AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 12 2014, Vol.346


花粉媒介昆虫にとっては良くないことであった緑の革命("Green" revolution not so great for pollinators)

多くの花粉媒介種でその個体数が減少していることが、更にに認識されつつある。Ollertonたちは、ミツバチや訪花性の大型ハチの英国における数分布が、19世紀中ごろから今日までどう変化してきたかを調べた。第二次大戦後の農業集約化はたくさんの種に悪い影響を与えたことは良く知られているが、花粉媒介昆虫の減少は、他の変化が農業管理や農業政策に関してなされたこの時期に先立っこと何十年も前から始まっていた。(Uc,KU,nk)
Extinctions of aculeate pollinators in Britain and the role of large-scale agricultural changes (Science, this issue p. 1360)

シリコンを通る電子ダーツの観測(Watching electrons dart through silicon)

電子回路における究極の速度限界は、電子自体の運動によって決まる。Schultzeらはアト秒(10-18秒=100京分の1秒)分光法を適用して、現代の集積回路を構築する半導体材料であるシリコン試料内での電子の運動を観測した(Spielmannによる展望記事参照)。その技術は、電子のダイナミクス (レーザ励起後の10-15秒よりも速く進む)をシリコン原子核の比較的低速な格子運動と区別した。(hk,KU,nk)
Attosecond band-gap dynamics in silicon (Science, this issue p. 1348; see also p. 1293)

有機金属骨格体物質からなる膜(Metal-organic framework material membranes)

気体分離用に実用化されている現行の高分子膜を上回る気体分離膜の開発には,引き続き高い関心が持たれている.Pengたちは,層構造を持つ多孔性有機金属骨格体物質を選び,これを剥がしてナノメートル厚みの分子ふるいを作った.この膜は,二酸化炭素からの水素ガスの分離において,透過性と選択性の両面で並はずれて優れていた.(MY)
Metal-organic framework nanosheets as building blocks for molecular sieving membranes (Science, this issue p. 1356)

HIVを攻撃する激烈な競争(A fierce competition to attack HIV)

HIV分野における聖杯(The Holy Grail)とは、保護ワクチンである。しかしながら、HIVは急速に変異するため、ワクチンの作る抗体を逃れる。にもかかわらず、HIV陽性の人の中には HIVが簡単に逃げることのできない、いわゆる広中和抗体(bNAbs)という抗体を持つ人もいる。McGuireたちは、これらの bNAbsが、何故に感染後の初期に狭い範囲のウイルスを中和する彼らの仲間(nNAbs)に勝てないのかを調べた(Ofek and Diskinによる展望記事参照)。彼らは、NAbsと bNAbsの生殖系列バージョン(即ち、HIVが最初に遭遇するであろうこれらの Absのバージョン)を持つ B細胞の、HIVの外被糖タンパク質 (Env)に対する応答を比較した。nNAbsは、bNAbsに比べてより多様な一連のウイルス由来の Envを認識することができたが、このことがnNAbsをして競合有利に導いた。(KU,nk)
Antigen modification regulates competition of broad and narrow neutralizing HIV antibodies (Science, this issue p. 1380; see also p. 1290)

宿主-病原体間の共進化の最前線(The frontline of host-pathogen coevolution)

病原体は、殺されることから免れるには、宿主の先天性防御機構を潜り抜ける必要がある。今回,BarberとEldeは,この行動原理が,鉄を結合するトランスフェリンのような栄養-輸送タンパク質にまで及んでいることを示している(ArmitageとDrakesmithによる展望記事参照).鉄がないと侵入した病原体は複製ができない,しかしながら,トランスフェリンが鉄を取り込んでいて,病原体に鉄を利用できなくさせている.そのため,病原体はトランスフェリンの鉄を奪い取ることが可能な輸送体を次々と進化させてきた.病原体の手中にある鉄を奪い返すために,霊長類のトランスフェリン結合性表面の共進化が経時的になされてきた.(MY,nk)
Escape from bacterial iron piracy through rapid evolution of transferrin (Science, this issue p. 1362; see also p. 1299)

対話が態度変化への機会を与える(Dialogue opens the door to attitude change)

グループ内とグループ外の対等な立場の人の間の個人的接触は、認識の差を狭め、かくしてグループ間の関係を改善する。LaCourと Greenは、ゲイの調査員との単なる20分間の会話が、ロスアンジェルス州の住民たちの同性結婚に対する態度において大きな、そして持続的な変化をもたらしたことを実証している。調査は、最初の会話の後9ヶ月間まで持続的な変化を示した。実際のところ、調査員に対応した人に生じた変化の大きさは、ジョージア州(=保守的)とマサチューセッツ州(=進歩的)での態度間の差に匹敵した。(KU,nk)
When contact changes minds: An experiment on transmission of support for gay equality (Science, this issue p. 1366)

金属にパターニングするレーザ衝撃によるマーキング(Laser shock imprinting for patterning metals)

高い忠実度で、小規模でパターニングをするとき、多くの場合、解像度あるいは可とう性に限界を持つフルパターン法と遅いプロセスだが、高解像度のパターン生成できるシリアル法との間で間でトレードオフの関係がある。また、金属は、非常に小規模での成形性に限界がある。Gaoらは、衝撃波インパルス生成にレーザを使って、非常に滑らかな三次元結晶の金属ナノ構造を作成する方法を開発した。衝撃波は、非常に高いひずみ率の変形を作り、これが金属の通常の強度に打ち勝ち、結果としてパターニングへの抵抗に打ち勝つ。(hk,KU) Large-scale nanoshaping of ultrasmooth 3D crystalline metallic structures (Science, this issue p. 1352)

白血病発生のスーパー・エンハンサー(A super-enhancer in leukemia development)

ヒト癌ゲノムのプロジェクトは、変異に関する豊富な情報を与えたが、その中には遺伝子の翻訳領域内に存在し、そしてタンパク質生成物を機能的に変えることで腫瘍増殖を促進する変異を含んでいる。しかしながら、癌に関するこの変異の描写は不完全である:ますます多くの数の変異が遺伝子調節領域内で見出されつつある。Mansourたちは、幼児期の癌である T細胞性急性リンパ性白血病の研究において、これに関する興味ある例を報告している(Vaharautio and Taipaleによる展望記事参照)。この癌の増殖を促進すると知られている癌遺伝子は高レベルで白血病細胞中で発現しており、その理由はこの細胞が癌遺伝子の上流に強力なスーパー・エンハンサー(転写を活性化するDNA配列)を作る変異を宿しているからである。(KU)
An oncogenic super-enhancer formed through somatic mutation of a noncoding intergenic element (Science, this issue p. 1373; see also p. 1291)

動的なシグナルが情報伝達を増強する(Dynamic signals enhance information transfer)

細胞は生きのびていくために、自身の外部環境についての情報を確実に処理する必要がある。しかしながら、生化学反応あるいは個々の細胞の状態における変異ないしノイズのせいで、細胞が活性化しているリガンドの存在、あるいは非存在の検出だけでなく、その濃度までも検出することは難しい。Selimkhanovたちは、細胞のシグナル伝達回路が、長時間にわたって継続的にシグナルをモニタリングすることによって、この問題を乗り越えていることを示している。培養されたヒト細胞におけるそうした動的応答は、より効率的にノイズとシグナルを区別し、それによって、外部シグナルから細胞へと伝達される情報の損失を回避しているのである。(KF,nk)
Accurate information transmission through dynamic biochemical signaling networks (Science, this issue p. 1370)

鳥類の進化:鳥類はどのようにして空に向かったのか(Bird evolution: How birds took to the air)

鳥類の起源と進化に関する研究は,次々と発見される新しい化石,及び,分子系統発生学のお蔭で,近年その進展が加速されてきている.特に起源に関しては,初期の化石記録が相対的に乏しい哺乳類に較べ、鳥類の起源の方が現在では理解がより進んでいる.Xuたちは,特に中国東北部の羽毛のある恐竜化石の最近の発見に焦点を当て,獣脚恐竜に遡る鳥類の起源の進展についてレビューしている.彼らは発生生物学と機能解剖学に関する最近の研究を古生物学上の記録と統合して,鳥類の重要な特徴---羽毛,翼,飛行---がどのようにして祖先となる恐竜から始まり,進化し,枝分かれしたのかを示した. (MY,nk)
An integrative approach to understanding bird origins (Science, this issue 10.1126/science.1253293)

特異的な物質状態を予言する(Predicting an exotic state of matter)

グラフェン同様、遷移金属ダイカルコゲナイドの2次元薄片は、興味深い電子特性を示すことが知られている。Qian等はこれら材料がある特定の構造を持つとき、いわゆるスピンホール効果を示すことを明らかにしている。スピンホール効果とは、2次元材料の縁に沿って電子が流れ、エネルギー散逸を大幅に低減できる特異的な物質状態のことをいう。筆者らは第一原理計算を駆使して解析を行ったところ、同物質は広いバンドギャップを示す特徴があり、故に望ましくないバルクな電気伝導を低減できることを発見している。これらの特性を活かすと、電界を使って瞬時にオンオフできる電子デバイスが作れるであろう。(NK,nk)
Quantum spin Hall effect in two-dimensional transition metal dichalcogenides (Science, this issue p. 1344)

地球外生命体の化学と物理(Chemistry and physics of extraterrestrial life)

他の惑星に生命体は存在するのだろうか?この疑問に答えるため、科学者は、まず最初に、惑星に生命が生息できる要件を決定しなくてはならない。火星はこの問題を探るための自然界の実験室を提供してくれる。展望記事において、Conradは、1976年の Viking landers から始まって、火星へ向けての数多くの宇宙飛行では、火星が生命を維持できるのか、あるいは、過去にそれが可能であったのかを定める試みがなされたと説明している。可動式の探査車は、軌道衛星の助けを借りて、地表面を調査したが、さらに最近は、地表面下を掘り返す道具を装備するようになった。これらの宇宙飛行によって、現在と過去の両方の化学的な、また、物理的な条件に関する情報が得られ、近いうちにいっそう決定的な解答を得ることが可能となろう。(Wt,nk)
Scratching the surface of martian habitability (Science, this issue p. 1288)

断層の破断に関与するナノ線維(Nanofibers involved in fault rupture)

破断の際の断層の性質の変化が、地震の規模と範囲を決定する。断層の発生は良く知られた微細構造の形成につながる。この微細構造は破断の際に自然界での断層がどうずれるかに重要な役割を果たす。Verberneたちは炭酸塩断層のシミュレーション実験で、断層上にできた微細構造中にナノ粒子の小さな線維を見出し、それを研究した。微細物質によるモデルにより、自然な断層に見られるのと同様な断層すべりの暴走が、小さな整列した線維からどのように産み出されるかが説明できた。こうした小さな構造が、炭酸塩断層において役割を果たしており、また、同様の微細構造が他の岩石タイプにおける断層の破断を制御している可能性がある。(KF,nk)
Superplastic nanofibrous slip zones control seismogenic fault friction (Science, this issue p. 1342)

角膜輪部の幹細胞に注目(All eyes on human limbal stem cells)

我々の角膜、すなわち見ることを可能にしている透明な構造は、外傷や感染症によって簡単に傷つき、それによって瘢痕や失明をもたらすことがある。角膜は移植できるが、免疫応答や角膜ドナーの不足のせいで、移植は限定される。Basuたちは、角膜の瘢痕化を防ぐための細胞ベースのアプローチを発明した。彼らはヒトの角膜輪部(角膜と強膜の間の領域)から幹細胞を手に入れたが、それは角膜実質細胞(角膜の細胞)へと分化可能なものである。この幹細胞は、フィブリンのゲルに包まれて、マウスの目の傷ついた表面に表面に塗りつけられると、活発に新たな角膜組織を再生した。そうした細胞は、患者から直接手に入れられる可能性があり、瘢痕化の治療や失明を防ぐのに使うことができる。(KF,KU,nk)
Human limbal biopsy-derived stromal stem cells prevent corneal scarring (Sci. Transl. Med. 6, 266ra172 (2014))

電子顕微鏡法の黄金期(A golden era for electron microscopy)

結晶化が困難なタンパク質複合体の構造を決定する上で,電子顕微鏡法(EM)は魅力的な手法である.近年の電子検出器の素晴らしい進歩により,原子の分解能に近いEMでの構造決定が可能となっている.さらなる改良に対する重大な障害は,1つ1つの被観測対象が,電子線照射中に動いてしまうことである.RussoとPassmore は,現状の支持体よりも電子線照射中での動きが少なく,その結果,タンパク質試料の動きを抑制する金の支持体を設計した.彼らは,この支持体を用いることで,α-へリックスからなる球状の中空殻構造をとっているため,EMでの決定が特に困難であるアポフェリチンの構造を決定した.(MY)
Ultrastable gold substrates for electron cryomicroscopy (Science, this issue p. 1377)

レセプター型チロシンキナーゼがYAPにシグナルを送る(A receptor tyrosine kinase signals to YAP)

Hippo経路は、転写共役因子 YAPの活性を抑制することによって、細胞増殖を制限している。対照的に、ニューレグリンの ERBB4への結合のように、増殖因子がチロシン受容体キナーゼに結合すると、細胞増殖は刺激される。ニューレグリン結合はまた、ERBB4の切断の引き金となる。Haskinsたちは、ERBB4の細胞内領域を含む断片がYAPと相互作用し、活性化させることを発見した(Sudolによる展望記事参照)。ニューレグリンによって誘発された乳癌細胞の移動は、YAPをノックダウンすることでブロックされた。つまり、ERBB4は、レセプター型チロシンキナーゼシグナル伝達とYAPを刺激することの双方を通じて、腫瘍攻撃を促進できたのである。(KF,nk)
Neuregulin 1-activated ERBB4 interacts with YAP to induce Hippo pathway target genes and promote cell migration (Sci. Signal. 7, ra116 (2014))
Neuregulin 1-activated ERBB4 as a "dedicated" receptor for the Hippo-YAP pathway (Sci. Signal. 7, pe29 (2014))
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