AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 11 2013, Vol.342


マントル混合のマッピング(Mapping Mantle Mixing)

マントルの対流はプレートテクトニクスの主な駆動力であるが、マントルの対流はまた、地球内部の物質を混合し、核からの熱流を制御している。対流のパターンを地震波を用いて直接的に描写すること--特に地球規模で--は困難な場合が多い、Frenchたちは(p. 227, 9月5日号電子版)、地震波の速度と異方性の変化に感度が高い上層マントルと遷移領域の地球規模のトモグラフ画像を構築した。この画像には、マントルの上に乗っているプレートの動きに沿って、水平方向に伸長した構造が上層マントルに見出された。しかしながら、更に深部では鉛直方向の上昇流(plume)の構造が、下層マントルから延びており、そして、ハワイの地下で観測されるのと類似した低速領域の基部付近で消失している。(Uc,KU,nk)
Waveform Tomography Reveals Channeled Flow at the Base of the Oceanic Asthenosphere

腸の絨毛形成(Intestinal Villus Formation)

腸の絨毛は、栄養吸収のための上皮表面積を増している腸の内壁の重要でち密な造形物である。Shyerたち (p. 212, 8月29日号電子版; Simonsによる展望記事参照)は、発生中のヒトとニワトリの双方の腸において、絨毛が段階的な進行で形成されることを見出したが、そこでは内胚葉をジグザクパターンを経由して長軸方向の隆線に順序だって折りたたみ、最終的に個々の絨毛を形成する。このような変化が確立されるのは、腸の平滑筋層の分化を通して、隣接する増殖・成長する内胚葉と間充織の拡大を抑制し、その結果組織の湾曲と折りたたみを引き起こす圧縮応力を作るからである。(KU,nk)
Villification: How the Gut Gets Its Villi

ヨーロッパ人の起源(The Origins of Europeans)

現代ヨーロッパ人の遺伝的な起源を調べるため,Brandtたちは (p.257)古代のミトコンドリア DNA(mtDNA)を調べ,初期新石器時代から初期青銅器時代にわたる364人の中央ヨーロッパ人の遺伝子の違いを同定することができた。得られたミトコンドリアのハプロタイプの変化は,人類集団がユーラシアを横断移動したという仮説と一致し,複雑な人口動態変化を明らかにするとともに,ヨーロッパ人の mtDNA遺伝子プールの起源が後期新石器時代であるという証拠を示した。このような時間軸による解析から,考古学的によく知られている文化と関係した4つの重要な集団移動が別々の時期の別々の方向からの中央ヨーロッパへの遺伝子流入を起こしたことが明らかになった。(MY,KU,bb,nk)
【訳注】ハプロタイプ:いずれかの片親に由来する遺伝子の並び
Ancient DNA Reveals Key Stages in the Formation of Central European Mitochondrial Genetic Diversity

弾性から塑性へ(Elastic to Plastic)

結晶が機械的に圧縮されると、最初は弾性的(可逆的に)に反応し、次いで塑性の領域に入るが、そこでは、物質の構造が不可逆的に変化する。このプロセスは非常に微細な時空間のスケールでの分子動力学的(MD:molecular dynamics)シミュレーションを用いて研究することができるが、実験的解析が遅れていた。Milathianakiたち (p. 220)は、レーザ ビームを用いて多結晶の銅にショックを与え、次に10ピコ秒の間隔でその結晶構造の連続したスナップ写真を撮った。その結果が原子レベルのシミュレーションと直接比較され、そして降伏応力(yield stress)--弾性から塑性への転移点--がMDの予測とよく一致することが明らかになった。(KU,ok,nk)
Femtosecond Visualization of Lattice Dynamics in Shock-Compressed Matter

じっと見る(Glassy Eyed)

結晶性の物質においては、1次元および2次元の欠陥(転位や積層欠陥のような)における原子の集団での動きが、与えられた変形(ひずみ)に対する応答を制御する。しかし、ガラス状の物質が変形に応じてどのようにその構造を変化させるのかについては、ほとんど分かっていない。Huang たちは(p. 224; Heyde による展望記事参照)最新型の透過型電子顕微鏡を用いて、2次元のガラスにおける構造的な再配列の様子を調べた。そこには、せん断力による変形とガラス/液界面での原子の挙動が基礎になっていた。(Sk,kj)
Imaging Atomic Rearrangements in Two-Dimensional Silica Glass: Watching Silica’s Dance

水生成の天地の残骸(Remnants of a Water-Bearing World)

太陽のような恒星は、その生涯を白色矮星として終える。デブリ降着が見られる白色矮星のような系は、岩石からなる惑星の残骸からのデブリが降着しているのであるが、Farihi たち (p. 218) は、この知識と共にその系のスペクトルの詳細な分析結果を用いて、破壊された太陽系外天体中の水分量を導いた。この発見は、白色矮星系には、質量で 26% の水分から構成される岩石の小さな惑星があるということを示唆している。(Wt)
Evidence for Water in the Rocky Debris of a Disrupted Extrasolar Minor Planet

ウイルス防御(Viral Defenses)

植物や無脊椎動物において、RNA干渉 (RNAi)は生得的な抗ウイルス防御機構として機能している。植物や無脊椎動物に感染するウイルスは、RNAi経路を無力にするウイルスのRNAi性抑制因子 (VSRs)を進化させた。哺乳類が対ウイルス防御として RNAiを用いているかどうかははっきりしていなかった(Sagan and Sarnowによる展望記事参照)。 Liたち (
http://www.sciencemag.org/content/342/6155/231.full)と Maillard たち (235)は、RNAウイルスに増殖的に感染した哺乳類の細胞系統と乳児のマウスを研究し、そしてウイルス由来のスモール RNAs(vsRNAs)の産生を観察した。感染性ウイルスの推定される VSRタンパク質が無力化されると、宿主の RNAi由来の vsRNAsが大きく増加し、そしてこのウイルスは急速に掃討され、最悪の感染症に至ることはなかった。このように、哺乳類においても又、RNAiは生得的な抗ウイルス性の機能を持っている。(KU,kj)
Antiviral RNA Interference in Mammalian Cells

不運な湖(Unlucky Lakes)

水生の生態系における、増大する窒素やリンの負荷の負の影響はよく知られている。肥料の流出や排水の流出のような、これらの過剰な栄養素の供給源を減らすための管理の方策により、窒素やリンのレベルの増大を大幅に軽減することができる。しかしながら、これらの方策が、このような生態系の他の側面に影響を与えていないかどうかについてははっきりしていなかった。Finlay たちは(p. 247; Bernhardt による展望記事参照)世界的な湖のデータセットを用いて、リンの流入量が減少すると反応性の窒素を排出する湖の働きが低下し、硝酸塩による汚染が悪化することを見出した。(Sk)
Human Influences on Nitrogen Removal in Lakes

リンパ球の代謝(Lymphocyte Metabolism)

リンパ球はとても活動的な細胞で,感染時に広範囲に増殖し,病原菌が一掃されると数が減少する。リンパ球はまた,栄養素と酸素の利用性に違いがある多くの異なる組織環境を循環する。最近の研究により,この活動的な振る舞いを手助けする代謝のプログラミングが変化することを明らかにされた。このような変化がどのようにして起こるのかや,リンパ球の機能や感染の最終結果に及ぼす特有の効果についてはよく分かっていない。Pearceたちは (1242454),この分野における最近の進展についてレビューし,腫瘍細胞に見られる代謝変化を研究すると、リンパ球と対応する現象が見つかるのではないかと示唆し、また,今後の挑戦課題について提唱している。(MY,nk)
Fueling Immunity: Insights into Metabolism and Lymphocyte Function

複雑さと多様性(Complexity and Diversity)

複雑な生物体は,限られた数の遺伝子と分子経路を用いて,細胞と組織型の並外れた多様性を作り出し,また,維持していく必要がある。細胞は,同一のシグナル伝達ネットワークを,異なった時間に,異なる組織の中で,異なる目的で再使用することにより,これを実現しているが,この状況に応じた設計仕様がどのように達成されているかは,いまだほとんど分かっていない。Jukamたちは (1238016, 8月29日発行電子版),細胞と組織が成長する際に機能する一連の遺伝子が,どのようにしてハエの非分裂性光受容体のニューロン中で再使用され,ハエにおける青および緑の光に対する適切な感受性の発生を確実にするかを示している。Hippo経路は制御性の変化--負から正へのフィードバックへと--を行うが,これには,組織特有の転写制御因子ネットワークが必要となる。このネットワークは進化的に保存された制御因子を用いており、,その因子の変異が人間で起きた場合には,網膜変性疾患となる。ハエにおける状況に対する適正な正のフィードバックにより,視覚系機能の達成に必要なオール・オア・ナッシングの運命決定が確保されるようになる。(MY,KU,kj)
【訳注】Hippo経路:細胞増殖と細胞死を同時に制御することにより組織成長を調整するシグナル経路
Opposite Feedbacks in the Hippo Pathway for Growth Control and Neural Fate

結合する2つのウイルス(Two Viruses to Bind)

ヒトから単離された、受容体結合部位におけるアミノ酸配列が異なる、2つの別々の H7N9インフルエンザ・ウイルス、A/Shanghai/1/2013とA/Anhui/1/2013の構造研究から、このウイルスが、宿主適応への移行段階にあることを示すデータが提供される。上海ウイルスは鳥の受容体グリカンに高親和性で結合する、ヒトから単離された最初のウイルスの1つだが、ヒトの受容体には不十分にしか結合しない。しかしながら、後の安徽省の分離株は、鳥とヒトの双方の受容体に高親和性で結合する。Shiたちは、ウイルス血球凝集素 (HA)によるヒト受容体への親和性獲得に、4つの疎水性変異が貢献していることを示し、この効果をウイルス粒子を用いて結合研究で確認している(p. 243, 9月5日号電子版)。H7N9の変異体である A/Anhui/1/2013 HAと、鳥インフルエンザの H5N1ウイルスとのさらなる比較によって、循環している H7N9ウイルスにおいて観察される自然に生じるいくつかの変化の重要性が明らかにされたが、それは、これらウイルスが短期間のうちにどのようにしてヒトへの重篤な感染を引き起こすことができたかを説明するのに役立つ。(KF,KU,kj)
Structures and Receptor Binding of Hemagglutinins from Human-Infecting H7N9 Influenza Viruses

DNA複製におけるRTEL1 (RTEL1 in DNA Replication)

ゲノムの安定には、多様なDNA維持システムの協調が必要である。DNAヘリカーゼであるRTEL1(テロメア長lを制御する)は、危険な副産物を回避するため、組換えの中間体を解体する。RTEL1はまた、過剰な減数分裂乗換えを制限し、テロメアTループを解体している。Vannierたちはこのたび、哺乳類のRTEL1がDNA複製機構の構成要素であることを示している(p. 239)。RTEL1は増殖性細胞核抗原(PCNA)に結合するが、これは正常なDNA複製や複製点の安定、さらにテロメア安定性にとって重要な相互作用である。このRTEL1-PCNA相互作用はまた、腫瘍形成に対して細胞を保護するのに決定的なものであって、テロメアTループ解体にとっては必要とされないものだった。(KF)
RTEL1 Is a Replisome-Associated Helicase That Promotes Telomere and Genome-Wide Replication

細菌の緊張緩和?(Bacterial Detente?)

VI型分泌系 (T6SS)は、動的細胞内小器官に対応し、機能的には収縮性バクテリオファージの尾に類似している。 幾つかの細菌種の T6SSは、有毒タンパク質(エフェクタータンパク質)の細胞への侵入に反応しているらしい拮抗性行動を担うものであることがわかった。緑膿菌は、外来性の T6SS攻撃を感知し、それ自身の T6SS装置を構築して、攻撃者を直接狙った報復的な攻撃を開始することができる。このたび、Hoたちは、外来性の攻撃が膜破壊を含むプロセスにおいていかに感知されるかを記述し、T6SSが T6SSだけでなく、交雑の対形成系に関与するIV型分泌系によって侵入する接合性 DNAエレメントにに対しても働く、一般的な細胞防御機構を提供しているということを示唆している(p. 250)。(KF,KU,kj)
Type 6 Secretion System?Mediated Immunity to Type 4 Secretion System?Mediated Gene Transfer

BCL11Aの変異体(BCL11A Variants)

最近の染色質マッピング データから、形質に付随した変異体は、しばしば調節性のDNAを標識していることが示唆された。しかしながら、調節性DNAの変化に関しての厳密な実験はほとんどない。Bauerたち (p. 253; Hardison and Blobelによる展望記事参照)は、BCL11Aの胎児ヘモグロビンに関わる遺伝子座位に関する徹底的な研究を行った。形質に付随する変異体は、赤血球の発生を高めるクロマチン署名の存在を明らかにした。。このエンハンサーは BCL11Aの赤血球の発現に、従って、グロビンの遺伝子発現に必要であった。(KU,kj)
An Erythroid Enhancer of BCL11A Subject to Genetic Variation Determines Fetal Hemoglobin Level
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