AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science October 21 2016, Vol.354

何が起きても当然 (Expect the unexpected)

収斂進化においては,類似する環境条件が類似する適応形質の集合を作り出す。類似する収斂が,そのような形態変化を生む分子的基盤中に存在するのだろうか? Natarajanたちは,ヘモグロビンと酸素の結合親和力の類似性の傾向を確認するために、異なる高度に適応した50種を越える鳥を調査した。(Bridghamによる展望記事参照)。ヘモグロビンと酸素の結合親和力の増大は高山種で起きていたが,ヘモグロビン変化の根底となる分子の変化はまちまちだった。従って,適応による表現型の変化が予測可能である場合でさえ,これらの変化への分子的な経路についてはそうではないかもしれない。(MY,KU,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 336; see also p. 289

上演目録中の新たな役者 (New players in the repertoire)

マクロファージや樹状細胞のような抗原提示細胞は、主要組織適合複合体(MHC)に結合した抗原を免疫T細胞に提示することで、免疫T細胞を活性化する。プロテアソームは通常、これらの抗原を処理するが、それは自己起源と微生物起源の両方に由来するペプチドを含む。Liepeたちは、驚くべきことに、複数のヒト細胞型上のクラス I MHCに結合したペプチドのかなりの部分が、プロテアソームによって二つの異なるタンパク質から繋ぎ合わされることを報告している。このような合併したペプチドは、ワクチン開発やガン免疫療法開発に有用となるかもしれない。(KU,kj,nk,kh)

【訳注】
  • プロテアソーム: 真核生物の細胞質および核に分布してタンパク質の分解を行う巨大な酵素複合体。
Science, this issue p. 354

マウスにおける痛みの社会的伝達 (Social transfer of pain in mice)

個々人の経験する痛みは、社会的・知覚的そして感情的な要素によって変調を受けることがある。集団内において、痛みを経験している者は、痛みを受けていない無い他者の「振る舞いや反応」に影響を及ぼすことが出来るのだろうか? Smithたちは、マウスでこの疑問を調べた。彼らは、皮膚への傷害やオピエート禁断症状からの痛覚過敏(痛みに対する高い感受性)を経験しているマウスと同じ部屋内だが別の檻にいる「傍観者」のマウスの反応を調べた。この「傍観者」のマウスもまた痛覚過敏症状を示し、これは嗅覚信号により介在されていた。(Uc,KU,nk,kh)

【訳注】
  • オピエート : ケシ由来の麻薬性アルカロイド群
Sci. Adv. 10.1126/sciadv.1600855 (2016).

信念体系の力学 (Belief system dynamics)

人は、自分の信念を自分に都合の良いように構築する傾向にある。しかし、他の信念が変化し、また変化することによってつぎつぎに他人の信念に影響を与えているのに、いくつかの信念は集団内において社会的圧力に直面する中で何でまた持続するのだろうか? Friedkinたちは、集団内において相互作用し変化する言動の複雑性を説明できるモデルを開発した(Buttsによる展望記事参照)。彼らのモデルは、イラクの大量破壊兵器の存在に関する米国の人々の変わっていく見解が、どのように、米国による侵略が正当化されるかどうかという点に対する彼らの見解を変化させたかを明らかにした。(Uc,KU,ok,kj,kh)

Science, this issue p. 321; see also p. 286

銀の衝撃的形質転換 (A shocking transformation for silver)

金属をうまく加工すると、硬度や延性を増すといった科学技術に有用な特性をもたらす。Thevamaranたちは、石英の硬い小片に向かって特別に合成した銀の立方体を発射した。そして、それは銀の微細構造を劇的に変化させる衝撃波を発生した。この方法は、曲げられるがそれでも強い金属を創り出すのに有用な、極端に大きな粒径勾配と粒径範囲を生み出した。(Sk,nk,kh)

Science, this issue p. 312

IL-22の吸い取りが腸疾患を促進する (Sopping up IL-22 drives intestinal disease)

クローン病や潰瘍性大腸炎のような炎症性腸疾患(IBD)の原因は,上皮細胞完全性の喪失と慢性炎症,それに腸内細菌相の変化を含む、複雑で多因子性であろう。Pelczarたちは IBD患者やマウス・モデルを研究することで,病気を促進する可能性のある機構を調べた。IBD患者は高レベルのインターロイキン-22結合タンパク質(IL-22BP)を発現する。IL-22BPはタンパク質 IL-22に結合し,IL-22が持つ組織修復促進作用を妨害した。更に,マウス・モデルにおける IBD発生には IL-22BPを必要とした。最後に,腫瘍壊死因子-αへの抗体を用いて治療の効いた IBD患者では,IL-22BPのレベルが低かったが,IL-22の発現は維持されていた。このことは、この治療法がそれによって作用するかもしれない一つの機構を示唆している。(MY,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 358

多くの微小力センサ (Many tiny force sensors)

幾つかの技術は生体分子にかかる力を測定できるが,測定対象分子を巨視的な世界へつなぐ必要性が,しばしばデータの取得速度を制限する。Nickelsたちは DNA折り紙構造を用いて,ナノ・スケールの力センサを取り付けた大きな亜鈴状体を創成した。着目する分子へ接続した長さの異なる一本鎖DNA分子は,短鎖であればあるほど強い力を発揮する,エントロピー・バネとして作用した。著者たちは彼らの装置を使い,DNAの TATA配列に結合するタンパク質により引き起こされる DNAの曲がりを研究した。(MY.kj,kh)

【訳注】
  • DNA折り紙:DNA鎖を折り曲げて作られたナノ・サイズの造形体
  • エントロピー・バネ:エントロピー変化(ここではDNA鎖の伸びの程度)により生じる弾性率変化を原理とするバネ
Science, this issue p. 305

転移がNETの網を拡げる (Metastasis casts a NET)

好中球細胞外トラップ(Neutrophil extracellular trap:NET)は、感染症に応答して好中球により作られ、そして感染症の存在下で癌の伝播を促進する DNA構造である。Parkたちは、感染症の存在しないときでさえ、転移性乳癌細胞が好中球を刺激して NETを形成し、それが更に転移の伝播を支えていることを見出した。著者たちは又、この DNA NETを分解する酵素である、デオキシ・リボヌクレアーゼI で被膜されたナノ粒子を用いて、悪循環を止める方法を実証した。この治療はマウスにおいて肺腫瘍転移を抑える点で有効であり、治療標的としての NETの可能性を実証している。(KU,kj,nk,kh)

【訳注】
  • 好中球:白血球の1つで顆粒球、体内に侵入する細菌等を貪食殺菌を行う
  • 好中球細胞外トラップ:活性化好中球が核内のクロマチンを細胞外に放出して生じたクロマチン網をいう。この網が細菌を捉える。
Sci. Transl. Med. 8, 361ra138 (2016).

ホルムアルデヒドは保護し、奉仕する (Formaldehyde protects and serves)

植物に含まれるリグニンは,燃料や他の有用化合物にとって望ましい再生可能原料である。しかしながら,このような堅固でエネルギー密度の高い高分子を分解するには,植物バイオマスを好ましくない条件で前処理することが必要となる。これらの前処理措置は,しばしばリグニンそれ自体に副反応が生じる原因となり,リグニン単量体の総収量を低下させる。Shuaiたちは前処理の間にホルムアルデヒドを用い,リグニン内で炭素-炭素の結合を作る反応基をブロックした。この単純な措置は前処理の間,リグニンを安定化し,劇的に収量を改善する結果となった。(MY,kj,nk,kh)

【訳注】
  • リグニン:木材に20~30%含まれるフェノール性化合物を構成要素とする三次元高分子。セルロース繊維同士を接着し木材の強度を向上させる
Science, this issue p. 329

オレフィンを求核試薬に変える方法 (How to turn olefins into nucleophiles)

グリニャール反応は有機化学の発展において著名な地位を持っている。1世紀以上前のノーベル賞によって広く認められたが、ハロゲン化有機マグネシウムとカルボニル化合物とのこのカップリング反応は、炭素-炭素結合への広く使用される方法として今でも残っている。Nguyenらは、この不安定なマグネシウム試薬を触媒的に活性化されるオレフィンと水素もしくはアルコールのような還元剤とで置き換えるという話題の代替方法について概説している。安全性と効率面の考慮に加えて、この種の反応はオレフィンの豊富な存在量と低コストからの恩恵を受ける。(NA,KU,nk)

Science, this issue p. 300

カルシウム・チャンネルの開閉 (Gating a calcium channel)

2型のリアノジン受容体(RyR2)は、心臓細胞中の筋小胞体網状組織からのカルシウム・イオンの放出を制御する。これは心筋収縮における開始段階である。RyR2の変異は心臓病と関係する。Pengらは単一粒子電子低温顕微鏡を用いて、カルシウム・チャンネルが閉じた状態では4.4オングストロウムの分解能で、そしてカルシウム・チャンネルが開いた状態では4.2オングストロウムの分解能でブタの心臓からの RyR2の構造を決定した。その構造は、RyR2受容体の領域間の運動がRyR2の細胞質領域での立体構造の変化を導き、その変化は中心領域により変換されてチャンネルを開閉する動きを引き起こす。(NA,KU,kj,kh)

Science, this issue p. 301

相互作用とネマティック性を関係づける (Relating interactions and nematicity)

強相関材料中の電子系は、基本的な結晶格子に比べて対称性が時々崩れている。電子相互作用により引き起こされ、そして電子ネマティック性と呼ばれるこの対称性の消失は、いくつかのエキゾチック材料にて観測されていた。しかし、電子相互作用とネマティック性との直接の関連性を立証することは困難であった。Feldmanらは走査型トンネル顕微法を用いて、外部磁場を印加されたビスマス表面の電子の波動関数を画像化した。同素材中で生じる交換相互作用が対称性の消失を引き起こし、それは電子の楕円軌道の方向に反映された。(NK,KU,ok,kh)

Science, this issue p. 316

切れているかのようなトランジスタ (Almost-off transistors)

装着型端末や環境センサは、交換せざるを得ない電池の必要を避けるよう、理想的には非常に小さな電力消費にすべきである。LeeとNathanは、In-Ga-Zn-O の薄膜からなる薄膜トランジスタ(TFT)を開発した。この材料の導電性をより小さくするため、膜は酸素空孔を避けるように製作された。このTFTは、非常に高い固有ゲインがありながら、超低電力(1 nW以下)および 1 V以下のスイッチング電圧で作動した。この素子は、半導体ゲート材料と金属ドレイン・コンタクト間に形成される、いわゆるショットキー障壁の高さを変化させることにより働く。(Sk,nk,kh)

Science, this issue p. 302

自撮りで可視化されたアセチレンの分裂 (Acetylene's scission visualized by selfie)

分子は自分自身の写真を撮ることができるのだろうか? これは、程度の差はあれ、レーザー誘起電子線回折(laser-induced electron diffraction:LIED)の基礎となる原理である。すなわち、レーザー場が分子から電子をはぎ取り、次にそれを送り返して, 後に残ったイオンの構造を報告する。Wolterたちはこの技術をアセチレンに適用して、二重イオン化後の C-H 結合の切断を追跡した (Ruanによる展望記事参照)。彼らは分子の全構造を画像化し、そしてまた、LIEDの場に垂直な時よりも平行に向いた時に、より高速な解離力学の効果を認めた。(Wt,kh)

Science, this issue p. 308; see also p. 283

同性愛行為に同意するマイコバクテリア (Conseting mycobacteria)

マイコバクテリアは、ハンセン病や結核の原因となる生物を含む、いくつかの緩慢に成長する病原体を包含する。マイコバクテリアは、配分型DNA接合伝達と呼ばれる遺伝子交換の独特の形のために、そのESX(またはVII型)分泌系の成分を使用する。Grayらは、速く成長するモデル種のスメグマ菌を調べた。彼らは、分泌装置ESX-4が受容者の DNA伝達のために必須であるが、ドナー細胞がその DNAを手渡すためではないことを見出した。ESX-1分泌器官は、ESX-4を誘導するために受容菌には必要だが、DNAのための物理的な通路を提供しているようには見えなかった。むしろESX-1は、細胞表面の「接合因子」受容体を分泌しているかも知れない。この興味あるマイコバクテリアの DNA交換を詳細に理解するには、さらにより多くの研究が必要とされるだろう。(Sh,kj,kh)

【訳注】
  • マイコバクテリア:放線菌目に属し結核菌を代表とする小型のグラム陽性好酸性桿菌の一群。
  • VII型分泌系:結核菌などのマイコバクテリアの病原性に必要とされ、宿主防御機構を無効化する病原性因子を排出する分泌系。2003年に発見された最初のVII型分泌系はESX-1と命名された。
  • メグマ菌:亀頭に寄生する結核菌と同じ抗酸菌の一つ。非病原性で増殖が極めて速い。
Science, this issue p. 347

植物プランクトンのブルームを促進するもの (Drivers of phytoplankton blooms)

何十年もの研究にもかかわらず、春季の温暖化に応答した植物プランクトン増殖の増加と植物プランクトンのブルームの力学とを結びつける証拠は、ほとんどない。この理解不足は、気候変動に応答した地球規模の生物地球化学的サイクルについて予測することを困難にしている。Hunter-Ceveraたちは、2003年から2016年の間でニュー・イングランドの浅瀬で1時間毎に収集された十年以上のデータを解析した(WordenとWilkenによる展望記事参照)。より早い春季の温暖化が毎年より早く細胞分裂を刺激するために、開花は現在、観察開始時期より20日も早く生じている。それでも、開花時期の変化にもかかわらず、食物連鎖における捕食生物はいまだその過剰な量を喜んで消費しており、毎年ブルームを急激に終わらせる。(Uc,KU,kj,nk,kh)

Science, this issue p. 326; see also p. 287

無顎からの顎 (Jaws from the jawless)

数年前,エンテログナトゥスと呼ばれる化石が三部構成の顎を持っていることが分かるまでは,全ての脊椎動物の祖先である初期硬骨魚の骨格は,より古い板皮類(いわゆる無顎魚)の骨格とは独立の起原を持つ信じられていた。今回,Zhuたちは板皮類の無顎の歯状板と,顎状態の発達(究極的には現代の脊椎動物の祖先が持つ3つの骨からなる顎に至る)との間をより確実に埋める2番目の発見となるシルル紀の板皮類について説明している(Longによる展望記事参照)。この発見は,それらの2つの型の顎が非相同だったという昔ながらの考えを一変させ,複雑な上顎骨の進化(ヒトを含む現代の多くの分類群全域における多様化の重要な要素)の解明に役立つ。(MY,kh)

【訳注】
  • 非相同:生物の持つある構造が別々の祖先に起原を持つこと
Science, this issue p. 334; see also p. 280

青色光応答を切る (Turning off the blue-light response)

植物では青色光はクリプトクロムにより感知され,それが一旦活性化されると,遺伝子発現,概日リズム,光形態形成を調整するシグナル伝達事象を始動する。今回Wangたちは,モデル植物シロイヌナズナにおいて,活性化されたクリプトクロム(活性時は二量体あるいは低重合体)の機能の1つが,タンパク質 BIC1(クリプトクロム1の青色光阻害剤)の産生を活性化することであると示している(FankhauserとUlmによる展望記事参照)。BIC1は次に、活性化したクリプトクロムの単量体化と,それ故,その非活性化を促進する。この帰還回路は感知系を初期状態に戻すことで,青色光応答のスイッチを入れるのと同様に切ることを可能にする。(MY,kh)

【訳注】
  • 光形態形成:光に基づく花芽形成など,植物が発生・分化の過程で、環境の光条件によって調節を受ける現象のこと
Science, this issue p. 343; see also p. 282

メタン生成(もしくは分解)のための酵素 (Enzymes for making (or breaking) methane)

微生物のメタン生成の最後の酵素工程、および微生物のメタン酸化の第一工程は、ニッケル含有テトラピロール補酵素 F430に依存する。 いかなる生物においても酵素的にメタンを消費する代謝工学を成功裏に行うには、このようにメタンを合成するための適切な機構を必要とする。Zhengらは比較ゲノム解析を使って、補酵素 F430の生合成を担ういくつかの候補遺伝子を識別した。大腸菌において、すべての成熟タンパク質のクローニングと発現を行うことによって、シロヒドロクロリンから完全な F430への転換が完了することを試験管内で確認した。(Sh,kj,nk,kh)

【訳注】
  • 補酵素F430:メタン生成細菌におけるメタン生成の最終段階を触媒するメチル補酵素M還元酵素の、メタン生成反応を促進する補因子。
  • 成熟タンパク質 : 有害であるなどの理由で前駆体の形で産生されるタンパク質から, その後変換して活性化されたもの
Science, this issue p. 339

トロイの木馬でエボラを治療する (Treating Ebola with a Trojan horse)

最近の西アフリカにおける広範なエボラ・ウイルスの大流行は,エボラや他のフィロ・ウイルスに対する効果的な治療法の必要性を浮き彫りにした。抗体によりエボラ・ウイルスを中和することは難題である。その理由は,ウイルスが細胞表面よりはむしろ細胞内部のエンドソーム内ウイルス侵入受容体、NPC1に結合するためである。さらに,エンドソーム内の酵素はエボラ・ウイルス表面の糖タンパク質(GP)を切断し,ウイルスの受容体結合部位を露出させる。今回Wecたちは,この問題を克服する,全ての既知エボラ・ウイルスを標的にする二重特異性抗体方法を報告している(LabrijnとParrenによる展望記事参照)。彼らは,(進化的に)保存され,表面露出した GPの抗原決定基に特異的な抗体を,NPC1あるいは GP上の NPC1結合部位のどちらかを認識する抗体に連結した。これらの抗体でマウスを治療措置すると,マウスはその措置がなければ致命的なエボラ・ウイルスの感染から生きながらえることができた。(MY,KU,kj,kh)

【訳注】
  • フィロ・ウイルス:エボラ・ウイルスが属するウイルス分類における一科。霊長類に重篤な出血熱をひきおこす
  • エンドソーム:外部から細胞内に物質を取り込む際に細胞内に形成される小胞のこと。飲み込む物質を形質膜が取り囲んで,陥入させて細胞内に取り込むことによって形成される
  • 抗原決定基:抗体が認識する抗原の一部分のこと
Science, this issue p. 350; see also p. 284

病原菌の運動を方向づける (Directing the movement of a pathogen)

日和見病原菌である緑膿菌がバイオ・フィルムを形成すると、抗菌治療に特に耐性となる。バイオ・フィルムの形成には、行き当たりばったりの遊走(絶えざる条件変化への調整を可能にする)と方向づけられた遊走(走化性とも呼ばれる)の双方を必要とする。Xuたちは、アダプター・タンパク質 MapZへの細菌のシグナル伝達分子である cyclic diguanylate monophosphateの結合が、緑膿菌による行き当たりばったりの遊走とバイオフィルム形成を抑制することを見出した(OrrとLeeによるフォーカス記事参照)。このように、MapZ関連経路は潜在的に、緑膿菌によって引き起こされる慢性的な、治療困難な感染症を防ぐための標的となるかもしれない。(KU,kh)

【訳注】
  • アダプター・タンパク質:シグナル伝達分子と結合してその活性化を促進するタンパク質
Sci. Signal. 9, ra102 and fs16 (2016).

持続的感染が B細胞を「妨害」する (Persistent infections “interfere” with B cells)

HIV、肝炎ウイルス、およびリンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)を含むいくつかの病原体は、しばしば不完全抗体応答と関係する持続的感染症を引き起こす。Falletら、Mosemanら、及びSammicheliらは、マウスでの LCMV感染の初期相における1型インターフェロン(IFN-1)の発現上昇が、ウイルス特異的 B細胞の早期欠失に寄与することを見出した。IFN-1の封鎖はこの B細胞欠失を防止する。この3グループの研究は、IFN-1が B細胞に直接作用しない点で一致するが、それぞれのグループは、調べた系に依存して、異なる免疫細胞が B細胞の IFN-1依存的欠失に介在することを見出だした。Laidlawらによる関連したフォーカス記事では、ヒトの持続的ウイルス感染時に IFN-1経路のターゲティングが B細胞応答をどのようにして回復できるかを強調している。(Sh,KU,kj,nk,kh)

Sci. Immunol. 10.1126/sciimmunol.aah6817, 10.1126/sciimmunol.aah3565, 10.1126/sciimmunol.aah6789, and 10.1126/sciimmunol.aaj1836 (2016).