AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 19 2016, Vol.351


CRISPR-Cas9の分子ハサミ(CRISPR Cas9 molecular scissors)

CRISPR関連(Cas)タンパク質 Cas9は DNAを切断する分子ハサミである.切断反応の第一段階は,RNAに案内されてDNA二重らせんをほどくことである.Jiangたちは,標的RNAによりほどかれた DNAに結合した Cas9の構造を決定した(ChenとBaileyによる展望記事参照).Cas9は DNAを屈曲させ,案内 RNAが二重らせんに入り込むのを可能にする.分離した2本の DNA鎖は,そのうちの1本が RNAに結合し,続いて Cas9タンパク質の2つの活性部位に配置されて切断される.(MY,KU,kh)

シアン化物を迂回するニトリルへの経路(A route to nitrile that bypasses cyanide)

シアン化水素の毒性はよく知られている.それでもやはり,多くの有用なニトリル化合物は CN基を含んでいて,C=C二重結合との HCNの反応はしばしば用いられている.Fangたちは今回,ある分子の CN基を他の分子へ運ぶ,Ni触媒や Al触媒に依存する代替方法を報告している(Schmalzによる展望記事参照).この移動手法は,CNを含有する単純な犠牲電子受容オレフィンを用いて,HCNの必要性を回避し,また,複雑な基質への適用が可能である.これは,目的のオレフィンをニトリル前駆体から誘導するために,逆向きの実施も可能である.(MY,kh,nk)
【訳注】
・犠牲性:そのものが酸化あるいは還元されることによって他の物質を還元あるいは酸化する性質.通常は「犠牲剤」等の用語で用いられる
・電子受容体:他の分子やイオンとの間で電子移動を伴う際に,他から電子を受け取る分子やイオンのこと

ダイヤモンドで単一分子のタンパク質を検出する(Sensing single proteins with diamonds)

核磁気共鳴は医療画像や材料の構造解析に威力を発揮しているが、通常かなりの量のサンプルを必要とする。Lovchinskyらは、ダイヤモンド中の欠陥に由来する単一スピンの磁気特性を巧みに利用し、量子ロジック・プロトコルによりスピンを制御する技術を開発した。彼らは、室温で特殊な処理をされたダイヤモンド表面に付着した個々のユビキチン・タンパク質内に存在する複数の核種の磁気共鳴の検出と分光を実証した。(NK,KU,kh)

ナノ粒子のDNAによる動的集団化(Dynamic DNA clustering of nanoparticles)

ナノ粒子の大きさと形状は、造影剤や治療薬物の細胞への取り込みや送達を増大させることが可能である。Ohtaたちは、その一部が DNA鎖と標的分子としての葉酸で覆われた金のナノ粒子を作り出した(Parakによる展望記事参照)。その粒子は、混ざり方や全体の粒子の立体配置に応じて、表面において葉酸が隠れるまたは露出されるように、互いに結びつくことができた。相補的な DNAを添加することでこの構造間の切り替えが可能であり、それにより粒子の細胞との相互作用の仕方を変化させることが可能となった。(Sk,kh)

食事中に免疫細胞を静かにさせておく(Keeping immune cells quiet on a diet)

何千年にわたって,私たちの免疫系は自己と異物とを区別するよう進化したおかげで,微生物への攻撃を行うが自身には行わないようになっている.これを考えると,私たちは何故,自分たちが食べる多くの食物に対する免疫応答を開始しないのだろうか? Kimたちは,正常なマウス,微生物欠乏マウス,そして食餌性抗原のない成分栄養剤で育てられた微生物欠乏マウスを比較した(KuhnとWeinerによる展望記事参照).食餌性抗原は通常,小腸において調節性 T細胞と呼ばれる抑制性の免疫細胞群を誘発した.この細胞は,微生物抗原により誘発される調節性 T細胞とは異なり,食物に対する強い反応を抑制した.(MY,KU,kh)
【訳注】
・食餌性抗原:食事によって体内に導入される抗原として働く異物.アレルギー源が主となる.
・成分栄養剤:アミノ酸・糖質・脂質と各種ビタミンや無機物を配合し完全栄養を目的とした薬剤

ファンコニ貧血における癌の真の原因(The real cause of cancer in Fanconi anemia)

DNA二重らせんの二つの鎖を一緒に共有結合的に連結する変異は、DNA複製を妨げるゆえに、極めて有害である。このような損傷の修復失敗は、ファンコニ貧血に帰結する。Fan1ヌクレアーゼは、架橋結合の修復を促進すると考えられていた。Lachaudたちは、Fan1ヌクレアーゼがこのような架橋結合の修復に関与していないことを示している。そうではなく、この酵素は、複製フォークの進行を制限することで停止した複製フォークを保護し、それによって染色体異常を防ぐよう作用する。(KU,kh)
【訳注】
・ファンコニ貧血:DNA修復の欠陥により生じる遺伝子疾患の一つで、患者の多くは骨髄性白血病を発生する
・複製フォーク:二本鎖DNAお水素結合が切断して複製が開始される部位

神経細胞により指示されるグリア細胞の性質(Glial cell properties dictated by neurons)

脳内の神経細胞は、グリア細胞の一つの型である星状細胞と共存する。星状細胞は隣接する神経細胞の多くの機能を支えるのに役立つ。Farmerたちは、その支えが二つの方向に進むことを示している (Stevens and Muthukumaによる展望記事参照r)。彼らは、マウスの小脳皮質における二つの特殊な型の星状細胞上の神経細胞の影響を調べた。その神経細胞は、Sonic Hedgehogとして知られるモルフォゲンを産生した。Hedgehogシグナル伝達は、二つの星状細胞内で特有の遺伝子発現を調整した。このように、成熟神経細胞は、関連する星状細胞の特異的性質を促進し維持するらしい。(KU,kh,nk)
【訳注】
・モルフォゲン:その濃度によって細胞や組織の成長と分化を誘発する分子

クラウドソーシングによる地震の早期警報(Crowdsourcing earthquake early warnings)

地震警報をすばやく提供することは、その結果として落命や怪我を減らすことができる。多くの早期地震警戒システムは、特別に設計された地震や測地用のネットワークからのデータに基づいている。Kongたちは、スマートフォン内蔵の加速度計からの地震データを集め、配信するシステムを開発した。その結果は、より旧型のネットワークが使用できない地域で、ほぼリアルタイムに警報を出すことができるよう我々の能力を大きく改善した。(Wt,KU,kh,nk)

やさしく癌を殺す(Killing cancer with a soft touch)

ブレオマイシンは、多様な種類の癌に対して用いられる効果的な化学療法薬である。残念ながら、それはしばしば肺線維症(つまり肺の硬化)を引き起こし、その重症度は薬にさらされた度合に相関する。この問題を克服するため、Burgyたちは、糖除去ブレオマイシンを作り出した。この修正版の薬は、いくつかの異なる型の癌に対して以前と同様に効果的であったが、マウスの肺において検出可能レベルではどんな線維症も引き起こさなかった。もし、これらの研究成果が臨床試験で確認されれば、糖除去ブレオマイシンは、いろいろなヒト癌への対応に価値ある治療法が加えられることになるだろう。(Sk,KU,kh,nk)

微生物相と幼児の成長(Microbiota and infant development)

子供の栄養障害は,栄養改善で必ずしも改善されない根深い問題である.これは,或る特有の腸内微生物群が病状の幾つかに影響を与えるらしいためである.ヒト腸内微生物が無菌マウスに効率的に移植されて,それに付随する表現型を反復することができる.このモデルを用いて, Blantonたちは,健康な子供が持つ微生物相が,栄養障害の子供の微生物相のもたらす成長への悪影響を緩和することを見出した.哺乳類の幼児では,慢性的栄養不良は成長ホルモン抵抗性や成長阻害をもたらす.Schwarzerたちは,マウスにおいて腸内微生物相中のラクトバチルス・プランタラム株が,肝臓のシグナル経路を介して成長ホルモンの活性を持続させ,結果として,成長ホルモン抵抗性を克服することを示した.これらの研究はともに,特定の有用微生物が栄養不良症候群の解決にもしかすると利用できるかもしれないことを明らかにしている.(MY,kh)
【訳注】
・ラクトバチルス・プランタラム:乳酸菌の一種

プロテアソームの調節における陰と陽(The yin and yang of proteasomal regulation)

ユビキチン・プロテアソーム経路は、その選択的タンパク質分解により無数のタンパク質を調節する。小さなタンパク質であるユビキチンは、標的タンパク質へ、通常多くのコピーで、付着し、それが次にプロテアソームにより認識されて分解される。Shiたちは、ユビキチンと同様にユビキチンに似た (UBL)タンパク質を認識するためのプロテアソーム内の反復構造を見つけた。直列型結合部位により、プロテアソームが複数のタンパク質に結合することができる。結合する UBLタンパク質の一つは、ユビキチン・タンパク質複合体を切断する酵素であり、これは分解に拮抗する。このように、異なる特異性を持つ関連する結合部位の反復が、プロテアソームの正と負の調節のバランスを実現する。(KU,kh)

どんちゃん騒ぎするAAAアデノシン三リン酸加水分解酵素の立体構造(AAA ATPase conformational high jinks)

タンパク質 p97は、アデノシン三リン酸加水分解のエネルギーを用いて、細胞内タンパク質の品質管理に関与する基質を制御する、AAAアデノシン三リン酸加水分解酵素(ATPase)である。この中心的な過程におけるその役割から、それは癌化学療法の標的になる。Banerjeeたちは低温電子顕微法を用いて、この活動的な巨大分子装置の多数の立体配座状態に対応する構造群を高分解能で決定した。彼らはまた、阻害物質に結合したアデノシン二リン酸結合状態の構造を決定した。その構造は、機能を働かせるヌクレオチド主導の構造変化に関する洞察を与え、阻害物質の結合がどのようにこれらの立体構造変化を妨げるのかを示している。(Sk,kh)
【訳注】
・AAA:タンパク質の構造を維持・管理する一群のタンパク質の一種 ATPases associated with diverse cellular activities;トリプルAと読む
・タンパク質の品質管理:ストレスにより正しい高次構造をとっていない不良なタンパク質が小胞体に蓄積することを回避する機構

細菌の膜タンパク質分解酵素に関する洞察(Insight into a bacterial membrane protease)

リポタンパク質は、多くの細菌で重要な機能を持っている。それらは前駆物質の形で合成され、多くの病原菌において必須であるが、ヒトにおいて同等物がない酵素による処理を必要とし、それらの酵素は創薬ターゲットとなる。LspAは、緑膿菌においてリポタンパク質の成熟に関与する重要な膜タンパク質である。Vogeleyたちは、抗生物質グロボマイシンに結合した LspAの結晶構造を決定した。その構造と変異生成研究は、LspAがどうやって基質リポタンパク質を処理するかを明らかにし、そしてグロボマイシンが活性部位への結合によりその酵素を抑制することを示している。これらの知見は、新たな抗生物質の開発に有用となるだろう。(KU,kh)

カルシウムチャネルがワン.ツーパンチを浴びせる(Calcium channels deliver a one-two punch)

持続的神経可塑性を作るのを助けるために、CaV1.2 (L-型)カルシウムチャネルは、電気的活性を核内遺伝子発現に結びつける。しかしながら、この結びつきが正確にどう作用しているかは、十分には分かっていない。Liたちは、二つの電圧依存性の信号、即ち Ca2+の流入と非イオン性の構造変化、を別々に制御する方策を開発した。二つの信号の組み合わせ伝達が、転写を最大にするのに必要とされた。Ca2+の流入は、最初に細胞質ゾルからキナーゼ CaMKIIを動員した。これが次の電位依存性構造変化を可能にし、CaV1.2シグナル伝達のホットスポットにそのキナーゼを局在化させた。非イオン性構造のシグナル伝達の異常は、自閉症スペクトラム障害の高度に浸透した型、チモシー症候群における神経学的機能障害と関係している。(KU,kh,nk)

次の大流行に備えて(Preparing for the next epidemic)

西アフリカが、11,000人以上の死者を出したエボラ熱流行から浮上する一方で、次の流行が中央アメリカと南アメリカで発生しつつあり、そこではジカ・ウイルス感染症の急速な拡大が一群の新生児異常と関係している。展望記事において、Currieたちは、エボラ熱流行の地域的なそして国際的な対応から導き出される教訓について議論している。彼らの勧告は、増強された国家公共医療、社会科学と行動科学を含む多くの学問領域にわたる研究、そして十分な資金提供とサポートを受けた世界保健機関の援助の元で、より良く協調した国際的な対応を含む。(Uc,KU,kh)

ナチュラル・キラー細胞を解き放つ(Unleashing natural killer cells)

サイトカインTGF-βは、炎症を治めたり自己免疫を防いだりすることができるが、抗腫瘍免疫応答まで阻害してしまう可能性もある。Vielたちは、TGF-βシグナル伝達がマウスの代謝調節キナーゼや、ヒトのナチュラル・キラー(NK)細胞の活性を抑制し、腫瘍細胞に対する細胞傷害性を低減させることを見出した。TGF-β受容体サブユニットの欠損した NK細胞は、マウスにおいて癌転移を減少させた。これは、NK細胞における代謝の増大が、癌細胞を殺す治療方法を提供するかもしれないことを示唆している。(Sk,kh)
【訳注】
・細胞毒性:細胞に対して死、もしくは機能障害や増殖阻害の影響を与える、物質や物理作用などの性質(癌の発生を抑制する)
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