AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 22 2013, Vol.339


太陽系外惑星の高分解能スペクトル(High-Resolution Spectrum of an Exoplanet)

私たちが知っている多くの太陽系外惑星とは異なり、恒星 HR 8799 の周りの4個の惑星は直接的に検知された。Konopacky たち (p.1398, 3月14日付電子版; Marley による展望記事参照) は、それらの惑星のひとつの高分解能スペクトルを得たが、そのスペクトルは、惑星大気中に水と一酸化炭素は存在するが、メタンは存在しないことを示している。大気の炭素と酸素の比をもとに、惑星形成過程をたどることができる。この惑星の比は主星のものよりも大きく、それは惑星がどのように形成されたかの手がかりを与えるものである。(Wt)
Detection of Carbon Monoxide and Water Absorption Lines in an Exoplanet Atmosphere

光スピンホール効果(Photonic Spin Hall Effect)

荷電キャリアが磁界中を通過する際、ホール効果によりその軌道が曲げられる。電子は磁性をつかさどる電荷とスピンを有しており、電磁気学の対称性から、スピンホール効果により電界によってスピン流が曲げられる。光学において、光子もまた、電界成分と磁界成分を有しており、対応する光スピンホール効果を示すはずである。Yinらは精緻に設計されたメタマテリアル表面を用いることで、光子に対するスピン-軌道カップリングが増幅し、実測可能な光スピンホール効果が生じたことを報告している。(NK,KU,nk)
Photonic Spin Hall Effect at Metasurfaces

DNAのオリガミ構造の再構造化(Rewiring DNA Origami)

複雑なDNAナノ構造は,多くのより短い「ホッチキス鎖(staple strands)」の結合によるDNAの長い骨格鎖から形成される。これらDNAのオリガミ構造(DNA origami structure)において,骨格鎖の形成は、平行ならせん体を形成するためのダブル・クロスオーバーの構造で制約を受けていた。今回,Hanたちは,格子状単位(gridiron unit)に基づいたもっと柔軟性がある方法について記述しているが、その構造において4つの4-アームの接合部が互いに結合して、2層の四角形の構造を形成している (p. 1412)。球やらせんのような曲りの大きな構造を含む多くの2次元,3次元構造が作り出された。(MY,KU,ok)
【訳注】ダブルクロスオーバー構造;並行隣接路の間にたすき掛けがされた構造
DNA Gridiron Nanostructures Based on Four-Arm Junctions

地滑りをもたらす(Bringing Down Landslides)

地震の大きさと場所を特定するために使われる広域地震観測網と同じく、地滑りメカニクスを遠隔測定できれば価値ある情報がもたらされて、地震によってしばしば致命的で高価な代償を負う自然災害を理解することができるようになるだろう。Ekstromと Stark (p. 1416; Petleyによる展望記事参照)は、従来の監視ネットワークでは記録できない長周期の事象を同定する方法を使用して、全地球地震観測網データを解析した。全地球地震観測網は地滑りの事象を記録し、かつ土石流の期間と全質量、及び方向等の動的特性を定量化することができた。その解析から、ヒマラヤ山脈のシアチェン氷河と関係した一連の7つの以前記録のない大規模な地滑りの位置が決定され、そして定量化された。(hk,KU,ok)
Simple Scaling of Catastrophic Landslide Dynamics

羽の斑点を調べる(Seeing Spots)

キイロショウジョウバエ系列のエソームバエ(ESome flies)では、種内で変化する羽の斑点が見える。斑点を決めるその根底となる遺伝学を調べることで、Arnoultたち (p. 1423)は、これらのハエの羽における目新しいパターン形成の発生と多様化という二段階シナリオの証拠を与えている。この知見は、二段階モデルが植物や動物の形質の出現と多様化に一般的に適用可能であることを示唆している。(KU,ok)
Emergence and Diversification of Fly Pigmentation Through Evolution of a Gene Regulatory Module

TLR8相互作用を解剖する(Dissecting TLR8 Interactions)

Toll様受容体(TLR)は、侵入する病原体に応答して、自然免疫系(先天性免疫反応)を活性化する。TLR7およびTLR8は、ウイルス由来の一本鎖RNAを認識し、また自己免疫疾患の病変形成にも寄与する。Tanjiたちはこのたび、リガンド非結合のTLR8外部ドメインの結晶構造と、異なった3つの小分子刺激薬に結合したTLR8外部ドメインの結晶構造とを報告している(p. 1426)。前もって形成されたTLR8二量体へのリガンド結合が立体構造変化を誘発し、これによりC末端領域を互いにより近づけ、おそらく下流へのシグナル伝達を引き起こすのであろう。(KF,ok)
Structural Reorganization of the Toll-Like Receptor 8 Dimer Induced by Agonistic Ligands

膜を切断する(Making the Cut)

ダイナミンは、膜の分裂と融合に関与する構造的に近いグアノシン三リン酸分解酵素の巨大なファミリーの始原的なメンバーである。ダイナミンがどのように作用しているのかを説明するために、様々なモデルが示唆されてきた。Shnyrova たち(p. 1433; Holzによる展望記事参照)は、脂質ナノチューブに関するダイナミン-介在の膜切断を再構成し、そしてこれまでに知られているダイナミンの全ての機能を考慮に入れたダイナミン活性の分子モデルを提出した。(KU,nk)
Geometric Catalysis of Membrane Fission Driven by Flexible Dynamin Rings

インターフェロンを妨害する(Interfering with Interferons)

ライ菌や結核菌等のマイコバクテリアへの感染症は、臨床症状において大きく異なる。例えば、ライ菌感染のいくつかのケースにおいて、その感染症はごくわずかな病変で自己-治癒する。対照的に多菌型の患者の場合、皮膚病変が至る所に生じ、細菌も増殖している。ライ菌に感染した患者において、Telesたち((p. 1448, 2月28日号電子版)は、多菌型の病変はI型のインターフェロン遺伝子の特徴と関係しており、一方自己-治癒型はII型のインターフェロン 遺伝子の特徴と関係していることを見出した。培養細胞において、I型のインターフェロンとその下流のシグナル伝達カスケード反応により、II型のインターフェロンによって誘発される抗菌反応が抑制された。これにより、何故にハンセン病のいくつかのケースでは防御作用でなく、頑強な病変が見出されるのかという疑問に対する説明が与えられる可能性がある。(KU,nk)
Type I Interferon Suppresses Type II Interferon?Triggered Human Anti-Mycobacterial Responses

イヤ、イヤ実は(Ear, Ear)

中耳の発生には、中耳の発生は幾つかの仮説が競い合っている問題である。Thompson と Tucker (p. 1453; Fekete and Nodenによる展望記事参照)はトランスジェニックマウスを用いて、中耳を形成する細胞型を追跡した。中耳発生の際に、内胚葉のバルーン(腔)が拡大して破裂し、間充織系神経堤細胞の移入が可能になる。この間充織が引っ込む際に、内胚葉のバルーンの残遺物が端に寄せられた空洞が形成される。こうして、マウスにおける成熟した中耳では、粘膜上皮で典型的に見られるような豊富な繊毛を持つ内胚葉と、そして繊毛を欠く神経堤細胞とがそれぞれ部分的に並んでいる。このように、哺乳類の中耳の上皮細胞は、内胚葉性の細胞集団と外葉胚性の細胞集団という二つの細胞集団をその起源としている。(KU,ok,nk)
【訳注】胚葉(germ layer):初期胚が卵割により多数の規則的に配列し上皮の層構造を形成し、これらの層を内胚葉、外葉胚、中葉胚と呼ぶ。
間充織:上皮細胞の間の隙間を埋める遊離細胞集団。
神経堤細胞:外葉胚性の神経細胞集団
Dual Origin of the Epithelium of the Mammalian Middle Ear

空孔に注目(Mind the Vacancies)

固体系の電気特性を操作するするためにそのキャリア密度を変えるには、通常ケミカルドーピング(秩序性が損なわれる)を用いる。最近,イオン液体を用いて物質の表面に電気二重層を形成し、電界印加によりキャリア密度を調整する方法が用いられるようになった。Jeongたちは、室温付近で金属-絶縁体転移を起こす二酸化バナジウム(VO2)に対して液体ゲーティング(liquid gating)を用いた(p. 1402)。liquid gatingにより,前記転移ははるか低温側に抑制されたが,liquid gating用液体が洗い流されても二酸化バナジウムは金属状態を保った。これから,二酸化バナジウムは、単純な静電的効果でなく、高電界での電気化学的な結果、酸素空孔が注入されて変調したらしい。この結果は,凝縮系物理におけるliquid gatingの実験に際して慎重な解釈が必要であることを意味している。(MY,KU,nk)
【訳注】liquid gating:イオン液体に接したゲート電極に電圧印加し,イオン液体中の片方のイオンを物質表面(上の論文ではVO2)に近接させ,物質中に前記イオンと反対極性のキャリアを生じさせる技術。物質中にはケミカルドーピングと同程度のキャリア密度が生じる
Suppression of Metal-Insulator Transition in VO2 by Electric Field?Induced Oxygen Vacancy Formation

Wntシグナル伝達をめぐる3つのお話(Three Tales of Wnt Signaling)

Wntシグナル経路は、発生に際しての多くの生物学的プロセスを制御する重要な役割を果たしており、またいくつかの癌細胞の振舞いにも関与している(BerndtとMoonによる展望記事参照)。Cruciatたちは、Wntシグナル伝達に影響するタンパク質のスクリーニングにおいて発見されたあるタンパク質の作用機序を記述している(p. 1436, 2月14日号電子版)。DEAD-box RNAヘリカーゼの1つであるDDX3は、ツメガエルや線虫における適切なWntシグナル伝達にとって必要である。それは、RNAヘリカーゼとしての作用を介して、あるいはアデノシン三リン酸結合を介して作用しているのではなく、むしろタンパク質キナーゼであるカゼインキナーゼ 1 との相互作用によって作用し、その活性化を促進しているらしい。Huang たちは、その変異がマウスやヒトにおける発生上の重大な欠損の原因となる遺伝子産物である、受容体-相互作用タンパク質キナーゼ4 (RIPK4)の機能を研究した(p. 1441, 1月31日号電子版)。培養されたヒト細胞中でのそのタンパク質の過剰発現は、Wntシグナル経路によって制御される複数の遺伝子の転写を活性化し、一方、RIPK4機能の損失は、アフリカツメガエルの胚におけるWntシグナル伝達を抑制した。分子レベルでは、RIPK4はWnt共同受容体であるLRP6およびWntシグナル伝達アダプタータンパク質DVL2と相互作用し、DVL2のリン酸化を促進した。HabibたちはWnt-固定化ビーズを用いて、外部のきっかけが、いかにして非対称的な幹細胞分裂を指示しているかを理解しようとした(p. 1445)。空間的に制限されたWntシグナルは、有糸分裂面を正しい方向に合わせて、Wnt近くの娘細胞における多能性遺伝子発現をもたらした。その一方で、遠くにある娘細胞は、分化の特徴を獲得した。つまり、非対称性の遺伝子発現は、短距離のシグナルによる指向性の結果として生じうるのである。(KF,ok)
RNA Helicase DDX3 Is a Regulatory Subunit of Casein Kinase 1 in Wnt?β-Catenin Signaling
Phosphorylation of Dishevelled by Protein Kinase RIPK4 Regulates Wnt Signaling
A Localized Wnt Signal Orients Asymmetric Stem Cell Division in Vitro

砂の上を歩く(Walking on Sand)

空気中や水中を移動する物体の研究は、より優れた流れの動きをする物体を設計するための詳細なモデルを提供してきた。その例には、飛行機の垂直翼や水平翼、水中探査に用いられるロボット、競泳者の競争力を高める水着さえ含まれる。しかし、不均一な動きをする物質上や物質中を移動する物体の力学は、はるかに分かっていない。例えば、砂のような粒状の媒質上を歩くとき、動いている脚や足は媒質の特性のわずかな変化によりいろいろな深さまでもぐりこむだろう。Li たちは(p.1408; Hunt による展望記事参照)このシステムを研究し、さまざまな足の形や動きの速さに対して、粒状の媒質上での足の挙動を予測するモデルを開発した。挙動を複雑にする因子には、粒状物質の大きさ、形状、均一性はもちろん、足の形、大きさ、動きの方向も含まれている。(Sk,KU,nk)
A Terradynamics of Legged Locomotion on Granular Media

共に作用する(Working Together)

気候サイクルの中心的な側面である、氷河サイクルにわたる大気中の二酸化炭素濃度の変動は数十年前に実証された。しかしながら、どのようなメカニズムで CO2 変動が引き起こされてきたのかを同定することは困難であった。南氷洋は、水文学と生物学が独特の結びつきをしていることから注目されてきたが、南極と亜南極地帯での異なるCO2変動への振舞いが、どのていど大気中の CO2 の変化の観測結果に一致するのかについては明らかでなかった。Jaccard たちは(p.1419)、過去10回の氷河サイクルをまたがった、はるかな過去に遡る大西洋の南極地帯での有機プランクトンの生産量の記録を提示している。その結果は、南極と亜南極地帯での影響を組み合わせることにより、過去100万年にわたる大気中の CO2 の記録のほとんどが説明できることを示している。(Sk,KU)
Two Modes of Change in Southern Ocean Productivity Over the Past Million Years

沈み行く藻類(Diatom Fall)

2012年には、これまで記録されたうちで最大の、北極氷の最小化がみられた。これによって調査船は前例にないほど、北極海洋に深く入り込み、アクセスすることが可能になり、高緯度での氷の融解とそれに付随する現象の観察ができるようになった。北緯84度から89度における調査船Polarsternからの情報に基づいて、Boetiusたちは、広範囲の緯度において、複数年に及ぶ、あるいは季節性の氷の下に、大規模な珪藻 Melosira arcticaの凝集体がぶら下がっていることを観察した(p. 1430, 2月14日号電子版; また表紙参照)。藻繊維上の藻は氷から容易にはがれて沈み、深さ4400メートル下にまで及ぶ海床上に凝集物を形成したが、そこでその藻類はナマコやクモヒトデなどの大きな移動性無脊椎動物によって消費されることになる。Nansenは、100年前の北極で氷下の藻類を観察したが、この凝集物現象の規模は知られていなかった。そうした凝集物のダイナミクスは、地球規模の炭素収支に影響を及ぼすはずであるが、しかし氷の融解がより広範囲になるにともなって、このダイナミクスがどのように変化するかは不明なままである。(KF,KU,ok,nk)
Export of Algal Biomass from the Melting Arctic Sea Ice
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