AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science August 23 2019, Vol.365

リュウグウの地表面に着陸 (Landing on the surface of Ryugu)

2018年10月、小惑星探査機「はやぶさ2」は、小惑星(162173)リュウグウの地表面に Mobile Asteroid Surface Scout (MASCOT)着陸機を降ろした。Jaumann等は、降下中および地表面に静止しているときの MASCOTのカメラで撮影された画像を分析した。夜間に着陸機の周囲を照らしてカラー画像を生成するために、カラー発光ダイオードが使用された。リュウグウの地表面は2種類の岩石が支配的だが、微粒子状の塵の形跡はない。その岩石中のミリメートル大の包有物(インクルージョン)は、炭素質コンドライト隕石に存在するものに似ている。MASCOTは、非再充電型電池が尽きる前に小惑星表面で17時間作動した。(Wt,KU,kh,nk)

Science, this issue p. 817

CRISPRの材料一式 (A CRISPR set of materials)

CRISPR技術は、遺伝子編集手段として最もよく知られている。Englishたちは、プログラム可能な核酸分解酵素Cas12aに応答する一群の刺激応答性ヒドロゲルを開発した(Hanによる展望記事参照)。ゲル中に組み込まれた二本鎖DNAあるいは一本鎖DNAがCas12aに依存して切断されると、この材料は、分子的に変化し巨視的変化を起こす。著者たちはこの変化について具体的に、DNAと結合した、あるいはDNA内に閉じ込めた粒子の操作的放出や、架橋がDNAだけで形成されたゲルの分解、およびDNAが一部架橋したゲルの浸透性の変化を示している。これらの手段は、カプセル化ナノ粒子とカプセル化細胞を放出する材料の作製を可能とし、分解可能な電気ヒューズとして作用し、またRFIDでの遠隔信号伝達を可能にする。(MY,ok,kj,kh)

【訳注】
  • Cas12a:二本鎖DNAを標的部位で切断するだけでなく、標的部位を切断後、同じ反応系に存在する全ての一本鎖DNAを分解する機能を持つCas(CRISPR associated proteins)型核酸分解酵素。
  • RFID:ここでは、記録媒体情報を近距離無線通信で非接触に読み出すことの意味で使われている。
Science, this issue p. 780; see also p. 754

病原体応答としてのNADの欠失 (NAD depletion as pathogen response)

植物が病原体感染に応答する1つの方法は、感染が起きた細胞を犠牲にすることである。この過敏応答を担うヌクレオチド結合ロイシン・リッチ・リピート免疫受容体は、Toll/インターロイキン1受容体(TIR)ドメインを保有している。2つの論文で、HorsefieldたちとWanたちは、病原体に応答する感染細胞の細胞死シグナル伝達の一環として、これらのTIRドメインが、代謝の補因子であるニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド(酸化型NAD)を切断することを報告している。同様のシグナル伝達が、哺乳類のTIR含有タンパク質を神経細胞のワーラー変性の際の酸化型NADの欠失に結びつけている。(MY,KU,kj)

【訳注】
  • TIRドメイン:病原体に関連する分子パターンを認識し自然免疫を作動させるパターン認識受容体ドメイン。
  • 補因子:酵素の触媒活性に必要なタンパク質以外の化学物質。
  • 酸化型NAD:細胞内のミトコンドリアで、糖質や脂質などの栄養物がCO2に酸化されて、エネルギーが作り出される経路で必須な物質。
  • ワーラー変性:末梢神経の軸索が切断されると、損傷部位より遠位の軸索が断片化してしまう現象。
Science, this issue p. 793, p. 799

RNA処理を収容し続ける (Keeping RNA processing contained)

相分離によって凝集する生体分子凝縮物は、RNA処理に関与する。内因的に秩序構造をとれないタンパク質領域における翻訳後修飾は、相分離を調節することによりRNA処理を調節することができる。Kimたちは核磁気共鳴分光法を使用して、翻訳調節因子 FMRPと CAPRIN1(これらの因子はmRNAを脱アデニル化することで翻訳を抑制する)のC末端無秩序領域を含むモデル系の相分離を解明した。タンパク質間の相互作用はFMRPとCAPRIN1における特定の配列が関与し、mRNAがこの凝縮物中に区分けされる傾向は、無秩序領域におけるリン酸化パターンに依存する。この機構がシグナル伝達経路をRNA処理の調節と統合する。(KU,kj,kh,nk)

Science, this issue p. 825

スロー地震の区分化 (Slow earthquake segmentation)

日本海溝は、2011年の東北沖地震のような破滅的な巨大地震に深く関与している。Nishikawaたちは、S-net海底地震ネットワークからの新しい記録を使用して、日本海溝に沿ったスロー地震(地盤の揺れを引き起こさないような地下での動き)をマッピングした (Houstonによる展望記事を参照のこと)。彼らは、2011年の地震で破壊した地域が、多数のスロー地震を持つ地域に囲まれていることを見出した。スロー地震による区分化により、2011年の破壊が停止した可能性が高い。これは、将来の大地震のリスク評価のための重要な観察結果である。(Wt,KU,kj,nk)

Science, this issue p. 808; see also p. 750

神経細胞網による強固な記憶 (Robust memories through neuron networks)

脳は、どのようにして、長期にわたって情報を保存するのだろうか? Gonzalezたちは、自由行動の変異マウスにおいて、長期間にわたり特注の高感度超小型内視鏡を埋め込み、神経活動の長期的な画像化を行った。神経細胞の大半は、ほぼ毎日活動的であったが、その発火率は一続きの実験および課題にわたって変化した。個々の神経細胞の応答は変化したが、同期活動する神経細胞群の応答は、数日から数週間にわたって非常に安定していた。さらに、海馬領域CA1の回路網の活動は、課題を実行せずに長期間経過した後、または局所病変によって誘発された異常活動の後でさえも回復した。これらの発見は、状況の表現が脳内で符号化される仕組みとしての、アトラクタのような集団動力学の存在を示している。(Sk,kh,nk)

【訳注】
  • アトラクタ:カオス理論において, ある力学系がそこに向かって時間発展をする集合のこと
Science, this issue p. 821

土壌分解における微生物の役割 (Microbes' role in soil decomposition)

土壌は、多様性に富んだ無脊椎動物や微生物の生命を宿しており、それが局所規模から地球規模までの生物地球化学的過程を推進している。土壌の生態学的共同体の生物多様性の様式を土壌の生物地球化学に関連付けることは、生態学者および地球システムのモデル作成者にとって重要な課題であり続けている。Crowtherたちは、土壌有機物の分解と代謝回転における微生物共同体の変化の重要性に特に焦点を当てて、土壌生物を生物地球化学過程に関連付けている科学の状況を概説している。世界中の土壌共同体にはばらつきがあるが、生態学者は、将来の気候変動下での生物地球化学的動態の予測に寄与するかもしれない、普遍的な様式を明らかにし始めている。(Sk,KU,ok,kh)

【訳注】
  • 地球システム:大気、海洋、地殻、生物圏(生態系)、人間圏(人類社会) など相互に作用しあう複数のサブシステムからなる一つの巨大システム
Science, this issue p. eaav0550

森林を守りたいなら地域に視点を置け (Think local when protecting forests)

生息地の減少をもたらし、気候変動を悪化させ、地域共同体に影響を及ぼす熱帯の森林伐採は、地球規模での重要な問題である。展望記事においてSeymourとHarrisは、南米、南東アジアそしてアフリカにおける熱帯の森林損失の原因となる駆動要因について探索している。例えば、ブラジル・アマゾンでは家畜の放牧が支配的である一方、コンゴ盆地では小規模の開墾が最も重要である。著者たちは、日用品のサプライ・チェーンから森林 伐採を無くすという活動に頼ることに対して警告し、効力をもたせるためには政策を地域毎の状況に適合させる必要があると議論している。(Uc,KU,kh,nk)

Science, this issue p. 756

ATP分解酵素及びATP合成酵素の数々の革新 (Innovations in an ATPase/ATP synthase)

アデノシン三リン酸(ATP)の化学エネルギーを膜を横切るイオンの移動に結び付ける酵素は、生命の全ドメインで存在する。ミトコンドリア、葉緑体、およびほとんどの細菌のF型属と同様に、液胞及び古細菌(V/A型)のATP分解酵素は、ATPの合成或いは加水分解を、膜を横切る水素イオンの移動に結び付ける。F型とV/A型の酵素間のエネルギー結合における機構的な違いを明らかにするために、ZhouとSazanovは、細菌Thermus thermophilusのV/A型ATP合成酵素の構造を決定した。明瞭な複数の準安定状態の構造により、ドメイン界面が明確になり、Voからの回転エネルギーをATP合成V1ドメインへ伝える結合において弾力のある外縁柄の役割が明白になった。(KU,ok,kj,kh)

【訳注】
  • 「全ドメイン」 は, 生物の最上階の分類のことを言う. 「ドメイン界面」 は, タンパク質で, 他部分から独立的な機能・進化的由来を持つ大きな構造要素のことを言う。
  • イオン輸送性ATP分解酵素:ATP合成酵素もこの分類に入り、この中には真正細菌や新生生物に存在するF型ATP分解酵素、古細菌に存在するA型ATP分解酵素、液胞(vacuolar)の水素イオン輸送に関係するV型ATP分解酵素がある
Science, this issue p. eaaw9144

胚を見る (Seeing the embryo)

最近の進歩により、発生中の哺乳類胚の可視化が可能になり、胚発生過程のこれまでなかった細胞の詳細をもたらしている。展望記事において、Wallingfordは胚の画像を正確に見たり記録したりする方法を論じ、残る課題と将来の可能性を説明している。(ST,kh)

Science, this issue p. 758

マラリア原虫を図にする (Mapping the malaria parasite)

プラスモジウム属原虫の幾つかの種は、ヒト・マラリア病を引き起こし、確固たる制御努力にもかかわらず、莫大な世界的疾病負担が依然として存続している。Howickたちは、マラリア原虫の生活環全体の転写についての単一細胞解析を提供している(Winzelerによる展望記事参照)。マラリアのげっ歯類モデルのネズミマラリア原虫( P. berghei)の10の異なる生活環段階から産生された単一細胞トランスクリプトームにより、中核的なトランスクリプトームに対応する5156の遺伝子の間で、20の「モジュール」が特定された。これらのクラスターは、仮定的遺伝子と進化的に保存された遺伝子の機能の割当を可能にした。また、このクラスターは、すでに認められた生活環段階の中のさらなる下部構造を示唆している。この図集はまた、患者から単離した原虫から得られた熱帯熱マラリア原虫トランスクリプトームと四日熱マラリア原虫トランスクリプトームの交絡を解くことと、発育段階よる原虫血症の分類とを可能にした。(MY,kh)

【訳注】
  • 世界疾病負担:世界中における疾病の影響を財政コスト、死亡数、罹患数等の指標で数値化したもの。
  • トランスクリプトーム:特定の状況で細胞中に存在する全ての転写産物のこと。
  • 原虫血症:血液中の赤血球に対する原虫が感染した赤血球の割合で表されるマラリア感染の程度。
Science, this issue p. eaaw2619; see also p. 753

相互作用するトポロジカル相 (An interacting topological phase)

これまでに発見されてきたトポロジー的に重要なシステムはほとんどは、非相互作用粒子から構成されている。故に、その特性は単一粒子の特性を基に説明されている。De Leseleuc等は、粒子同士の相互作用が極めて重要な役割を果たすボゾン原子のトポロジカル相を作った。高励起リュードベリ状態にあるボゾン原子は、一連の光ピンセットによって補捉された。原子間の双極子-双極子相互作用により光ピンセットの空間配置に依存して異なるトポロジカル特性を有する2つの構造が生み出された。(NK,KU,ok,kj,kh)

Science, this issue p. 775

多様体の運命 (Manifold destiny)

遺伝子相互作用(GI)のマッピングは通常、表現型の読み出しとして細胞適合性に基づいており、これは相互作用の機構的起源を不明瞭にする。Normanたちは、GIのマッピングと理解のための枠組みを開発した。この方法は、Perturb-seq 法から収集された高次元の単一細胞RNA配列決定データを活用する。多様なトランスクリプトーム表現型は、細胞のあらゆる可能な状態を表す「多様体」を構築する。個々の摂動とGIは、細胞状態をこの多様体上の特定の位置に投影し、GIの経路と系統的分類において遺伝子の偏りのない順序付けを可能にする。(KU,kj)

【訳注】
  • Perturb-seq (single-cell RNA-sequencing pooled CRISPR screens)法:CRISPRによる遺伝子の不活化を網羅的に行い、単細胞RNAシーケンスと組み合わせてトランスクリプトームのレベルで表現形質のプールを得る手法。
Science, this issue p. 786

マラリア原虫の集団の盛衰 (Ebb and flow of parasite populations)

マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のアフリカ全体にわたる集団遺伝学は、あまり理解されていないが、薬物耐性の広がりの危険性と動態を把握するために知ることが重要である。Plasmodium Diversity Network AfricaのAmanbua-Ngwaたちは、ゲノム科学の力を活用して、アフリカでヒトと媒介生物集団の分岐と一致するはっきりした集団構造を見出だした(Sibleyの展望記事を参照)。抗マラリア薬による選別の明確な痕跡が、植民地化と奴隷制の影響の徴候とともに検出された。さらに、全ゲノム配列解析は、異なる地域間で広範な遺伝子の流れがあること、そしてエチオピアには他と大きく異なるP. falciparumの集団が存在することを示しており、これは別種のマラリア原虫である三日熱マラリア原虫(P. vivax)との共存を示すものかもしれない。(Sh,KU,ok,kj,kh,nk)

【訳注】
  • 集団遺伝学:生物集団内における遺伝子の構成・頻度の変化に関する遺伝学の一分野
  • Plasmodium Diversity Network Africa:正式には2013年にスタートしたマラリア原虫の遺伝的多様性と薬剤耐性を調査するアフリカ主導の研究ネットワーク。数多くの国際的な協力を通じ、ゲノムと集団の遺伝データを臨床データと疫学データと統合して、マラリア原虫と媒介動物の変化を監視する革新的方法を開発している。
Science, this issue p. 813; see also p. 752

レーザー溶接クラブに加入する (Joining the laser welding club)

レーザー溶接は現代の製造に不可欠な部分であるが、セラミック材料を破壊する。Penillaたちは、超高速レーザーを使用してセラミックを溶接する2つの方法を開発した。1つの方法は、セラミックの特性を調整し、レーザーがセラミックを通過して部品間の界面で溶接を行うことを可能にする。もう1つの方法は、部品間の間隙を最適化し、エネルギーを効率的に蓄積させる。どちらの方法も、短いがエネルギーの大きなパルスを活用して、従来のセラミック溶接で用いられる高温を使用せずに、セラミックを接合可能にする溶融池を作り出す。(Sk,ok,kh)

Science, this issue p. 803