AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約

Science April 8 2016, Vol.352

磁性原子を相互作用させる (Making magnetic atoms interact)

二個の磁石は、両者間の距離と両者相互の配向に依存する力を通して互いに相互作用する。これらの長距離性の双極子力は、多数の磁石からなる系の挙動にどのように影響するのであろうか? Baierたちは、大きな磁気モーメントを有するエルビウム原子のガスを用いて、この疑問に答えを出した。光格子中に「泊められた」ガスは、超流動状態から絶縁状態に移行した。それにより、種々の特性の配向依存を通した双極子相互作用の存在が明らかになった。(Sk,kh)

Science, this issue p. 201

一つ一つの脳は異なる (Every brain is different)

我々はどのように認知し、考え、そして行動するかに関して、我々みな、似ていない。誘起される脳活性における個体差をもたらすものは何だろう? Tavorたちは、ヒト・コネクトーム・プロジェクトからの機能的磁気共鳴画像法 (fMRI)のデータにコンピュータ・モデルを適用した。対象者が何らかの明白な課題を行っていない安静状態でも、脳の活動はfMRIの活性化において認知経路のある範囲において個体差があることを予測した。このことは、多くの認知課題における個体差が、安定した形質指標であることを示している。このように、安静状態はその機能的結合性において、課題に基づく fMRIでの次の発現内容を既に含んでいるのである。(KU,ok,kj,nk,kh)

【訳注】
  • ヒト・コネクトーム・プロジェクト:ヒト・コネクトームとは人間の神経回路網地図を意味し、HCPとは、2009年から5年計画の米国のプロジェクト(アメリカ国立衛生研究所 [NIH]が後援)である。
Science, this issue p. 216

メラネシア人に保持されたデニソワ人のDNA (Denisovan DNA retained in Melanesians)

現生人類は,ネアンデルタール人のような古い系統と交配した事に由来するDNAの残滓を持っている.しかしながら,オセアニアの人たちは,第2の古い系統であるデニソワ人由来の遺伝子をも保持している.Vernotたちは,メラネシア諸島の35人の人たちを含む,世界中の現生人類から得られたサンプルで古いゲノム配列を調査した.調査されたすべての非アフリカ人のゲノムにはネアンデルタール人のDNAを含んでいたが,かなりのデニソワ人の成分はメラネシア人だけに見つかった.この遺伝子の歴史を再構築は,ネアンデルタール人は現代人と何回も交雑する機会を持ったが、デニソワ人は今日のメラネシア人の祖先の中でたった1度だけしか交雑する機会がなかったことことを示唆する.(MY,kj,nk,kh)

【訳注】
  • デニソワ人:約4万1千年前の化石がロシア・アルタイ地方のデニソワ洞窟で発見された現生人類に近い絶滅したヒト属
Science, this issue p. 235

癌遺伝子による抗腫瘍免疫の制御 (Oncogene control of antitumor immunity)

最近の臨床での癌免疫療法の成功は,腫瘍は通常どのようにして免疫応答を逃れるのかについての関心を増大させた.この過程に癌遺伝子が関係しているのかどうか,どのように関係しているのかはよく分かっていない.Caseyたちはマウスの研究で,多くのヒト癌で異常に活性化される MYC癌遺伝子が,抗腫瘍応答を抑制するタンパク質をコードしている遺伝子の発現を上昇させていることを見出した.これらには,腫瘍細胞上でしばしば過剰発現し,免疫チェックポイントとして働く2つのタンパク質を含む.そのうちの一つ(PDL1)は,免疫系に"私を探し出さないで"の信号を送り,他方(CD47)は,"私を食べないで"の信号を送る.このため,MYCを抑制することを目的とした治療法は,腫瘍に対抗する免疫応答を高めることに役立つかもしれない.(MY,kh)

【訳注】
  • MYC癌遺伝子:正常時には転写因子を発現するMYC遺伝子が変異し,細胞増殖を過剰化させる癌遺伝子となったもの
  • 免疫チェックポイント:癌が免疫細胞にブレーキをかけて免疫細胞の攻撃を阻止させる幾つかの分子のこと.もともと,免疫応答が過剰に働くことを抑制するために免疫細胞に備わっている機構
Science, this issue p. 227

星間の氷中でリボースを作る (Making ribose in interstellar ices)

宇宙生物学者たちは、アミノ酸や糖といった生物出現以前の分子の起源を長い間追い求めてきた。Meinertたちは、数多くの生物出現以前の分子が、単純な水、メタノール、アンモニアの氷の混合物を含む星間物質に類似した試料中で形成されることを実証した。彼らは、太陽系形成の際に予想される条件に類似の条件下で試料に紫外光を照射した。リボ核酸(RNA)の主要成分であるリボースを含め、広範囲の多様な糖が生じた。(KU,ok,nk,kh)

Science, this issue p. 208

投票するだけではなく、転向が重要 (Not just turnout, but turnaround matters)

最近のいくつかの米国大統領選挙において、選挙スローガンは、既に一人の候補者に決めている投票者が、投票に出かけることを確実にすることに焦点をおいている。そこには、人々の考え方を変えようとして不成功に終わった試みの長い歴史がある。にもかかわらず、Broockmanと Kallaは、現場実験を行って, マイアミの投票者がトランスジェンダーの人々に対する考え方を変え、また3ヶ月間その変更した立場を維持したことを示した(Paluckによる展望記事参照)。(Uc,KU,nk,kh)

Science, this issue p. 220; see also p. 147

生体分子の折り畳み方 (How biomolecules fold)

折り畳むために、生体分子は構造上のエネルギー地形を調べ、低いエネルギー状態を見出す必要がある。その地形にはピークがあり、そこでは生体分子は短時間のあいだ不安定な構造をとらなければならない。Neupaneたちは光学的ピンセットを用いて、単一の核酸とタンパク質に対してこれらの遷移経路を直接観察した (Wolynesによる展望記事参照)。彼らは、遷移経路を通るのに要する時間分布を測定し、そしてその分布の形状が、そのエネルギー地形上の一次元の拡散を想定した理論とよく一致することを見出した。(KU,kh)

【訳注】
  • 光ピンセット: 集光したレーザー光により微小物体を捕捉し、さらには動かすことのできる装置および技術
Science, this issue p. 239; see also p. 150

コレステロールを溶かして追い出す (Dissolving away cholesterol)

粥状動脈硬化が主因となる循環器疾患は,世界で最も一般的な死因の1つである.既存療法は全ての患者を効果的に治しているわけではない.FDA認可のありふれた物質であるシクロデキストリンは,既に薬剤送達を改善する可溶化剤として用いられている.Zimmerたちはマウスモデルで,シクロデキストリンがコレステロールを可溶化して血管プラークから除去し,コレステロールの結晶を溶解し,粥状動脈硬化をうまく治療することを見出した.シクロデキストリンは既に人に安全であることが知られているため,この薬剤は現在,粥状動脈硬化の患者で試験するべき候補である.(MY,kh)

【訳注】
  • シクロデキストリン:ブドウ糖が6〜8個連なって環構造を形成した物質
  • FDA:米国食品医薬品局のこと.食料品,医薬品,化粧品の検査や取り締まり,認可などを行う
Sci. Transl. Med. 8, 333ra50 (2016).

アメリカ大陸入植の時間尺度 (Time scale of the peopling of the Americas)

アメリカ大陸のヒトの入植は,人類の広がりの中で遅い段階の出来事であって,不確かさに包まれていた.Llamasたちは,8600〜500年前の,コロンブス以前のアメリカ先住民の骨格92体から得られたミトコンドリアのゲノムを分析し,アメリカ大陸への人類移動を明らかにした.アジアからのこれらの移住者は,海水面を下げ横断を可能とした最後の大氷河期に,短期間ベーリング陸橋内に隔離された.これらの人びとは,およそ16,000年前からアメリカ大陸の西海岸沿いに急速に広まった.興味深いことに,南アメリカの西海岸でのこれらの人びとの大量絶滅は,ヨーロッパ人の侵入の時期と符合しているように見える.(MY,nk,kh)

Sci. Adv. 2, 10.1126.sciadv.01385 (2016)

ナノ結晶デバイスを組み立てる (Assembling nanocrystal devices)

広範囲な材料を、導体から半導体及び絶縁体に至る性質を持つ、高品質のコロイド・ナノ結晶として成長させることが可能である。これらの材料は、電子デバイスの中に含まれてきたとは言え、通常は、デバイス内部の一個の部品を形成するだけである。Choiたちは、さまざまな溶液処理可能なコロイド状ナノ結晶を選んで、デバイスの部品すべてを形成した。適切な材料、界面、プロセス段階を開発することで、彼らは、全コロイド電界効果トランジスターを作成した。(Wt,KU,ok,kh)

Science, this issue p. 205

メラノーマの単一細胞発現の特性 (Single-cell expression profiles of melanoma)

腫瘍は多数の細胞型を宿しており、薬剤処置への耐性発生に重要な役割を果たしていると考えられている。Tiroshたちは単一細胞配列決定法を用いて、メラノーマ腫瘍のこれら様々な細胞型の遺伝的特性の分布を調べた。多くの細胞は、二つの異なる状態の遺伝的発現(そのうちの一つは耐性の発生に関係する)を反映する混成の遺伝的プログラムを宿していた。薬物処置の後で、耐性と関係する発現状態がはるかに高いレベルで見出された。さらに、メラノーマ細胞の環境が遺伝子発現プログラムに影響を与えた。(KU,kj,kh)

Science, this issue p. 189

粒子・空孔の対称性ですべてよし (All is well with particle-hole symmetry)

外部磁場中で、二次元系における電子のエネルギーは、ランダウ準位と呼ばれる離散的な値を取る。十分に高い磁場においては、固体中のすべての電子は最低のランダウ準位に落ち込むことが可能である。もし、その準位の正確に半分が電子で満たされると、標準理論では特殊なフェルミ液体相が形成されることが予測され、そこでは充填状態と空状態(粒子と空孔)が区別される。対照的に、最近の仮説は、粒子と空孔の対称性を順守する質量のないディラック粒子からなる液体の存在を予言する。Geraedtsたちは高度な数値的方法を用いて、この仮説に対する強力な証拠を提示した。(Sk,nk,kh)

Science, this issue p. 197

細菌はいかにして走路を切り替えるか (How bacteria switch between tracks)

細菌のリボスイッチは、代謝産物に応答する転写終結を介してメッセンジャーRNA全体の形成を、それゆえタンパク質の形成を防止している。 しかしながら, ゲノム内のリボスイッチの同定には、比較分析が従来から必要とされていたが、この方法は種や環境に特異的な応答を見逃す可能性がある。Darたちは、term-seqと呼ばれる方法を開発し、ある細菌のゲノム内のすべてのリボスイッチを記述し、またそれに対応する代謝産物も明らかにした(SommerとSuessによる展望記事参照)。この方法は、抗生物質耐性における病原性細菌のリボスイッチの役割を明らかにした。つまり、転写は、病原菌が抗生物質の攻撃を避ける一つの方法であるかもしれないのである。(KF,KU,kj,nk,kh)

【訳注】
  • リボスイッチ:mRNA分子の一部分で、低分子化合物がそこに特異的に結合することでRNAの機能を調節したり、遺伝子発現が影響を受けるもの。
Science, this issue p. 10.1126/science.aad9822; see also p. 144

風変りな磁性転移を描写する (Describing an exotic magnetic transition)

相転移は温度揺らぎが種になって起きたり、或いはもっと変わった例としては絶対零度で量子揺らぎが種になることがある。これら量子相転移の幾つかを記述するために、研究者等は脱閉じ込め量子臨界と呼ばれる複雑な理論を構築した。しかし、理論に引き続いて行われた数値計算ではいくつかの理論予測と一致しない結果が得られており、同理論の妥当性が議論になっている。Shaoらは量子モンテカルロ・シミュレーションを用いて、ある特定の2次元量子磁性モデルにおいて理論と数値計算が一致することを示している。(NK,KU,nk,kh)

Science, this issue p. 213

より敏感な気候システム (A more sensitive climate system)

世界的な平均気温が結果的にどれほど上昇するかは、平衡気候感度(ECS)に依存しており、これは、大気 CO2濃度を大気温度に関係づける。何十年もの間、ECSは2.0℃から4.6℃の間にあると推定されてきたが、これには、地球のエネルギー収支に対する雲の効果を確立することの困難による不確定さがある。Tanたちは人工衛星からの観測を使って、混合相雲の放射への影響の大きさに 限界を決めた。彼らは、ECSが、ほとんどの世界気候モデルによって示唆されたものより高い、5.0℃から 5.3℃の間にあるはずだと結論付けている。(KF,KU,nk,kh)

Science, this issue p. 224

マクロファージが腫瘍拡散を阻止する (Macrophages block tumors' spread)

腫瘍は、定常的にその周囲の組織および免疫系と情報交換している。腫瘍がこれを行うときに使う方法の一つは、細胞外小胞 (tEV)の分泌であり、これは、身体の離れた場所に腫瘍のごく一部を運ぶことができる。Pucciたちは、腫瘍のあるマウスとヒトにおける tEVを追跡して、それが癌の進行にどう影響するかを研究した。彼らは、tEVがリンパを通じて近くのリンパ節に播種し、そこで、特定のマクロファージ集団がそこから先への移動を大きく妨げることを発見した。この障壁は、しかしながら、癌の進行やまたある種の治療によっても崩壊する。tEVは次に、リンパ節に浸透し、さらなる腫瘍の成長を促進する B細胞と情報交換することができる。(KF,KU,nk,kh)

Science, this issue p. 242

細胞の NAD+濃度の制御 (Taking control of cellular NAD+ concentrations)

ニコチンアミド・アデニンジヌクレオチド(NAD+)の細胞濃度は、適切な代謝にとって重要であり、しばしば、加齢や病気によって変化する。この過程をよりよく理解するために、Titovたちは、特定の細胞内区画における NAD+の濃度を変化させた。彼らはこれを、培養されているヒト細胞の特定の区画を標的とした細菌性酵素の発現を介して行った。彼らの実験は、ミトコンドリア病変形成において、プロトン・ポンプよりも NADHへの電子の酸化還元的伝達における電子伝達系の重要な役割を強調している。(KF,nk,kh)

Science, this issue p. 231

将来を理解するため過去に目を向ける (Looking to the past to understand the future)

約6000万年前、地球大気の二酸化炭素濃度が急激に上昇し、ある意味で地球の将来の気候を映し出しているかもしれない厳しい気候変動をもたらした。展望記事の中で、Alleyはこれらの気候変動の影響が厳しいものであったことを説明している。影響は、陸生哺乳動物の矮化、生態系の破壊、海洋の酸性化、およびサンゴ礁の消失を含んでいた。暁新世・始新世の温暖化極大(PETM)の際の二酸化炭素増加は、今日の化石燃料の燃焼により引き起こされた増加よりも長い時間尺度にわたって生じており、気候変動に順応するためのより多くの時間を生態系に与えた。したがって、現在および将来の地球温暖化がもたらす影響は、この遠い鏡の中で見えるものよりもさらにいっそう厳しいものになるかもしれない。(Sk)

Science, this issue p. 151

信号が十分に強ければ開く(Opening when the signal is strong enough)

細胞内カルシウムは、多くの決定的な細胞プロセス及び生理プロセスを仲介している。Ca2+を小胞体から遊離するチャネルとして働くことで、イノシトール三リン酸(IP3)受容体 (IP3R)は、細胞内カルシウムを増加させる。IP3Rは四つのサブユニットからなり、各サブユニットは、IP3への結合部位をもっている。Alzayadyたちは、チャネルの活性には、この4つの結合部位の各々に IP3結合を必要とすることを発見した。この要求は、細胞がカルシウムを、それを排出するようにという信号が十分強くない限り放出しないことを保証しており、またその受容体の活性化によって生まれるカルシウム信号を形成している(TaylorとKnoiecznyによる展望記事参照)。(KF,nk,kh)

Sci. Signal. 9, ra35 and pe1 (2016).