AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 10 2014, Vol.346


切断した手足の感覚を取り戻す(Restoring sensation to amputated limbs)

手足を切断した人たちの重要な課題は(義手、義足をつけた人であっても)、失った手足からの感覚が無くなることである。Tan たちは、二人の切断患者の上腕部の神経の周囲に簡単な電極リングを設け、手の感覚を受け持つ神経回路を活性化させた。それにより切断患者は義手からいろいろな自然な感覚を感じ取り、柔らかな果物をつまみ上げたり、さくらんぼの茎を引き抜いたりするような繊細な動きの課題をこなすことができた。(Sk)
A neural interface provides long-term stable natural touch perception (Sci. Transl. Med. 6, 257ra138 (2014))

音による量子コミュニケーション(A sound proposition for quantum communication)

量子コンピューターでは、原子や人工原子の量子力学的物性を用いて、それら量子状態に格納された情報を操作している。既にいくつかの量子プラットフォームが研究されているが、Gustafsson等は、結晶表面を伝播する音波を用いた別の系を提案している。調音による信号系の調整と音波の遅い伝播速度という特徴は、量子情報の制御・処理を行う上で新たな方向へのチャンスを提供する。(NK,KU,nk)
Propagating phonons coupled to an artificial atom (Science, this issue p. 207; see also p. 1659

丘をよじ登ってくるものは、ロボットだろうか?(What's that coming over the hill -is it a robot?)

坂を登ることは、それが特に砂地の場合は難しいことである。アメリカ産のサイドワインダーガラガラヘビは、砂の斜面を登る際、砂地と接触する身体部の長さを調節して、横向きに砂丘を登っていく。Marviたちはこの蛇のアイディアに基づいてロボットを設計し、砂の傾斜を登る能力に影響を及ぼしている事柄を調べた(Sochaによる展望記事参照)。ロボットの行動に基づいて、著者たちは更なる動物研究を行い、そして繰り返しのアプローチ法を用いて、ロボットの能力を改善し、そして動物の動きに関する理解を更に深めた。(KU,nk)
Sidewinding with minimal slip: Snake and robot ascent of sandy slopes (Science, this issue p. 224; see also p. 160)

空間、時間、および肺癌のゲノム(Space, time, and the lung cancer genome)

肺癌は、臨床の腫瘍学者に手ごわい難題を提供している。肺癌は後期段階で見いだされることが多く、そして治療手当が効くのは、その腫瘍が恐るべき増殖を再開する前の、ごく短い時間でしかない。ヒト肺癌のゲノムに関する二つの独立した解析は、この病気がすぐに活動性を取り戻すのはなぜなのかを説明するのに役立つであろう(Govindanによる展望記事参照)。癌ゲノムを1つ取り出して調べる代わりに、de Bruinたちと Zhangたちは、単一の肺腫瘍の空間的に異なる領域でのゲノムの変化を同定し、この情報を用いて、腫瘍の進化史を推測した。個々の腫瘍は、その変異プロファイルにおいて驚くべき空間的、時間的な多様性を示していた。こうして、薬剤は腫瘍の一部を破壊するだけなので、薬剤の効き目が短期間なのだろう。(KU,nk)
Spatial and temporal diversity in genomic instability processes defines lung cancer evolution (Science, this issue p. 251)
Intratumor heterogeneity in localized lung adenocarcinomas delineated by multiregion sequencing (Science, this issue p. 256)

近接した惑星仲間は脱線し始める(Close planet friends get out of line)

ある種の"暖かい"巨大地球外惑星は、我々の太陽系の似たような惑星よりもずっと中心星に近い軌道を周っている。Dawson と Chiang は、どのようにしてそのような軌道になってきたかを理解することは、以下の未解決の問題に答えられると論じている。すなわち、どのようにして"熱い"巨大惑星(これは、"暖かい"惑星よりもより一般的である)は、それらの中心星に近づいていくのかという問題である。ある惑星に、離心率が大きく細長い軌道の巨大惑星が伴っている場合、相互の軌道面の傾きが丁度適切な角度の時には、内側の惑星はゆっくりと中心星に向けて押し込まれていくことが、数値シミュレーションから分かる。このプロセスは、"熱い"木星よりむしろ、"暖かな"惑星系を生み出す可能性がある。(Wt,nk)
A class of warm Jupiters with mutually inclined, apsidally misaligned close friends (Science, this issue p. 212)

分裂のための適切な要素を再構成する(Reconstituting the right stuff for division)

2つの娘細胞が互いに物理的に分離する際,細胞質分裂が細胞分裂の最終過程となる。分裂細胞が細胞質分裂を準備する分裂溝をどのようにして構築するかは,長い間細胞生物学者の関心事であった。根本的メカニズムの探索に対する主要な障害は,無細胞で,かつ,完全に制御可能な実験系がないことであった。今回,Nguyenたちは,カエルの卵由来の系を用いて,生細胞の外で細胞質分裂の組織化を再構成した。この無細胞系は,細胞周期の状態は「凍結」されており、また,空間的大きさは非常に大きい。著者たちは,強力な画像処理技術を用い,何十分間,広い空間に渡り,細胞質分裂が生じている間でのシグナル伝達が関与する生物物理について調べた。(MY,KU)
Spatial organization of cytokinesis signaling reconstituted in a cell-free system (Science, this issue p. 244)

ニューロンを作るアストロサイトの隠れた能力(Astrocytes' hidden ability to generate neurons)

脳の中でニューロンが新生されると,病気,外傷,あるいは単に純粋な老齢化で生じた損傷への対処に効果があるであろう。しかしながら,成体の脳では,ニューロン新生は多くは起こらない。Magnussonたちは,マウスの研究で,成体の脳の中で古いニューロンが新しいものに置換することを促進する内在性の遺伝プログラムを探索した。彼らは,ニューロンの間に分布している蜘蛛状の細胞であるアストロサイトが,ニューロン新生のプログラムを休眠状態で保持していることを見出した。アストロサイトをニューロン置換へと覚醒することができれば,ニューロン置換の方法が不必要になるかもしれない。(MY)
A latent neurogenic program in astrocytes regulated by Notch signaling in the mouse (Science, this issue p. 237)

少子高齢化への調整(Adjusting to fewer kids and more elderly)

多くの国で、リタイヤ—組は長生きをして、人々は老齢化し、そして赤ん坊が生まれる数が減るに従い人口増加の速度が減少した。このような人口統計上の変化によって、将来の退職年金は削減の必要が生じ、将来世代の購買力を強化させる必要があるという人騒がせな予測がささやかれている。Leeたちは、より教育された労働力と共に、より多くの女性がより長く働くといった、補償的な因子が、このような人口統計上の変化による影響を和らげる可能性があると指摘している(Smeedingによる展望記事参照)。(Uc,KU)
Is low fertility really a problem? Population aging, dependency, and consumption (Science, this issue p. 229; see also p. 163)

必要なことは、厳密にテストされた、より優れた測定基準(Needed: Better metrics, rigorously tested)

危機に瀕している種や生態系に関するニュースは、世界中に満ち溢れている。多くの政府は生物の多様性を保護すると表明している。しかし、我々は、我々の自然な環境の中でその変化をどれだけ良く理解しているだろうか? 例えば、種の豊富さと絶滅の危機といった異なる測定基準が、保存の成功に関して非常に異なる印象を与えている。Collen と Nicholsonは、保存の努力が成功するためには、種の多様性を測定する基準に対し、皆が合意した組み合わせが必要であると主張している。これらの測定基準には新たな物と同じく既存の物を含んでおり、そしてこれらの測定基準が用いられる保存のターゲットに対し適切であることを保証する厳密なテストを行う必要がある。(KU,nk)
Taking the measure of change (Science, this issue p. 166)

鏡の国のセプトリン(Sceptrin goes through the looking glass)

海綿は、セプトリンとマッサジン、アゲリフェリンという3つの化合物を産生するが、これらは、酵素の触媒作用の標準的なレパートリに収まらない環化反応の結果生じるように見えるので、化学者たちの興味をそそってきた。Maたちはこのたび、そのうち最初の2つの化合物の研究室での合成を報告しているが、これは驚くべき意外な結果を明らかにするものだった。セプトリンの現実の構造は、これまで報告されていた構造の鏡像であることが明らかになったのである。この研究は、部分的には広まっている生合成仮説を支持するものだが、エナンチオ区別(enantiodivergence 1つの化合物クラスにおける異なる鏡像モチーフの出現)が明らかになったことは、天然物化学においては、まれな事象である。(KF)
Asymmetric syntheses of sceptrin and massadine and evidence for biosynthetic enantiodivergence (Science, this issue p. 219)

世界の人口増加は続く(Global population growth continuing)

2014年7月に、国連はすべての国の新しい人口推計を発表した。Gerlandらはデータを分析し、各地域や国だけでなく全世界の確率的人口推計について説明している(Smeedingによる展望記事を参照)。世界の人口は今世紀中は増加し続ける可能性があり、アフリカ人口は少なくとも3.5倍増加する。さらに、高齢者に対する労働年齢に当たる人の割合は、今日の先進国だけでなく、ほぼ間違いなくすべての国で大きく低下する。(hk,KU,nk)
World population stabilization unlikely this century (Science, this issue p. 234; see also p. 163)

宇宙を変化させる光の流出(A light leak to transform the universe)

ビッグバン後に、宇宙が冷却されて一面の中性ガスの広がりになった後、この暗闇から、どのようにして最初の星の光が出現したのであろうか。Borthakur たちは、何らかの手がかりを提供してくれるかもしれない、連続光を放射している我々の銀河系近傍の爆発的星形成銀河を発見した。銀河の中性ガス中の星形成域から吹き出す電離ガスの風で生じた、すき間が大量の電離放射線の漏出を許し、これはおそらく初期の宇宙におけるプロセスとそっくりなものであろう。(Sk,nk)
A local clue to the reionization of the universe (Science, this issue p. 216)

進展と後退の指標(Indicators of progress and decline)

2010年の生物多様性会議で決められた目標は、世界の生物多様性の減少を緩和する国際的な努力に焦点が当てられていた。しかしながら、このような努力によって生じた結果の多くは、150ヶ国の政府によって合意された2020年の最終期限までに明らかになることは無いであろう。Tittensorたちは、55の異なる生物多様性の指標(たとえば、保護地域の範囲、土地利用の傾向、絶滅危惧種の状態)に基づくデータを分析し、2020年の目標に向けた進捗を予測した。この分析によって、次の数年間にもっとも注意が必要となるであろう問題や地域が正確に示されている。(Uc)
A mid-term analysis of progress toward international biodiversity targets (Science, this issue p. 241)

モノポリンが、減数分裂を名人芸のように管理する(Monopolin masterfully manages meiosis)

生物学者は何十年にもわたって、複製された姉妹染色分体(通常は有糸分裂細胞の分裂の際に分離する)が、最初の減数分裂である減数分裂 Iの際に、分離せずにどうして共遊走するのかを不思議に思ってきた。このプロセスは染色体の相同体を分離し、また、第2のより有糸分裂的な減数分裂の後に一倍体配偶子を産生するために必要とされる。姉妹染色分体の共遊走についての1つの仮説は、減数分裂 Iに特異的な因子が姉妹動原体に直接クロスリンクし、これによりそれぞれの姉妹染色分体を動的な微小管の先端に付着させているていることを示唆している。酵母は、モノポリンとして知られる動原体へのクロスリンカーをもっていると推定されているが、減数分裂Iの際のこのモノポリンの正確な役割はまだ分かっていない。Sarangapaniたちは、酵母細胞から機能する減数分裂の動原体を単離した。彼らは試験管内で動原体の活性を再構成し、モノポリンが動原体融合の原因となり、減数分裂Iにおいてみられる姉妹染色分体の共遊走の基盤となっていることを発見した。(KF,KU)
Sister kinetochores are mechanically fused during meiosis I in yeast (Science, this issue p. 248)

増殖因子による疼痛の増強(Enhancing pain with a growth factor)

筋損傷には炎症と疼痛がつきもので、損傷した組織の回復には筋の増殖が必要である。インスリン様増殖因子 1 (IGF-1)が筋の増殖を刺激する。Zhangたちは、IGF-1が感覚神経を有痛性の刺激に対してより感受性が高くなるようにする、と報告している。IGF-1は、マウスの感覚神経中にあるGタンパク質-依存的な経路を介して電位依存性 Ca2+チャネルの活性化を増加させ、それによって神経活動が増加することになる。Gタンパク質-依存的経路、あるいは感覚神経中のカルシウムチャネルを遮断すると、慢性炎症のあるマウスの接触や熱に対する感受性の増加が妨げられた。つまり、この経路を標的にすることは、慢性痛をもつ患者に対する治療上の選択肢となる可能性がある。(KF)
Peripheral pain is enhanced by insulin-like growth factor 1 through a G protein-mediated stimulation of T-type calcium channels (Sci. Signal. 7, ra94 (2014))
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