AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 27 2014, Vol.344


電気器官が形成される方向性は1つだけ?(Only one way to make an electric organ?)

電気魚は,仲間とのコミュニケーション,周囲の探索と誘導,獲物の捕獲や自己防御に役立つ電気器官を独自に進化させてきた。Gallantたちは,電気ウナギのゲノムおよび,遠戚関係にある他の2種の電気魚に発現した遺伝子を分析した。同じような機能を示す進化的に新しい構造を作るために、異なる種の間で同一の遺伝子が選ばれていた。(MY,nk)
Genomic basis for the convergent evolution of electric organs (Science, this issue p. 1522)

スズメ蛾はどのようにして花を嗅ぎつけるのか(How hawkmoths sniff out a flower)

私たちが愛してやまない花の匂いは,チョウやハチのような花粉媒介者を真の標的としている。私たちは,昆虫のことを"匂いに向かってまっしぐら"と想像するかもしれないが,この世の多様な匂いは花の香りを消し去り,発見を困難にさせている。Riffelたちは,スズメ蛾が,触覚からの匂い信号を受容する脳の箇所である触角葉に,ニューロン像を形成することで木立チョウセンアサガオを探し出していることを見出した(Szyszkaによる展望記事参照)。このニューロン像は,背景臭と標的臭が共に表現されたものである。花の発見には,背景臭と標的臭の複雑な読解が関与し,人為的汚染物質を含め、背景臭が変化するとその解読プロセスが困難になる。(MY,KU,nk)
Flower discrimination by pollinators in a dynamic chemical environment (Science, this issue p. 1515; see also p. 1454)

太古の珊瑚礁の形成(Building coral reefs in ancient times)

カンブリア爆発以前の黎明期である5.4億年前、地球規模での動物の大増加のための準備が進化によって整えられていた。彼らが海で栄える前に、最初期の動物は捕食者に対して自身を防衛するための戦略を発展させた。現代まで残っているこれらの戦略は、骨格を形成し礁を構築することである。Pennyたちは、ナンビアにおいて、クラウディナ(Cloudina)として知られている小さい円錐形の初期動物によって作られた、大規模な化石岩礁の堆積物を発見した。他の古代の礁よりも2000万年古いこの礁は、恐らくクラウディナが礁から便益を受ける為に適合した際に形成され、これが動物たちを守り、効率的に食料を得ることを可能にしている。(Uc,KU)
Ediacaran metazoan reefs from the Nama Group, Namibia (Science, this issue p. 1504)

原子雲で微弱な力を測定する(Measuring tiny forces with atomic clouds)

重力波を測定するような研究の場合、物理学者は微弱な力を正確に測る必要がある。Schrepplerらは、極度に高感度な力検出法を開発した。彼らは、光共振器内の極低温ルビジウム原子雲に大きさが正確に分かっている力を作用させた。その力は原子に振動を引き起こし、研究者たちは微弱力による挙動の変化を光学的手法により計測した。最適条件では、ハイゼンベルクの不確定性原理に伴う理論限界のわずか4倍劣る感度で力を測定することに成功している。(NK,nk)
Optically measuring force near the standard quantum limit (Science, this issue p. 1486)

ラッサ熱ウイルスは細胞膜をどうこじ開けて侵入するか(How Lassa virus breaks and enters)

げっ歯類から人へと伝染し、毎年約50万人の人が感染する、ラッサ熱ウイルスは致死的な出血熱をもたらす。多くのウイルスと同様に、ラッサ熱は細胞表面の受容体に結合する。Jaeたちは、細胞に侵入するために、このウイルスは、感染した細胞の内部に存在する第2の受容体を必要とすることを示している。この要求は、30年前に観察されたラッサ熱へのトリ細胞がしめす「謎の抵抗」を説明するものである。トリ細胞は細胞表面受容体を持つが、細胞内受容体がこのウイルスに結合できず、ウイルスをその場に押しとどめている。(KU,nk)
Lassa virus entry requires a trigger-induced receptor switch (Science, this issue p. 1506)

最もうまくいく戦略の選択(Selecting the most successful strategy)

脳の前頭前野は、不確かな、かつ絶えず変化する環境において我々が意思決定を行うのを助けている。Donosoたちは、ヒト推論のモデルを前頭前野で実行されるアルゴリズムとして提案した(Hareによる展望記事参照)。脳イメージング実験からは、このモデルは支持された。その場の主要な環境に依存して、ヒト推論は進行中の行動戦略に順応するか、或いは以前に学んだ戦略に切り替える。いずれのアプローチも適切でないときのみ、脳は新しい戦略を創造するであろう。(KU,nk)
Foundations of human reasoning in the prefrontal cortex (Science, this issue p. 1481, see also p. 1446)

古い薬に新たな抗癌性を(Old drug learns new anticancer trick)

癌研究者は、腫瘍を養い、その成長を可能にしている血管新生を抑制する薬を開発しようとずっと試みてきた。血管新生と戦う少数の薬がいくつかの癌に用いられているが、それらはいつも効果的であるとは限らない。Xuたちは、血管新生抑制医療手段への、期待できる新たな手段を報告している。それはセレコキシブなどの非ステロイド性抗炎症薬であって、関節炎でよく見慣れた療法である。マウスでは、セレコキシブは、現存の血管新生抑制薬とは違う仕組みで血管増殖を抑制する。2つのタイプの薬の組み合わせが、腫瘍の成長と伝播を抑制するのにとりわけ効果的だった。(KF)
COX-2 Inhibition Potentiates Antiangiogenic Cancer Therapy and Prevents Metastasis in Preclinical Models (Sci. Transl. Med. 6, 242ra84 (2014))

ナノスケールで鉛の流れを見る(Watching lead flow at the nanoscale)

ミクロ流体のデバイスは近年、商業的な化学合成分野で役立ってきている。しかし、ナノスケールでの流体のダイナミクスはどうなっているのだろうか? LorenzとZewailはナノ秒の時間分解能を有する電子顕微鏡を用いて、ナノチューブ中を流れる溶融鉛の画像を捉えた。彼らはレーザーパルス光を用いて金属を瞬間的に溶融させ、正確な時間点での流れの計測を開始した。その実験結果によって、髪の毛の1/1000に等しい大きさのチャネルにおける熱伝導のダイナミクスばかりでなく、粘性摩擦に関する知見が得られた。(Uc,KU)
Observing liquid flow in nanotubes by 4D electron microscopy (Science, this issue p. 1496)

動作中の電池活物質を観察する(Watching battery materials in action)

急速充放電を繰り返すと,二次電池はしばしば機能停止となる。これは特に,繰り返しが電池構成物質の結晶構造を変化させる場合に当てはまる。Liuたちは,あるタイプのリチウムイオン電池を構成する活物質の構造変化を調べた(OwenとHectorによる展望記事参照)。得られた知見により,LiFePO4が何故,予想外に良好な電気化学的性能,特に急速繰り返し中での良好な性能をもたらしているのかが説明される。(MY)
Capturing metastable structures during high-rate cycling of LiFePO4 nanoparticle electrodes (Science, this issue p. 10.1126/science.1252817; see also p. 1451)

二硫化モリブデンにおけるエネルギーの谷を用いる(Using the valleys in monolayer MoS2)

2次元状物質であるMoS2の電子構造は、二つの明瞭なエネルギーの谷を有しており、将来の電子デバイスにおいて情報伝達を行うのに役立つかもしれない。Mak たちは、単層のMoS2における、いわゆるバレーホール効果を観測した。別々の谷からの電子は試料中を互いに反対方向に移動し、一方の谷の電子がもう一方に対して大きな比率を占めていた。科学者たちは物質に円偏光を当て、二つの谷に属する電子数の不均衡を作り出すことでこの現象を達成した。その知見は、新たに形成された分野である「バレートロニクス」における実用的な応用を可能にするであろう。(Sk,nk)
The valley Hall effect in MoS2 transistors (Science, this issue p. 1489)

データ点のクラスターを識別する(Discerning clusters of data points)

クラスター分析は、多くの分野で、定義された隔たりの大きさに応じて対象を分類するのに用いられる。多数のアルゴリズムが存在し、あるものはデータ点の局所的密度の分析に基づき、その他のものは予め定義された確率分布に基づいている。Rodriguez と Laio は、より密度の高いどの点からも遠く離れており、局所的な密度の極大値を示す点として、クラスター中心が認識される方法を考え出した。そのアルゴリズムは、それらの絶対値というよりも相対的密度のみに依存している。著者たちは一連のデータでその方法を試したが、その性能は確立された従来法よりも勝っていた。(Sk)
Clustering by fast search and find of density peaks (Science, this issue p. 1492)

地下深くでメタンを作る(Making of methane deep underground)

水圧破砕法、すなわち、"フラッキング"のような技術により、今や、地下の貯留層から天然ガスを抽出することが可能である。ガス中のある同位体の比率は、その起源に対する手がかりとなっている。Stolper たちは、広範囲な天然ガスを分析した。これには、U.S.A.において最も活発に水圧破砕法を用いているいくつかのサイトからの試料が含まれている。"凝集同位体"技術を用いることで、著者たちは、地下深くで作られる高温メタンと、一方太古の微生物から作られた低温メタンの量を推定することができた。この方法は、両方の起源によるガスの混ざり具合の識別に役立つであろう。(Wt,KU,nk)
Formation temperatures of thermogenic and biogenic methane (Science, this issue p. 1500)

適切なとき、適切な場所に力を供給する(Supplying power: Right time, right place)

細胞膜は非常に柔軟で、型に合わせて容易にその形状になる。しかしながら、膜管から膜小胞を物理的につまみ取るには、まだ力が必要である。ダイナミンとして知られるある種の分子機械が、この種の膜再構築に関与している。ダイナミンは作用するために、よりひろく使われている細胞エネルギー源であるアデノシン三リン酸ではなく、グアノシン三リン酸(GTP)を用いている。Boissanたちはこのたび、細胞質あるいはミトコンドリアに見出される2つの別のダイナミンが、双方とも同じ種類の酵素、ヌクレオシド二リン酸 キナーゼを用いて、適切なとき、適切な場所でGTPを供給し、膜分裂に力を与えていることを明らかにしている。(KF)
Nucleoside diphosphate kinases fuel dynamin superfamily proteins with GTP for membrane remodeling (Science, this issue p. 1510)

進化の水晶玉を曇らせる(Clouding evolution's crystal ball)

ある種の変異緩衝化プロセスのおかげで、違う形で始まった変異も、生物の適応度に関して似たような全体的結果で終わる傾向にある。Kryazhimskiyたちは、同じ選択的環境下で、それぞれ別の単一遺伝子型に由来する複数の系統の酵母を進化させた。これら順応した集団からのクローンのサブセットは、適応度分析が行われ、配列決定された。より低い初期適応度をもった集団は、初期適応度が高かった集団より急速に順応し、最終的には、適応度レベルは同様のものとなったのである。(KF,KU)
Global epistasis makes adaptation predictable despite sequence-level stochasticity (Science, this issue p. 1519)
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