AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science April 5 2019, Vol.364

白色矮星の周りの低質量惑星 (A low-mass planet around a white dwarf)

太陽のような恒星の周りに、数多くの太陽系外惑星が発見されている。これらの恒星は白色矮星としてその寿命を終えるが、生き残ったったどんな惑星系でも引き継ぐはずである。Manserたちは、白色矮星の周りを周回するガス円盤からの輝線が周期的に変化することを発見した (Fossatiによる展望記事を参照のこと)。彼らは数値シミュレーションを用いて、このスペクトル変化に対する最も可能性のある説明は、円盤内を周回する1つの低質量惑星であることを示した。その惑星は、潮汐力によって引き裂かれないためには、その惑星は異常なほどに小さく稠密であるに違いない。著者たちは、それが、外層が取り除かれた惑星の残りのコアかもしれないと推測している。(Wt,kj,nk)

Science, this issue p. 66; see also p. 25

トウモロコシの減数分裂を追う (Following meiosis in maize)

植物は、動物のように発生初期から生殖細胞の分化系列を蓄えることはないが、その代わり、要求に応じて生殖細胞を生成する。NelmsとWalbotは、トウモロコシに関する研究を行い、トウモロコシ植物先端の葯における体細胞と発生中の生殖細胞の大きさの違いを利用して、花粉発生に向けて減数分裂進行中の個々の生殖細胞を単離した。彼らは、単細胞RNA配列決定法を用いて、減数分裂期間中のトランスクリプトームの変化を調べた。これらの研究は、減数分裂の細糸期間中に過渡期のトランスクリプトームが再編成されることで、減数分裂の進行とともに分化が増進することを明らかにした。(Sk,kh)

【訳注】
  • 葯:雄しべ先端の、花粉が入った袋
  • トランスクリプトーム:ひとつの細胞中のすべてのmRNAの集まり
  • 細糸期:細胞の減数分裂の最初の段階"
Science, this issue p. 52

スピン制御での演習 (An exercise in spin control)

半導体量子ドットは、他の全ての固体量子光源の中で最も高速かつ高品質な単光子源を提供する。しかし、それらを大規模な量子アーキテクチャーにおいて競争力のあるものにする、近接核スピンのような長寿命量子メモリーを、量子ドットは欠いている。Gangloffらは単一電子のスピンと光を用いて、半導体量子ドットの中に存在する約30,000の核集合体を冷却した。筆者らは次に、この手法を個々の核スピンを操作するために拡張した。核集合体から単一核スピンまで首尾一貫して操作できる本技術は、各ノード毎に専用の量子メモリーを有する量子ドット・ネットワークの実現に寄与するであろう。(NK,KU,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 62; see also p. 30

相互作用する相手を見る (Seeing whom you interact with)

魚の群れや鳥の群れは、生物学的アクティブ・マターのよく知られた例である。個々の動きは、見て直ぐ分かる隣同士の相互作用ではなく、集団により方向づけられる。この挙動は、適切な形状または表面特性を持つ合成粒子の集まりの設計へと応用できる。Lavergneたちは、粒子たちが近隣粒子を「見る」ことができる場合だけ、光照射に基づいて能動的になるヤヌス粒子を作成した。この特性は、特定の対または流れで生じる相互作用なしに、特有の方法で集まる粒子集団の形成を引き起こした。(Sk,kj,nk,kh)

【訳注】
  • アクティブ・マター:その構成要素がエネルギーを消費しながら運動・相互作用をする散逸系・非平衡系
  • ヤヌス粒子:表と裏で表面の組成や物性の異なる異方性粒子"
Science, this issue p. 70

侵略的外来種の鳥が在来種の種子を散布する (Invasive birds spread native seeds)

人間が外来種を敏感な生態系に持ち込むと、しばしば、侵略と在来種の絶滅が生じる。結果として生じる生態学的共同体は、生存者と新参者との間の異常な相互作用を発生させる可能性がある。Vizentin-Bugoniたちは、ハワイの種子散布網の構造を分析した。そこでは、在来鳥種が、侵略的外来種によってほとんど置き換えられている。彼らは、在来種植物が、今や、種子散布を侵略的外来種の鳥に依存していることを発見した。この散布の相互作用網は複雑で安定しており、これは、世界の他の地域における本来の種子散布網の特徴である。導入された種が、状況によっては、在来種の生態系に一体化されるように見える。(Sk,ok,kh)

Science, this issue p. 78

全ての道は調節に通ず (All roads lead to regulation)

大きく分岐した分類群に属する種が、類似した形質変化を経験することがある。根底にあるどんな遺伝的駆動役がこれらの平行変化をもたらすのかは、未解決問題のままである。Sacktonたちは、繰り返し飛行能力を失ってきた鳥類のうち走鳥類とシギダチョウ科を、群を越えて調べ、飛行に関わる遺伝子に関連した調節領域において収斂進化が存在するが、タンパク質コード領域内にはないことを見出した。これらの調節領域内の変化が肢部の発生に影響しており、分類群を越えて収斂変化に向かう迅速な経路を表しているかもしれない。(MY,KU,ok,nk,kh)

【訳注】
  • 調節領域:タンパク質コード遺伝子の転写を制御するプロモーターとエンハンサーと呼ばれるゲノム領域上の転写調節因子が結合する部位のこと
Science, this issue p. 74

薬剤使用制限に報奨を出す (Incentivizing restraint in drug use)

抗菌剤耐性(AMR)の加速する傾向は、主要な世界的政策の関心事である。気候変動と同様に、個人的意志決定者に対する報奨は広く社会へのコストというものを考慮していない。AMRは差し迫った「コモンズの悲劇」をつきつけており、そして将来の害悪を防ぐために緊急な集団的行動の必要性がある。Roopeたちは、経済学的展望からAMRに関係する問題について概説し、気候変動と比較した。双方の課題に対する主要な障害の一つは、たくさんの不確実性と不公平に直面した際に前に進むための最善の方法に関する総意を構築することである。(Uc,KU,nk,kh)

【訳注】
  • コモンズの悲劇:多数者が利用出来る共有資源が乱獲されることで資源の枯渇を招くという経済学の法則
Science, this issue p. eaau4679

分解が警報を引き起こす (Degradation triggers the alarm)

インフラマソームは、炎症誘発性サイトカイン分泌と細胞死を調整する多タンパク質複合体である。炭疽菌致死因子などのタンパク質分解酵素は、NLRP1Bとして知られるインフラマソームを活性化することができるが、この活性化の機構は不明である。Chuiたちはゲノム全体のノックアウト・スクリーニングを使用して、致死因子によるNLRP1Bのタンパク質分解が、NLRP1Bのアミノ末端領域のプロテアソーム分解および最終的に細胞死を誘発することを示した。Sandstromたちは、NLRP1Bのアミノ末端領域の分解がカスパーゼ-1を活性化するカルボキシル末端フラグメントの遊離をもたらすことを見い出した。「機能的分解」と呼ばれるこのプロセスは、免疫系が病原体関連の活性を検出することを可能にするが, 一方では病原体関連の抗原を認識する。(KU,kh)

Science, this issue p. 82, p. eaau1330

植物のレジストソームがはっきり見えるようになる (The plant resistosome comes into focus)

ヌクレオチド結合ロイシンリッチ・リピート受容体(NLR)は、病原体関連のエフェクターを感知すると免疫応答を開始する。動物では、エフェクターとの結合によるNLRのオリゴマー化が、NLR経路下流側の活動性にとって極めて重要であるが、植物系は多くの点で異なり、NLRの活性化機構ははっきりしなかった。Wangたちは2つの論文で、アブラナ科の小型植物であるシロイヌナズナにおいて、ZAR1と呼ばれるNLRの組成と構造を研究した(DanglとJonesによる展望記事参照)。彼らは、不活性状態と中間状態の違いを説明する低温電子顕微鏡構造を決定した。ZAR1の活性な中間状態は、レジシトソームと呼ばれる、車輪様の五量体を形成する。この活性化複合体において、一揃いのヘリックスが一緒になって、免疫応答性および原形質膜との結合に必要な漏斗状構造を形成する。(MY,nk,kh)

【訳注】
  • エフェクター:タンパク質(特に酵素)に選択的に結合してその機能を促進または阻害する小分子。
Science, this issue p. eaav5868, p. eaav5870; see also p. 31

銅が出番を迎えると、アミンが出現する (Amines emerge, as copper bides its time)

2つ以上の触媒反応サイクルの同時操作は、相対速度の微妙な均衡を必要とする。Zhangたちは、アレンとニトリルを還元条件下で結合させるアミン合成を開発した。銅触媒には、アレンをホウ素化し、その中間体をニトリルに結合させ、それからその次の中間体をエナンチオ選択的にアミンに還元することを順番に行う役割が与えられる。しかしながら、銅-ボリル錯体の形成および反応は競合する水素化銅と比較して遅すぎた。革新的な遅延サイクルを追加することで、著者たちは、急速に反応する水素化物を必要とされるまで押しとどめることに成功した。(KU,nk,kh)

【訳注】
  • ボリル化:ホウ素を含むボリル基 R2B- を, 特に金属原子に, 化合させること
Science, this issue p. 45

ホルモンに応答してのGTPアーゼのクラスター形成 (GTPase clustering in response to a hormone)

原形質膜中にはまれないくつかの脂質変異体は、シグナル伝達成分として機能する。モデル植物シロイヌナズナの根端細胞の研究から、Platreたちは、細胞膜中に比較的多く存在するホスファチジルセリンもまたシグナル伝達経路を調節することを見出した。ホスファチジルセリンは、植物ホルモンであるオーキシンからの信号に応答して膜中で低分子量GTP分解酵素(GTPase)であるROP6のクラスター形成に必要である。ホスファチジルセリン濃度の変化は、ROP6のクラスター形成、ひいてはオーキシン・シグナル伝達応答を変化させた。(Sh,KU,kh)

【訳注】
  • GTPアーゼ:グアノシン三リン酸(GTP)を結合し加水分解する一群の酵素あるいはタンパク質。
  • ホスファチジルセリン:通常、細胞膜に存在するリン脂質の一種。
Science, this issue p. 57

ペプチドが線虫に家族であることを知らせる (Peptides let nematodes know family)

適応度 (子孫を残す能力) を最大化するためには、生物が自分の種を認識できることが必要で、それは近縁の個体が近くにいる場合に特にそうである。Lightfootらは、捕食性線虫Pristionchus pacificusにおいて、同種の捕食を防止する種の認識に携わる高頻度可変性小ペプチドを同定した。彼らは、CRISPR-Cas9システムを用いてこのペプチドのカルボキシル末端に変更を誘発し、この領域が自己認識に必要であることを示した。この分子認識システムは共食いを防いでいることが確かで、そしてえこの線虫が適切な餌となる種に焦点を合わせることができるようにしている。(ST,ok,kh)

Science, this issue p. 86

ALSにおける時間的空間的遺伝子発現 (Spatiotemporal gene expression in ALS)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、進行性の運動ニューロン疾患で、脳と脊髄内の神経細胞に影響を及ぼす。疾患初期段階およびこれが体内のどこで広がるのかを特定するのは、困難であることが分かっている。ManiatisたちはRNA配列決定法を用いて、マウスのALSモデルの脊髄および死後のヒトALS脊髄のさまざまな領域で、疾患の経過を通してのトランスクリプトームの変化を明確にした。彼らは遺伝子発現の変化から、疾患関連の経路を特定し、ALSで認められる運動ニューロンの退化における重要な段階を明確にした。(MY,kj)

【訳注】
  • トランスクリプトーム:特定の状況で細胞中に存在するRNA全体のこと。
Science, this issue p. 89

ブラック・ボックスなんて何の役に立つの? (What good is a black box?)

多くの科学者たちは、いわゆるブラック・ボックス・アルゴリズムを使用することを不快に感じている。その理由は、このアルゴリズムが、それらがどのようにして答に到達するのかを明らかにしないまま答えを与えることだ。展望記事において、Holmは、たとえ、ブラック・ボックス・アルゴリズムが答に到達する道筋が明瞭でないにしても、それが有用な手段である幾つかの状況があると論じている。これには、低リスクで高報酬の状況が含まれる。この状況とは、正しい答えの価値に比べて間違った答えのコストがささやかなものである場合、あるいは、他のすべてのデータ分析手法や、さらには訓練された人間の判断よりもこのブラック・ボックス・アルゴリズムのほうが性能が優れている場合である。ブラック・ボックス・アルゴリズムは、第一原理からは直感的ではないデータセット内の新しい関係をも明らかにする場合がある。注意して使用する必要はあるが、ブラック・ボックスは科学と技術の進歩に明確な役割を有している。(Wt,kh)

【訳注】
  • 第一原理: 近似や経験的なパラメータ等を含まない, 最も根本となる基本法則
Science, this issue p. 26

神経細胞網におけるキメラ状態 (Chimera states in neural networks)

キメラ状態は、複雑なシステムが同期と非同期の共存パターンを生成するときに発生する。人間の脳を構成する神経細胞は、まさにそのような複雑なシステムを形成している。Bansalたちは、30人の健常人の拡散スペクトル・イメージングに基づいてデジタル化され、個別化された脳ネットワーク・モデルを構築し、次にそれをコンピュータを用いた刺激によって調べることができた。モデルにおいて刺激した場合、より中央の領域とより連結された領域がより大きな同期を生成したが、キメラ状態が全体的に最も優勢な状態であった。このパターンは、多くの脳の活動における分離処理と統合処理の両方に対して必要なためらしい。これらのモデルは、脳の構造に関連する基本的なパターンを捉えたが、特により高い認知機能に関して、個々人の多様性を明らかにしている。(KU,kh)

Sci. Adv. 10.1126/sciadv.aau8535 (2019).