AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 10 2012, Vol.335


巻き込まれたDNA(Wrapped DNA)

TALエフェクターとは、病原性の微生物が植物細胞の中に注入するタンパク質であり、このタンパク質がホストのDNAに結合し、植物遺伝子の発現を活性化する。TALタンパク質のDNA結合ドメインは、縦列反復(tandem repeats)から構成され、そのうちの或る反復-可変性の2つの残基配列がヌクレオチド特異性を与えている。Dengたち(p. 720,1月5日号電子版)は、11.5個の反復を含むTALエフェクターdHax3の構造をDNAの無い状態とDNAに結合した状態で報告している。Makたち(p. 716,1月5日号電子版)は、22個の反復を含むpthXo1TALエフェクターのそのDNA標的に結合した状態での構造を報告している。二つの報告をまとめると、その構造はDNA結合に関連する構造変化を明らかにし、そしてDNA認識に関する構造基盤を与えるものである。(KU)
Structural Basis for Sequence-Specific Recognition of DNA by TAL Effectors
The Crystal Structure of TAL Effector PthXo1 Bound to Its DNA Target

春の異常発生(Spring Bloom)

北の海のプランクトンの春の異常発生は、明らかに光の増加と冬の気候に応答して発生するが、それはこの二つにより栄養物が海の表面で入手できるようになるからである。この季節性は地球規模で重要なことであり、それはこの現象が、植物プランクトンの増殖によってもたらされる、CO2の産生から炭素貯蔵への転換点を反映しているからである。この現象は炭素過剰な現代において、特に関心の或る事柄である。Giovannoni and Vergin(p。671)は、これらの高度に規則的なプランクトンコミュニティーの動力学に関して既知の事柄をレビューし、幾つかの分類群に関する専門家の役割を考察し、そして海洋への人為的な変化に対する予測とこれらのことが海洋微生物によって促進される地球化学的な循環に対して意味する事柄に関して考察している。(KU,nk)
Seasonality in Ocean Microbial Communities

上空から見る地震(Earthquakes from Above )

大地震に付随する危険や危機に備えるためには、それらの詳細な力学的特性の理解が必要である。地震の位置と大きさとを正確に示すことに加えて、地震後の破壊の広がりや変形量の解析結果は、鍵となる物理量であるが、それらは地震データのみからは、容易には入手できない。Oskin たち (p.702) は、レーザーによるリモートセンシングの、ライダー(Light Detection and Ranging LiDAR) を用いて、2010年の北メキシコで起きた マグニチュード 7.2 の El Mayor-Cucapah 地震の際に破壊した周囲の地域を調査した。この地域は2006年にも解析されていたので、比較による分析により、浅い断層地帯でのスリップ速度と歪の解放が明らかになるとともに、以前知られていなかった多数の断層が見出された。リモートイメージングがより安く、より一般的になるにつれ、画像の差異(差分)解析は、現代の地震観測網を補完する、断層に関連した変形のデータを供給し続けるであろう。(Wt,KU,ok,nk)
Near-Field Deformation from the El Mayor Cucapah Earthquake Revealed by Differential LIDAR

二硫化モリブデンに入り込む(Edging In on MoS2)

二硫化モリブデンは石油化学産業で広く用いられている触媒であるが、最近水を分解できることが発見され、注目されている。この触媒活性は露出したジスルフィド基(S22-)のエッジ部位に限定されているようであるが、その反応の根底にある正確な幾何学的詳細は明らかにされていない。Karunadasaらは(p.698)、これらのエッジ部位の一つをモデリングした分子複合体を合成したが、その複合体において三角形のMo-S-Sユニットが、ペンタピリジルリガンドの配位した金属によって保持されている。同分子は結晶学的に解析され、電気化学分解により水(粗く濾過された海水でさえも)から水素を安定的に発生させるという。(NK,KU)
A Molecular MoS2 Edge Site Mimic for Catalytic Hydrogen Generation

きのこ体に挑戦する(Challenging the Mushroom Bodies)

初期の記憶は不安定であり、時間とともに徐々に持続性の安定した記憶が固定される。哺乳類を含む幾つかの種で、記憶の固定はタンパク質の合成に依存している。シュジョウバエにおいて、長期記憶は時間をおいた繰り返しの訓練によって形成されるが、この訓練によりサイクリックアデノシン一リン酸(cAMP)-応答エレメント-結合タンパク質(CREB)-依存性の遺伝子転写と新規なタンパク質合成が誘発される。多数の遺伝子ツールを用いて、Chenたち(p. 678;Dubnauによる展望記事参照)は、成体の脳において新規なタンパク質合成のGREB-依存性の誘発を二つの背面部の前側-外側ニューロンに局在化させた。重要なことは、タンパク質合成が、昆虫において通常連合学習と記憶の部位と考えられているきのこ体内部では必要とされなかったことである。(KU)
Visualizing Long-Term Memory Formation in Two Neurons of the Drosophila Brain

平衡を維持する(Maintaining Equilibrium)

Na+/Ca2+の交換体(NCX)は膜輸送体であり、サイトゾル(細胞質)のCa2+の恒常性を維持し、かつCa2+シグナル伝達において必須の役割を担っている。長い生理学的研究の歴史や、機能に関する大量のデータがあるにもかかわらず、NCXのイオン交換メカニズムの基本となる構造的な原理はほとんど解ってない。Liao たち(p. 686; および、Abramsonたちによる展望記事参照)は、超好熱性のメタン菌Methanocaldcoccus(Methanococcus) jannaschii由来のNCXの結晶構造を高分解能で決定し、そしてこの古細菌のNCXは、対応する真核生物のNCXと類似したNa+/Ca2+の交換反応を触媒することを実証した。また、この構造からイオン交換反応タンパク質のメカニズムが明らかになり、その反応の化学量論、協同性、そして、双方向性の基礎が明らかになった。(Ej,KU)
Structural Insight into the Ion-Exchange Mechanism of the Sodium/Calcium Exchanger

過剰な寛容性?(Too Much Tolerance?)

免疫系において、自己への免疫寛容性の消失は自己免疫疾患のような重大な結果を生じる。しかし、腫瘍と戦うために免疫細胞を活性化するために、この寛容性を破壊することが望まれることがある。Schietinger たち(p. 723, および、1月19日号電子版、また、Lee and Jamesonによる展望記事参照) によれば、遺伝的マウスモデルと養子免疫細胞(adoptive immune cell)の移入の組合わせを利用して、Tリンパ球の寛容性を制御しているメカニズムを理解しようとした。従来の支配的な考え方と異なり、Tリンパ球の寛容性の維持には抗原が継続して存在している必要はない。以前寛容性を獲得した細胞が免疫細胞の無い環境に置かれると、寛容性が破壊される。しかし、リンパ球の数が復元すると抗原が無くても細胞は再び寛容性を持つようになる。これらのデータを遺伝子発現の解析と共に考察すると、寛容性は、時には無効になることもあるが、後成的メカニズムより有効になる特定の遺伝子発現プログラムに関連していることを示唆している。(Ej,KU)
【訳注】
養子免疫細胞:免疫細胞に他の動物のリンパ球を注入して得られた免疫細胞
Rescued Tolerant CD8 T Cells Are Preprogrammed to Reestablish the Tolerant State

どうぞご自由に(Be My Guests)

医学的な診断や薬物輸送などを含む一連の用途のため、一つあるいはいくつかの成分をマイクロカプセル中に内包させることが求められる。これを行うのには多くの方法があるが、大部分の方法は様々なカプセルサイズが出来てしまったり、大量生産に拡張することが困難である。J. Zhang たちは(p. 690)、ホスト−ゲスト化学を用いて、カプセルを作るためのマイクロ流体をベースにしたシステムを開発した。水中で容易に錯体を形成する、キューカビット[8]ウリルがホスト分子として用いられ、2つの異なるゲスト分子を収容できた。メチルビオロゲンで修飾した金のナノ粒子とナフトール含有共重合体の急速な錯体形成が観察された。(Sk)
【訳注】
キューカビットウリル:グリコウリル(glycouril)という単位がいくつか環になったような、カボチャ(学名cucurbitaceae)型の化合物。上下に穴の開いた中空の球のような構造で、内部に小さな化合物を取り込む性質がある。
One-Step Fabrication of Supramolecular Microcapsules from Microfluidic Droplets

結合の絆(Ties That Bind)

そもそも、効率的な触媒とは、対象である基質にほんの短時間だけ結合し、その反応を助けたらすぐにそれを遊離して、次にいまだ未反応の新しい基質に結合するように働らくものである。この性質によって、効率的サイクルが生じるが、そのせいで結合モチーフそのものの研究は妨げられている。Garandたちは、溶液から結合複合体を抽出し、その立体構造を冷たい気相クラスター中で凍結させておく技術を発明した(p. 694、1月19日号電子版; またZwierによる展望記事参照のこと)。そうしたクラスターの振動分光法による研究と理論計算を結び付けることで、その複合体を一緒にしている水素結合の部位の特定が可能になった。(KF,nk)
Determination of Noncovalent Docking by Infrared Spectroscopy of Cold Gas-Phase Complexes

DNAメチル化のクローズアップ(Close-Up of DNA Methylation)

真核生物では、刷り込みやレトロトランスポゾンサイレンシング、X染色体不活性化のために、ゲノムのCpGメチル化パターンのメンテナンスが必要である。繰り返される体細胞分裂の際、DNA複製の後のヘミメチル化CpGジヌクレオチドの選択的メチル化(これは、酵素DNMT1によって実行されている)によって、後成的標識が忠実に維持、伝播される必要がある。Songたちは、DNA複製直後に見られるような、親の鎖上のヘミメチル化CpGを含むDNA二本鎖に結合したマウスDNMT1の結晶構造を決定した(p. 709)。そうした自己抑制構造に関する以前の構造と併せて、この知見は、活動的な仕組みと自己抑制的な仕組みの組み合わせによって、DNMT1によって仲介されるDNAメチル化のメンテナンスの高い忠実度が保証されていることを示唆している。(KF,KU)
Structure-Based Mechanistic Insights into DNMT1-Mediated Maintenance DNA Methylation

東北沖の地震前(Before Tohoku-Oki)

2011年のマグニチュード(Mw)9.0の東北沖での地震の数日から数週間前の、日本の高密度地震ネットワークの記録は、記録上もっとも巨大な地震の一つの動的破断を何が引き起こしたのかを取り調べるチャンスを提供するものである。オーバーラップする地震波によってしばしば不明瞭になる小さな地震を抽出する方法を用いて、Katoたちは、主破砕の震源に向かってゆっくりと動いていく、1千回を越えて繰り返された小さな地震を同定した(p. 705,1月19日号電子版)。それら前震の性質に基づくと、プレート界面はゆっくりしたスリップを二度経験していて、その二度目が、おそらく相当量のストレスに貢献し、主要地震の核形成を引き起こした可能性がある。(KF,nk)
Propagation of Slow Slip Leading Up to the 2011 Mw 9.0 Tohoku-Oki Earthquake provides insight into the mechanism of allosteric activation upon cAMP binding.

リン酸化酵素のチェックを続ける(Keeping a Kinase in Check)

サイクリックAMP(cAMP)依存的タンパク質キナーゼ(PKA)は、いくつかの重要な代謝経路の制御に関与している。それは、哺乳類細胞中で調節性(R)サブユニット二量体と2つの触媒作用性(C)サブユニットから構成される不活性な四量体として存在している。cAMPの結合によりCサブユニットの遊離による活性化が引き起こされる。PKA制御についての洞察は、RおよびCサブユニットのヘテロ二量体の構造から得られる。しかしながら、さらなる理解には、ホロ酵素の構造に関する知識が必要になる。P. Zhangたちは、RIIβ2:C2四量体の高分解能の構造を報告している(p. 712)。その構造は2つのRCへテロ二量体間の界面での相互作用を明らかにし、cAMPの結合に関するアロステリックな活性化の仕組みについての洞察を与えてくれる。(KF)
Structure and Allostery of the PKA RIIβ Tetrameric Holoenzyme
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