AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 19 2014, Vol.346


ヨーロッパの大型肉食動物にとっての成功とは?(Success for Europe's large carnivores?)

悲観的であった予測に反して,ヨーロッパの大型肉食動物は回復しつつある.Chapronたちは,ヨーロッパ大陸の1/3に,ヒグマ,ヨーロッパオオヤマネコ,ハイイロオオカミ,クズリの個体群が持続可能な規模で存続していることを報告している.それに加えて,多くの個体や個体群が,野生動物保護のために設けられている保護区域外で生き延びており,また,増加しつつある.著者たちは,世論の高まりや保護に向けた立法措置により,人間と隣り合わせで共存することが可能となったことを議論している.(MY,nk)
Recovery of large carnivores in Europe's modern human-dominated landscapes (Science, this issue p. 1517)

下界でオゾンを使うことが,上空でのオゾンを維持することになるかもしれない(Using ozone below may conserve it above)

大気中の笑気ガス(laughing gas)の蓄積は笑いごとではない.亜酸化窒素(N2O)は強力な温室効果ガスであり,また,オゾン枯渇剤である.ナイロンの生産では,前駆体であるアジピン酸の製造時に副産物として相当量のN2Oが放出される.今回,Hwang と Sagadevan は,シクロヘキサンのオゾンでの処理と紫外線の照射を同時に行うことからなるN2Oの発生を伴わないアジピン酸合成の代替ルートを示している.このため,皮肉にも,反応剤にオゾンを適用すると,結局は,大気中でのオゾン濃度維持に一役買うことになるかもしれない.(MY,nk)
【訳注】
・笑気ガス:亜酸化窒素の別名
One-pot room-temperature conversion of cyclohexane to adipic acid by ozone and UV light (Science, this issue p. 1495)

薬剤耐性を詳細に,また,個別に(Drug resistance, up close and personal)

腫瘍増殖を促進している特異的遺伝子変異を標的とするがん治療は,がん治療法は,実際の患者の治療で有望な実績を示してきた.しかしながら,腫瘍が新たな変異を獲得し、これらの治療への耐性を与えるために,その効き目は,しばしば短期間である。厄介なことに,耐性のメカニズムは患者ごとに異なっている.Crystalたちは,耐性腫瘍に対して最も効果がありそうな治療薬を特定するため,薬剤耐性が生じた後の個々の患者の腫瘍から細胞株を樹立し【訳注】,その培養細胞上で薬剤スクリーニングや遺伝子解析を行った.この方法により,培養体とマウスの双方で耐性腫瘍細胞の増殖を停止させる薬剤の組み合わせを特定することに成功した.将来的には,患者由来の細胞に対する薬理学的分析は,個々のがん患者の治療法を選択する上での効果的な方法となるであろう.(MY,KU,ok,nk)
【訳注】
・細胞株の樹立:培養条件などを工夫し、ほぼ無限に増えるようになった細胞を作り,それを安定的に培養して研究に利用できる状態にすること
Patient-derived models of acquired resistance can identify effective drug combinations for cancer (Science, this issue p. 1480)

深海の循環における短期的しゃっくり(A brief hiccup in deep ocean circulation)

最終間氷期の間、南極の海底水(Antarctic Bottom Water:AABW)の形成が著しく低下した。この最も密度の高い海水は海の底に沈み、そしてその産生により海洋に水を勢いよく流し、最終的に有機物の沈降から形成される二酸化炭素を大気中に戻して再循環するのを助ける。もし、AABWの産生速度が減少すると、その時には炭酸ガスが深海で蓄積し、大気中炭酸ガス濃度の対応する低下をもたらす可能性がある。Hayesたちは、深海の堆積層中でのウランスパイクの形で、AABW形成におけるこのような減速が、127,000年前頃に生じていたという証拠を見出したが、このことはその時代に観測される大気中炭酸ガスの極小をもたらしたであろう。(KU,ok)
【訳注】
・ウランスパイク:沈殿槽におけるpore water中の炭素濃度を用いた酸素濃度を決める代用特性
A stagnation event in the deep South Atlantic during the last interglacial period (Science, this issue p. 1514)

免疫系において、沈黙は金である(For the immune system, silence is golden)

免疫系において、バランスは重要である。免疫細胞は侵入する病原体を除去するが、しかし自身に対してはを大目にみることを学ぶ必要がある。 調節性 T細胞(Treg)と呼ばれる細胞型はこのバランスを維持するのを助けるが、しかしどうやってそのようなことを、特に人においてするのか不明である。Maedaたちは、Tregが T細胞を「沈黙」させて、自己への反応性を穏やかにさせていることを報告している。 Tregとともに培養後に、このサイレンス(沈黙化)されたT細胞はほとんど増殖することなく、そして抗原への応答においてサイトカインを全く産生することもなかった。 著者たちは、次に健常ドナーと自己免疫疾患を持つ人々からのT細胞を調べた。健常ドナーのみが、サイレンス(沈黙化)されたT細胞を持っており、このことは、もしサイレンシング(遺伝子の発現を停止させること)が失敗すると、自己免疫が結果として生じることを示唆している。(KU,ok,nk)
Detection of self-reactive CD8+ T cells with an anergic phenotype in healthy individuals (Science, this issue p. 1536)

どのようにトランスポーラーアークは天空に発生するのか(How trans-polar arcs transpire above)

オーロラは南北の極を取り巻く環状の高空に現れ、南北極自体の上には出現しない。しかし、時にオーロラ環を横断して極冠上に輝くオーロラが見られる。このトランスポーラーアークは視覚的にも驚嘆に値するものである。そして、それらは、また、地球の磁気圏に捉えられた巨大エネルギーのプラズマであることを示している。Fear たちは、オーロラと、地球の磁気圏尾部に捉えられたプラズマの兆候の同時観測とを組み合わせて、オーロラとプラズマ捕獲の二つの現象が実際に同時に組み合わさって起きることを最近の事象で示した。何人かの研究者は、磁気リコネクションによって生み出された流束が、磁気圏尾部のローブに捕捉されているという提案をしている。しかし、磁気圏の標準モデルでは、そのようには予測されない。この研究は、惑星間磁場が北方向を指している期間を利用して、そのアイデアを確認したものである。この北を指した状態は、今なお十分には判っていない。(Wt,nk)
Direct observation of closed magnetic flux trapped in the high-latitude magnetosphere (Science, this issue p. 1506)

膜貫通性亜鉛輸送体を構築する(Building transmembrane zinc transporters)

タンパク質を設計することができれば、タンパク質の折り畳みとその機能との間の関係に関する洞察が得られ、そしてまた、生物工学的応用に向けてタンパク質を作る道筋を与えるであろう。可溶性のタンパク質の設計において、目覚ましい進展がなされたが、しかし膜タンパク質の設計は課題として残っている。Johたちは、膜貫通性の Zn2+輸送体を設計することで大きな一歩を踏み出している(Lupasによる展望記事参照)。このタンパク質は4つのらせん体から構成されている:二つの強く相互作用している対はより弱い界面を形成しており、このことは随伴するプロトンの逆方向の輸送と共に Zn2+の輸送を促進している。(KU,ok)
De novo design of a transmembrane Zn2+-transporting four-helix bundle (Science, this issue p. 1520; see also p. 1455)

病理学者たちよ、見よ!レンズ無しで!(Look, pathologists! No lens!)

光学顕微鏡で全体的なヒト組織をイメージングするには、500+の画像を貼り合わせる必要がある---ディジタル化処理は先進的研究室にほぼ限られている。Greenbaumたちは、低コストのホログラフィー技術に基づくレンズ無しの顕微鏡を開発した。この技術は、通常の技術で可能な大きさよりも百倍大きな視野を可能とする。この方式は小さなチップを用いており、そして厚い組織サンプルを通す三次元的な焦点合わせが可能である。このチームは、臨床診断において十分な分解能とコントラストでもって、ヒト癌細胞や、パパニコロウ染色によるスライド中の異常細胞、及び全血スライド中の鎌状赤血球を可視化した。その高分解能とスピーディな読み取りにより、この新たなプラットフォームは世界中の病理研究室で活用されるであろう。(KU,nk)
【訳注】
・パパニコロウ染色:検体をスライドに塗り付け顕微鏡で観察する際の検体の染色法の一つ
Wide-field computational imaging of pathology slides using lens-free on-chip microscopy (Sci. Transl. Med. 6, 267ra175 (2014))

ダイナミックなタンパク質の状態制御(Controlling the state of dynamic proteins)

界面から離れた部位に結合することでタンパク質のオリゴマー状態を変化させる小分子は、“アロステリック”と呼ばれている。しばしば、それらは内在性タンパク質のダイナミクスを利用し、そしてそのタンパク質の或る特定の高次構造を安定化させることによって作用する。Pericaらは、変異体も同じ様に遠距離からタンパク質構造を変える作用をしていることを示している。彼らは、RNA-結合タンパク質において11の変異を同定したが、それらはタンパク質が二量体として、または四量体として安定しているかどうかを決定する。祖先配列の研究は、アロステリック変異がより低い環境温度への受け身の適応の一部であることを示した。オリゴマー状態を調節するこのメカニズムは、おそらく進化において一般的である。(hk,KU,nk)
Evolution of oligomeric state through allosteric pathways that mimic ligand binding (Science, this issue 10.1126/science.1254346)

幹細胞を使って脳腫瘍を全体としてモデル化する(Modeling brain cancer from stem to stern)

びまん性内在性橋グリオーマ(DIPGs)は,主に小児が侵される悪性の脳腫瘍である.腫瘍は生命維持に必須機能の多くを制御している脳幹に発生するため,手術による摘出ができず,しばしば死に至る病となる.DIPGsの発症原因を研究するため---特に,この病の70%の症例に見られるヒストン H3.3変異の役割について---,Funatoたちは新しい腫瘍モデルを開発した(BecherとWechsler-Reyaによる展望記事参照).彼らはまず最初に,胚性幹細胞を神経前駆細胞へと分化させた.彼らは、次に上記変異ヒストンの遺伝子を含む或る特異的な遺伝子の組み合わせを導入し、そしてこれにより神経前駆細胞ががん細胞特有の特徴を獲得することを見出した.このがん化の際に,細胞はさらに原始的な分化状態に立ち戻り,また,幾つかの重要な調節遺伝子で変化したヒストン標識を示した.(MY,nk)
【訳注】
・びまん性内在性橋グリオーマ:脳幹部内部に発生する治癒が極めて難しい小児腫瘍
Use of human embryonic stem cells to model pediatric gliomas with H3.3K27M histone mutation (Science, this issue p. 1529; see also p. 1458)

内在性レトロウイルスが B細胞の引き金を引く(Endogenous retroviruses trigger B cells)

我々のゲノム全体には内在性レトロウイルス(ERV)がちりばめられているが、これは、以前のウイルス感染の古い「名残り」である。科学者たちはその役割を十分に理解できていないが、Zengたちはこのたび、マウスにおいて、B細胞によって駆動される免疫応答(T細胞非依存、略してTID)の特定の型を動員する際の、ERVの一つの役割を報告していて、これは通常、ウイルス性カプシドあるいは細菌多糖類への応答として始まるものである(GrassetとCeruttiによる展望記事参照)。TID抗原モデルでマウスに免疫を与えると、B細胞の細胞質中のERVのRNAとDNAとに増加が誘発された。細胞質のヌクレオチドを認識する生得的な免疫受容体がそれに続いて、免疫グロブリンMの産生をもたらすシグナルカスケードの引き金を引くこととなった。(KF)
MAVS, cGAS, and endogenous retroviruses in T-independent B cell responses (Science, this issue p. 1486; see also p. 1454)

うまい位置を振動させて大きな影響を与える(Big impact from a well-placed shake)

超短レーザーパルスの登場以来、化学者たちは特定の分子振動を生じさせて、リアルタイムで反応の軌跡をたどろうとしてきた。Delorたちはこの手法を用いて、白金錯体の軸に沿った電子移動の確率に関する極めて明確な影響を実証した。この錯体は、ドナーとアクセプタのフラグメント(それらは紫外励起により互いに電子を授受する)からなっており、金属中心と結合した三重結合の炭素鎖により互いに架橋している。赤外パルスを用いて炭素三重結合の伸縮振動を選択的に刺激することにより、著者らはフラグメント間の観察された電子移動の経路に大きな変化を引き起こすことができた。(Sk,nk)
Toward control of electron transfer in donor-acceptor molecules by bond-specific infrared excitation (Science, this issue p. 1492)

金触媒をできるだけ広範囲に分散する(Dispersing catalytic gold as widely as possible)

触媒用の貴金属を最大限に働かせるためには、その金属を(ゼオライトのような)高表面積を有する何らかの支持体上に付着させ、さらに可能な限り多くの金属が露出するように、金属を小さなクラスターあるいは原子の状態にまでしておくことが重要である。後者の目標は、たいていのゼオライトやメソポーラス酸化物を構成しているアルミやシリコンの酸化物を用いるよりも、セリウムやチタンのような還元性の金属酸化物を用いることでより容易に達成できる。Yangたちは、ナトリウムやカリウムが水酸基やオキソ基と共に金を安定化し、燃料電池のような応用に役立つ可能性のある、低温での水性ガスシフト反応のための高い活性を持つ触媒を作り出せることを示した。(Sk,KU,nk)
【訳注】
・メソポーラス:1nmから数十nmの大きさの多数の孔を持つ多孔性材料
・水生ガスシフト反応(water-gas shift reaction):一酸化炭素と水から二酸化炭素と水素を作る反応
Catalytically active Au-O(OH)x- species stabilized by alkali ions on zeolites and mesoporous oxides (Science, this issue p. 1498)

ナノ粒子の成長は縁から始まる(Nanoparticle growth starts at the edges)

燃料電池中で生じる反応に対する白金のような貴金属の高い活性は、ニッケルやコバルトのような金属と合金化しナノ粒子を形成することにより増大させることができるが、白金は角や縁の部分に集中する。Ganたちは高解像の画像化とモデル化を組み合わせて、成長時間の経過に伴う、これらの合金の八面体ナノ粒子の形成の様子を追った。まず伸長する形態と共に白金リッチな相が形成され、粒子の縁や角になっていき、そして合金化する金属が面を埋めるように堆積していく。(Sk,KU)
Element-specific anisotropic growth of shaped platinum alloy nanocrystals (Science, this issue p. 1502)

反応速度に関するシュタルク効果(Stark influence on reaction rates)

酵素は、分子をちょうど適切な反応状態に仕向けることによって、化学プロセスを促進する。Friedたちはこのたび、ケトステロイド異性化酵素が局所性の電場の行使によってその基質を生成物に向けて押しだすやり方を解明している(Hildebrandtによる展望記事参照)。著者たちはまず、Stark(シュタルク)シフトとして知られる分子の振動周波数のシフトを較正した。これは基質の類似体に働く電場の強さを変えた時に振動数がどう変化するかを測るのである。著者たちは次に、酵素の活性部位中のその化合物の振動スペクトルを測定した。この実験は基質が反応することになる正確な位置の方向に向けて、酵素の局所構造が異常に強い電場を発生していることを解明したのである。(KF,KU,nk)
Extreme electric fields power catalysis in the active site of ketosteroid isomerase (Science, this issue p. 1510; see also p. 1456)

遺伝子の発現ノイズを調整するプロモータ(Promoters tune gene expression noise)

一つの組織内の細胞は、遺伝的に同一であり、同じもののように見えるが、それらはしばしば遺伝子発現のパターンにおいて可変性を示す。生物は、さまざまな環境ストレスへの暴露に備えて、これを必要としている可能性がある。合成生物学の道具を用いて、Jonesたちは広範囲の大腸菌プロモータを作成し、そこでは鍵となる分子パラメータ(タンパク質の結合と結合解除の速度など)が体系的に変えられ、そしてその結果生じる発現ノイズをパラメータ-フリーなモデル予測と比較する。この研究は、発現ノイズが調整可能なパラメータであり、異なる(が予想可能な)発現ノイズのパターンをもたらす様々な遺伝子制御アーキテクチャを有していることを実証している。(KF,KU,ok)
Promoter architecture dictates cell-to-cell variability in gene expression (Science, this issue p. 1533)

界面における活性の設計(Designing activity at an interface)

酵素は、細胞の働き手であるタンパク質である。生きている系中にも現れる新たな機能をもった酵素を設計することは、生物工学や合成生物学のアプリケーションにおいて極めて価値あるものとなりうる。しかしながら、酵素設計は挑戦的な課題であり、これまでは主に自然な酵素を別目的に転用するか、試験管内の系に限られていた。SongとTezcanは、単量体のレドックスタンパク質から始めて、変異を導入することで、触媒作用のある亜鉛イオンをその界面にもつ四量体へと構築させるようにした。このタンパク質組立物は、抗生物質耐性の一次機構である、β-ラクタマーゼ活性を示し、そして大腸菌細胞がアンピシリン処置に生き延びることを可能にした。(KF)
A designed supramolecular protein assembly with in vivo enzymatic activity (Science, this issue p. 1525)

地域的な気候変動は予測可能か?(Can regional climate change be predicted?)

全球気候モデル(GCMs)は、非常におおざっぱに将来の気候を予測することができる。このような予測は地域的な変動を理解し、対策をうつのに必要な精度を有していない。「規模を縮小する(Downscaling)」手法では、地域的な気候変動をモデリングするための端緒として GCMの結果が用いられる。地域の気候変動の適応プラニングに関心を有する研究者や政策立案者は、このような規模縮小モデルから得られた結果を注意して扱うべきである、とHallは説明している。すなわち、しばしば気候温暖化のパターンは十分信頼がおけるとして、規模を縮小して扱われるが、大気循環の変化を捕らえることは非常に難しい。(Uc,KU)
Projecting regional change (Science, this issue p. 1461)

危険なエキソソームが癌を広める(Menacing exosomes spread cancer)

エキソソームは、細胞から遊離される小さな小胞であり、タンパク質や脂質、核酸を輸送している。これら積荷は、受け取り側の細胞の生態過程(biology)に影響を与える。展望記事で、Anastasiadouと Slackは、その小胞が癌の伝播の媒体としていかに作用しているかを明らかにする最近の研究に光を当てている。癌細胞によって遊離されたエキソソームは、発癌性のミクロ RNA(miRNA)やmiRNA生物発生に関与するタンパク質、及び腫瘍増殖と転移を支える炎症条件を誘発する miRNAを宿している。そうした癌のエキソソームは、動物実験において正常な細胞に腫瘍を形成する原因となる。この知見は、エキソソームをベースにした診断法と癌の治療法の開発を導くものとなりうる。(KF,KU)
Malicious exosomes (Science, this issue p. 1459)

感染後の炎症を止める(Stopping inflammation after infection)

微生物への応答において、生得的免疫細胞は転写制御因子 NF-κBを活性化し、結果として炎症促進性サイトカインの遊離をもたらす。いったん感染が治まると、NF-κBシグナル伝達が抑制され、過剰な炎症と組織損傷を防ぐ。Tanakaたちは、このフィードバック抑制にはシャペロン・タンパク質 HSP70を必要とし、これが樹状細胞中の NF-κBサブユニット、p65を破壊していることを見出した。HSP70の欠乏した樹状細胞は、炎症促進性サイトカインを野生型の細胞よりも多く産生し、そして HSP70の欠乏したマウスでは、細菌感染に対し野生型のマウスよりもより持続的炎症応答を示した。(KU,nk)
HSP70 mediates degradation of the p65 subunit of nuclear factor κB to inhibit inflammatory signaling (Sci. Signal. 7, ra119 (2014))
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