AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 8 2011, Vol.332


星震学からの配信(Asteroseismology Delivers)

星の振動を研究するという星震学を用いると、恒星の内部を探査し、質量や半径のような星の諸元を導出できる(Montgomery による展望記事を参照のこと)。NASA Kepler missionからの星震データに基づいて、Chaplin たち (p.213) は、われわれの銀河の中の500の太陽型恒星に太陽と同様の振動を検出した。これらの恒星の半径分布は、恒星進化論から予測されるものと符合するが、質量分布は一致しなかった。これは、星の誕生の速度や誕生した星の質量について、そして、ひいては恒星モデルそのものに関して、これまでの知識に疑念を抱かせるものである。Derekas たち (p.216) は、一つの赤色巨星と二つの赤色矮星とからなる三重連星系を検出したことを報告している。その赤色巨星は、太陽と類似の予測された振動の代わりに、赤色矮星のペアの軌道運動による潮汐によって誘起された振動が存在している証拠を示している。最後に、Beck たち (p.205) は、赤色巨星のコアの特性を明らかにする可能性のある、赤色巨星からの異常振動について記している。(Wt)
Ensemble Asteroseismology of Solar-Type Stars with the NASA Kepler Mission
p. 213-216.
HD 181068: A Red Giant in a Triply Eclipsing Compact Hierarchical Triple System
p. 216-218.
Kepler Detected Gravity-Mode Period Spacings in a Red Giant Star
p. 205.

リボザイムワールド(The Ribozyme World)

仮説としての始原的な生命の起源に関する「RNAワールド」においては、DNAの化学的姉妹であるRNAが生物学的プロセスで中心的な遺伝的、かつ触媒的役割を果たしていた。このような系における暗黙の了解として、RNAポリメラーゼリボザイムの存在である。以前のin vitroでの進化とステップワイズの遺伝子工学により、R18RNAポリメラーゼリボザイムが作られたが、ポリメラーゼの活性は14ヌクレオチドまでに限られていた。Wochnerたち(p. 209;Yarusによる展望記事参照)はR18リボザイムを出発点として用い、それを加工してさらに新しいRNAポリメラーゼリボザイムへと発展させた。この新リボザイムは、長さにおいて94ヌクレオチドまでの複製用鋳型を高い精度で合成する能力を有している。この改良されたリボザイムは、小さな自己-切断するハンマーヘッド型のリボザイムを合成することが出来た。(KU,nk)
Ribozyme-Catalyzed Transcription of an Active Ribozyme
p. 209-212.

薄膜に3次元画像を保存する(Capturing 3D on Thin Film)

ホログラムは対象物からはね返ってきた光の位相と振幅の情報を、写真の乾板に干渉パターンとして蓄えている。ホログラムに記録する際に用いたものと同一波長の光をホログラムに照射することにより、対象物の3次元像が復元される。Ozaki たちは(p. 218)、金属薄膜表面を伝播する表面プラズモンの回折に基づくカラーホログラフィーの手法について述べている。表面プラズモンは白色光をある角度で照明することで励起され、照明の入射角によって観察者に対して回折される色が決まる。(Sk,KU)
【訳注】プラズモン:金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子として振る舞っている状態
Surface-Plasmon Holography with White-Light Illumination
p. 218-220.

燃やそうぜ、ベイビー(Burn, Baby, Burn)

2010年の夏は、東ヨーロッパの広い地域でまさに酷暑であった。Barriopedroたちは(p.220,3月17日号電子版)、この熱波がここ500年間で最もすさまじいものであったことを示している。西部ロシアだけでさえ、55,000人以上の暑さによる死亡、広大な範囲の森林火災、25%の作物の減少、そして、ロシアGDPの約 1% にあたる経済損失があったのだ。モデル解析によれば、これからの40年間に渡って、もう少し小規模の熱波が5回から10回発生する可能性を示している。(Uc,KU,nk)
The Hot Summer of 2010: Redrawing the Temperature Record Map of Europe
p. 220-224.

粒界膜の理解(Understanding Intergranular Films)

粒界膜(intergranular film)は多結晶物質中の粒界と相の界面、及び液体と気体の間の自由表面に現れる。それらは、多くの系の機械特性と機能特性に対して重要な役割を演じている。Baramたち(p. 206; Harmerによる展望記事参照)は金の液滴とサファイア面の間の界面を研究した。このサファイア面には灰長石ガラスビーズで部分的にコーティングされている。この灰長石は厚みがナノメータの粒界膜のベースを形成し、そしてこの粒界膜が金-サファイアの界面エネルギーを減少させる原因となる。他の人工的に生成された通常の薄膜とは異なり、これらの膜は平衡状態のときには破壊しなかった。このことは、恐らく薄膜設計における有効な設計基準を提供する。(hk,KU)
Nanometer-Thick Equilibrium Films: The Interface Between Thermodynamics and Atomistics
p. 206-209.

懸濁液を分析する(Probing Suspensions)

高圧ガスや液体中の分子が触媒表面に接触した瞬間に、その界面で化学反応をして、新たな化合物が生成されるように、触媒作用は複雑な二相環境で発生している。しかしながら、触媒-基質の結合相互作用に関する研究は、例えば真空中での無修飾の触媒表面といった単純な条件でしか行うことができなかった。Tedsreeらは(p.224)核磁気共鳴分光法により、より現実的で触媒現象に近い状態、すなわち貴金属ナノ粒子が水中に分散された状態で結合相互作用を観測できることを報告している。(NK,nk)
13C NMR Guides Rational Design of Nanocatalysts via Chemisorption Evaluation in Liquid Phase
p. 224-228.

マイナースプライソソームが注目を得る(Minor Spliceosome Gains Stature)

真核生物のメッセンジャーRNAの前駆体がイントロンと呼ばれる非翻訳介在配列を含んでいるという発見がなされてからほぼ20年の間、総てのイントロンと総てのスプライソソーム(イントロンを切除する細胞の機構)は同じものと推定されていた。当時、幾つかの配列規則を破るような、そして特殊なスプライソソームによって切除されるような、稀で、異常なイントロンが同定されていた。これらの所謂「マイナー」イントロンはヒト細胞中でイントロンの1%以下であるため、生物におけるこれらの影響は明らかにされなかった(Passa and Frilanderによる展望記事参照)。Heたち(p. 238)とEderyたち(p. 240)は、マイナースプライソソーム(U4atac snRNA)に特異的なRNA成分の変異性破壊が、ヒトにおいて重篤な発生上の欠陥を引き起こすことを報告している。このRNAにおけるホモ接合性変異を持つ個人は、小頭症骨形成異常性原生低身長症Ⅰ型(MOPD I)、或いはTaybi-Linder症候群と呼ばれる稀な遺伝性の障害に苦しめられ、そして生後数年のうちに死んでいく。(KU)
Mutations in U4atac snRNA, a Component of the Minor Spliceosome, in the Developmental Disorder MOPD I
p. 238-240.
Association of TALS Developmental Disorder with Defect in Minor Splicing Component U4atac snRNA
p. 240-243.

好酸球と代謝(Eosinophils and Metabolism)

脂肪組織におけるマクロファージ活性化の変化は、代謝疾患と関係している。痩せたマウスやヒトにおいて、免疫調節の表現型を持つマクロファージ(活性化マクロファージ、或いはAAMsとも云う)が優勢となるが、これに対して代謝調節が失われると、AAMの数が減少し、そして炎症誘発性のマクロファージの数が増加する。WUたち(p. 243,3月24日号電子版;Maizels and Allenによる展望記事参照)は、好酸球(昔から寄生虫感染やアレルギーと関係した免疫細胞のタイプ)が、マウスの脂肪組織に存在するAAMの数を制御していることを示している。好酸球が脂肪組織中で検出され、そこではAAM表現型を促進するサイトカインであるインターロイキン-4を好酸球が作り出している。マウスにおいて、好酸球の欠乏は脂肪組織中のAAMの減少と結びついており、そして高脂肪食を食べたマウスでは体脂肪と血糖値が増加した。対照的に、遺伝的な、或いは寄生虫-誘発性の好酸球の数の増加は、高脂肪食を食べたマウスで代謝性に関する値が改善された。(KU)
Eosinophils Sustain Adipose Alternatively Activated Macrophages Associated with Glucose Homeostasis
p. 243-247.

グラフェン上の有機ネットワークを配向する(Orienting Organic Networks on Graphene)

共有結合性の有機フレームワーク(COF)は、有機金属フレームワークと同様に、有機結合基を有する。しかし、通常 COF 中の構造規定基は金属原子でなく縮合芳香族環である。COFは強固であるが不溶性粉末になりやすく、フィルムへの加工が困難である。Colson たち (p. 228) は、この2次元COFを単層グラフェン上に処理が容易な溶媒熱(solvothermal)条件で合成した。この層状フィルムは単層グラフェン上に垂直に積層し、その結晶性は粉末COFに比べて優れていた。これらの単層グラフェンは、銅、シリコンカーバイド、透明な熔融シリカ(SiO2)基板上に形成され、光透過モードでの分光分析が可能になった。グラフェン上に成長させた3種類の化学的に異なるCOFフィルムは、似たような垂直配列と長距離秩序を有しており、そしてフィルムのうちの2つは有機電子デバイスとしての特異なオプトエレクトロニクス特性を示しており、薄膜であることが必要条件である。(Ej,nk)
Oriented 2D Covalent Organic Framework Thin Films on Single-Layer Graphene
p. 228-231.

動的な化学反応(Dynamic Chemistry)

立体構造のゆらぎはリガンド結合に介在し、酵素の代謝回転における反応律速である。しかし、その活性部位のダイナミクスの役割については議論が定まってない。Bhabha たち(p. 234) は、大腸菌ジヒドロ葉酸還元酵素について、水素化物イオン移動反応(hydride transfer:H-の分子内、分子間移動反応)については顕著な障害を有するが、その活性部位の構造や静電気的環境には有意な変化を起こさないような変異体をつくった。その結果、変異体活性部位のミリ秒単位のゆらぎが抑止されることから、このようなゆらぎを抑制された活性部位は遷移状態の形成を効率的に導く高エネルギー構造になることが出来ず、従って、化学反応を促進出来ないことを示唆している。(Ej,hE,KU)
A Dynamic Knockout Reveals That Conformational Fluctuations Influence the Chemical Step of Enzyme Catalysis
p. 234-238.

現実は無秩序だ(The Real World Is Messy)

最近の社会心理学研究でよくあるテーマは、実験室で確認された理論やメカニズムを、生態学的に妥当な状況(たとえば、フィールド実験)で検証するというものである。StapelとLindenbergは、列車の駅の放置されたままのゴミくずや、歩道上に斜めに駐車している車など、秩序を欠いた環境的兆候がありさえすれば、そこに居合わせた人は規律正しさを望むようになる、ということを示している(p. 251)。その結果、そうした居合わせた人たちは、調査に回答するよう求められるとマイノリティーから離れて坐ることを選ぶようになったし、自分のもらったお金(調査参加の謝礼)から移民やホームレスの人たちに寄付する額を減らすようになった。実験室をベースにした実験は、秩序を望む気持ちが、ステレオタイプ化などの区別に向かう性向を増すことによって満たされてしまうことを示唆したのである。(KF,nk)
Coping with Chaos: How Disordered Contexts Promote Stereotyping and Discrimination
p. 251-253.

身体を乗っ取るものによる侵入(Invasion of the Body Snatchers)

コナジラミ類のBemisia tabaciは、最悪の侵入性の外来種として、世界のトップ15にランクされる。多くの他の昆虫と同様、それは、栄養の有効性やウイルスへの抵抗性の増強、性比の変化など、自分の生理にいろいろな方法で影響を与えるいくつかの細菌の宿主となっている。細菌Rickettsia belliiは、2000年に初めて、合衆国の南西部で収集されたいくつかのコナジラミ類の検体で観察されたが、ほんの(たった6年間で)80世代未満で、97%の感染率だった。Himlerたちは、母親が感染していたら、娘のほとんどすべては感染するが、雄から雌への感染はほとんどないことを発見した(p. 254; またJigginsとHurstによる展望記事参照のこと)。しかし、その伝播から推測されるように、感染はその昆虫にとって悪いことではない。感染したコナジラミの繁殖力は倍加し、早く成体になり、より多くの雌が産まれるのである。(KF)
Rapid Spread of a Bacterial Symbiont in an Invasive Whitefly Is Driven by Fitness Benefits and Female Bias
p. 254-256.

私の寄生虫の寄生虫は、私の友達だ(A Parasite of My Parasite Is My Friend)

Virophageはウイルスに寄生するが、この寄生されるウイルスは、別の生物に寄生する。Fischer and Suttle (p. 231, および、3月3日号電子版を参照)は、広範囲の海洋性動物プランクトンに感染する巨大な Cafeteria roenbergensis virus (CroV)に寄生するウイルス寄生体のMavirusを同定した。MavirusはCroV の複製を妨害し、その過程で、動物プランクトンの宿主が死ぬのを防止する。遺伝子的にMavirusに最も近い生物はMaverick/PolintonのDNAトランスボゾンであり、これらのトランスボゾンだけに見られるいくつかの遺伝子のMavirusゲノム相同体を含んでいる。このことから、古代のvirophageに由来するこれらのトランスボゾンが、真核生物のゲノムに組み込まれたことが推察される。(Ej,hE)
A Virophage at the Origin of Large DNA Transposons
p. 231-234.

ニューロンの極性化に関するエネルギー要求(Energy Requirements for Neuronal Polarization)

ニューロン(神経細胞)の発生やシナプスの結線、ニューロン間の情報交換の中心には、ニューロンの極性化がある。軸索の成長や経路発見の理解においては、多くの進歩がなされたが、軸索の神経突起の選択や極性の開始を制御している仕組みは、いまだ不十分にしか理解されていない。急速な軸索成長には、大量の材料と、効率的な細胞内輸送が必要である。つまり、軸索の開始と細胞のエネルギー恒常性との協調が、ニューロンの極性化の初期段階では、重要な可能性がある。培養海馬ニューロンと、胚性脳切片を用いて、Amatoたちは、アデノシン一リン酸によって活性化されるタンパク質キナーゼ(AMPK)の役割を調べた(p. 247、3月24日号電子版)。そのAMPKは、ニューロン極性化におけるバイオエネルギー恒常性の感知と制御に関与しているのである。AMPK活性の発現上昇は、典型的軸索を所有するニューロンの比率を減少させた。AMPKのその極性化抑制能力は、極性化の初期段階に限られていて、軸索開始後のAMPK活性化は、極性化にも軸索成長にも影響しなかったのである。(KF)
AMP-Activated Protein Kinase Regulates Neuronal Polarization by Interfering with PI 3-Kinase Localization
p. 247-251.

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