AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


[インデックス] [前の号] [次の号]

Science May 23 2014, Vol.344


古代走鳥類の羽を逆立てる(Ruffling ancient ratite feathers)

生物学者たちは,近縁種がはるか遠くの大陸にどうやって行き着いたのかを説明するために,しばしば,ゴンドワナ超大陸の分裂を挙げてきた。しかしながら,新しい研究から,この説明が走鳥類には適用できないことが示されている。走鳥類は,大型でほとんど飛ぶことのできない鳥類の1系列であって,アフリカのダチョウ,オーストラリアのエミュー,南アメリカのレア,小型であるニュージーランドのキウィ,絶滅したマダガスカルのエピオルニス(elephant bird)が含まれる。Mitchellたちは,絶滅したエピオルニスからの古いミトコンドリアのDNA配列も加えて,これらの鳥類の系統発生について調べた。走鳥類は,飛ぶことができた祖先に由来し,新天地へ飛行してから後に,大型化し,飛行能力を失うよう進化したらしい。(MY,KU,ok)
Ancient DNA reveals elephant birds and kiwi are sister taxa and clarifies ratite bird evolution

海床の下の共同体をマッピングする(Mapping sub-sea-floor communities)

海床は微生物で満ちており、それらの数の驚くべき大きさは炭素・硫黄そしてその他の重要な栄養物の地球規模の生物地球化学的サイクルに重要な影響を及ぼしている。Bowlesたちは、硫酸塩が世界中の海洋堆積層にどのぐらいの深さにまで浸透しているか、そして硫酸塩が海床の下の微生物によっていかに早く化学的に還元されているかを示すマップを作成した。地球規模で見れば、海床に達する有機炭素のほぼ1/3が硫酸塩還元の間に消費され、大陸縁辺部の海床の下の圧倒的大部分の微生物細胞が発酵やメタン生成の生物化学的プロセスを通じて、エネルギーを得ている。(Uc,KU,ok,nk)
Global rates of marine sulfate reduction and implications for sub?sea-floor metabolic activities

下部マントルをさらに深く調べる(Delving deeper into the lower mantle)

地球の下部マントルは謎に満ちた領域である。ここは、ゆっくりと攪拌される固体と液体の外核との間にある遷移帯である。この領域の大きな地震学的構造と不連続性は、おそらく、温度や組成、あるいは、鉱物特性の急峻な勾配によるものである。これらの因子の厳密な効果を解きほぐすには、下部マントルにおける温度と圧力での実験が必要である(Williams による展望記事を参照のこと)。Zhangたちは、下部マントルの主要な鉱物相は二つの鉱物に分解できることを見出した。Andraultたちは、海洋の地殻から沈み込んだ玄武岩の融解が、どのようにしてコア/マントル境界の最上部の絨毯状の構造を形成するのかを示している。(Wt,ok)
Disproportionation of (Mg,Fe)SiO3 perovskite in Earth’s deep lower mantle
Melting of subducted basalt at the core-mantle boundary

宇宙の双対性予想を確かめる(Confirming cosmic dual conjecture)

量子力学と重力は相反すると考えられているが、ゲージ理論と重力理論の双対性予想のおかげで、系を数学的に記述することができるようになり、超ひも理論を駆使して相反する2つの理論を調和させることができると考えられている。しかし、この予測はまだ正式には確認されていなかった。Hanada等は(Maldacenaの展望記事参照)、量子ブラックホールに対応するパラメーター領域で双対ゲージ(dual gauge)理論のシミュレーションを行っている。量子力学と重力理論の補正も含めてブラックホール蒸発予想に一致する結果が得られており、双対ゲージ理論がブラックホール蒸発の量子性を完璧に記述できることを明らかにしている。(NK,nk)
Holographic description of a quantum black hole on a computer

高温に対処するサンゴ(Hot and bothered corals can cope)

サンゴは異常な温度に対し、どのくらい上手く順応できるのだろうか?予想よりもうまく順応することが分かった。大きな温度変動のあるサンゴ礁プールのサンゴは、あまり変動のないプールのサンゴよりもよりストレスに耐える。とは言うものの、より高温で温度変化の大きな条件に移植されたサンゴは、すぐに温度耐性を獲得する。Palumbiたちは(Eakin による展望記事参照)、より耐性のあるサンゴの個体は、熱の影響から守ってくれる腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーのようなある種のタンパク質を、より多く作り出すことを見出した。熱ショックタンパク質や輸送タンパク質を強化することで、変異や順応によるよりもはるかに速く、熱耐性を得られる。うまくいけば、この能力はサンゴ礁への気候変動の影響を緩和してくれるかもしれない。(Sk,ok,nk)
Mechanisms of reef coral resistance to future climate change

細菌が腸の障壁を破る(Bacteria breach intestinal barriers)

肝硬変の合併症の一つでは、皮肉なことに、腸から逃げた有益な微生物が、深刻な感染症を、時には死をも、もたらす。Balmerたちは、健全な肝臓の血管が逃亡する腸細菌への障壁を形成することを示している。しかしながら、肝疾患や腸機能障害の動物モデル、および非アルコール性の肝疾患を持つ患者において、肝臓はこれら細菌の逃亡を押しとどめることができない。この細菌は、次に血管系に漏出し、免疫応答を活性化し、腸内微生物と宿主との間の相利共生の関係を壊してしまう。このタイプの崩壊が肝疾患の重要な合併症である。(KU,nk)
Sci. Transl. Med. 6, 237ra66 (2014)

強い骨を成長させる他の方法(Another way of growing strong bones)

強さを維持するために、骨は常に自らを再生している。甲状腺ホルモンは細胞に入り、核内受容体に結合することによってこの骨再生のプロセスを制御する。甲状腺ホルモンは細胞核に移動し、そこで遺伝子発現を変える。しかしながら、これらのホルモンはまた、遺伝子制御を必要としない急速な細胞変化をも刺激する。Kalyanaramanらは、骨細胞における核内受容体の異なる型を発見した。甲状腺ホルモンに結合すると、この受容体は骨細胞の数を増加させ、骨細胞を死から保護した。研究者たちは、甲状腺ホルモンの欠乏したマウスをこの受容体の効能をまねた化合物を使って治療したとき、マウスの骨細胞は正常に成長した。(hk,ok)
Sci. Signal. 7, ra48 (2014)

腫瘍マクロファージの起源(Origins of tumor macrophages)

免疫系と癌との闘いにおいて、腫瘍とそれを囲む組織中の免疫細胞の起源と機能の理解が重要である。免疫細胞の一つのタイプであるマクロファージは、腫瘍とその近くの非癌性組織の双方に存在しているが、しかしこれら二つの細胞集団間の関係は不明である。Franklinたちは、マウスの乳房中の腫瘍関連マクロファージが、その近くの非癌性の乳腺組織中で見出されたマクロファージと形や機能や起源において異なることを見出した。さらに、彼らがその腫瘍からマクロファージを除去し、しかし他の乳腺組織からは除去しなかった時に、腫瘍は縮小し、そして腫瘍細胞を殺す他の種類の免疫細胞である、細胞傷害性 T細胞がその腫瘍に浸潤した。このように、腫瘍関連マクロファージは重要な治療標的となるであろう。(KU)
The cellular and molecular origin of tumor-associated macrophages

決断、決断、決断・・・(Decisions, decisions, decisions...)

ハエは、人間のように、知覚的な判断の前に熟考する。ハエたちは、難しい決断をする場合には、簡単な決断より長く考え込む。DasGuptaたちは、ハエたちが異なるにおいを選択する反応時間を測定した。彼らは、特定の遺伝子の変異により、決断力の欠如が生じることを見出した。同じ遺伝子の変異は、知的障害、学習欠損、言語機能障害と関係している。(Sk,ok)
FoxP influences the speed and accuracy of a perceptual decision in Drosophil

COチップによる結合特性の探索(Probing bonding profiles with a CO tip)

原子間力顕微鏡では,より先鋭なプローブである吸着CO分子でチップを終端化することで,より高い分解能が達成されてきた。今回,Chiangたちは,吸着COチップを用いることで,銀あるいは金の表面に吸着したコバルトフタロシアニン分子中の結合を明示できることを示している。非弾性トンネル効果分光法により,CO分子の振動励起の変化が示され,それにより,分子間の水素結合と共にコバルトフタロシアニン分子内の結合の描写が可能となる。(MY,ok,nk)
Real-space imaging of molecular structure and chemical bonding by single-molecule inelastic tunneling probe

効果的なマラリアワクチン開発に向けて(Progress toward an effective malaria)

マラリアワクチンを開発しようというその歴史は、長くかつ困難な道のりであった。Rajたちは、この血液寄生虫によって作られる分子を調べているが、この分子はアフリカのマラリアのはびこる地域に住んでいる人々の自然な免疫応答によって認識される。その一つであるPfSEA-1は、赤血球から寄生虫が出ていくのを阻止した。マウスのマラリアを用いたワクチン接種実験では、寄生虫血症がほぼ4倍の減少を示した。さらに、PfSEA-1抗体の受動免疫により、マウスからマウスへの感染を防御した。嬉しいことに、PfSEA-1抗体の存在は、ケニアやタンザニアの子供たちや青年たちへの深刻なマラリア感染へのかなりの防御につながるものである。(KU)
Antibodies to PfSEA-1 block parasite egress from RBCs and protect against malaria infection

翻訳時に、停止はときに続行となる(In translation, sometimes stop can mean go)

遺伝暗号は、生命のすべての領域にわたって大部分保存されてきた。わずかにはずれた変化は報告されてきたが、Ivanovaたちはメタゲノム解析を用いて、自然に生じている微生物集団中での終止コドン再割当の存在の程度を調査した。ある種の細菌やバクテリオファージは、彼らの終止コドンの系列特異的な再コード化を示していた。ある特異的なファージでは、ゲノムは2つの遺伝的集合へと再構築された。一方の遺伝子集合は、宿主ゲノムとはしっくりいかない具合にコードされ、おそらく感染を助けた。より宿主適合性のある配列をもつ2つ目の集合は、感染後期段階において発現するタンパク質をコードするものだった。(KF,ok,nk)
Stop codon reassignments in the wild

発火、配線とHebb的再構築(Firing, wiring, and Hebbian remodeling)

相関する神経活動は、一般に、中枢神経系における回路の再構築を駆動すると考えられている。このモデルは最初 Hebbによって提唱され、いくつもの種類の証拠によって強く支持されてきたが、これまで再構築による変化をリアルタイムで直接観察することは困難であった。Munzたちは、ニューロンの軸索の構造的再構築を、生体内で高い時間分解能で観察する実験的方法を開発した。彼らは特異的にパターン化された刺激を提示した際のシナプスの効果の変化を測定することで、Hebbモデルを検証した。予想の中核をなすHebb的な発生の可塑性は支持されたが、これが生じる仕組みの詳細は、予想外のものだった。(KF,nk,nk)
Rapid Hebbian axonal remodeling mediated by visual stimulation

クッシング症候群の犯人候補の同定(Candidate Cushing's culprit identified)

クッシング症候群は、コルチゾールの過剰産生によってもたらされる稀な疾患である。クッシング症候群の事例のおよそ15%は、副腎皮質の腫瘍と関係している。しかしながら、そうした副腎皮質腫瘍の遺伝的病因は明瞭ではない (Kirschnerによる展望記事参照)。CaoたちとSatoたちの双方は、 副腎性のクッシング症候群をもつ個人の腫瘍のエキソーム全体の配列決定を行ない、それを患者自身の対応する非腫瘍性DNAと比較することで、プロテインキナーゼ Aの触媒サブユニットアルファ (PRKACA)遺伝子中の反復性の変異と、その他の推定上の病理学的遺伝子におけるより頻度の少ない変異とを同定した。もっともあたりまえに生じる反復性の変異は、そのキナーゼを活性化したが、これは将来の治療標的の可能性を示唆するものである。(KF,KU,ok,nk)
【訳注】
・クッシング症候群(Cushing's syndrome):ステロイドの過剰投与等による続発性骨粗しょう症
・コルチゾール(cortisol):副腎皮質ホルモン
Activating hotspot L205R mutation in PRKACA and adrenal Cushing’s syndrome
Recurrent somatic mutations underlie corticotropin-independent Cushing's syndrome
[インデックス] [前の号] [次の号]