AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 4 2014, Vol.345


心臓もまた血管を必要としている(The heart needs blood vessels, too)

新生児の心臓が素早く成長するには,心臓自身の血管が同様に成長しなければならない。この問題に対して,研究者たちは,すでに備わっている胎児性冠血管が広がり,この出生後の冠血管成長を引き起こすと想定してきた。これに代わり,今回,Tianたちは,新生児心臓のほとんどの部分では,新規な血管が形成されることを示している(BurnsとBurnsによる展望記事参照)。出生後に冠血管が新生されるというこの能力は,いつの日か,負傷や疾病後に心血管再生を促進させる方法を実現するのに役立つかもしれない。(MY)
De novo formation of a distinct coronary vascular population in neonatal heart (Science, this issue p. 90; see also p. 28)

より安全な骨髄移植を目指して(Toward safer bone marrow transplants)

骨髄移植を受ける人たちは,しばしば,移植片対宿主病を発症する。移植片対宿主病は,移殖された骨髄に由来する免疫細胞が,患者の体を攻撃する疾患である。この重大な合併症を理解するため,Nalleたちは,人間に行う通常の移殖の模倣実験をマウス中で行った。移植前に,人間の患者は---そして実験マウスも---,自身の骨髄が死滅するよう照射を受ける。しかしながら,マウスでは,この照射により,腸の"漏出"が促進され,これにより,免疫を活性化する細菌が体内に入りこめるようになった。この結果,移植片対宿主病は悪化した。人間に起こるこの種の合併症を回避する方法を,医療関係者が見つけることができるなら,それは,より安全な移植への途となるであろう。(MY)
Recipient NK cell inactivation and intestinal barrier loss are required for MHC-matched graft-versus-host disease (Sci. Transl. Med. 6, 243ra87 (2014))

既に移動した神経路を調べる(Exploiting nervous paths already traveled)

副交感神経系は、唾液腺や食道等を含む多くの組織や器官の機能制御に役立っている。そういうことを行うために、副交感神経系は身体全体に行きわたって、中枢神経系を末梢神経系こ結合させる必要がある。Dyachukたちと Espinosa-Medinaたちは、マウスにおいて、これらの結合がどのようにして確立されるかを調べた(Kalcheim and Rohrerによる展望記事参照)。発生中の神経に沿って移動する前駆細胞が、ミエリン形成のシュワン細胞と副交感のニューロンの双方を生ずる。このことは、相互作用する神経は、お互いを見つける必要が無いことを意味している。そうではなく、神経系が発生する際に既に結合が開始されているのである。(KU,nk)
Parasympathetic neurons originate from nerve-associated peripheral glial progenitors (Science, this issue p. 82; see also p. 32)
Parasympathetic ganglia derive from Schwann cell precursors (Science, this issue p. 87; see also p. 32)

自分の考えだけが相手の孤独にほって置かないで(Don't leave me alone with my thoughts)

当節、われわれは何かしらの多くの安価な、かつ容易の手に入る刺激、本とか、ビデオとか、ソシャルメディアとかいうものを楽しんでいる。我々は、語るべき人は誰もいなく、何もすることが無いような、只一人ではいられない。Wilsonたちは、自分の考えだけを相手にするしかない孤独状態を研究し、そしてそれが不愉快な経験であることを見つけた。実際に、研究した人々の多くは、特に男性は外部の感覚刺激を奪われるぐらいなら、自ら温和な電気ショックを受けることを選ぶ。(KU,nk)
Just think: The challenges of the disengaged mind (Science, this issue p. 75)

エキソソームが癌細胞の逃避を助ける(Exosomes can help cancer cells hide out)

骨髄といった体内の幾つかの場所は、実際に癌細胞が転移したり拡がるのを助けている。化学療法では急速に分裂している細胞を標的にしているが、しかし骨髄中に逃避している癌細胞はゆっくりと増殖し、化学療法から癌細胞を保護している。Onoたちは、骨髄中の幹細胞がエキソソームと呼ばれる小胞を遊離していることを見出した。転移性の乳癌細胞は、癌細胞の増殖を抑える様々な因子を含んでいる、これらのエキソソームを手に入れる。(KU)
Promoting Cancer Cell Dormancy with Exosomes (Sci. Signal. 7, ra63 (2014))

ホストの相方を無視する無礼な惑星(Impolite planet ignores host's partner)

多くの既知の太陽系外惑星(我々の太陽系の外にある惑星)は、二つの星からなる連星系に捕えられている。これらの惑星は通常、両方の星の外側を周回している。Gould たちは、世界的な望遠鏡ネットワークを用いたマイクロレンズ効果のデータを用いて、連星のうちの一つだけを周回する地球の2倍の質量を持つ惑星を発見した。同じアプローチは、他の類似の恒星系を発見し、惑星形成の謎のいくつかを解明するのに役立つであろう。(Sk,nk)
A terrestrial planet in a ‾1-AU orbit around one member of a ?15-AU binary (Science, this issue p. 46)

グラフェンの縮退の崩壊(Breaking down graphene degeneracy)

二層グラフェンは、千鳥状に互いの上に積み重ねられた六角形状に配置された2層の炭素原子を有している。この空間配置は縮退した電子状態を生み出す。つまり、同じエネルギーを持つ異なる電子状態がある。電子間の相互作用により、縮退状態のエネルギー準位に分離をもたらし、そして、外部からの電場でもそのようなことをすることができる(LeRoy とYankowitzによる展望記事参照)。Kouら、Lee ら及び Maherらは、二層グラフェンの異なるパラメータ状態を明確にさせる異なった三つの実験装置を使用した。(hk,KU,nk)
Electron-hole asymmetric integer and fractional quantum Hall effect in bilayer graphene (Science, this issue p. 55; see also p. 31)
Chemical potential and quantum Hall ferromagnetism in bilayer graphene (Science, this issue p. 58; see also p. 31)
Tunable fractional quantum Hall phases in bilayer graphene (Science, this issue p. 61; see also p. 31)

強風、湧昇そして岸辺の肥沃化(Strong winds, upwelling, and teeming shores)

気候温暖化により陸と海との間で温度と圧力の差が増加する結果、いくつかの海岸地帯ではより強い風が発生する。このような風によって、温度が低く栄養に富む海水が表層に湧昇し、気候に影響を及ぼし、海洋の生産性を高めている。Sydemanたちは、このような湧昇が発生している5つの主要な地域からのデータを調査した。カリフォルニア、フンボルトそしてベンゲラの湧昇系では、過去60年を通じて風が強くなっていた。このような地域は世界の海洋漁獲量の1/5を占め、生物多様性のホットスポットとなっている。(Uc,KU,nk)
Climate change and wind intensification in coastal upwelling ecosystems (Science, this issue p. 77)

生と死と品質管理(Life and death and quality control)

細胞は、過剰なストレスに曝されると、そっくりかえって死んでしまう。Luたちは、ストレスがあまり長くはない時に生き続けるために、細胞たちが用いる賢い戦略を記述している。細胞の品質管理機構では、細胞内に欠陥のあるタンパク質が蓄積したとき、つまりストレスの兆候が示されたときに、いわゆる細胞死受容体が活性化される。しかし、欠陥タンパク質の 増加がかなりの長期間続くまでは、細胞死受容体の発動を待つようになっている。ストレスからすぐさま解放されれば、細胞死受容体の濃度はすぐに減って正常にもどり、細胞は生き続ける。そうでなければ、「やすらかに眠れ」となるわけだ。(KF,nk)
Opposing unfolded-protein-response signals converge on death receptor 5 to control apoptosis (Science, this issue p. 98)

更新世人類と環境(Pleistocene people and environments)

過去数十年間に,年代の明らかな東アフリカの遺跡から数多くの人類化石が発掘されてきた。さらに,アフリカからはるか遠方のアジアやヨーロッパで初期の人類化石が見つかってきている。近年,南アフリカのマラパ(Malapa)遺跡や西アジアのドマニシ(Dmanisi)遺跡で,重要な新しい人類化石や考古遺物が発見され脚光を浴びるようになった。現地の地層分析,風で運ばれた微細粒子の分析,海底コアや湖底コアの分析,安定同位体分析により,初期人類が住んでいた古環境の復元が改善された。Antonたちは,初期ホモ属の進化に関する最近の証拠と議論についてレビューし,居住地の不安定性と断片化が,重要な進化的選択圧として作用したと主張している。(MY,KU,bb)
Evolution of early Homo: An integrated biological perspective (Science, this issue p. 10.1126/science.1236828)

高偏差値の数個が細胞膜でのシグナル伝達を支配する(Outliers dominate signaling at cell membrane)

SOS酵素は細胞膜で作用して、癌細胞においてしばしば過剰に働く調節タンパク質 Rasを活性化する。Iversenたちは、作用中の個々の酵素活性を観察できるシステムを発明した。SOSの単一分子は、触媒活性が大きく異なる安定な状態をいくつか占めていた。制御は、活動的状態に費やされる時間を変えることによって生じているらしかった。SOSの全体的活性は、もっとも高い触媒活性を達成したほんの少数の分子によって決定されていた。記載方法は、細胞膜で生じるSOS分子などのシグナル伝達現象のさらに詳細な動力学的解析を可能にするものであって、この解析で示されるのは、バルクな生化学的測定では識別できないような特性である。(KF,KU,ok,nk)
Ras activation by SOS: Allosteric regulation by altered fluctuation dynamics (Science, this issue p. 50)

表面積の大きなガス分離膜(High-surface-area gas separation membranes)

ガス分離に用いる膜は、大きな表面積と選択的な透過経路を併せ持つ必要がある。Brown たちは、大きな表面積を有する形態で高品質のガス分離膜を作るための、大規模化が可能な方法を示した。逆方向に流れる二種類の異なる溶剤を用いて、中空の高分子繊維の内部に金属有機構造体材料を選択的に付着させた。その膜は、炭化水素ガスの混合物を用いたテストで、高い性能の分離能力を示した。(Sk,nk)
Interfacial microfluidic processing of metal-organic framework hollow fiber membranes (Science, this issue p. 72)

ガスのジェットが銀河系外のX線を遮る(Gas jets block extragalactic x-rays)

活動銀河の中心にある超大質量ブラックホールは、強いガスの流出を生み出している。NGC 5548 は、そのような発生源のひとつで、イオン化したガスの絶え間ない流出が続いている。しかしながら、それに付随するX線と紫外線(UV)の放射は、最近、静まってきたように見える。Kaastra たちは、複数の波長での監視活動を2013年をとおして行い、その系の挙動の特徴を調べてきた。彼らは、新たに発生したさらに高速のジェット成分が付け加えられた高速なジェット成分が、X線とUV放射を覆い隠すガスの塊を送り出したことを示唆している。この現象の時間間隔は、中心核から光の速度で数日離れただけのところにその源があることを示している。この近さは、その流出が、超大質量ブラックホールの降着円盤からの風に付随したものである可能性を示唆している。さらにずっと強力な流出があれば、それらの中心銀河に影響を与える可能性がある。この発見は、そのようなフィードバックがどのように働くのかを示している。(Wt)
A fast and long-lived outflow from the supermassive black hole in NGC 5548 (Science, this issue p. 64)

副生物の出ない炭素-炭素結合(Carbon-carbon bonds without byproducts)

環境負荷とコストの観点から、副生物の形成を最小化する化学製造方法の開発が活発化している。MoとDongは、エチレンのようなオレフィンをケトンのC-H結合に直接挿入できる触媒について報告している。これまで同様の反応を行う場合、ケトンと塩基との予備反応を行った後にハロゲン化アルキルと反応させていた。著者らは、ケトンの活性化と、触媒であるロジウムを所望の位置に誘導することを同時に行うことができるリガンドを用いている。この新手法は、余分な試薬が不要であり、且つ付随するハロゲン化塩の副生物も出来なかった。(NK,KU)
Regioselective ketone α-alkylation with simple olefins via dual activation (Science, this issue p. 68)

地震波ノイズが火山マグマの配管を明らかにする(Seismic noise reveals volcanic plumbing)

大地震の後で地震のノイズが地球の地殻を通過していく様子をモニターすることによって、火山がいかに噴火するかを解明することができる。日本は世界でももっとも密度の高い地震観測ネットワークを有している。Brenguierたちは、2011年の東北沖地震の前から、地震の数週間ないし数カ月後にかけて、日本の火山地帯の下での地震波の伝達速度が減速した現象を観察した(PrejeanとHaneyによる展望記事参照)。これによって、火山下で加圧された流体が、動的ストレスの変動に応答して弱まりうることが示されたのである。(KF,nk)
Mapping pressurized volcanic fluids from induced crustal seismic velocity drops (Science, this issue p. 80; see also p. 39)

つらい時にはソロよりタンゴ(It takes two to tango in restricted environments)

もとは無関係ではあっても、寄生せずに生きてきた藻類と菌類は、お互い助け合うことを学習する。HomとMurrayは、緑藻類のコナミドリムシを、出芽酵母存在下の二酸化炭素が制限された環境で育てた(AanenとBisselingによる展望記事参照)。この実験状況は、2つの種が二酸化炭素の代謝生成物に対して互いに依存することを強いるものであった。二酸化炭素は、グルコースを消費する際に酵母によって供給され、藻類に必要とされ、一方アンモニアは逆に、藻類によって亜硝酸から作り出され、酵母によって利用される。この依存関係は幅広い環境条件下で見られる。他のクラミドモナスと真菌種の間での同様なテストによって、系統的に広範な相利共生を作り上げる能力が明らかにされた。(KF,ok,nk)
Niche engineering demonstrates a latent capacity for fungal-algal mutualism (Science, this issue p. 94; see also p. 29)
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