AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 13 2015, Vol.350


水の埃起源を噴き出す(Shaking out water's dusty origin)

地球の水はどこから来たのか? カナダのバフィン島に噴出している溶岩は、対流混合から地球の分離マントルの一部を取り出している。Hallis たちは溶岩中の水素同位体を調べたが、それは始原的な貯蔵庫からの水起源の「指紋を採る」のに役立つ。バフィン島の玄武岩溶岩における同位体比は、地球における水起源が太陽系形成前であり、おそらく粉塵粒子への吸着により運ばれたことを示唆している。(KU,nk,kh)
Evidence for primordial water in Earth's deep mantle (Science, this issue p. 795)

Cas9というメスを用いたゲノム編集(Genome editing with a Cas9 scalpel)

核酸分解酵素である Cas9は、CRISPR・Casゲノム編集系の中核をなしている.Cas9は標的部位へ導く低分子のガイドRNAに結合し、その標的部位で核酸分解酵素がゲノムDNAを切断したり,ゲノムDNAに結合したりする.Knightたちは単一分子画像化法を用いて、生細胞中で Cas9を追跡した.Cas9は素早い三次元拡散によって,ゲノム上の標的部位を捜索する.Cas9は標的に該当しない部位への結合にはほとんど時間を使っておらず,このことが CRISPR・Cas9編集装置の精度の高さを説明する.(MY,KU,nk,kh)
【訳注】
・CRISPR-Casゲノム編集:ゲノムの標的部位を特異的に改変(削除、置換、挿入)する方法で,標的部位に結合するガイドRNAと,ガイドRNAに呼び込まれ,標的部位を切断する核酸分解酵素から構成される
Dynamics of CRISPR-Cas9 genome interrogation in living cells (Science, this issue p. 823)

瞬速で捕えた電荷の動き(Electronic movement flashing into view)

多くの化学反応プロセスは、イオン化(分子からの電子の放出)から始まる。その事象の直後には何が起きるのだろう? Krausたちは、放射された高次高調波のスペクトルを検出、分析することにより、ヨードアセチレンにおいてこの問題を追究した(Uedaによる展望記事参照)。彼らは、一秒の千兆分の一より小さい時間尺度で、残された正帯電ホールの分子軸に沿う移動を追跡した。彼らはそれによって、適切に配向した分子において、ホールの動きを操るためのレーザ場の能力を明らかにした。(Sk,nk,kh)
Measurement and laser control of attosecond charge migration in ionized iodoacetylen (Science, this issue p. 790; see also p. 740)

LMC(大マゼラン星雲)パルサーの明るいガンマ線フラッシュ(LMC pulsar's bright gamma-ray flashes)

パルサーは、急速に回転している中性子星であり、それは脈動する電波源として見える。かにパルサーのように、そのうちのあるものはまた、脈動するガンマ線も放射する。Fermi LAT collaborationは、我々の天の川銀河の外にあるパルサーからの脈動ガンマ線を観測した。PSR J0540-6919 として知られるこのパルサーは、大マゼラン星雲 (Large Magellanic Cloud: LMC) に位置している。これは、これまで知られているものの中でもっとも強力なガンマ線パルサーであり、かに星雲のパルサーより20倍も高い光度である。この発見は、パルサーが、自らの回転で蓄えられたエネルギーをどのようにして観測可能な電磁波放射に変換するかを説明するのに役立つであろう。(Wt,KU,nk)
An extremely bright gamma-ray pulsar in the Large Magellanic Cloud (Science, this issue p. 801)

腸内細菌の封じ込めシステム(A gut bacterial containment system)

膨大な数の細菌が選択的に私たちの腸に棲みついているが,私たちの体はどうやってそれらを封じ込め続けているのだろうか? Spadoniたちは、マウスにおいて腸内細菌が肝臓や血流中に入るのを防ぐ"腸・血管関門"について記述している(Bouziatと Jabriによる展望記事参照).ヒトからの試料によるものやマウスによる研究は,腸・血管関門の細胞生物学が中枢神経系の血液脳関門と類似性を共有していることを明らかにした.ネズミチフス菌のような病原菌は,マウス中で腸・血管関門を貫通し、Salmonella pathogenicity island 2・III型分泌装置に依存するやり方で,肝臓や血流に入り込むことが可能となった.(MY,KU,kh)
【訳注】
・血液脳関門:血中から脳内への物質の移行を物質の違いで選択的に制限する機能
・Salmonella pathogenicity island 2:病原菌のisland 2と呼ばれる特定のゲノム領域.III型分泌装置を符号化している
・III型分泌装置:ある種の細菌が持つ,腸の上皮細胞へ病原因子を送り込む注射器のような装置
A gut-vascular barrier controls the systemic dissemination of bacteria (Science, this issue p. 830; see also p. 742)

古代アフリカ人が明かす現代人集団の分布(Ancient African helps to explain the present)

解剖学的現代人(ホモ・サピエンス)の移住拡散は、とりわけ比較的最近の歴史におけるアフリカからの流出だけでなくアフリカへの流入という人類移動のせいでわかりにくくなり、追跡が困難だった。Gallego Llorenteたちは、このようなユーラシアからアフリカへの移動の波の先触れとなった、およそ4500年前に生存していたエチオピア人「Mota」のDNA塩基配列を決定した。Motaの遺伝情報は、サルディニア人が、ユーラシアからアフリカへの逆流の源であったらしいことを示唆している。さらに、ヨルバ族やピグミーのムブティ族を含む、大部分のアフリカ人たちのゲノムの4から7%は、このようなユーラシア人からの遺伝子流入によることがわかった。(KF,KU,bb,kh)
Ancient Ethiopian genome reveals extensive Eurasian admixture throughout the African continent (Science, this issue p. 820)

受容体のメチル化が行動を制御する(Receptor methylation controls behavior) |

D2ドパミン受容体は、行動を調節する抗精神病薬の標的とされる。Likhiteたちは、D2ドパミン受容体を含む幾つかのヒト Gタンパク質共役受容体 (GPCRs)、及び線虫における相同体中に、アルギニン・メチル化と推定される特徴を見出した 。アルギニン・メチル基転移酵素 PRMT5による D2ドパミン受容体のメチル化は、培養細胞において D2受容体のシグナル伝達を増強した。prmt-5を欠く線虫は、D2類似受容体 DOP-3を欠如した線虫の行動に似た行動上の問題を起こした。このように、GPCRsのメチル化は、 D2受容体のように、臨床関連の標的として重要となるかもしれない。(KU,nk,kh)
The protein arginine methyltransferase PRMT5 promotes D2-like dopamine receptor signaling (Sci. Signal. 8, ra115 (2015))

脳による疲れのないタイピング(Tireless typing with the brain)

脳をコンピュータに接続して、麻痺した人がタイプ入力することを可能にすることは、すでに達成された科学技術上の成果である。しかし、これらのいわゆる脳・コンピュータ・インタフェース(BCI)は、短いテキストを精神活動によってタイプする際にさえ、頻繁な中断と再較正を必要とし、ユーザにとって疲れて大きな負担となる技術である。Jarosiewiczらは、3つの較正法、即ち遡及的ターゲット干渉、速度バイアス補正、及び神経機能の適応トラッキング、を組み合わせて、途切れのないタイピングと安定した神経操作をするための、最適な作動配置を実現した。この組み合わせは、四肢麻痺を持つ4人が、再較正のために休止する必要もなく、自分のペースで長い文章を作成することを可能にした。(hk,KU,nk,kh)
Virtual typing by people with tetraplegia using a self-calibrating intracortical brain-computer interface (Sci. Transl. Med. 7, 313ra179 (2015))

倍の危険(Double jeopardy)

世界中で、漁獲の割り当てが集団の再生産能力を守るように、漁獲量が監視される。気候変動が、このプロセスを実質的に複雑にするきらいがある。Pershingたちは、タラの量が、北大西洋の強い温暖化の際に連続して減少したことを見出した。漁業の割り当ては、それが確実に決められ、漁師に守られたとしても、再生産速度を減少させた。このように、温暖化の世界において、漁業管理はますます問題となりつつある。(KU,nk,kh)
Slow adaptation in the face of rapid warming leads to collapse of the Gulf of Maine cod fishery (Science, this issue p. 809)

脳は身体の大きさと形状をチェックし続ける(Brain keeps body size and shape in check)

動物の身体系は驚くべき左右対称性を示す。我々の手足や或いは昆虫の脚や羽が大きさや形状においていかに対称であるかを考えてみよ。環境的な傷害や成長中の欠損が、これらの発生プログラムを邪魔立てすることがある。結果として生じる変動を抑えるために、若い生物体は恒常性維持機構により可変性を和らげ、結果として正確な最終的大きさが得られる。Vallejoたちは、ショウジョウバエの脳が、リラキシン・ホルモン受容体 Lgr3に結合するインスリン様ペプチド Dilp8によりこのような恒常性の制御を仲介していることを報告している。Lgr3ニューロンはこの情報を他の神経細胞集団に配送して、身体や器官の大きさを安定化するようにホルモン・エクジソン、インスリン及び幼若ホルモンを調整する。(KU,nk,kh)
A brain circuit that synchronizes growth and maturation revealed through Dilp8 binding to Lgr3 (Science, this issue p. 10.1126/science.aac6767)

古典力学的に検出されるスピン共鳴(Mechanically detected spin resonances)

サンプル中のスピンと磁場との相互作用は、カンチレバー・プローブで検出可能な力を発生する。Losbyらは、室温においてミクロ機械的トルク磁力計を用いて共振信号を測定した。2種類の使用された無線周波数信号の差は、共振器の機械的周波数に一致させた。この手法は、マイクロメートル大のイットリウム・鉄・ガーネットの単結晶円盤におけるフェリ磁性から強磁性への転移の渦コア動力学を明らかにした。(NK,KU,nk,kh)
Torque-mixing magnetic resonance spectroscopy (Science, this issue p. 798)

低速車線で衝突を見る(Watching collisions in the slow lane)

量子力学は、原子と分子の間の衝突の詳細を「細かく管理する」ことを狙っている。しかしながら、高エネルギー条件下の全ての細かな現象を識別することは困難である。Vogelsたちは、衝突を詳細に明らかにするために、ヘリウム原子と一酸化窒素(NO)分子の二つの交差するビームを、相対的に極低速まで速度低下させた。そのデータは、理論的予測と実によく一致した短寿命の共鳴を明らかにしており、NOの不対電子を正確にモデル化するという難問を考え合わせると、実験、理論の双方でのすばらしい業績である。その研究は、衝突力学に関する化学者のより進んだ理解を浮き彫りにしている。(Sk,nk,kh)
Imaging resonances in low-energy NO-He inelastic collisions (Science, this issue p. 787)

小型種が地球の命を引き継ぐ(The small will inherit the Earth...)

動物群や生態系が、先の5つの地球規模の絶滅からどうやって回復したかの理解は,大量絶滅がどのようにして幅広い生物多様性のパターンを形成するかを解明するのに役立つ.Sallanたちは、デボン紀絶滅の最中および後の脊椎動物種全体を調べた(Wagnerによる展望記事参照).絶滅前は繁栄した大型種が多くいたにも関わらず,急速な再生速度を持つ小型種が,絶滅後の動物群を支配した.このパターンは、ある程度,現在の絶滅のパターンと似ており,私たちが現在の歩みを続けていくなら,大型種の同様の消失を経験する可能性を示唆している.(MY,KU,hk,kh)
Body-size reduction in vertebrates following the end-Devonian mass extinction (Science, this issue p. 812; see also p. 736)

移動するマンモス(Moving mammoths)

マンモスは、われわれの更新世の大型動物相の中でも、とりわけカリスマ的な例である。ListerとSherは、世界のマンモスの化石を詳細に調べ、欧州種から生じたと考えられてきた北米コロンビアのマンモスが、おそらくより進んだアジア種から進化してきたと示唆している。アジアのマンモスの同様の分岐事象が、後の欧州や北米でのコロニー形成事象をもたらした。(KF)
Evolution and dispersal of mammoths across the Northern Hemisphere (Science, this issue p. 805)

Nlrp6が腸の感染をチェックし続けている(Nlrp6 keeps gut infections in check)

ほとんどのウイルスは、身体の特定の細胞だけに感染する。ノロウイルスやロタウイルスなどの腸内ウイルスは、腸に特異的に感染する。Wangたちはこのたび、そうしたウイルスへの応答もまた、組織特異的であることを明らかにした。マウスにおける全身性ウイルス感染ではない腸内ウイルス感染への抗ウイルス性免疫には、宿主防御において重要な役割を果たす NOD様受容体ファミリー・タンパク質のメンバーである Nlrp6を必要とした。RNAヘリカーゼ・タンパク質 Dhx15と一緒に、Nlrp6はウイルス RNAに結合し、ウイルス排除に必要な下流の抗ウイルス免疫応答を誘発した。その応答には、Ⅰ型とⅡ型のインターフェロンの産生とインターフェロンに刺激された遺伝子の発現が関与していた。(KF)
Nlrp6 regulates intestinal antiviral innate immunity (Science, this issue p. 826)

行動を制御するミクロRNA(MicroRNAs that control behavior)

ミクロRNA (miRNA)は、小さな非翻訳 RNAであって、遺伝子活性を調節する。それは、標的メッセンジャーRNAとの相補的塩基対形成相互作用を介して、発現を抑圧する。miRNAは多くの細胞過程や発生過程の制御に関与している。Picao-Osorioたちは、miRNAがまた、ショウジョウバエにおいて行動を制御できることを見出した。特定の miRNA座位が、仰向けにひっくり返された幼虫における自己-復元応答を制御している。この miRNA座位は、自己復元応答に関与する2つのニューロンの正常な活性のために必要な遺伝子を標的にしている。(KF,kh)
MicroRNA-encoded behavior in Drosophila (Science, this issue p. 815)

電位感受性の刺激薬による制御(Agonist control of voltage sensitivity)

Gタンパク質結合受容体(GPCR)のあるものは、原形質膜の電位の変化に影響を受ける。Rinneたちは、刺激薬のコリンあるいはピロカルピンが結合したとき、脱分極が、M3ムスカリン・アセチルコリン受容体によるシグナル伝達を増強することを見出した。対照的に、刺激薬カルバコールあるいはアセチルコリンが結合したとき、脱分極は、M3受容体のシグナル伝達を減弱した。刺激薬のための結合ポケット中の重要な残基の変異は、カルバコール結合受容体の応答を切り替え、シグナル伝達が膜の脱分極によって増強されるようにした。そうした結果は、同じ GPCRの刺激薬である薬剤が違った効果をもたらす理由を説明する助けになる可能性がある。(KF)
The mode of agonist binding to a G protein-coupled receptor switches the effect that voltage changes have on signaling. (Sci. Signal. 8, ra110 (2015))
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