AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 22 2011, Vol.332


風が強く吹いている(Blowing Harder)

気候変動は、しばしば地表付近の気温に関して議論されるが、全体として気候を 構成している降雨、海表面気温やその他の特性に関しては、それほど議論 されていない。 風速と、その従属変数である海洋の波の高さが考察されることは 滅多にない。 Youngたちは(p.451、3月24日号電子版)、23年間の長期にわたる風速 と海洋の波の高さのデータベースを解析し、それらがどのように変化してきた かを調査した。風速は地球規模のスケールで増加しつつある。しかしながら、 波の状態はもっと複雑である。つまり、 波の高さ全般では地球規模での統計的に 有意な傾向は見られない 一方、より大きい波の高さは、高緯度では増加している ようだ。(Uc,KU,nk)
Global Trends in Wind Speed and Wave Height
p. 451-455.

連星からの放射(Binary Emissions)

ブラックホールX線連星は、共通の質量中心の周りを軌道運動するブラックホー ルと通常の恒星とから構成されている。その恒星からブラックホールに向かって 移動する物質は、これらの系に特徴的な明るいX線放射を生み出す。Laurent た ち (p.438, 3月24日付け電子版;Hardcastle による展望記事を参照のこと) は、 ブラックホール Cygnus X-1 からの偏光したガンマ線の光子を検出したことを報 告している。偏光した放射は、ブラックホール近傍から射出された相対論的粒子 のジェットに関連している可能性がある。この検出は、この放射源における放射 メカニズムに対する洞察を与えるものであり、そして、それは、 他のブラックホール連星に対する基本モデルとして有用である。 (Wt,nk)
Polarized Gamma-Ray Emission from the Galactic Black Hole Cygnus X-1
p. 438-439.

プログラニュリンが関節炎を防御する(Progranulin Protects)

関節リウマチは全身性の自己免疫疾患で、主に膝、指、腰、手首等の関節に 影響をもたらす。炎症性サイトカインである腫瘍壊死因子-α(TNFα)が、 この病気の発生に寄与しており、TNFαを標的にした治療法が現在用いられて いる。抗-TNFα治療の治療効果と副作用が患者によって異なるために、新た な治療法を見出すことが必要である。Tangたち(p. 478,3月10日号電子版; Wu and Siegelによる展望記事参照)は、増殖因子であるプログラニュリンが 関節リウマチの治療における治療標的になり得るかも知れないと述べている。 プログラニュリンは直接TNF受容体1と2に結合し、そして受容体結合に対して TNFαと競合する。プログラニュリンの欠乏により、この病気の複数のマウス モデルにおいて炎症性関節炎の発生が効率的に抑制された。更に、プログラ ニュリンのペプチドフラグメントからなる遺伝子操作によるタンパク質はTNF 受容体結合を保持しており、マウスモデルにおいて炎症性関節炎の発生を押 さえ、かつこれを治療に用いた時にマウスの病気の症状が緩和された。(KU,nk)
The Growth Factor Progranulin Binds to TNF Receptors and Is Therapeutic Against Inflammatory Arthritis in Mice
p. 478-484.

強く圧縮される(A Tight Squeeze)

細胞のサイズと分裂後期の紡錘体の最大の長さは大きく変化する。小さな細 胞は、その短い紡錐体が長い染色体を効率的に分離していることをどのよう にして確認しているのだろうか?同じように、染色体のサイズも大きく変化 している。 細胞が、拡大した染色体にどのように対処しているのかどうかも不明である。 Neurohrたち (p. 465,3月10日号電子版) は、二つの最も長 い内在性の染色体の融合に由来する高度に伸長した染色体が忠実に分離し、 そして有糸分裂の進行、紡錐体のサイズ、或いは細胞の生存率に何ら影響し ないことを報告している。酵母細胞は長い染色体の存在を検知し、そして分 裂後期の間にその染色体の超凝縮 (hyperconddensation) を特異的に誘発す るらしい。このように、紡錐体の中間帯は長い染色体の超凝縮の促進と超凝 縮体の物理的長さを紡錐体の長さに対応してスケーリングする分裂後期の「 定規」として機能しているらしい。(KU,Ej)
A Midzone-Based Ruler Adjusts Chromosome Compaction to Anaphase Spindle Length
p. 465-468.

エーテルの切断(Ether Cleaver)

木のリグニンは、究極的には化学工業用の有用な原料であるといえるかもし れないが、リグニンから個々の分子レベルの材料を製造するには難題が残って いる。リグニンは主に酸素結合により結合した芳香族炭化水素の網目構造を含 んでおり、これらのエーテル結合を断ち切る方法は、望ましくない副反応が生 じやすい。Sergeev と Hartwig は(p.439)、リグニンのモデル化合物において アリル−酸素の結合を水素によりカーボン骨格に影響を与えることなく、高い 選択性を持って切断する、均質なニッケル触媒について述べている。これは改 良されたバイオマス加工の有望な出発点を提供するものである。(Sk,KU)
Selective, Nickel-Catalyzed Hydrogenolysis of Aryl Ethers
p. 439-443.

作用中の遺伝子(Genes in Action)

遺伝子は広範囲の生物において時間的に不連続の仕方で転写される (Nair and Rajによる展望記事参照)。Suterたち (p. 472,3月17日号電子版) は、 超高感度の生物発光顕微鏡と共に短寿命のメッセンジャーRNAから翻訳される 短寿命のタンパク質を用いて、個々の細胞における哺乳類の遺伝子に関する 転写の挙動を観察した。転写バーストのサイズ、サイレント間隔の持続時間 、そして転写のオン、オフのスイッチング速度は総て特異的な遺伝子に依存 していた。更に、転写の時間的パターンは遺伝子プロモータの配列の変化に より著しく変化した。Larsonたち(p. 475)は、単一遺伝子の転写を直接観測 するための光学顕微鏡を開発し、これによりRNA合成における様々なステップ が分離可能となった。酵母の転写制御因子のin vivoでの挙動測定により、遺 伝子の発火速度は、転写制御因子がその標的を見つけるための探索時間によ って直接的に決定されることが示された。(KU)
Mammalian Genes Are Transcribed with Widely Different Bursting Kinetics
p. 472-474.
Real-Time Observation of Transcription Initiation and Elongation on an Endogenous Yeast Gene
p. 475-478.

花粉のグルタミン酸受容体(Glutamate Receptors in Pollen)

神経機能に不可欠である哺乳類のグルタミン酸受容体に似たタンパク質をコード する植物の遺伝子が以前同定されたが、これらのタンパク質の植物における機能 は謎であった。今回、Michard たち(p. 434,3月17日号電子版、および、表紙を参 照)は、花粉において発現し、花粉管の成長に影響する2つのシロイヌナズナグル タミン酸受容体様チャネル(GLRs)を調べた。標的の雌性組織によって産生される 異常なアミノ酸d-セリンは、花粉管の尖端領域中でGLRsを活性化し、その結果、 Ca2+が細胞質に浸透し、花粉管の成長を促進する。このアミノ酸 シグナルによる機能調節は、花粉管の成長が、どのようにして成長しなければなら ない組織からのシグナルと協調しているかを示唆している。(Ej,hE,KU)
Glutamate Receptor-Like Genes Form Ca2+ Channels in Pollen Tubes and Are Regulated by Pistil D-Serine
p. 434-437.

白金を回避する(Shirking Platinum)

燃料電池の自動車への普及を妨げている要因は、 途方も無く高価な白金触媒を使用してい ることである。窒素ドープカーボンと豊富な金属との組み合わせによる安価な 触媒で代替できれば普及につながるであろうが、ほとんどの膜型燃料電池 で用いられている強酸条件下では劣化してしまうため使い物にならなかった。 Weらは(p, 443)、鉄とコバルトの塩を含むポリアニリンを加熱処理して得られた 触媒が、過酷な動作条件下でも安定に機能し、かつ白金同等の触媒作用を示すこ とを発見した。(NK,nk)
High-Performance Electrocatalysts for Oxygen Reduction Derived from Polyaniline, Iron, and Cobalt
p. 443-447.

窒素の滑り込み(Sliding in Nitrogen)

炭素-炭素と炭素-水素の一重結合でのみ構成される飽和炭化水素は、燃焼に よって容易に水と二酸化炭素になるが、もっと機能的な一連の有機化合物 に変換することはかなり困難である。過去30年を超える研究から、酸素、或 いは窒素を C-H 結合に導入して、アルコールやアミンを得るために数多くの遷 移金属-触媒プロセスが開発されたが、効率と選択性は一対の、しばしば相反 するチャレンジ課題であった。Ochiaiたち(p. 448)は、高反応性のブロマン (bromane)に基ずく化合物が、室温で触媒なしで効率的に窒素を炭化水素へ転 移することを示している。反応は適度な選択性をもち、第二級のCH2 センターより第三級のC-Hに優先的に反応し、そして第一級のCH3 基とは完全に反応しない。(hk,KU)
Highly Regioselective Amination of Unactivated Alkanes by Hypervalent Sulfonylimino-λ3-Broman
p. 448-451.

その昔、もっと湿っていたころ(Once Upon a Wetter Time)

5600万年から3400万年前の新生代のころは、現在よりももっと暖かい気候で、 地球の気温は12℃も高かった。我々の気象システムの理解によれば、新生代 は今日よりも強い水理サイクルを持っていたと思われるが、それは、高温が 地球大気への水蒸気濃度を高めると考えられるからである。しかし、これを 支持する証拠は得られてない。 Clementz and Sewall (p. 455;および、Bowen による展望記事参照)は、新生代の水生動物の化石化した歯のエナメル質の δ18Oを測定し、熱帯におけるその値を現在の値と比べると、 大陸の氷床体積増加から期待される以上の偏差を持つことを示した。これは、 新生代が今日よりはるかに高湿度であったことを示唆している。 (Ej,nk)
Latitudinal Gradients in Greenhouse Seawater δ18O: Evidence from Eocene Sirenian Tooth Enamel
p. 455-458.

心筋細胞の増殖潜在力(Cardiomyocyte Proliferation Potential)

心臓の発生の際には、前駆細胞が、成熟した心臓の大部分を構成する心筋細胞を 生じさせていく。発生の進行につれ、成熟した心筋細胞の増殖ポテンシャルはし だいに失われる。成体における心筋細胞の更新は、めったなことでは生じない。 Heallenたちはこのたび、ショウジョウバエにおける臓器サイズの制御経路である Hippoシグナル伝達が、心筋細胞の増殖ポテンシャルの低さの根底にあることを明 らかにしている(p. 458; またSchneiderによる展望記事参照のこと)。この分子機 構には、HippoとWntの間の拮抗性相互作用が含まれていて、それが増殖促進遺伝 子の発現を妨げている。つまり、Hippoシグナル伝達を妨害することで、心筋 細胞の増殖を増強することが可能かもしれないのである。(KF)
Hippo Pathway Inhibits Wnt Signaling to Restrain Cardiomyocyte Proliferation and Heart Size
p. 458-461.

受精が引き金となる細胞周期(Cell Cycle Fertilization Trigger)

生殖という観点における細胞周期調節の決定的ポイント(臨界点)は、卵母細胞が 受精するまで引き止められる段階である減数分裂Ⅱからの卵母細胞の離脱である。 このプロセスに寄与する仕組みの1つは、サイクリンBのタンパク質分解と、その 結果によるサイクリン依存性キナーゼCdc2の不活性化である。Cdc2の活性を抑制 しているもう1つの仕組みは、タンパク質キナーゼWee1Bによるリン酸化であ る。Ohたちは、この仕組みがマウスの卵母細胞においても決定的である証拠を提 示している(p. 462,3月31日号電子版)。受精がフリーなCa2+ の細胞内濃度の上昇の原因となり、それがカルシウム-カルモジュリン依存性キナ ーゼⅡを活性化し、それが次にWee1Bを活性化しているのである。(KF)
Protein Tyrosine Kinase Wee1B Is Essential for Metaphase II Exit in Mouse Oocytes
p. 462-465.

染色体融合の理解(Understanding Chromosome Fusions)

テロメアは、直線的な染色体の末端をキャップし、その場所がDNA損傷箇所だと 認識されないように防いでいるDNA反復である。そのキャップが失われると、 結果として破局的な染色体末端同士の融合が生じ、その修復はしばしば、腫瘍ゲ ノムという状況を形成することになる。Lowdenたちは、線虫Caenorhabditis elegansのテロメラーゼ-欠乏性変異体における染色体の末端同士の染色体融合の 結果を調べたが、この線虫はヒトの場合と違って、融合後にも安定な動原体型セン トロメアをもっている(p. 468)。染色体異常の多くは複雑な融合事象を含んでおり、 例えば重複、三重複そして非複製配列であり、恐らくマイクロホモロジーによって 封着される切断点同様に、DNA複製テンプレートの切り替えによって産み出され たものであり、その幾つかは腫瘍発生において見られる事象に類似している。 (KF,KU)
DNA Synthesis Generates Terminal Duplications That Seal End-to-End Chromosome Fusions
p. 468-471.

増殖か否か(Growth or Retraction)

正常発生の過程で、あるいは損傷後の再生の際に、軸索は外向きに伸びて行って、 プロテオグリカンを含む環境に遭遇することになる。コンドロイチン硫酸プロテ オグリカンは軸索の成長を抑制する傾向があり、ヘパラン硫酸プロテオグリカ ンはそれとは逆の効果をもつ傾向がある。どちらのプロテオグリカンも同じ受容 体RPTP-σを介してシグナル伝達している。マウスの後根神経節(dorsal root ganglion)のニューロンを調べて、Colesたちは、どちらのプロテオグリカン型も その受容体上の同じ結合部位を利用していることを発見した(p. 484,3月31日号 電子版)。しかしながら、ヘパラン硫酸結合は、コンドロイチン硫酸と は違って、受容体のオリゴマー形成をもたらすことになる。そうした受容体のク ラスター形成は、つまり、軸索伸長を奨励する環境を産み出しているらしい。(KF)
Proteoglycan-Specific Molecular Switch for RPTPσ Clustering and Neuronal Extension
p. 484-488.

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