂する。これらもつれた光子対は、量子情報処理と量子通信応用の面では大切な材料である。(この過程を実現する)実験装置は通常大きな光学部品が用いられており、実応用の観点では大きさを縮める必要がある。Liらは、非線形結晶と特殊化したメタレンズからなる配列を組み合わせて、大幅に小さくした系で同過程を実現できることを示した。この手法は小型集積量子光学技術の開発に役立つに違いない。(NK,KU,ok,nk,kh)

【訳注】
  • メタレンズ:メタマテリアルと呼ばれる光の電磁波に対して天然物質にはない振る舞いをする人工物で作られたレンズのこと
Science, this issue p. 1487

次は誰が何をするの? (Who and what next?)

コロナウイルス2019(COVID-19)のパンデミックは、何百万人もの人々の日常生活に厳しい制限をもたらしたが、どのような対策が最も効果的なのかはまだ分かっていない。Zhangらは、中国・武漢における2020年2月時点でのウイルス感染をモデル化し、患者管理から社会的隔離に至るまでの介入の効果を調査した。2020年2月初旬に武漢と上海で実施された接触調査により、年齢-混合パターン(Age-mixing patterns)が推定された。1日の平均接触者数が14~20人から2人に減少すると、伝播は急速に流行の閾値を下回った。このモデルはまた、予防的な学校閉鎖が伝播の減少に役立つが、それだけではCOVID-19の激増を防ぐことはできないだろうということを示した。家庭内での限られた人との接触が最も効果的な対策であるように思われた。(ST,KU,ok,nk,kj,kh)

Science, this issue p. 1481

COVID-19の作業をねじ曲げる (A wrench in the works of COVID-19)

コロナウイルス病 2019(COVID-19)を引き起こすウイルス内部の仕組みを理解することは、我々がウイルスを混乱させるのに役立つ可能性がある。 Yinたちは、ウイルスRNAの複製に不可欠なウイルスの重合酵素に焦点を絞った。彼らは、RNAと薬剤レムデシビル(remdesivir)に結合した重合酵素の構造を決定した。レムデシビルは、RNAヌクレオチド構築要素を模倣し、複製RNAに共有結合し、結果として、RNAのさらなる合成を妨げる。この構造は、ウイルス重合酵素に対する改善された治療法を設計するための基礎を提供する。(KU,ok,kj,kh)

Science, this issue p. 1499

空気伝播を減らす (Reducing airborne transmission)

呼吸器感染症は、主に感染者の咳やくしゃみで生じるウイルスたっぷりの飛沫で汚染された表面との接触を介して伝播されると考えられているが、これが唯一の伝播経路ではない。人々が話や呼吸をする時に、より大きな液滴だけでなくエアロゾルと呼ばれる小さな液滴が生成され、それらが蒸発して気流内で浮遊するようになる。展望記事において、Pratherたちは、ウイルスを含むエアロゾルが、コロナウイルス疾患2019(COVID-19)を引き起こす重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の空気伝播の原因となっているかもしれないという、累積された証拠について述べている。長い発症前段階と無症状での感染を考慮して、著者らは、特に密閉された屋内スペースでの適切なマスクの着用が、SARS-CoV-2の伝播を防ぐために重要であると主張している。(Sk)

Science, this issue p. 1422

複製後の遺伝子の運命 (The fate of genes after duplication)

生物中の遺伝子重複は、進化の過程で起きる比較的一般的な事象である。しかし、我々は重複遺伝子の運命を予測することができない。即ち、それらは生物子孫あるいは種の中で消失するのか、進化するのか、あるいは機能が重複するのだろうか? Kuzminたちは、酵母 サッカロミセス セレビシエ中の重複遺伝子の機能の運命を探索した(Ehrenreichによる展望記事参照)。彼らは、1つあるいは2つの重複遺伝子(パラログ)の実験的欠失が酵母の適応度にどのように影響するかを調べ、どの遺伝子が新しい必須機能を進化させた可能性を、また、どの遺伝子が機能の重複(著者たちがもつれ(entanglement)と呼ぶ状態)を保持したのかを特定することができた。これらの結果に基づき、彼らは、もつれがどのように遺伝子重複の進化の軌跡に影響を及ぼしているかを提案している。(MY,KU,kj,kh)

Science, this issue p. eaaz5667 ; see also p. 1424

再生を導く (Guiding regeneration)

多くの成体生物は、損傷後に神経回路を再生することができる。しかしながら、成体における軸索経路の発見を促進するために、どの案内機構が機能しているかは明らかではない。Scimoneたちは、プラナリア視覚系の再生を研究することでこの問題に対処した(Roberts-Galbraithによる展望記事を参照)。異なる筋細胞集団が、視細胞軸索と密着して見い出された。この筋細胞集団が、神経細胞のあるクラスと一緒になって、さまざまな傷害または眼の移植後の視覚系の組み立てを促進していた。これらの細胞は、胚性ガイドポスト細胞と同様の特徴を示し、成体の位置情報案内機構により、目の細胞とは無関係に正確な位置に特定された。これらのガイドポスト様細胞の不在は、再生における欠陥のある神経細胞の配線と随伴していた。(KU,nk,kj,kh)

【訳注】
  • ガイドポスト細胞:神経細胞の軸索伸長や細胞移動をガイドする働きを持った細胞の総称
Science, this issue p. eaba3203; see also p. 1428

適応性のあるヒト前頭皮質 (The adaptive human frontal cortex)

さまざまな課題作業を柔軟に切り替えることは、ヒトの持つ基本的な認知能力であり、それにより我々はある決定に必要な情報だけを選択的に利用することができる。Minxhaたちは、深部電極が埋め込まれた患者から得られた単一神経細胞の記録を用いて、決定を下すのに必要な際に、ヒトの脳がどのようにして要求に応じて記憶を読み出した。また、読み出された記憶がどのようにして、側頭葉から前頭葉に脳内で動的に転送されるのかを理解するため、。記憶が必要とされなかった場合、内側前頭皮質の神経活動だけが課題作業と相関した。しかし、結果選択が記憶読み出しを必要とする場合、前頭皮質の神経細胞は、内側側頭葉で記録されたフィールド電位に位相同期された。そのため、課題作業の要求に応じて、さまざまな領域の神経細胞は、その活動パターンへ柔軟に従事でき、また離脱することができる。(MY,kj,kh)

Science, this issue p. eaba3313

ヌクレオソームを引き込む (Engaging the nucleosome)

細胞の独自性は、特定の転写因子の結合を通じて作られる遺伝子発現パターンによって定まる。しかしながら、ヌクレオソーム単位は転写因子の、哺乳類ゲノム内の特定のDNAモチーフの使用を制限する。転写因子が、そのようなクロマチン化された、ヌクレオソームに埋め込まれたモチーフに、どのように結合するかを研究するために、Michaelたちは、多能性因子 OCT4とSOX2に焦点を当てた。彼らは、ヌクレオソーム全体のさまざまなモチーフ位置でのこれら因子の相対的親和性を体系的に定量化し、低温電子顕微鏡法によるOCT4-SOX2結合ヌクレオソームの構造決定を可能にした。OCT4とSOX2は、DNA結合親和性を強化するために協調的に結合し、ヌクレオソームを不安定にするDNAの歪みをもたらした。 この分析により、生体内で検証された位置依存の結合様式が明らかになり、転写因子がクロマチン化されたモチーフをどのように読み取るかについての洞察が得られる。(Sh,KU,kj,kh)

【訳注】
  • DNAモチーフ:転写因子など特定のタンパク質が結合する特徴的なDNAの配列
Science, this issue p. 1460

コヒーシンを理解するための青写真 (A blueprint to understand cohesin)

コヒーシンは、染色体分配のために姉妹染色分体を閉じ込め、DNAループを押し出してDNA構成を形成することで転写を調節する多タンパク質複合体である。Shiたちは、タンパク質 NIBPL(これは、コヒーシンをDNA上に積むのに役立つ)とDNAに結合したヒト・コヒーシンの構造を低温電子顕微法による中分解能で決定した。2つのATP分解酵素ドメインがコヒーシン機能に重要な役割を果たしている。この構造は、NIBPLとDNAがこれらのドメインをどのように相乗的に活性化しているかを説明し、DNAがコヒーシンによってどのように捕捉されるかの洞察を与える。(KU,kh)

Science, this issue p. 1454

DNAの気相円偏光二色性 (DNA circular dichroism in gas phase)

円偏光二色性分光は、同一でない鏡像分子を識別するのに広く用いられている。この技術は左右の円偏光の吸収差に依拠していて、そのため適切な感度には液相試料を必要とする傾向にある。Dalyたちは今回、透過光でなく光脱離電子の検出に基づく、DNAオリゴヌクレオチドの気相円偏光二色性スペクトルを報告している(Barranによる展望記事参照)。このスペクトルの顕著な特徴は溶液のものと一致した。この技術を質量分析と組み合わせると、分析用に特定分子の事前質量選択することが可能となる。(MY,kh)

Science, this issue p. 1465; see also p. 1426

近傍の多惑星系 (A nearby multiplanet system)

太陽系外惑星は、同じ星の周りを軌道運動する他の天体と重力相互作用し、それらの進化と安定性に影響を与える可能性がある。これらの効果を研究するには、多惑星系を特定する必要がある。Jeffersたちは、近傍の赤色矮星 GJ 887 を監視して、視線速度の周期的な信号を検出した。これは、軌道上に約 9日間と 22日間の周期の2つの惑星とさらにひとつの候補惑星が存在することを示している (Daviesによる展望記事参照)。軌道面の傾斜角は不明のため、最小質量しか決定できないが、それらは、両惑星ともスーパー・アース(super-Earths)であることに整合している。このスーパー・アースとは、地球よりも重いが、海王星よりも軽いものを指す。この系は、太陽から 3.3パーセクしか離れておらず、他の技術による追跡調査も容易であろう。(Wt,KU,nk,kj)

【訳注】
  • パーセク(parsec):天文学分野で使われる距離を示す単位、1パーセクは約3.26光年
Science, this issue p. 1477; see also p. 1432

吸収ピークの対が出力を安定化する (Pairs of peaks stabilize output power)

直感に反した光合成の特徴は、光の吸収に関与する主要な色素対(たとえば、植物の葉緑素aおよびb)が、その光の波長域のちょうど単一最高点で吸収するわけではなく、その最高点からずれており、お互いにもずれていることである。Arpたちは、この吸収最高点の様式を有する複数の色素の使用が, どのようにエネルギー伝達における内部および外部変動を緩和することができて、結果として出力の雑音を最小限に抑えるのかを説明する回路網モデルを策定した(Duffy による展望記事参照)。このモデルは、色々な放射スペクトル環境からの、異なる三つの光合成系の吸収最高点を正確に再現している。そのような仕組みは、光強度のより長い尺度の変動に適応するためにさらに生物学的光合成過程に、調整および微調整できる基礎をなす堅牢性を提供できる。(Sk,nk,kj,kh)

Science, this issue p. 1490; see also p. 1427

そり犬の北極圏適応はずっと昔に遡る (Sled dog arctic adaptations go far back)

犬は、約9500年前の昔から、北極圏でそりに使用されてきた。ただし、初期のそり犬、他の犬種、オオカミの間の関係は解明されていない。Sinding たちは、太古のそり犬、現代のそり犬10匹、および太古のオオカミの遺伝子配列を決定し、他の現代の犬たちとの遺伝的関係を分析した。この分析は、そり犬が少なくとも9500年前に遡る太古の血統を示しており、オオカミがそり犬の祖先および欧州との接触前のアメリカ犬の祖先と交配したことを示している。しかし、そり犬とオオカミの間の遺伝子流動は、約9500年前以前に停止したらしい。(Sk,kj,kh)

Science, this issue p. 1495