AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science March 22 2019, Vol.363

兎粘液腫耐性を突き止める (Locating myxomatosis resistance)

兎粘液腫は、個体数を抑制するために、アメリカのワタオウサギからヨーロッパのウサギの個体群に計画的に導入されたウイルス感染症である。 過去60年ほどの間に、イギリス、フランス、およびオーストラリアで、類似の耐性変異が並行して出現してきた。 Alves たちは、この耐性の基礎は多遺伝子性であり、いくつかの宿主免疫とプロウイルス対立遺伝子に収斂する淘汰がなされていることを発見した(Miller と Metcalf による展望記事参照)。 興味深いことに、今ではウイルスが免疫抑制形質を対抗進化させつつあるように思われる。(Sk,MY,kh)

【訳注】
  • プロウイルス:宿主細胞に感染したレトロウイルス(RNAウイルスの一種)から、逆転写酵素により宿主細胞の染色体DNAの中に組み込まれたウイルスの遺伝子。
Science, this issue p. 1319; see also p. 1277

カンブリア紀の秘密を明かす貴重な埋蔵品 (A treasure trove of Cambrian secrets)

約5億年前のカンブリア紀の間に動物の多様性と形状が爆発的に増大した。 Fu たちは、様々な種を含み、その半分以上がこれまで記述されていない中国のカンブリア紀初期の化石発掘地について述べている(Daley による展望記事参照)。 この発掘地は、バージェス頁岩のようなこれまで記載されたカンブリア紀の発掘地に匹敵しており、この期間の生物学的革新と多様化を解明するのに役立つはずである。(Uc,MY,kj,kh,nk)

Science, this issue p. 1338; see also p. 1284

ホウ素が窒素を結び付ける (Boron brings nitrogen together)

炭素は鎖を形成する傾向があるのに対して、窒素は通常、N2 という特に安定な形で、自分同士で一度だけしかくっつかない。 Légaré たちは今回、ホウ素が2個のN2 分子を、室温以下の還元条件下でうまくくっつけることが出来ることを示している。 結果として得られるN4 鎖を2個のボリレン基が間に挟んだ。(Sk,kh,nk)

【訳注】
  • ボリレン:原子価が1の中性ホウ素化学種。
Science, this issue p. 1329

方程式を波で解く (Solving equations with waves)

光波信号処理はある種の数学関数を表現し、信号あるいは画像に関する計算課題をアナログ的に実行するのに用いることができる。 通常そのような信号処理には、レンズ・フィルター・鏡のようなバルク光学素子が必要である。 Mohammadi Estakhri たちは、特別に設計されたナノフォトニクス構造体が、複雑な数学関数として符号化された光波群を入力として取り込み、それを演算処理して、それらの数学関数群の積分を光波として出力できることを示している。 マイクロ波に対して実証されたこの結果は、チップ型アナログ光コンピューターと演算器を開発する道筋を提供する。(NK,MY,kh,nk)

Science, this issue p. 1333

夜間大気光の源を解明する (Elucidating the sources of nightglow)

太陽や星からの光がなくても、地球の大気はそれ自身発光する。 これらの発光の源はさまざまであるが、夜間大気光は特に不可解なものとされてきた。 Kalogerakis は、地表面から約100キロメートル上空の中間圏と下部熱圏でそのような発光を引き起こす仕組みを特定した。 日中は、太陽の放射が酸素とオゾンを分解するが、夜間には、振動エネルギーから電子エネルギーへの多重量子転換が同様の過程を促進する。 その結果生じた単一酸素原子が周囲の分子を電気的に励起し、夜間大気光を発生させる。(Sk,kh,nk)

Sci. Adv. 10.1126/sciadv.aau9255 (2019).

ナトリウム・チャネルを標的にする (Targeting sodium channels)

電位依存性ナトリウム(Nav)チャネルは、心機能障害および神経障害に関わりがあるとされてきた。 このチャネルには多くのサブタイプがあり、特異的療法の開発を困難にしている。 電位感知とイオン透過に対しては中核をなすαサブユニットで十分であるが、βサブユニット、あるいは細孔遮断剤か開閉調節剤のどちらかとして作用しうる天然毒素により、機能が調節される(Chowdhury と Chanda による展望記事参照)。 Shen たちは、β1とβ2のサブユニット両方および動物性毒素と複合したNav1.7の構造を与えている。 Pan たちは、β2と毒性ペプチドμ-コノトキシンKIIIAに結合したNav1.2の構造を与えている。 この構造は、何故KIIIAがNav1.2に特異的であるかを示している。 これらの結果および他の最近決定されたNav構造は、標的薬剤の開発に対する枠組みを提供する。(MY,kh,nk)

【訳注】
  • 電位依存性ナトリウム・チャネル:神経細胞における活動電位の発生と伝導に関わり、Nav1.1~Nav1.9の9つの類似型が知られている。 Nav1.2は中枢神経に、Nav1.7は末梢神経に発現する。
  • コノトキシン:イモガイが作り出す多種類のペプチドの混合物から構成される神経毒。 5種類が知られており、μ-コノトキシンはその1つ。
Science, this issue p. 1303, p. 1309; see also p. 1278

プラス側のメタン酸化 (Methane oxidation on the plus side)

メタンのアルコール誘導体への工業的転換は、一酸化炭素への過酸化から始まる回り道を含む。 強酸性媒体中でのより直接的な方法は、小規模では見込みを示してきたが、対費用効果がよくない。 Díaz-Urrutia と Ott は、硫酸中でメタンと三酸化硫黄を直接組み合わせて、副産物無しにメタンスルホン酸を形成する試験生産設備規模の反応について述べている(Schüth による展望記事参照)。 この反応は、低濃度のスルホニル過酸化物の添加で開始されてCH3+ により伝播されるカチオン連鎖機構により進行するらしい。(MY,kj,kh)

Science, this issue p. 1326; see also p. 1282

甘味料の、それほど甘くない影響 (A sweetener's not-so-sweet effects)

肥満は、個人の、結腸直腸ガンを含む多くの種類のガンを発症する危険性を高める。 肥満率の上昇を促進する要因の1つは、非アルコール飲料の甘味料としての異性化糖(HFCS)の使用であると考えられている。 Goncalves たちは、マウス腫瘍モデルにおいて、肥満がない場合でも、HFCSの摂取が腸ガンの増殖を促進することを発見した。 腫瘍内の酵素(ケトヘキソキナーゼ)が、HFCS中の果糖を果糖-1-リン酸に変換し、これが腫瘍細胞の代謝を変化させ、細胞増殖の増進を引き起こす。 同様の過程が人間で生じるかどうかは、まだ分からない。(Sk,kh)

【訳注】
  • 異性化糖(HFCS):トウモロコシを原料として作られるブドウ糖であるコーンシロップを、酵素かアルカリによって異性化してその一部を果糖に変化させた糖で、日本の食品原材料名では、果糖ブドウ糖液糖と表記される。
Science, this issue p. 1345

地球科学の分析を自動化する (Automating geoscience analysis)

固体地球科学は、非常に多岐にわたる観測を行う分野である。 これは、機械学習による分析にとって理想的なものである。 Bergen たちは、これらの方法が、固体地球のデータ群にどのように適用可能かについて概説している。 機械学習の技術を採用することは、情報の抽出に対して、また、地球科学で収集された増大しつつある複雑なデータの理解に対して重要である。(Wt)

Science, this issue p. eaau0323

活性化がどのようにゲート開閉につながるのか (How activation leads to gating)

電位依存性(Nav)チャネルは、電気的シグナル伝達において中心的役割を担っている。 その機能の中心をなすのが速い不活性化であり、これを遅らせる変異は、てんかん及び疼痛症候群のような病気を引き起こす。 このチャンルは4つの電位感知ドメイン(VSD)を持ち、VSD4が速い不活性化で重要な役割を果たしている。 Clairfeuille たちは、ゴキブリのNav チャネルであるNav PaSのVSD4がヒトのNav1.7由来のVSD4で置換された混成チャネルの構造を、非結合状態と、速い活性化を遅らせるサソリ毒に結合した状態の双方で決定した(Chowdhury と Chanda による展望記事参照)。 この毒はVSD4を非活性な状態に閉じ込める。 非結合状態との比較が、VSD4とカルボキシル末端領域間の相互作用がVSD4の活性化の際にどのように変化するのかを示し、また、これがどのようにして速い不活性化につながるのかを示唆している。(MY,kh,nk)

Science, this issue p. eaav8573; see also p. 1278

配列決定と単一の精子 (Sequencing and the single sperm)

減数分裂の際に、相同染色体はDNA中において、交差可能性のある二本鎖切断を受けるが、これが遺伝物質を混合する。 しかしながら、すべての二本鎖切断で交差が起こるわけではない。 Hinch たちは、DNA組換えを支配する規則を決定したかった。 彼らは、個々のマウスの精子を配列決定する方法を開発し、その方法を哺乳動物の交差に関与するタンパク質の2つの異なる対立遺伝子を持つマウスに適用した。 高解像度の遺伝子地図は、交差の分布、組換えに関与するタンパク質、および二本鎖切断が交差になるかどうかを決定する特異的因子の間の関係を明らかにした。(KU,kj,kh,nk)

Science, this issue p. eaau8861

組織損傷に対する素早い応答 (Rapid response to tissue damage)

損傷を受けた植物は微生物からの攻撃を受けやすい。 物理的損傷への応答において、植物はシグナル・ペプチドを積極的に産生して自身の免疫系を活性化させる。 Hander たちは、モデル植物のシロイヌナズナにおける外傷応答を調べた。 彼らは、損傷30秒以内に免疫調節をするシグナル・ペプチドをその前駆体型から遊離するメタカスパーゼを同定した。 メタカスパーゼ自身は、組織損傷によるカルシウムの急激な遊離により活性化された。(MY,kj,nk)

【訳注】
  • シグナル・ペプチド:ここでは、植物自らが生成し、受容体に結合して防御応答を引き起こすペプチド(内生ペプチドエリシターと呼ばれる)の意味で用いられている。
  • メタカスパーゼ:植物が持つタンパク質分解酵素の1つ。 動物のプログラム細胞死(PCD)に関与するタンパク質分解酵素との構造的相同性から名付けられた。
Science, this issue p. eaar7486

男性生殖能力の維持 (Preserving male fertility)

化学療法または放射線治療の前に、成人男性の精子を将来の使用のために凍結保存することができる。 しかしながら、これは思春期前の男の子には不可能である。 Fayomi たちは、凍結保存された思春期前の精巣組織を、去勢された思春期のアカゲザルの背中の皮膚、あるいは陰嚢の皮膚の下に自家移植した(Neuhaus と Schlatt による展望記事参照)。 移植片は成長し、テストステロンを産生し、そして卵母細胞を受精させることができる精子を作ることができ、妊娠に一例成功した。 この結果は、例えば小児ガン治療後も、人の生殖能力を維持する期待を持たせる。(KU)

【訳注】
  • テストステロン:ステロイドホルモンで男性ホルモンの一種。
Science, this issue p. 1314; see also p. 1283

細菌が社会性に向けて群がる (Swarming in parallel toward sociality)

社会的行動、具体的には細胞間で社会性が求められる多細胞性の進化はよく分かっていない。 多細胞性の実験モデルは粘液細菌であり、この細菌は、土壌中に子実体を形成するために群がり協力する。 Wielgoss たちは、野生捕獲の粘液細菌の系統を研究した。 彼らは、子実体の間に、祖先を共有していることに基づくとは思えない、多様性としかしまた驚くべき遺伝子の類似性を見出した。 類似性というよりも、同じ部分の再発変異が独立して起きたらしい。 そこではこれらの変異は、社会的行動に収斂する類似の表現型を与えるよう選択されてきた。(KU,MY,kj,kh,nk)

【訳注】
  • 多細胞:複数の機能の異なる細胞により個体が形成される生物。
  • 子実体:菌類が胞子をつくるための複合的構造体。
Science, this issue p. 1342

次の超巨大噴火に備える (Preparing for the next supereruption)

最後の火山の超巨大噴火−1000立方キロメートル以上の噴出量を有するものと定義される−は、約27,000年前に発生した。 Papale と Marzocchi は展望記事で、もしそのような出来事が今日起こったなら、それは人類に存続の危険をもたらす可能性があると主張している。 確かに、1815年にインドネシアの Lesser Sunda 諸島のタンボラ山で起きたようなより小さな噴火でさえ、地球全体の経済活動を混乱させる可能性を有している。 個々の火山の噴出量の予測は不可能であるが、統計的な考察が示唆するには、タンボラ山規模あるいはそれ以上の噴火が起こる可能性は十分高く、そのような出来事のための回復計画の策定は根拠のあることである。(Wt)

Science, this issue p. 1275

RAS調整を標的にする (Targeting RAS regulation)

RASシグナル伝達経路は細胞の生存と増殖を制御し、ガン治療に可能性のある標的である。 しかしながら、治療としてRASを標的とすることは挑戦である。 Bivona は展望記事で、上流にあり、その抑制がガンにおけるRASシグナル伝達を抑えることができるかもしれない標的を同定する最近の研究について論じている。 ある種のガンに関連するRAS経路の変化は、RASをシグナル伝達アダプターによる調整に敏感にさせる。 前臨床試験は、この調整がRASシグナル伝達ひいては腫瘍増殖を防ぐための標的にしうることを示唆する。(Sh,MY,kh)

【訳注】
  • RAS:細胞の増殖や分化、ガン化に重要な役割を果たしている低分子量GTP(グアノシン三リン酸)結合タンパク質。 細胞外から刺激を受けて不活性状態からGTPに結合した活性化状態に移行し、様々な下流の(タンパク質に選択的に結合して生理活性を制御する小分子である)エフェクターと相互作用してシグナルを活性化する。
Science, this issue p. 1280