AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 27 2015, Vol.347


星々がもっと正しく予想できるところ(A place where stars are more predictable)

天体物理学者たちは、その明るさが知られている参照天体を用いて、距離を決定している。たとえは、タイプIa 超新星(SN Ia)は、いつもほとんど同一の最大輝度に達する。これは、超新星爆発が起きるのは、その前駆天体である白色矮星の質量が一定の限界値を超えて、自分自身を支え切れなくなる時だからである。Kellyたちは、SN Iaの特別なグループ -- すなわち、紫外光における表面輝度が強く、恒星の形成密度が高い環境にある SN Iaは、距離較正がはるかにより厳密にできることを見出している。ほんの一つか二つの固有なパラメータが、光度と色、時間減衰の間の見かけの関係を定めているらしい。(Wt,kh,nk)
Distances with <4% precision from type Ia supernovae in young star-forming environments (Science, this issue p. 1459)

世代から世代への虐待?(Abuse from generation to generation?)

子供時代に虐待された親は,自分の子供を虐待する傾向が強いと考えられている.Widomたちは,子供時代に虐待を受けた親を持つ家族とその対照群の家族に関し、親と子供からの報告書と児童保護局(CPS【訳注】)の記録を比較した。彼らは,用いた情報によって異なる結論が得られることに気が付いた.自身が子供時代に虐待された親を持つ子供からは、比較群よりも多くの性的虐待や育児放棄の報告がなされた。しかしながら,あると信じられている虐待や育児放棄の世代間伝達の大部分は,子供時代に虐待や育児放棄の経験を持つ親に向けられた調査や検出の先入観に帰せられる可能性があった.(MY,nk)
【訳注】
・Child Protective Services (CPS) :米国の州に設置された子供の虐待や育児放棄に対処する行政機関の名称
Intergenerational transmission of child abuse and neglect: Real or detection bias? (Science, this issue p. 1480)

トリパノソーマは、生体内で巧妙な手品を見せる(Trypanosomes reveal tricky tricks in vivo)

睡眠病の寄生虫であるブルセイトリパノソーマは、宿主の免疫系で認識される変化にとんだ表面グリコタンパク質(VSG)で覆われている。この寄生虫は、2000個の VSG遺伝子のレパートリを用いて、様々な表面変異体の間を切り換えて、宿主の防御応答を絶えず避けている。昔の実験では、一つの変異体の後に次の異性体が続き、感染症の波を引き起こすことを示していた。しかしながら、動物での感染症は異なる挙動を示している。Mugnierたちは、いくつかの VSGが同時に発現すること、そして変動に関するレパートリが、遺伝子間の組み換えでさらに増幅されてモザイク状の VSGを作ることを発見した。(KU,kh,nk)
The in vivo dynamics of antigenic variation in Trypanosoma brucei (Science, this issue p. 1470)

ルー・ゲーリック病における新しい役者(New players in Lou Gehrig's disease)

しばしばルー・ゲーリック病と呼ばれる、筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、脳や脊髄の神経細胞を冒す進行性の神経変性疾患である。Cirulliたちは、3000人近い ALS患者の発現遺伝子の配列を読み取り、それらを6000人以上の対照者のそれと比較した(Singleton と Traynorによる展望記事参照)。彼らは、患者の病気に関係するいくつかのタンパク質を同定した。そのようなタンパク質の一つである TBK1は、自然免疫とオートファジーに関係しており、治療の標的になるかもしれない。(Sk)
【訳注】
・オートファジー:細胞自身が持つ、細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つ
Exome sequencing in amyotrophic lateral sclerosis identifies risk genes and pathways (Science, this issue p. 1436; see also p. 1422)

再配列可能な DNA構造(Reconfigurable DNA structures)

DNA折り紙---一本鎖 DNAの塩基対形成による組み立てをプログラムして作られるナノ構造---は、複雑な構造を形成する。しかしながら、このような構造は、生体分子の認識機構に特有な柔軟性のある、かつ可逆的な相互作用に欠けている。Gerlingたちは、3次元の DNAナノ構造を作ったが、それは、ヌクレオチドの塩基スタッキング相互作用により構築される(Shihによる展望記事参照)。これらの構造は、塩濃度や温度の変化と共に開いた状態から閉じた状態へと変化を繰り返した。(KU,nk,nk)
Dynamic DNA devices and assemblies formed by shape-complementary, non-base pairing 3D components (Science, this issue p. 1446; see also p. 1417)

陽子に対する中性子の重さを量る(Weighing the neutron against the proton)

初歩の科学教科書は、しばしば陽子は中性子と同じ質量を持つと記述している。これは真実から程遠いわけではない。中性子は陽子より、約 0.14% 重い(そしてより不安定である)。その正確な値は重要である。なぜなら、もしその質量差がより大きかったり小さかったりすれば、おそらく我々の知っている世界は存在しない可能性があるからである。Borsanyi たちは、核子内に存在する種々の力を考慮した高度な手法を用いて、高い精度で質量差を計算した。計算は、我々の宇宙が、いかに精巧に調整される必要があるかということを明らかにしている。(Sk)
Ab initio calculation of the neutron-proton mass difference (Science, this issue p. 1452)

骨粗鬆症の骨を再建する(Rebuilding bone in osteoporosis)

骨芽細胞が骨を作り,破骨細胞が骨を壊しているため,骨格は絶えず代謝回転を行っている.代謝回転が高すぎると、骨粗鬆症が引き起こされる可能性がある.レセプター型チロシンキナーゼ DDR2は,代謝回転の平衡を骨形成寄りに傾かせる.Zangたちは,DDR2が骨芽細胞の発生を増強しているばかりでなく,破骨細胞が十分に発達して骨を壊すことを抑制していることを見出した.ウィルスによる DDR2の送達で,骨粗鬆症のマウスモデルで骨密度が増加した.このため,両方の型の骨細胞中で DDR2レベルを高めることは,骨粗鬆症患者に役立つかもしれない.(MY)
DDR2 (discoidin domain receptor 2) suppresses osteoclastogenesis and is a potential therapeutic target in osteoporosis (Sci. Signal. 8, ra31 (2015))

脳を作る前に脳を作る者を作る(Build the builders before the brain)

ヒトはマウスより遥かに利口である---これに関する重要な鍵は、ヒト脳の新皮質の相対的な厚さである。Florioたちは、新皮質を形成する前駆細胞中の遺伝子を詳しく調べ、そしてマウスでは見つからず、ヒトにのみ見出された一つの遺伝子に狙いを定めた。その遺伝子はヒトとチンパンジーを区別するものらしく、鍵となる前駆細胞の増殖を促進している。発生の際にこのヒト遺伝子を発現するマウスは、より精緻な脳を形成した。(KU,kh,nk)
Human-specific gene ARHGAP11B promotes basal progenitor amplification and neocortex expansion (Science, this issue p. 1465)

膜を融合する爆発的方法(An explosive way to fuse membranes)

細胞内輸送の際に膜融合を促進する分子機械は、多くの、いわゆるスネア(SNARE)タンパク質を含んでいる。Ryuたちは、二つのタンパク質、即ち NSHとα-SNAPが SNARE複合体を解体する分子メカニズムに関して記述している。単一分子技法を組み合わせて、その反応の中間ステップが解明された。驚いたことに、以前の推定と異なり、NSFは スネア複合体を連続的にほどいてはいなかった。代わりに、蓄積された張力がいっきに解放され、一回の全体的アンフォールディング反応でスネア複合体を引き離す。(KU,kh,nk)
Spring-loaded unraveling of a single SNARE complex by NSF in one round of ATP turnover (Science, this issue p. 1485)

有機-無機のシシカバブを作る(Crafting organic-inorganic shish-kebabs)

官能基を有する無機ナノ結晶をカバブとし、串役のシシとして使われる高分子鎖に取り付けることで、シシカバブのように組み立てることができる。Xuたちは、一次元(1D)ナノ構造の合成に関する巧妙で型破りな方法を開発した。彼らは、合理的に設計された両親媒性の虫のような前駆体をナノ反応装置として利用した。このアプローチは興味深いハイブリッド材料の設計への扉を開くものであり、今後新しい特性の発見が期待される。(Sk,nk)
【訳注】
・両親媒性:親水基と親油基の両方を有する
(Science Advances 10.1126/sciadv.1500025 (2015))

作物のための花粉媒介者の奉仕を維持する(Conserving pollinator services for crops)

受粉がうまくいかないと、生態系が損なわれ、我々は多くの重要な食料源を失うことになる。ミツバチによって提供されている受粉のためのサービスに焦点を当てて、Goulsonたちは、気候変化や感染症、殺虫剤などによってミツバチが蒙っているストレスについてレビューしている。我々は、花資源の改良や検疫処置の適用、さらにミツバチ集団の監視によって、ミツバチに対するストレスのいくらかを緩和することができる。重大なこととして、我々は、殺虫剤の予防的利用をめぐる論争に決着をつける必要がある。(KF,nk)
Bee declines driven by combined stress from parasites, pesticides, and lack of flowers (Science, this issue 10.1126/science.1255957)

目的に合った分子モーターに(Making a molecular motor fit for purpose)

ダイナクチンは、微小管のモーターである細胞質ダイニンにとって必須の補助因子である。ダイナクチンはアクチン関連タンパク質(Arp1)の短いフィラメントの周囲に作られた23個のサブユニットを含んでいる。いかにダイナクチンが構築され、いかにダイニンとともに機能し、なぜそれがアクチン様のフィラメントの周囲に作られるのかは、はっきりしていない。Urnaviciusたちは低温電子顕微法による構造研究と、結晶構造を組み合わせて、ダイナクチンの3次元構造と、それがいかにしてダイニンと相互作用しているかを決定した。(KF,kh)
The structure of the dynactin complex and its interaction with dynein (Science, this issue p. 1441)

真菌感染への治療手段の改良(Improving treatment options for fungal infections)

真菌病は、世界中でごく当たり前である。多くはすぐに治療できる。しかしながら、浸潤性アスペルギルス症などの感染症は、処置が難しい場合があり、高い死亡率をもたらす。 病原真菌の薬剤耐性もまた拡大しつつある問題である。展望記事で、DenningとBromleyは、新しい抗真菌性治療法の開発において直面する課題を説明している。現時点で発売予定の抗真菌薬は殆どないが、将来に期待してよい理由はある。たとえば、臨床ないし前臨床段階で開発中のいくつかの化合物は新規の標的に対して有効であり、大幅に改善された診断法により、薬剤開発の初期段階をより簡単にしている。(KF,kh,nk)
How to bolster the antifungal pipeline (Science, this issue p. 1414)

生物地球化学的電池の構築(Building a biogeochemical battery)

鉄は、環境中の微生物にとって、電子のソースとしてもシンクとしても働いている。ある種の嫌気性菌は、酸化された Fe(III)を電子受容体として用い、一方、光栄養性細菌は還元された Fe(II)を電子供与体として用いている。Byrneたちは、Fe(II)と Fe(III)の双方を含む鉄含有鉱物である磁鉄鉱が、電子受容体としても供与体としても作用することを示している。鉄還元細菌と鉄酸化細菌を共培養したものを、昼/夜周期による刺激、あるいは有機物の変化に曝すと、磁鉄鉱粒子中での Fe(III)に対する Fe(II)の割合は変化した。(KF,KU)
Redox cycling of Fe(II) and Fe(III) in magnetite by Fe-metabolizing bacteria (Science, this issue p. 1473)

見えない役者の影響を暴く(Uncloaking the influence of the invisible actor)

暗黒物質のアイデアは一般的な支持を得ているが、しかし二つの重大な懸念が残存している。即ち、いわゆる標準モデルはその存在を排除しており、また、それがどんな望遠鏡によっても直接観測することができないことである。今のところ、目に見えない生き物が池の表面を乱すことを観測するときのように、天文学者は、間接的にしか暗黒物質の影響を観察することができない。Harveyらは72の銀河衝突を観測し、その結果としてのガスと星の質量分布の中心(直接的な観察から)と暗黒物質の質量分布の中心(推論による)を比較した。これらの差に基づくと、暗黒物質は明らかに存在している。(hk,KU,kh,nk)
The nongravitational interactions of dark matter in colliding galaxy clusters (Science, this issue p. 1462)

脳の奥深くの神経細胞を興奮させる(Exciting nerve cells deep inside the brain)

脳内領域を刺激するための現状の技術では,恒久的に埋め込まれた金属線や光ファイバーが必要となる.マウスの研究で,Chenたちは,この問題を克服する方法を開発した(TemelとJahanshahiによる展望記事参照).彼らは,感熱性のカプサイシン受容体を神経細胞に導入し,その後,磁性体ナノ粒子を特定の脳領域に注入した.このナノ粒子は外部交流磁場により加熱可能であり,この磁場により,カプサイシン受容体によるイオンチャネルを発現している神経細胞が活性化された.このため,脳の奥深くの細胞シグナル伝達は,恒久的な埋め込みなしで遠隔的に制御されうるのである.(MY)
Wireless magnetothermal deep brain stimulation (Science, this issue p. 1477; see also p. 1418)

原子群は規則正しく振舞う(Atoms behaving in an orderly manner)

物理の世界では、系の構成要素間の相互作用により、エネルギーを最小化するために系がより規則性を示すようになる。例えば、磁気系ではこのような規則性を持つ相が現れることが知られている。Schaussらは、低温における中性原子の集団を用いてこれら現象を調べた。原子群にレーザー光を照射すると、原子の幾つかをリュードベリ状態と呼ばれる高エネルギー状態にすることができた。実験パラメーターを慎重に変えて、ロッド状やディスク状の形をしたリュードベリ原子が結晶格子を思わせるようなパターンに並ぶようにした。(NK,kh,nk)
Crystallization in Ising quantum magnets (Science, this issue p. 1455)
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