AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 17 2014, Vol.346


集団的な竜巻発生数の増加(Tornadoes clustering in greater numbers)

地球温暖化は竜巻を増加させるだろうか?もしそうだとしても、それはまだ起きていない。Brooksたちは、1954年から2013年の間に米国で起きた竜巻の発生に関するデータを収集し、竜巻の回数が変化しているのか、そしてそれはどのように変化しているかを分析した。著者たちは竜巻の年間発生回数に明確な傾向を見ることはできなかったが、1970年代から竜巻の集団的な発生回数が増加していることを発見した。言い換えると、年間の竜巻の発生日数は減少してきているが、複数の竜巻が起こった日数は増加してきている。この集団的な発生現象がなぜ起こってきているのかは、明確ではない。(Uc,nk)
Increased variability of tornado occurrence in the United States (Science, this issue p. 349)

土星の最も小さな衛星の内部はどうなっているんだろう?(What's inside Saturn's tiniest moon?)

氷でできた天体であるミマスは、土星の主要な衛星のなかでは最も小さなものである。実際、スイスよりほんの少し広いだけである。地球の月と同様、ミマスの自転は、潮汐力により公転軌道と結びついており、いつも土星にほとんど同じ面を向けている。自転と公転の周期は、わずかではあるが、頻繁に相互に追い越しあっており、そのため、ミマスは土星から眺めたならば、前後に揺れているように見えるであろう。Tajeddine たちは、Cassini探査機を用いてそれらの運動を測定し、その運動からミマス内部に関して何が分かるかを調べた。驚くべきことに、そのデータは、氷表面の下に大洋があるか、あるいは、細長いコアがあるとするモデルと整合している。(Wt,nk)
Constraints on Mimas’ interior from Cassini ISS libration measurements (Science, this issue p. 322)

ナノ粒子を用いた解毒剤の過剰投与(Detoxing drug overdoses with nanoparticles)

迅速に対応すれば、薬の過剰摂取から命を救える。有毒な薬や毒に対する適切な解毒剤が手元に無ければ、どうしょう? 腹膜透析(衰弱した腎臓の機能を元に戻す昔からの方法)に関する新たな展開が、その答えを与えるかもしれない。Forsterたちは、ラットの腹膜腔の中にナノサイズの脂質の胞を注射した。アンモニアのような荷電毒素が、その pH勾配によって酸性の小胞の内部に運び込まれた。これらの役割を持ったリポソームを用いた腹膜透析はまた、致死量のベラパミル(過剰摂取で死に至る心臓の薬)による苦痛からラットを救った。このアプローチはまた、他の薬にも有効であった。このように、リポソームは万能の解毒剤となる可能性がある。(KU,ok,nk)
【訳注】
・リポソーム:リン脂質からなる二重膜層の小胞で、人口膜の一つ
Liposome-supported peritoneal dialysis for detoxification of drugs and endogenous metabolites (Sci. Transl. Med. 6, 258ra141 (2014))

リンパ液の一方向性の流れを確実にする(Ensuring a one-way flow of lymph)

一方向性の流れを保証するリンパ管と弁が無ければ、血液から組織内に入り込んだ流体と免疫細胞-即ちリンパ液-は、増加して、膨潤を引き起こすであろう。Liuたちは、弁になるようあらかじめ決められた発生中のリンパ管のその領域では、受容体 VEGFR3 濃度が高いが、エンドサイトーシスに関与するタンパク質、 epsin 1と2 の濃度は低いことに気付いた。リンパの幹を集める際に、epsin 1と2は、エンドサイトーシスと VEGFR3の分解をトリガーすることでVEGFR3のシグナル伝達を抑制した。リンパ管を裏打ちする血管内皮細胞中に epsin 1と2の欠如したマウスでは、リンパの弁に欠陥を有し、リンパ液の排出に障害を持っていた。(KU,nk)
【訳注】
・VEGFR3:欠陥内皮細胞成長因子のこと、脈管の発生や新生に関与する増殖因子
・エンドサイトーシス:外部から細胞内に物質を取り込む方式
Temporal and spatial regulation of epsin abundance and VEGFR3 signaling are required for lymphatic valve formation and function (Sci. Signal. 7, ra97 (2014))

とげで草食獣を寄せ付けない(A thorny defense keeps grazers at bay)

肉食獣に対する恐怖と回避行動が、インパラのような餌食となる草食動物種が餌をあさる方法や場所に対して、影響を与えることが知られている。このことが順次、植物の形態や群生に対して連鎖的な影響を与える。しかしながら、植物も彼ら自身の防御方法を有しており、それゆえ食う者と食われる者の踊りの輪の中での哀れな犠牲者になっているだけではなさそうである。Ford たちは、とげのあるアカシアの木は、インパラがワイルドドッグ(リカオン)に捕食されるリスクの低い地域に多く見られることを見出した。とげの無い同種のアカシアは、捕食のリスクが高く、それゆえお腹を空かせたインパラの数が少ない地域に最も多く見られる。(Sk,nk)
Large carnivores make savanna tree communities less thorny (Science, this issue p. 346)

複雑な光と物質の相互作用(Complex light and matter interactions)

電子を低温にした平面内に閉じ込め、磁場を印可すると、相互作用により、いわゆる多体状態を形成し、多様な量子電子挙動を示すことが知られている。しかし、根底にある相互作用を正確に理解することは困難である。Smolka等は、これら自己組織化に伴う電子状態を光を用いることで制御・操作し、特異な電子挙動の詳細を解決できることを示している。(NK,KU)
Cavity quantum electrodynamics with many-body states of a two-dimensional electron gas (Science, this issue p. 332)

利口なサルはコンピュータの裏をかく(Smart monkeys can outwit a computer)

我々が相手と競うことを学んできている時に、脳内ではどういうことが起こっているのだろうか? Seoたちは、サルの行動に適応できるコンピュータを相手にしているサルを観測した。サルたちは、己の相手が自分たちの行動に反応していることを見破ったときには、己の学習戦略を切り替えた。サルの脳内の背内側前頭前野細胞の応答によって、サルの戦略選択と戦略変更を予測できた。(KU,ok,nk)
Neural correlates of strategic reasoning during competitive games (Science, this issue p. 340)

膜を横切ってイオンはお互いノックしている(Ions knock each other across the membrane)

カリウムチャネルは細胞の膜電位の制御にキーとなる役割を果たしており、これが次に多様なプロセスに影響を与える。このチャネルは4っのカリウム結合部位を含んでおり、それらはカリウムと水とで交互に占有されていると考えられている。高分解能の結晶構造から始めて、Kopferたちはチャネルを横切る多くのカリウムイオンをシミュレートした(Hummerによる展望記事参照)。彼らは、イオンが、以前推定されていたような水によって分離されているのではなく、直接的に接触していることを見出した。イオン間の反発力がチャネルを通過するイオンの効率的な移動に重要となる。(KU)
Ion permeation in K+ channels occurs by direct Coulomb knock-on (Science, this issue p. 352; see also p. 303)

悪さをする T細胞の標的の発見(Finding the targets of T cells gone bad)

関節リウマチなどの自己免疫疾患は、免疫系が自身の身体を攻撃することの結果としてもたらされる。自己免疫性細胞によって標的とされる特異的タンパク質を同定できれば、我々は、その相互作用を遮断することができ、それは治療上有効になりうるだろう。Itoたちは、関節リウマチに似た病気の生じたマウスにおいてそのような標的の1つを同定した。病気の原因となる T細胞は、リボソームの一部であるタンパク質を1つ認識したが、それはタンパク質合成を触媒する大きなタンパク質複合体であった。彼らは、関節リウマチをわずらう人たちにおいても、このタンパク質に対して特異的なT細胞を発見した。(KF)
Detection of T cell responses to a ubiquitous cellular protein in autoimmune disease (Science, this issue p. 363)

人類のために進化を利用する(Exploiting evolution for humanity's sake)

人類は長年の間,人為選択を用いて進化の作用を活用してきた。家を共にする犬たちから,食卓に置かれる食物にいたるまで,私たちはこの作用の結果を,私たちの周りで目にしている。Carrollたちは,さらに意図的に進化を利用することにより、病気,気候変動,食糧確保を含む地球上の最も差し迫った課題に対処できる方法をレビューしている。(MY,nk)
Applying evolutionary biology to address global challenges (Science, this issue 10.1126/science.1245993)

マスターするには脳の変化が必要だ(Learning requires the brain to change)

私たちは,思っていた以上に脳の変化を用いているのかもしれない。Ohayonたちは,以下の点以外では正常な成体マウスの脳で、神経細胞の軸索沿いに絶縁性ミエリンを敷設していく細胞を不活性化した(LongとCorfasによる展望記事参照)。ミエリン形成細胞を欠いたマウスは,格子間隔が不均等な回し車を走ることを含む新規な運動技術を習得することができなかった。私たちが回し車を走ることはないだろうが,ジャクリングのような新しい運動技術をマスターしようと試みる場合,私たちもまた総じて,同じようなミエリン産生細胞次第ということになるかもしれない。(MY,nk)
Motor skill learning requires active central myelination (Science, this issue p. 318; see also p. 298)

公平にすることの進化上の利点(The evolutionary benefits of behaving fairly)

ヒトは公平さに関して、強く、かつ生まれつきの感覚をもっている。しかしながら、ヒトだけが明らかな不公平さに対して反発を示す種というわけではない。Brosnan と de Waal は、不公平さに対する反感が、二つのレベルに分解できることを提示した。最も基本的なレベルでは、個人は、等しい労力を掛けた場合の報酬が、その場で不公平に配分されると反発する。しかしその一方、二つ目のレベルとして、ある期間にわたる分配が公平になるであろうという期待のもとに、現在の不公平な分配を受け入れる能力を示す。この二つ目のレベルはある期間にわたる協力を促進し、現在の分配を評価した上で将来の公平化の機会を想像するという認識能力を要求する。霊長類の間で認識能力が向上するにつれて、公平な分配と協力を関係付けるこのより複雑な計算が、今日のヒトに見られるような完全な公平感にまで発達してきたのであろう。(Sk,ok)
Evolution of responses to (un)fairness (Science, this issue 10.1126/science.1251776)

小規模に再現された星の流出物(Stellar outflows replicated in miniature)

天文学者たちは、多くの天体の極から放射されるくっきりした明るいジェットを観察している。しかし、何がそのようにくっきりとジェットを集中させるのであろうか。Albertazziたちは、研究室の装置で縮小されたプラズマジェットを再現し、その挙動を形成途上にある若い星と一致させた。実験結果は、同軸上に整列したポロイダル磁場により、ジェットが平行になることを示している。広がろうとするプラズマが磁場によって急激に閉じ込められる際に、コーン状の衝撃波も生じる。(Sk,nk)
Laboratory formation of a scaled protostellar jet by coaligned poloidal magnetic field (Science, this issue p. 325)

損失を増しているにもかかわらずゲインを得ている(Achieving gain despite increasing loss)

光学活性物質中にエネルギーが注入されると、物質内の励起の蓄積(ゲイン)が臨界点に到達し、コヒーレント光またはレーザの放出が生じる。しかしながら、多くの系で、励起の蓄積は物質内での損失によって抑制される。損失は悪であり、最小化されるべきであるという従来の常識を覆して、Pengらは、注意深く結合した光系のさまざまなコンポーネント間の結合強度を微調整すると、実際に系により多くの損失を追加することによって光学特性の向上をもたらすことができることを示している(Schwefelによる展望記事参照のこと)。その結果、光学デバイスに損失を反作用させる巧妙な設計アプローチを提供することができる。(hk)
Loss-induced suppression and revival of lasing (Science, this issue p. 328; see also p. 304)

ほんの一瞬でフェニルアラニンを調べる(A very quick look at phenylalanine)

過去十年以上,レーザ技術は,直接観測の最小時間スケールをフェムト秒(10の15乗分の1秒)からアト秒(10の18乗分の1秒)へと短縮してきた。今まで行われたほとんどのアト秒での研究は,H2やO2のような極めて単純な分子を調べるものであった。今回,Calegariたちは,もっと複雑な分子であるアミノ酸のフェニルアラニンを調べている。彼らはフェルニルアラニンが超高速パルスを吸収した後、通常の励起振動が生じる前の電子構造の変化を追跡した。(MY,nk)
Ultrafast electron dynamics in phenylalanine initiated by attosecond pulses (Science, this issue p. 336)

根の問題の根本が明らかに(Getting to the root of a root problem)

植物の根系は栄養を求めて土壌中を探索するが、その探索は無差別に行われるのではない。根のある部分が、その植物の他の部分が要求する量の窒素を送達できない場合は、根の他の部分がそれを補償して、窒素の送達を強めている。Tabataたちはこのたび、このプロセスに関与しているシグナルを出す小さなペプチドを発見した(BisselingとScheresによる展望記事参照)。根のシュート中の対応する受容体によるこのシグナルを知覚したときのみ、根系は非生産的なメンバーを補償することができるのである。(KF,ok)
Perception of root-derived peptides by shoot LRR-RKs mediates systemic N-demand signaling (Science, this issue p. 343; see also p. 300)

網膜変性症への洞察(Insight into a retinal degeneration disease)

Human bestrophin 1(hBest1)は、網膜色素上皮中のクロライドチャネルを形成している膜タンパク質である。hBest1における変異は、Best病(遺伝性黄斑変性症)として知られる網膜変性症をもたらすことがある。Yangたちは、hBest1の細菌性相同体である KpBestの構造を記述している。KpBestは、中心にイオンチャネルをもつ五量体である。hBest1とは対照的に、KpBest1はナトリウムチャネルである。その構造は、KpBestと hBest1の突然変異誘発によって確証されるイオン選択の仕組みの存在を示唆している。KpBest構造に基づいた hBest1チャネル構造のモデルは、変異がいかにして病気の原因となるのかを明らかにしている。(KF)
Structure and selectivity in bestrophin ion channels (Science, this issue p. 355)

細胞骨格はストレスや加齢から保護する(Cytoskeleton protects from stress and aging)

転写制御因子 HSF-1には、蠕虫の寿命を伸ばすという、予期せぬ第2の機能がある。Bairdたちは、HSF-1の修飾型を線形動物において発現させた。修飾されたタンパク質は、タンパク質シャペロンをコードする遺伝子を活性化できなかった。そうしたシャペロンは、熱ショックや加齢の際の他の損傷から多くの細胞タンパク質を保護すると考えられている。しかしながら、修飾されたタンパク質はそれでも、他の遺伝子の転写を制御することによって蠕虫の寿命を伸ばすことができた。それが制御した遺伝子の1つは pat-10で、それはあるトロポニン様カルシウム結合タンパク質をコードするものである。PAT-10の過剰発現はまた、蠕虫の寿命を伸ばしたが、これは明らかにアクチン細胞骨格の安定性を変化させることによっていた。(KF)
HSF-1-mediated cytoskeletal integrity determines thermotolerance and life span (Science, this issue p. 360)
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