AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science August 14 2015, Vol.349


複合量子光学回路(Complex quantum optical circuitry)

単一光子の諸状態に含まれる個々の情報をコード化し操作する技術は、量子コンピューティングや量子情報通信の将来性のある共通基盤になる可能性がある。Carolan等は、ガラスチップ内に作られた書き換え可能なガラス導波路型の集積光回路装置を開発した(RohdeとDowlingの展望記事参照)。この装置は、それぞれがプログラム可能な15個のマッハ・ツェンダー干渉計から成る6つの導波路回路で、汎用の線形光学変換を可能にした。光学や量子光学での多くの応用における機能的性能は、本デバイスを用途に応じてプログラム変更できる基本設計が汎用的であることを示している。(NK,KU,ok,nk,kh)
Universal linear optics. (Science, this issue p. 711; see also p. 696)

防御への時間短縮(Shortening the time to protection)

エボラワクチンの候補物質が、西アフリカで臨床治験に入ったとはいえ、防御機構に役立つ情報は殆どない。組換え型の水疱性口内炎ウイルス・エボラワクチンの単回投与は、主に抗体応答により作用することで非ヒト霊長類を防御する。Marziたちは、このワクチンがエボラウイルスの西アフリカ系統に対し免疫化数日内でマカクサルに強い免疫応答をもたらすことを見出した(Klenk and Beckeによる展望記事参照)。自然免疫応答は3日程度で発生し、そして免疫化後7日で完全な抗体防御が得られ、生存の機会を増した。(KU,ok,nk,kh)
VSV-EBOV rapidly protects macaques against infection with the 2014/15 Ebola virus outbreak strain. (Science, this issue p. 739; see also p. 693)

微小流路による CRISPR-Cas9の配送(CRISPR-Cas9 delivery by microfluidics)

形質移入が困難な細胞へのプラスミドの配送がずっと楽になった。 Hanたちは、単一ガイドRNAと Cas9をコードするプラスミドを高効率、かつ高い細胞生存率で哺乳類細胞に輸送する微小流路方法を報告している。細胞膜に急速な機械的変形を与えて一時的な孔を作ると、ウイルスを用いずにプラスミドの移動を可能にした。この方法は、ヒトとマウスを越えた様々な細胞系列において、好結果のゲノム編集と遺伝子の機能欠失型を可能にした。この方法での突然変異の編集は、遺伝子治療の開発に重要な手段となるはずである。(KU,nk,kh)
(Sci. Adv. 10.1126.sciadv.00454 (2015))

次世代の多様化を助ける(Helping the next generation diversify)

感染を含む寄生虫感染は、生物の健康状態に悪影響を及ぼす。親たちは、子孫が有害な相互作用をもっと容易に回避したり、撃退できるよう、遺伝的多様性を増すことで次世代を助けることができる。Singhたちは、細菌感染や寄生バチ幼虫に食べられてしまう危険に応答して、ショウジョウバエでは次世代が組み換えの増加を示すことを観察した。しかしながら、この遺伝的多様性の増加は、組み換え速度の増加によるのではなく、むしろ組み換えをこうむった配偶子の不均等な配分によるものであった。それ故に、感染は親の配偶子における可塑性を促進し、結果としてより多様な子孫をもたらすことになる。(KU,ok,nk,kh)
Fruit flies diversify their offspring in response to parasite infection. (Science, this issue p. 747)

下部地殻の変形が変わる(Lower crustal deformation takes a turn)

山岳地帯を形成する衝突は、構造プレートのマントル中へのもぐりこみを伴うことが多い。Huangたちは、台湾において、沈み込むプレートの岩石の変形を表面地形と結びつけている(Longによる展望記事参照)。表面下の変形地図作成には、その地殻を通過する際の確実な地震波速度の解読を必要とした。 得られた台湾の深部地殻の画像は、二つの異なる変形層を示している。最下層は沈み込む厚板からなり、それがマントル内へと引きづりこまれている。これが地殻の上層と力学的に結びついて、上層を圧縮して山脈を形成する。(KU,nk,kh)
Layered deformation in the Taiwan orogen. (Science, this issue p. 720; see also p. 687)

黒リンのバンドギャップを調整する(Tuning the band gap of black phosphorus)

エレクトロニクスで用いられる多くの材料は半導体である。それらの電子構造中にはかなり大きなエネルギーギャップがあるため、電気伝導性のオンオフが容易にできる。グラフェンは、ある種の改質を受けない限り、もちろんこのバンドギャップを欠いている。Kimたちは、黒リン(関連した二次元物質である)の電子構造を研究した。黒リンの最上面の単一層にカリウム原子を散布することにより、その材料は半導体状態から、グラフェンのものに近いギャップのない線形な分散を有するように変化した。(Wt,kh)
Observation of tunable band gap and anisotropic Dirac semimetal state in black phosphorus. (Science, this issue p. 723)

中南米のマモセットサルは学習して、乳児語を話す(Marmosets learn to talk baby-talk)

人間の乳児は成長するにつれ、その発声は泣き声から、片言言葉や、単語へと変わる。このパターンは他の霊長類には無いものと推定されてきた。実際、鳥の鳴き声の発達の方が、人間の言語発達により近く似ているとしばしばみなされているほどである。しかしながら、Takahashiたちは、生後最初の2ヶ月におけるマモセットの泣き声と呼び声は、人間とほぼ同じ仕方で成熟することを観察した(Margoliash and Tchernichovskiによる展望記事参照)。呼び声は乳児の声帯構造の成長につれ変化し、彼らの親の反応に影響された。(KU,nk,kh)
The developmental dynamics of marmoset monkey vocal production. (Science, this issue p. 734; see also p. 688)

壊れた複製フォークの修復方法(How to repair broken replication forks)

DNAの二重鎖破壊は、我々のゲノムの完全性にとって極度に危険である。そのほとんどは、ゲノムDNAの複製の際に複製フォークが遭遇する問題に起因する。破壊によって引き起こされる複製は、そうした損傷を修復するために誤りがちな DNAポリメラーゼの一種を用いることが知られている。Mayleたちは、不正確な鋳型と関連した配列への不注意な切り替えをその DNAポリメラーゼが防ぐことで、細胞が誤りがちなDNA合成を制限することを示している。破壊の修復は、構造特異的なヌクレアーゼを用いて、長い一本鎖領域の形成を妨げることによって達成される。(KF,KU,kh)
Mus81 and converging forks limit the mutagenicity of replication fork breakage. (Science, this issue p. 742)

炎症組織と仲良くするハイドロゲル(Hydrogels cozy up to inflamed tissues)

炎症は多くの慢性的状況を引き起こす。効果のある薬を炎症部位に導くことは、治療の改善にとって非常に望ましい。Zhangたちは、自己組織化して、疎水性の抗炎症薬を炎症を起こした結腸細胞に直接届けるハイドロゲルを考案した。炎症性の腸の病気の一種である、潰瘍性大腸炎の遺伝的マウスモデルに、デキサメサゾンを担ったハイドロゲル浣腸剤を施すと、デキサメサゾン単独のものよりも効率的に炎症を和らげた。そうした患者の組織試料においては、化学的に誘発された大腸炎のマウスモデルと同様に、ハイドロゲルの微小繊維が炎症性組織に優先的に付着した。(KF,KU,nk,kh)
An inflammation-targeting hydrogel for local drug delivery in inflammatory bowel disease. (Sci. Transl. Med. 7, 300ra128 (2015))

細胞型特異的グリア細胞伝達網(Cell type-specific glial networks)

グリア細胞は、神経細胞が互いに情報交換する際の神経伝達物質に応答する。グリア細胞自身は、神経のシナプス伝達を制御するグリオトランスミッターを遊離する。背側線条体と呼ばれる脳領域には、実験的に区別できる2つの型のニューロンと2つの型のシナプスがあるが、Martinたちはそこにおいて、クリア細胞のこの二つの機能の相互の関連性を研究した(GittisとBrasierによる展望記事参照)。グリア細胞の亜集団は、特異的な1つの型のニューロンに選択的に応答した。次に、それら特異的に活性化されたグリア細胞は、別の型ではなく、同じ型のニューロンにだけシグナル伝達を行なったが、これはグリア・神経細胞間シグナル伝達がおおむね細胞型特異的であることを示すものである。(KF,nk,kh)
【訳注】
・グリオトランスミッター:グリア細胞が分泌する生理活性物質
Circuit-specific signaling in astrocyte-neuron networks in basal ganglia pathways. (Science, this issue p. 730; see also p. 690)

ナノ材料によるトランジスタの改良(Improving transistors with nanomaterials)

表示技術に用いられる高性能のシリコントランジスタや薄膜トランジスタは、基本的に小型化に制限がある。ナノ材料(カーボンナノチューブ、グラフェン、二硫化モリブデンのような二次元材料など)を、ゲート材料としてこれらの素子に組み込むことにより、これらの制限の一部を回避できるかもしれない。Franklinは、トランジスタにナノ材料を組み込んで性能を向上させる好機と課題を総説している。高性能トランジスタは薄膜トランジスタとまったく異なるため、それらを屈曲可能なあるいは透明な基板に組み込もうとすると、新たな課題が生じる。(Sk,KU,kh)
Nanomaterials in transistors: From high-performance to thin-film applications. (Science, this issue 10.1126/science.aab2750)

微生物相が抗体をミスリードする(Microbiota can mislead antibodies)

多くのウイルス感染症への応答とは違って、ほとんどの人は、HIV-1を除去可能な抗体を産生できない。HIV-1の外被糖タンパク質(Env)を標的とする非中和性抗体が、ENVおよび腸の微生物相と交差反応するB細胞によって産生されるこの応答を、典型的に支配している。Williamsたちは、gp41サブユニットを含む Envタンパク質を含むワクチンを与えられた患者から得た試料を分析した。抗体のほとんどは非中和性で、gp41を標的にした。それら抗体はまた、腸の微生物相にも反応したが、これは、微生物群落に対する既存の免疫が、ワクチン誘発性の免疫応答を非生産的な標的に向けて歪めていることを示唆している。(KF,nk,kh)
Diversion of HIV-1 vaccine-induced immunity by gp41-microbiota cross-reactive antibodies. (Science, this issue 10.1126/science.aab1253)

冷たい北極圏におけるゆっくりした循環(Slow circulation in the cold Arctic)

北極海とノルディック海は共に、大西洋子午面循環(AMOC)に対して、高密度の沈み込む海水を供給している。AMOCによる熱の再配分は回りまわって、北半球の気候に大きな影響を及ぼす。Thornalleyたちは、最終氷河期の間、これらの海域がほとんど停滞し、現在は AMOCに寄与している海水をほとんど供給していなかったと報告している。大西洋におけるこの低い流量は、おそらく当時の北極地中海では、広範囲に氷で覆われた結果として活発な深層水が形成されなかったためだったのであろう。(Sk,kh)
【訳注】
・北極地中海:北極海に同じ(ここでの地中海とは、陸によって囲まれた大きな海水域を意味する広義のもの)
A warm and poorly ventilated deep Arctic Mediterranean during the last glacial period. (Science, this issue p. 706)

アキラル構造からのキラリティ(Chirality from achiral structures)

エレクトロニクスに使用されるほとんどの一般的な材料は、単純な光応答のみを生じる。Dharaらは、シリコンナノワイヤー中で複雑な円偏光光ガルヴァ—ニ効果を観察したが、そこでは誘導光電流の大きさと方向が光の偏光に依存していた現象が見られた。構成材料の構造および幾何学的形状の詳細がこの円偏光効果をもたらす。したがって、他のアキラル材料でも同じ効果を作り出すことが可能となるはずである。こうして、機能強化された材料群(ボックス)を光学用途用に拡大できるはずである。(hk,KU,ok,nk,kh)
【訳注】
・光ガルヴァ—ニ効果(photogalvanic effect):光照射により光化学反応が起こり、結果として光起電力、光電流が生じる(理化学辞典より)
・キラリティ(chirality):結合の組み換えなしには分子をそれ自身の鏡像に重ね合わせることができない形 ・アキラル (achiral):実像と鏡像が重ね合わスことのできる形
Voltage-tunable circular photogalvanic effect in silicon nanowires. (Science, this issue p. 726)

ヘテロ構造における磁性の制御(Control of magnetism in heterostructures)

ヘテロ構造における二種の異なる材料の界面は、二種の材料のいずれかのみの場合に対し、独特の性質を示すことがある。良く知られている例は、LaAlO3をSrTiO3上に成長させた場合に作られる、導電性のガスである。但し、LaAlO3の層が少なくとも4単位格子の厚みを有する場合のみである。Wangたちは、同じSrTiO3基板上に別の酸化物(LaMnO3)により形成したヘテロ構造における、同様に急激な磁気遷移を報告している。塊のLaMnO3は反強磁性体であるが、それが6単位格子層以上SrTiO3上に堆積すると、それは強磁性体のように振る舞う。(Sk)
【訳注】
・ヘテロ構造:組成元素が異なる固体の接合体
・導電性のガス:ヘテロ接合部に電子が充満した状態のもの
Imaging and control of ferromagnetism in LaMnO3/SrTiO3 heterostructures . (Science, this issue p. 716)

地球温暖化の停滞現象はあったのか?(Has there been a global warming hiatus?)

1999年から2013年までの間、地球表面の平均温度は、温室ガス放出の 速い増加にも関わらず、それ以前の何十年かよりもずっと緩やかに上昇した。この「停滞」により、気候モデルの予測の正確さに疑問を呈する人も現れた。展望記事で、Trenberthは、自然現象としての気候の変動巾が10年単位の時間尺度では、一般に認識されていたよりも大きいらしいと述べている。太平洋における年単位と十年単位の進行は、気温がどれほど速く上昇するかに影響する。根底にある気候温暖化の傾向は続いているのだが、自然の気候変動性が、短期間においては最近の「停滞」の期間のようにそれを圧倒することがあるのだ。(KF,KU,nk,kh)
Has there been a hiatus?. (Science, this issue p. 691)

HDLによって、血管の健康を維持する(Maintaining vascular health with HDL)

血管を通る流れは、特定の位置で異常なせん断力を血管内皮細胞に与える。これが炎症の引き金となり、動脈硬化プラークの形成に貢献する。Galvaniたちは、血中に豊富にある脂質メディエーターによって活性化される血管内皮細胞受容体S1P1が、マウスにおいて、血管の炎症と粥状動脈硬化を抑制することを発見した。このメディエーターS1Pは、異なる複数のシャペロンタンパク質に結合し、そしてリポタンパク質 ApoM+HDLに結合した場合にだけ、培養された血管内皮細胞の炎症を抑制する。つまり、S1Pは、粥状動脈硬化における HDL(一般に善玉コレステロールと呼ばれる)の保護効果に貢献している可能性がある。(KF,kh)
HDL-bound sphingosine 1-phosphate acts as a biased agonist for the endothelial cell receptor S1P1 to limit vascular inflammation. (Sci. Signal. 8, ra79 (2015))
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