AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 18 2016, Vol.351


十分が十分でない場合(When enough isn't enough)

過食と病的肥満は,は,急速に世界的問題になってきている.本来マウスは食べ過ぎはせず,カロリー摂取と必要カロリーをバランスさせている.Lagerlofたちは,O-GlcNAc転移酵素(OGT)と呼ばれる酵素をマウスの視床下部にある神経細胞のサブセットから除去した(Schwartzによる展望記事参照).OGTがなくなると,マウスは過食を始め,急激に体重が増えた.食事の回数よりは,食事ごとの食事量が増えた.つまり,OGTは満腹度を制御しているらしく.カロリーの摂取をカロリーの消費に合わせることに一役買っている.(MY,KF,nk,OK)
Science, this issue p. 1293; see also p. 1268

ダイアモンド圧力セルをのぞき込む(Peeking into a diamond pressure cell)

超電導体の決め手となる特徴は、それが外部磁場をはね飛ばしてしまうことである。試料がダイアモンド・アンビル・セル中で超高圧下にあるとき、この効果を実証するのはやりにくいことがある。royan たちは、加圧下で、H2S の試料中にスズ箔のセンサーを置いた。その後、彼らはそれにシンクロトロン放射光を浴びせ、スズ原子核の光子の散乱が時間とともにどのように変化するかを観察した。H2S が通常の状態にあるとき、外部磁場は試料を通過してセンサーに到達し、スズの核準位に分裂を生じた。しかしながら超電導状態においては、センサーに到達できないうちに、H2S が磁場を押し出してしまうために、分裂は観測されなかった。(Sk,nk,OK,kh)
【訳注】ダイアモンド・アンビル・セル:ダイヤモンド単結晶を、頭部を著しく小さくした円錐形の台座状に加工して対向させた、一軸加圧装置
Science, this issue p. 1303

粥状動脈硬化にとっての白血球中のリーリン(Reelin in leukocytes for atherosclerosis)

血液循環においては,分泌タンパク質のリーリンは負傷後の出血を止める作用を持つ.リーリンに対する受容体は,血管を裏打ちしている内皮細胞上に見出される.Dingたちは,リーリンが粥状動脈硬化(動脈内に蓄積された粥状沈着物)に寄与しているのかを問うた.循環血液中にリーリンが欠乏したマウスは,食餌誘発性の粥状動脈硬化から動脈硬化から免れた.リーリンの欠乏は,粥状動脈硬化を促進する炎症反応の重要な第一段階である,内皮細胞への白血球の固着を防いだ.(MY,nk,kh) 【訳注】 ・分泌タンパク質:細胞から分泌されて細胞外へ放出されるタンパク質
Sci. Signal. 9, ra29 (2015)

母親の微生物が子供の免疫を形作る(Mom's bugs shape offspring immunity)

子宮内では,胎児は比較的,無菌状態にあるが,出産時にすばやく汚染される.これら早期に定着した微生物たちは,私たちの免疫系の形成を助ける.Gomez de Agueroたちは,母親の細菌叢もまた,妊娠期の胎児の免疫系に影響するのかについて考えた.これを明らかにするため,彼らは,そうしなければ無菌状態にある妊娠マウスに,一時的に細菌叢を移植した.無菌状態の母親から生まれた子供と比べ,細菌叢を移植された母親から生まれた子どもは,特定の免疫細胞の数が生まれつき多く,また,腸内での遺伝子発現のパターンが異なっていた.(MY,KF,nk,kh)
Science, this issue p. 1296

揺動している水分子デュエットによる歯車状の回転(Gear-like rotation by a wobbly water duo)

水液体中の分子は絶えず動き回っているが,平均するとこれらの分子は水素結合により互いに纏わり ついていて,まるで次々と相手を変えるダンサーのようである.Richardsonたちは,この分子ダンスの 中 に新たなツイストステップを発見した(Claryによる展望記事参照).彼らは,各々が6つの分子からなる水の分子集団(クラスター)---実際上は最小の立体状水滴---を研究し,実質的に3次元で最小となる水滴---,この集団中で異なる2つの分子からなる連動した動きがあることを認めた.この過程は,回転歯車と似たパターンで,2つの異なる水素結合を同時に壊している.(MY,KF,nk,kh)
Science, this issue p. 1310; see also p. 1267

重大なメタン漏れの規模(The magnitude of a major methane leak)

カリフォルニア州ロサンゼルス郊外のアライソ渓谷地下のガス貯蔵庫施設は巨大な天然ガス備蓄を有している。このサイトのひとつの井戸で噴出が2015年10月下旬に起こり、2016年2月にふさがれるまでガスの漏出が続いた。Conleyたちは、この地域で13回以上の航空飛行により、気柱をサンプリングし、この漏出を通じて生ずるメタン(強力な温暖化ガス)とエタンの一日の漏出量を計測した。このメタン漏出量はロサンゼルス地域全体合わせた漏出量の約二倍であった。このように、ひとつの脆弱性が、州や連邦の気候政策に重大な示唆を与える可能性がある。(Uc,KF,nk,kh)
Science, this issue p. 1317

抗体がエボラウイルスの侵入を阻止する(Antibodies block Ebola virus entry)

西アフリカにおける近年のエボラウイルスの大発生は,効果的なワクチンと,感染者を治療する方法のいずれもが必要であることを示している.Cortiたちは,キクウィトでの1995年の大発生からの生存者から,2つのモノクロナール抗体を単離し,その治療効果をエボラウイルスに感染したオナガザルで実証した.実際,片方の抗体は,感染後5日以内に投与された場合,エボラウイルスからオナガザルを守った.Misasiたちは,ウイルスが細胞に入り込むのを仲介するエボラウイルスの糖タンパク質(GP)に結合した2つの抗体部分の結晶構造を解明した.2つの抗体の標的はGPの異なる領域であったが,2つの場合とも,ウイルスの侵入に必要とされる段階を阻んだ.(MY) 【訳注】 ・モノクロナール抗体:一種類の抗原決定基(抗体との結合部)とだけ反応する抗体
Science, this issue pp. 1339 & 1343

炎症をはばむプロスタグランジン(A prostaglandin barrier to inflammation)

血液由来の細菌感染症と重篤な外傷は、免疫系を過剰なまでの活動状態にさせ、炎症性メディエーターをときに致死量に至るまで、汲み出させる原因となることがある。Duffinたちはこのたび、全身性炎症を抑制するにあたってのプロスタグランジンの役割について、報告している。全身性炎症は、プロスタグランジンE2(PGE2)の産生の減少と相関している。マウスでPGE2のシグナル伝達をブロックすると、腸細菌の移行にともなう重篤な炎症を引き起こした。PGE2はインターロイキン-22−腸内保全の促進を助ける分泌タンパク質—を産生する生得的リンパ球細胞に作用する。PGE2は、腸の完全性を促進するのを助ける分泌タンパク質であるインターロイキン-22を産生する生得的リンパ球細胞に作用する。(KF,nk,kh)
Science, this issue p. 1333

氷をはじく耐久被膜(Durable coatings that repel ice)

物体表面への氷の付着を防止することは、飛行機、船舶、通信塔、風車翼の正常な運転や安全を確保する上で極めて重要である。Golovin たちは、の剥離し易さを制御するメカニズムを研究した。彼らは氷との付着力が非常に低い耐久性被膜を開発したが、そこからは氷がその自重だけではがれ落ちる。これらの高性能の疎氷性被膜は、どんな支持基体上にも吹きかけたり、浸したり、噴霧したり、塗布したりすることが可能であった。被膜は冬の屋外や過度の摩耗をかけた後や過酷な化学物質にさらした後でも十分に機能した。(Sk,nk,OK,kh)
Sci. Adv. 2, 10.1126.sciadv.01496 (2016)

一時的に捕縛される(一時的に窮地に陥る)(Temporarily caught in a bind)

原子や分子断片が共有結合している場合、それらの分離は結合分解速度や分子を捕捉している母材や殻材料の分解速度に支配される。分子が非共有結合的相互作用により捕捉されている場合、結合部位に対する親和性は、変化するpH、温度、塩濃度といったパラメーターにより制御され得る。この制御法を利用すると、放出特性を緻密に制御することもできる。Pakulskaらは、自然界でみられるこれら相互作用に対するより深い研究の結果と分子薬剤の送達や治療法への応用について概説している。(NK,KF,nk,kh)
Science, this issue p. 10.1126/science.aac4750

New Horizons は、冥王星系を明らかにする(New Horizons unveils the Pluto system)

2015年7月、New Horizons は、冥王星系を高速で通り抜けた。これは、我々の太陽系の外縁部の謎に満ちた天体系を、人類が間近に見る初めての機会となった。一連の論文では、New Horizons チームがこれまで出くわした取り込みデータを解析した結果を与えている。Moore たちは、冥王星とそれの大きな月であるカロンの複雑な表面地形と地質について、地殻運動や氷河の流れ、存在しているらしい氷の火山を含めて紹介している。Grundy たちは、H2Oや CH4, CO, N2, NH3 そして、ソリンかもしれない赤みがかった物質を含む、それらの表面の色と化学組成について分析した。Gladstone たちは、冥王星の大気を調べた。それらは、予想されていたものよりも冷たく、そして、より小さく高密度であり、広範囲にわたる多数の薄霧の層を有している。Weaver たちは、小さな月であるスティクス、ニックス、ケルベロス、ヒドラを調査した。それらは、不規則な形で高速に回転している。そして、明るい表面を有している。Bagenalたち は、太陽風との相互作用やダストの欠如など、冥王星がその周辺宇宙環境をどう変えているかを報告している。これらすべての発見は、外部太陽系天体に対して理解できたことを大きく増やした。彼らは、New Horizons データの解析結果を補強していくであろうが、それらはこれから数年継続されるであろう。(Wt,KF,nk,OK) 【訳注】 ・ソリン は、メタンやエタンなどの単純な有機化合物に恒星からの紫外線が作用して生成する共重合分子のこと。
Science, this issue pp. 1284, 10.1126/science.aad9189, 10.1126/science.aad8866, 10.1126/science.aae0030, & 10.1126/science.aad9045

半導体のナノケージを作り出す(Creating semiconductor nanocages)

ナノ材料の表面積は開口ケージ構造を作り出すことにより、増大させることが可能である。今や、ナノ結晶の形状は、ナノ結晶の結晶構造を操作する手段として用いることができるように思われる。Wu たちは、陰イオン交換反応を通してどのように酸化銅の1個のナノ結晶が転換され、結晶格子の対称性を変化させる過程で双晶構造の硫化銅の開いたケージを増加させるのかを示した。その後、これらの構造は、陽イオン交換を通して硫化カドミウムのナノケージに転換される。(Sk,kh)
Science, this issue p. 1306

水素陰イオンを輸送する(Transporting the hydrogen anion)

水素陽イオン(H+)の輸送は、生命システムや燃料電池のような工業的システムのどちらにおいてもありふれたものである。それとは対照的に、水素陰イオン(H-)の輸送はずっとまれであり、通常は並行する電子の輸送が結合されるか、または陰イオン輸送がそれにより損なわれるかしている。Kobayashi たちは、レアメタルであるリチウムの酸水素化物中の H- の輸送を組成を順に変えながら調べた(Yamaguchi による展望記事参照)。彼らは、水素陰イオン輸送への補償陽イオンとして Li+ を用いることにより、電気伝導を阻止した。電気化学セル中で、酸水素化材料は H- に対する固体電解質として作用し、それはエネルギー貯蔵装置開発の新しい技術の展開を示唆している。(Sk,nk)
Science, this issue p. 1314; see also p. 1262

カルボキシル・ラジカル移動(A radical carboxyl migration)

Streptomyces actuosusによって産生される抗菌ノシペプチドは、多剤耐性病原体に対する高い活性を備えている。その生合成に関与する酵素は、トリプトファンを分解し、メチルインドール酸前駆物質を形成するNosLを含んでいる。NosLは注目され、拡大しつつある SAM活性酵素群に属しているが、それが機能する仕組みは、同定するのが難しい。分光学と理論によるアプローチを用いて、Sicoliたちは、予想外のラジカル中間型が反応の過程で形成することを示している(Bridwell-RabbとDrennanによる展望記事参照)。同様に知られた酵素とは違って、NosLはCα-C結合を切断し、それが、トリプトファンのカルボキシル基のその側鎖インドールへの移動に帰結するのである(KF,nk,OK,kh)。
Science, this issue p. 1320; see also p. 1266

神経変性と免疫細胞を結び付ける(Linking neurodegeneration and immune cells)

C9orf72遺伝子中の反復性DNA配列の拡張は、筋委縮性側索硬化症と前頭側頭型認知症の、主要な遺伝的原因である。そうした拡張はC9orf72の発現を減少させるのだが、ほとんどの研究は、ニューロン中にそれが作り出す有毒なRNAとタンパク質産物に焦点を当ててきた。O'Rourkeたちは、C9orf72が予期せぬことに、生得的免疫細胞において鍵となる役割を果たしていることを発見した。マウスにおけるC9orf72の損失はマクロファージとミクログリアの機能障害と年齢関連の神経炎症をもたらした。このことは、ニューロン中の有毒な副生物が、C9orf72の発現減少に由来するミクログリアの機能障害と結び付き、一緒になって神経変性を促進するという、「二重効果」をもつ病気の仕組みの可能性を提起するものである。(KF,nk)
Science, this issue p. 1324

房飾細胞があるから寄生虫も宿せる(Tuft cells help contain parasites)

我われの腸には、蠕虫やその他の寄生虫も含め、1兆個もの微生物が棲みついている。腸を裏打ちしている上皮細胞は、寄生虫を標的にした免疫応答を総指揮している。Howittたちはこのたび、寄生虫への免疫において鍵となる細胞性プレイヤーを同定した。それが房飾細胞(tuft cell)である(Harrisによる展望記事参照)。房飾細胞は腸の上皮細胞の小さな断片だが、寄生虫がコロニー形成したり、腸に感染すると拡大する。寄生虫は房飾細胞が大量のインターロイキン-25を分泌する原因となるが、このサイトカインは生虫の消失にとって鍵となり、また房飾細胞の数を増やすよう間接的にフィードバックする。房飾細胞は、化学受容性シグナル伝達機構を発現する。それは、寄生虫によって引き金を引かれる房飾細胞拡大の妨害を邪魔し、マウスが寄生虫感染を抑圧する能力を弱体化する機能である。(KF,nk,OK,kh)
Science, this issue p. 1329; see also p. 1264

治療不能な感染症の亡霊(The spectre of untreatable infections)

抗菌剤への耐性は、世界中で上昇傾向にあり、場合によっては、ほとんど治療のすべがなくなりつつある。最後の頼みであるコリスチンに対する抗菌耐性の最近の証拠は、それゆえ、とりわけ問題である。展望記事でSprengerとFukudaは、この抗菌剤に対する耐性の最近の証拠を記述し、その耐性が異なった細菌間でいかに伝播されうるかを説明している。コリスチンは強い副作用をもっているが、他の抗菌処置に耐性のあるグラム陰性病原体に対してますます使われるようになっている。コリスチン耐性菌は、それゆえ治療不能の感染症をもたらす可能性がある。(KF,nk,kh)
Science, this issue p. 1263

デング熱モデルが難題に取り組む力を持つ(Dengue model rises to the challenge)

(ワクチンの)ヒトでの有効性を検証することは、病院で新たなワクチン候補を導入するにあたって、いまだに主な難関のままである。防御作用との相関が受容されていない場合、風土病領域の大規模集団において、有効性が検証されるまで、何回もの安全性検証が行われないといけない。Kirkpatrickたちは、デング・ウイルスに対する制御された人間感染実験を行い、もっとも臨床的に進んだデング・ワクチン候補の発症予防効果を評価した。4つのすべてのデング・ウイルス血清型に対する抗体を誘発するデング・ワクチン TV003が21 人に投与されて、弱毒化されたウイルスの接種に対して発症を予防し、ワクチンを投与されなかった 20 人の対照群と比較された。このモデルはデング・ワクチン候補の早期のチェックに使える可能性があり、大規模な検証を実行したが不成功に終わるというリスクを最小に留めるものである。(KF,nk,OK,kh)
Sci. Transl. Med. 8, 330ra36 (2016)

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