AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science June 7 2013, Vol.340


ダスト微粒子から惑星へ(From Dust Grains to Planets)

ほぼ900個の太陽系外惑星が同定されてきたが、いかにして惑星が形成されたかを正確に理解するために、今なお努力が払われている。Atacama Large Millimeter Array のデータを用いて、van der Marel たち (p. 1199; Armitage による展望記事を参照のこと) は、若い恒星を取り囲むミリメーターのサイズの微粒子が、大きく非対称に分布していることを報告している。モデルによると、これらの粒子から惑星は形成されるのだが、この粒子が高気圧性の渦によって原始惑星円盤中に捉えられていることを示唆している。大きな微粒子が原始惑星円盤中に局在していることは、惑星形成の一段階と考えられる。(Wt)
A Major Asymmetric Dust Trap in a Transition Disk

捕捉して結合させる(Trapped and Coupled)

単一の捕捉原子は、量子情報を蓄えたり操作したりするのに理想的である。Thompson たちは(p. 1202, 4月25日号電子版 ; Keller による展望記事参照)、フォトニック結晶キャビティーの場のモードとコヒーレントに相互作用する単一原子を制御するのに成功した。光ピンセットを用いて、単一原子を捕捉し、それによってその原子をフォトニック結晶の導波路にごく近接して置くことが可能になり、原子をキャビティーの光学モードと相互作用させることができた。そのような相互作用は、量子的な計測、検知、情報処理に有用であることが証明されるであろう。(Sk,KU,ok,nk)
Coupling a Single Trapped Atom to a Nanoscale Optical Cavity

太陽の中の彗星(A Comet in the Sun)

2011年、Lovejoy 彗星は太陽大気中に突入し、探査機がかって到達したことのない太陽の領域(コロナ領域)を通過する飛行を耐えて生き残ることができた。Downs たち (p. 1196) はこの太陽をかすめる彗星を探査機から観測し、そして、高度な磁気流体シミュレーションと結びつけることにより、太陽大気の磁場の大きさに制限を与えた。これは従来、直接測定することが非常に困難であった物理量である。(Wt,ok,nk)
Probing the Solar Magnetic Field with a Sun-Grazing Comet

地下からの衝撃波(Sonic Boom from Below)

地震によって発生するせん断波は、一般的に、断層面に沿った地殻の動きよりもはるかに速く伝わる。しかしながら、たまに、走向-辷り断層(strike-slip faults)に沿った地震では、破断速度が剪断波より速く伝播し、断層面に沿ったある種の衝撃波を発生する。Passelegue たちは(p. 1208)、高い垂直応力がかかった2枚の花崗岩のスティック・スリップ(stick-slip)実験により、これらのいわゆる超せん断破壊を再現し、計測することに成功した。飛行機が音速を超えて飛行するときの衝撃波とほとんど同じように、破壊の最前面の周囲でマッハ円錐の形の衝撃波が生み出される。(Sk,KU,ok)
From Sub-Rayleigh to Supershear Ruptures During Stick-Slip Experiments on Crustal Rocks

新しさに必須なこと(Essential Novelty)

新たに発生した遺伝子の必須の機能の進化は、その遺伝子発生前に、その必須の機能が存在していなかったのか、或いは他の遺伝子、或いは遺伝子のセットによって行われていたのかという疑問が生じる。新たな遺伝子が、どのようにして必須の機能を獲得するのかをさらに良く理解するために、Rossたち (p. 1211)は、ショウジョウバエの遺伝子 Umbreaの起源を調べた。ある種のショウジョウバエにおいてたまたま、Umbreaは中心体への局在化が起こって、染色体分配における役割を獲得し、必須のタンパク質となった。(KU,nk,kj)
【訳注】中心体(centrosome):細胞に存在する小器官で、細胞分裂の際の染色体の分配に関係する
Stepwise Evolution of Essential Centromere Function in a Drosophila Neogene

必要とされる耐性(Tolerance Needed)

貴方が風邪ですっかり体調を崩しているのに、オフィスの隣人は単に鼻をすする程度。このようなことは一般的によくあり得ることである。この違いは何によるものなのだろうか? 最も普通に考えられるのは、このような類の違いは抵抗性における違い、たぶんオフィスの仲間よりも貴方のほうがより高いウイルス量を持っているということに帰因する。しかし、このような違いはまた、同程度のウイルス量に耐える能力の違いも含んでいる。しかしながら、耐性と抵抗力の寄与を明確にすることは困難である。Jamiesonたちは(p. 1230, 4月25日号電子版)マウスのモデルをウイルスとバクテリアに共感染させて研究し、耐性と抵抗力を切り離して評価した。インフルエンザウイルスに感染したマウスは、バクテリアの負荷の差というよりも、生体組織ダメージへの耐性損傷の結果としてレジオネラ細菌による二次感染に罹りやすくなる。(Uc,KU,nk)
Role of Tissue Protection in Lethal Respiratory Viral-Bacterial Coinfection

何が強迫神経症を引き起こすのか?(What Causes Obsessive Compulsive Disorder?)

強迫神経症は何百万人もの人が患っている深刻な慢性精神疾患である。しかしながら,この発症メカニズムはいまだよく分かっていない(RauchとCarlezon Jr.による展望記事参照)。Ahmariたちは (p. 1234),マウスに対し,眼窩前頭皮質と腹内側線条体の間のグルタミン酸作用経路を刺激し,強迫的行動の様子をその毛づくろいによって評価した。何日にも渡る繰り返し刺激により、腹内側線条体ニューロンの応答性の変化が引き起こされた。そのうちに,マウスの行動は刺激と無関係になり,そしてそれを抑えるには抗うつ剤であるフルオキセチンが有効であった。Burguiereたちは(p. 1243),条件付けされた毛づくろいをことさら示す変異マウスにおける強迫神経症状の神経基盤について調べた。(MY,KU,nk)
Repeated Cortico-Striatal Stimulation Generates Persistent OCD-Like Behavior
Optogenetic Stimulation of Lateral Orbitofronto-Striatal Pathway Suppresses Compulsive Behaviors

母親に感謝(Thank Your Mother)

母親の影響力や効果は、胎児たちに彼らがいずれ当面するであろうある種の環境条件に対して応答の準備をさせることがある。Dantzerたち (p. 1215, 4月18日号電子版)は、アカリス(北米産)の集団をモニターし、そして同種の鳴き声数の中の自然増加分と人工的に誘発された増加分が、母親の糖質コルチコイドレベルがを加させることで子供の成長速度を高めていることを見出した。このように、母親の経験した密度ストレスにより、密な集団の中で生まれると予想される多くの他の子供たちよりより速く成長し、望むらくは競争有利になるように、子供を産むべく母親を刺激するらしい。(KU,ok,nk)
Density Triggers Maternal Hormones That Increase Adaptive Offspring Growth in a Wild Mammal

共線性がマウスの四肢に合図を送る(Collinearity Cracked in Tetrapod Limbs)

肢の発生中に、Hox遺伝子群転写のその時間と場所は、その遺伝子クラスター内の個々の遺伝子位置によって固定されている。Andreyたち (p. 1234167; Rodrigues and Tabinによる展望記事参照)は、この謎の多い性質が、マウスの Hox座位の両サイドにある二つの大きな調節領域が相対する作用を連続して行うことから生じていることを見出した。初期相において、これらの形態的領域の一つは、他の形態的領域に向けての切り替えが起きるまで身体の中心に近い肢(腕)に関する転写を制御しており、この切り替えにより引き続いて身体の中心から遠くに発生する指が生じる。この拮抗する調節方法の副作用として、細胞は中間的にHoxの転写を減らし、 手首が発生する。(KU,nk)
【訳注】共線性(Collinearity):胚発生過程で、染色体上にクラスターを形成して存在する遺伝子が、並んでいる順番に発現する現象。特に、Hox遺伝子群(ホメオティック)は頭尾軸に沿った形態発生に関与し、中心軸に近いところ(腕や前腕)から指の方へと順番に形態発生が生じる。
A Switch Between Topological Domains Underlies HoxD Genes Collinearity in Mouse Limbs

もつれを解明する(Unraveling Entanglement)

量子もつれは幾つかの量子力学系が示す興味深い特性の一つであり、量子情報処理のような応用が期待されている。Walterたちは、幾何学的空間において純粋状態にある多粒子系のもつれを表現するのに代数幾何学手法を用いた。そこでは空間軸が個々の粒子が持つ特性に関連付けられている。その空間において、もつれクラス(相互に変換可能なもつれ状態の集合)は、異なる凸多面体に対応するのでクラス間の区別が可能となる。(NK,KU,nk)
Entanglement Polytopes: Multiparticle Entanglement from Single-Particle Information

低温場での拘束と放出(Lock and Load in the Cold)

筋肉の伸張性は、圧縮された後にはね返るばねのようにエネルギー貯蔵媒体として作用する。Georgeたち(p. 1217:4月25日号電子版)はまた、エネルギーが筋肉の自然な温度勾配が引き起こす作用のひとつとして筋肉内に蓄積されることを示している。スズメガ(hawkmoth)の筋肉の筋フィラメントにおいて、架橋周期の減少により、筋フィラメントが局所的に束縛され、結果的に「ロックされたばね格子(lock-spring lattice)」となり、筋フィラメントと架橋の双方が変形するので弾性エネルギーの蓄積が可能になる。収縮サイクルの前半の終わりにおいて、弾性変形して結合したままの架橋に蓄積されていた弾性エネルギーは、収縮サイクルの後半に放出され、こうして付加的な弾性力として役立つ。このような「ボーナス」エネルギーは、大きなエネルギーを必要とする飛行では、特に重要であろう。しかし、温度勾配は筋肉におけるエネルギー生成と放熱からの自然な結果であるので、このメカニズムは移動システム全般に渡って重要であるかもしれない。(hk,KU,ok,nk)
The Cross-Bridge Spring: Can Cool Muscles Store Elastic Energy?

ある活性酸素種を送ってくれる(Sending Out an ROS)

水生環境における生物活性の世界的影響は、しばしば、酵素に仲介された酸化還元反応の結果だと考えられており、この反応が呼吸の際に酸素を還元するなどの代謝活性を支えている。しかし、ある種の生物体はまた、微量金属を得るため、あるいはウイルス感染を防ぐために酸化還元活性のある活性酸素種(ROS)を環境中に放出し、それが養分利用性や汚染物輸送などの世界的プロセスに影響を与えることがある。植物プランクトンなどの光合成生物が、淡水や海洋環境における活性酸素種の一次の生物学的リソースであると考えられている。しかし、Diazたちはこのたび、生態学的かつ系統学的に多様な従属栄養細菌も、また大量の過酸化物を産生していることを示している(p. 1223, 5月2日号電子版: またShakedとRoseの展望記事参照)。30種のよくある細菌性単離物における産生速度は大きく異なっていて、いくつかの場合には、植物プランクトンのそれを上回っていた。これら細菌は成長するのに光が必要ないので、深海や陸生土壌、湖の沈降物中などのような暗い環境では、活性酸素種の支配的な源である可能性がある。(KF,kj)
Widespread Production of Extracellular Superoxide by Heterotrophic Bacteria

システムの改善(Improve the System)

「システム生物学」のアプローチにより,例えば特定のたんぱく質がどのようにして細菌の温度抵抗性の極限を決定しているかが解明されるかもしれない。Changたちは(p. 1220),タンパク質構造の知見を代謝モデルに統合し,これにより,酵素のタンパク質構造を酵素による触媒代謝反応に関連化させた。影響を受けやすいタンパク質への温度効果が予測可能となり,細菌の温度抵抗性の極限を決めるのに介在する基軸反応が特定された。実際,熱に弱いタンパク質を耐熱性の人工タンパクで置き換えて熱脆弱性細菌株の増殖を改善することが出来るかも知れない。改変細菌株が産業的価値あるいは治癒的価値の高い化合物を作り出す場合には,そのような制御は役に立つものとなるであろう。(MY,ok,nk)
Structural Systems Biology Evaluation of Metabolic Thermotolerance in Escherichia coli

活動的になるには(Getting Active)

P450 チトクロムは、ヘム補助因子を含み、薬剤などの有機物基質の酸化を触媒する酵素のファミリーである。P450に電子を送るには、タンパク質パートナーが必要である。この仕組みへの洞察は、細菌性 P450camの研究から得られたが、レドックス複合体の構造が欠けているせいで、理解は妨げられてきた。Tripathiたちは、レドックスパートナーであるプチダレドキシン (putidaredoxin:Pdx)による450cam複合体の酸化型と還元型の高分解能の結晶構造を記述している(p. 1227)。Pdxはよりオープンな450cam形態を好み、これによりプロトン-共役の電子移動やO2活性化に必要な、水-介在の水素結合ネットワークが確立する。(KF,KU)
Structural Basis for Effector Control and Redox Partner Recognition in Cytochrome P450

脳を分ける(Dividing the Brain)

大脳皮質は、視床からの直接の入力を受け取る一次皮質領と、次いで1つ以上の一次皮質領からの入力を受け取る高次皮質領とに組織化されている。Chouたちは、この高次皮質領の特殊化の根底にある仕組みを調べた (p. 1239)。背側外側膝状核から一次視覚野 (V1)への入力は、大きな視覚的皮質領を一次および高次の視覚野へと遺伝的および機能的分化を促進するのに必要である。視床皮質系の軸索入力は、大きな視覚的皮質領に作用している。背側外側膝状体からの求心路は、皮質を、より高次の処理領域からV1を区別する複数のサブエリアへとさらに再分化していくのに必要である。これら知見から顕かになった比較的単純なモデルにおいて、感覚入力は一次および高次皮質領を識別するのに必須なものなのである。(KF,KU)
Geniculocortical Input Drives Genetic Distinctions Between Primary and Higher-Order Visual Areas
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