AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 13 2015, Vol.347


エボラの激増に邪魔されないで、子供たちにワクチン接種を(Vaccinate children despite Ebola)

西アフリカでのエボラウイルスの大発生によって生じた医学的緊急事態の間、子供に対する通常のワクチン接種プログラムは延期されている。もしワクチン接種がすぐに再開されない場合、死者は更に増加する可能性がある。はしかは非常に感染しやすく、はしかの大流行は健康管理システムに問題があることを示す。数学的なモデリングを用いることで、Takahashiたちは、リベリア・シエラレオネ・ギニアにわたって約百万人の子供たちがはしかにかかり易い状態にあると推定している。この地域にとっては、はしかだけでなく小児麻痺・マラリア熱・結核そして他の幼児感染症による被害を最小化するために、積極的な健康プログラムが非常に重要である。(Uc,KU,nk,ok,kh)
Reduced vaccination and the risk of measles and other childhood infections post-Ebola (Science, this issue p. 1240)

要素単位合成法による 分子製造(A block-by-block way to manufacture molecules)

生物化学や医薬品設計に関わる炭素ベースの低分子は,膨大な構造多様性を示す.しかし,組み立てライン風に,機械がそれらの殆どを組み合わせることができるような, 汎用的な構成要素のセットを見つけることができるだろうか? Liたちは,特定なタイプのボロン酸基を有するフラグメントのカップリング反応から得られる様々な構造を並べ上げて,この目標に向けた進展を報告している.彼らは,鎖状の前駆体を幾つも繋ぎ合わせ,その後,それ自体の上に折り返えさせて,複雑な多環構造を作ることに成功した.彼らはまた,反応と生成物単離の自動化を容易にする精製方法を開発した.(MY,nk,ok,kh)
Synthesis of many different types of organic small molecules using one automated process (Science, this issue p. 1221)

脂肪肝疾患への速達便(Special delivery for fatty liver disease)

非アルコール性脂肪肝疾患は,世界中での肥満割合の上昇が招いた歓迎されざる多くの結果の一つである.肝臓中での脂肪の蓄積は,肝臓癌の病因である肝炎や肝硬変を引き起こす可能性がある.治療の選択肢は限られている.Perryたちは,1930年代に体重減少薬として用いられ,重度な毒性の理由で使用が中断されたミトコンドリア脱共役剤(2,4-ジニトロフェノール) を再検討している.心強いことに,薬剤処方を変更して,薬が低レベルで徐々に放出されるようにすると, げっ歯類モデルで,副作用も無く、脂肪肝や糖尿病が改善された.(MY.KU,nk,ok,kh)
Controlled-release mitochondrial protonophore reverses diabetes and steatohepatitis in rats (Science, this issue p. 1253)

肺損傷の影響を減らすように運動する(Exercising away the effects of lung injury)

健康な人が運動の恩恵を受けていることを、我々総ては知っているが、運動がまた、集中治療室(ICU)内での最も重症の患者にも役立つことを最新の証拠は示唆している。Filesらは、急性肺障害を持つマウスになぜ運動は有益なのかを研究して、人間の呼吸不全患者に早期運動療法が有益であるという彼らの発見を確認した。 運動は筋肉の低下を防ぎ、G-CSFと呼ばれる成長因子のレベルを減少させることによって肺に浸潤する免疫細胞の数を制限した。(hk,KU,nk)
Therapeutic exercise attenuates neutrophilic lung injury and skeletal muscle wastin (Sci. Transl. Med. 7, 278ra32 (2015))

発生現場のレーダーは、地下にあるものを明らかにする(Onsite radar shows what lies beneath)

月の歴史のより活動的な時代に、火山噴火は、黒っぽい玄武岩の地層を組成とする溶岩の平原を生み出した。しかし、地表面下の探査なしでは、一番最後の溶岩流だけしか調べられない。Chang'E-3(嫦娥3号)宇宙船が軟着陸した後、Xiaoたちは Yutu(玉兎)月面探査車を用いて、月の地殻の地中レーダ測定を行なった。地表面下にあるいくつかの地層は、地殻の歴史を通じて、さまざまな地質学的なプロセスが作用したことを示唆している。そこには多数の溶岩流や、風化によるダストや岩石の堆積物が生成されたことも含まれている。(Wt,KU,nk)
A young multilayered terrane of the northern Mare Imbrium revealed by Chang'E-3 mission (Science, this issue p. 1226)

自己申告のギャップを忘れないこと(Be mindful of a self-reported gap)

幸福というものを数量的に押えることは非常に難しく、おそらく「見れば分かる:I know it when I see it」という表現によって最も良く言い表される。合衆国において、幸福に関する自己申告による採点では一般的に、よりリベラルな傾向の人よりも政治的に保守主義の人においてより高い。Wojcikたちは、小声で話したり、或いは微笑んだりといった、挙動測定に基づく3っのデータセットを調べた。自己申告による採点では低いにもかかわらず、リベラル派は保守派に較べ、表情からはより幸福さを示した。例えば、ビジネス志向のソーシャルネットワーク上での写真から判断されると、リベラルな傾向のあるニューヨークタイムズのより多くの従業員は、保守的傾向のあるウォールストリートジャーナルの従業員よりも心から微笑んでいた。(KU,nk,kh)
Conservatives report, but liberals display, greater happiness (Science, this issue p. 1243)

深夜のつまみ食いは心臓によくない(Midnight snacks are bad for the heart)

概日時計は、動物たちが自分たちの活動と休息の周期を一日の昼と夜との周期に調整するのを助けている。時差ぼけを起こしたり、或いは夜間シフトの仕事に就いた人は誰でもご存じのように、この調整を失なうと有害な影響を受けることになる。Gillたちは、いつなんどきでも食べることのできるショウジョウバエと日中(ハエが活動しているとき)の間だけ食べることを許されたハエと比較した。摂食時間の制限されたハエは良く眠り、そして年をとっても心臓機能の衰えがより少なかった。双方のグループのハエが、ほぼ同量の食べ物を消費したときでも、摂食制限したハエの方が体重増加が少なかった。(KU,nk,ok,kh)
Time-restricted feeding attenuates age-related cardiac decline in Drosophila (Science, this issue p. 1265)

コオロギは NOと言って闘争か逃避かを決める(Crickets say NO to fight or flight)

コオロギにとって、逃げるか逃げないかは、一酸化窒素(NO)のシグナル伝達の大きさで量られる、生死を分ける決断である。StevensonとRillichは、闘いの真っ只中でのこの重要な意思決定には、相手の攻撃の効果を足し合わせていることを見出した。それが閾値に達すると、NOのシグナル伝達経路が活性化される。これによって攻撃性が抑制され、敗者にその場から飛び去るよう促す。NOシグナル伝達経路の活性化はその後も影響を残し、敗者は、少なくとも一時的には、新たな闘いを避けるようになる。(Sk,KU,nk,ok,kh)
Adding up the odds-Nitric oxide signaling underlies the decision to flee and post-conflict depression of aggression (Sci. Adv. 10.1126/sciadv.150060 (2015))

量子酔歩を解明する(Quantum walkers under a microscope)

物理を学ぶ学生は、酒に酔った航海士が右に左にランダムに歩く例を参考に1次元ランダムウォークを考察するように教えられてきた。しかし、それは、同時に複数の進み方をとることができる量子ウォークの複雑さとは比較にならない。Preiss等は光格子の単一サイトにある原子を検出して、量子酔歩をしている2個の相互作用している87Rb原子の挙動を調べた(Wideraの展望記事参照)。初期条件と原子間の相互作用の強さに依存して、原子同士が全く影響を受けなかったり、結合したり、可能な限り離れようとする。(NK,KU,kh)
Strongly correlated quantum walks in optical lattices (Science, this issue p. 1229; see also p. 1200)

感染症の数学的モデリング(Mathematical modeling of infectious diseases)

感染症の蔓延はは予測できない。抗生物質耐性や悩ましい新しいウイルスの出現という危険が存在し、そして地球上のポリオの根絶とマラリアの除去に見られる野心的な計画を実行したにもかかわらず、人々の関心は決して高くはかった。感染症に含まれる多因子の予測と計測には、数学的手法が大いに役立つ。 特に、モデリング技術は、大規模な集団と困難な環境の下で収集された不完全な知識を補うのに有用である。 Heesterbeekらは疫学に利用されている数学的モデルの進展と、またそれらが、どのようにして成功したコントロール戦略の開発とその数学モデルを公衆衛生の政策策定に反映させ利用出来るかをレビューしている。(hk,KU,nk,ok)
Modeling infectious disease dynamics in the complex landscape of global health (Science, this issue 10.1126/science.aaa4339)

結合された、自然免疫受容体シグナル伝達(Innate immune receptor signaling,united)

RIG-I、cGAS、或いは Toll様受容体といった自然免疫受容体は、微生物の断片に結合し、そして免疫系に感染症に対処するよう警戒させる。個々の受容体のタイプは異なるアダプタータンパク質を通して信号を出す。これらの信号がタンパク質キナーゼ TBK1と転写制御因子 IRF3(この因子は宿主防御に重要なインターフェロンタンパク質(IFN)を分泌するよう細胞に指令する)を活性化する。Liuたちは、IRF3を活性化し、そしてIFNを産生する自然免疫受容体とアダプタータンパク質のペアの3つのタイプ全てで用いられている共通のシグナル伝達のメカニズムを報告している。細胞は INF産生を注意深く制御して、炎症や自己免疫を避ける必要があるため、このことは重要である。(KU)
Phosphorylation of innate immune adaptor proteins MAVS, STING, and TRIF induces IRF3 activation (Science, this issue 10.1126/science.aaa2630)

ニッケルの4価の特徴を生かす(Taking advantage of four for a nickel)

金属原子はその酸化状態を---別の言い方では,電子の喪失か獲得を---比較的容易に変える.これが,金属化合物が非常に多くの化学反応を促進させる主な理由である.今回,CamassoとSanfordは,中心金属の周りの配位環境を慎重に調整することにより,4価酸化状態のニッケル錯体を作る直接的な方法を報告している(Riordanによる展望記事参照).これらの錯体は,炭素を,酸素,窒素,イオウに結合するのに有用であることが分かり,また,より低い酸化状態で動作する多くの従来から使われてきたニッケル触媒を補完することができた。(MY,nk,ok)
Design, synthesis, and carbon-heteroatom coupling reactions of organometallic nickel(IV) complexes (Science, this issue p. 1218; see also p. 1203)

後悔しないように化学的設計を用いる(Using chemical design to avoid regrets)

公衆衛生上の問題に呼応して,哺乳瓶のような消費者用製品で,化学物質ビスフェノールA(BPA)が,その同族化合物のビスフェノールS(BPS)に広く置き換わってきた.しかしながら,最近の研究で,BPSもまた,人間の健康に害であるかもしれないことが示された.ZimmermanとAnastasは展望記事で,そのような”後悔するような代用化学物質”がどのようにしたら回避できるのかについて議論している.彼らは,回避の進展が,毒性や,その他の危険性を回避するよう設計された情報公開済みの代用化学物質を通してなされていくことを示している.(MY,kh)
Toward substitution with no regrets (Science, this issue p. 1198)

低温閉じ込めにおける高荷電イオン(Highly charged ions in cold confines)

高エネルギー照射により、各々の原子から多くの電子を剥ぎ取り、+10以上の電荷を持つイオンを作ることが可能である。しかしながら、そのように強く荷電したイオンの興味深い性質の多くは、それらを作り出すのに必要な極端な条件下では、研究したり利用したりするのが困難である。Schmogerたちは、+14の電荷を持ったアルゴンイオンを、それらの発生に必要なメガケルビンの温度から、高精度の分光法に適したミリケルビンの温度まで冷却した。その方法は、一価のベリリウムイオンの冷たい試料による共同冷却(sympathetic cooling)を利用したものであり、それは、広範囲の他の元素にも適用可能であろう。(Sk,nk,kh)
Coulomb crystallization of highly charged ions (Science, this issue p. 1233)

地球軌道を海底と結びつける(Connecting orbit to the ocean floor)

中央海嶺におけるマグマの噴出量は、海水面を変化させる周期的な氷河期によって影響を受けることがある。Crowleyたちは、オーストラリア南極海嶺全域にわたる高分解能の海の深度データを分析した(Conrad による展望記事参照)。その結果、2万3千年、4万1千年、10万年の周期が明らかになった。これらの周期は、地球軌道の変化により引き起こされ、氷河期に関連する、よく知られたミランコビッチサイクルと似ている。海面レベルの低下は、かかる圧力を低下させ、それによって噴出するマグマ量が増加する。氷河形成と海面レベルの周期性は、海底に沿って間隔を置いて並んだ局所的な高みを作り出す。このように、地球大気とマントルは氷河期の時間スケールで結びついている。(Sk,nk,kh)
Glacial cycles drive variations in the production of oceanic crust (Science, this issue p. 1237; see also p. 1204)

熱帯雨林における更新世の人類(Pleistocene humans in tropical rainforest)

熱帯雨林環境は、拓けた生息環境に比べて、栄養的には貧しく、動き回るのもたいへんである。このことが、ヒトの生存にとっての難題を課すことになる。1万年前の完新世開始以前に、ヒトの集団が雨林の資源に頼っていたことを示唆する証拠はほとんどない。Robertsたちは、スリランカのヒトと動物の歯のエナメルの初期の化石を分析した。それらのヒトの食事は、拓けた生息地で食を漁るよりもむしろ雨林で漁っていたことを示唆する。つまり、ヒトはスリランカの雨林を、少なくとも2万年前から、気候や環境のかなりの変動があった期間を通じて、効率的に利用していたのである。(KF)
Direct evidence for human reliance on rainforest resources in late Pleistocene Sri Lanka (Science, this issue p. 1246)

N末端法則には生理機能がある(The N-end rule finds a physiological function)

タンパク質分解のN末端法則経路は、1980年代に発見された標準的な分解経路である。近年、N末端認識についてのこれまでとは異なる新規の経路の発見に研究の焦点が当たっている。「古典的」経路は、基質の N末端アセチル化によって抑えられる。しかしながら、酵母においては、 N末端アセチル化により分解が抑えられるわけではなく、これは第2の経路がアセチル化された N末端に作用できるからである。ところで、この代替経路は哺乳類の生理上でも主要な役割を果たすのだろうか。Parkたちはこのたび、哺乳類細胞にこの代替経路の存在を確認した。もっとも顕著なものとしては、ヒトに高血圧をもたらすと考えられていた患者由来の点(突然)変異が、コード化タンパク質 Rgs2のためのこの経路への感受性に影響している。(KF,nk.ok,kh)
Control of mammalian G protein signaling by N-terminal acetylation and the N-end rule pathway (Science, this issue p. 1249)

細胞カリウムの、高感度の制御因子(A sensitive regulator of cellular potassium)

K2Pと呼ばれるカリウムチャネルのあるクラスは、ほとんどの細胞における静止膜電位を調節している。このチャネルは、機械的伸長や電位のような因子と同じく、抗うつ薬 Prozacを含む複数のリガンドによって調節される。Dongたちは、ヒト K2Pチャネルである TREK-2の構造を, 2種類の立体構造に加えて Prozacの代謝産物に結合した状態で決定した。この構造は、リガンド結合あるいは機械的な伸長が、いかにして状態間の切り替えを誘発するかを示している。2つの状態ともオープンなチャネルをもつが、その1つは刺激されてゲート開閉のために働くらしい。Prozacの代謝産物はこの刺激を受けた状態に結合して、立体構造変化を妨げる。K2PチャネルはProzacの標的ではないが、その抑制は、副作用の一因になるかもしれない。(KF.KU,nk,ok,kh)
K2P channel gating mechanisms revealed by structures of TREK-2 and a complex with Prozac (Science, this issue p. 1256)

敗血症の新たな治療標的(A new therapeutic target for sepsis)

感染症はときに、強力な免疫応答を解き放し、制御できない状況になって、敗血症や臓器不全、そして死までもたらすことがある。抗生物質が感染症を鎮圧することもあるが、敗血症の患者は、免疫応答を御する治療法をも必要とする。Weberたちはこのたび、1つの潜在的な標的である分泌タンパク質、インターロイキン3 (IL-3)を同定した(Hotchkissによる展望記事参照)。敗血症の患者では、IL-3の血清中濃度が高く、これは死亡率の高さと相関していた。敗血症のマウスでは、IL-3が、免疫系に単球および好中球と呼ばれる、高度に炎症性のあるタンパク質を分泌する細胞を大量に産生するよう仕向けていた。IL-3のブロッキングにより、マウスを敗血症起因の死から護った。(KF,KU,ok,kh)
Interleukin-3 amplifies acute inflammation and is a potential therapeutic target in sepsis (Science, this issue p. 1260; see also p. 1201)

ロドプシンの動きを明らかにする(Lighting up rhodopsin movement)

最も速いシグナル伝達現象の一つは、光に対する目の応答であり、それは Gタンパク質結合受容体ロドプシンによって検知される。種々雑多な Gタンパク質結合受容体に関してなされた多くの構造解析とは対照的に、Malmerbergたちは、自然な膜環境でのロドプシンの光誘導構造変化を調べた。数ミリ秒内で、ロドプシンは安定な活動的構造に変化したが、この構造は隣接する二つの膜貫通領域の部分の動きと関連していた。ロドプシンの光活性化において、これらの動きは、活性化したロドプシンの結晶構造で示唆されるよりもかなり大きく、そして伸長した構造変化を暗示していた。(KU)
Conformational activation of visual rhodopsin in native disc membranes (Sci. Signal. 8, ra26 (2015))
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