AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science March 4 2011, Vol.331


グラフェン層の削ぎ落とし(Whittling Away at Graphene Layers)

グラフェンをデバイスに応用する際、多くの場合は、基板上に支持される。しかし、支持体との相互作用により、グラフェンの導電率が変化する。Dimiev たちは(p.1168; Gunlycke と Sheehan による展望記事参照)、種々の形態のグラフェンや酸化グラフェンのような関連物質から、グラフェンの単層を取り出す化学的な手順を報告している。彼らは、グラフェンを亜鉛の薄膜でコーティングし(それは表面にパターン化することもできる)、その後、それを希塩酸で溶解してグラフェン層を取り出している。(Sk)
Layer-by-Layer Removal of Graphene for Device Patterning
p. 1168-1172.

膵臓の癌遺伝子に網をかける(Netting Pancreatic Cancer Genes)

膵臓の神経内分泌腫瘍(PanNETs)は、攻撃的なヒト癌で、しばしばひっそりと発生し、診断前に治療不能な転移性疾患へと進行している。PanNETsにおける反復性の体細胞変異を同定するためにエキソーム配列決定法を用いて、Jiaoたち (p. 1199,1月20日号電子版;Elsasserたちによる展望記事参照) は、この腫瘍の45%近くに影響を与えている最もよく見られる変異遺伝子はクロマチンリモデリングに関与しているタンパク質をコードしていることを見出した。この腫瘍のほぼ15%は哺乳類のラパマイシン標的タンパク質(mTOR)のシグナル経路を変えるような変異を有していた。mTOR阻害剤は癌治療剤として既にテストされており、それ故にPanNETsの変異状態は、どの患者が最もよくこれらの薬剤に応答するかを同定するのに役立つであろう。(KU,nk)
DAXX/ATRX, MEN1, and mTOR Pathway Genes Are Frequently Altered in Pancreatic Neuroendocrine Tumors
p. 1199-1203.

行列を結びつける(Join the Queue)

多くの病原性グラム陰性菌はタイプIII分泌装置を用いて、真核細胞中に細菌のエフェクタータンパク質を運ぶ(Stamm and Goldbergによる展望記事参照)。このコア構造は3.5ミリダルトンの針状の複合体(needle complex:NC)で、細胞から伸びた針状のフィラメントと共に細菌の内膜と外膜の中でリングとして組織化されている。低温電子顕微鏡に基づいて、Schraidt and Marlovits(p. 1192)は、サルモネラ菌由来のNCのサブナノメートル構造を再構築し、内側のリングに対して24回対称性を、外側のリングに対して15回の対称性であることを明らかにした。タイプIII分泌装置は、転位酵素タンパク質のファミリーと一緒になって作用するが、この酵素は時間的に制御される方法で同じ標的細胞へ細菌のエフェクターを運びこむのに必要である。Lara-Tejeroたち (p. 1188,2月3日号電子版) は、サルモネラ菌のタイプIII分泌装置が分泌前にその基質を仕分けしていると言うメカニズムに関して記述している。細胞質の仕分けのプラットフォームが構築され、必要に応じて作られるシャペロンによって促進される或るプロセス中に適切な分泌タンパク質が次々に持ち込まれる。(KU,nk)
Three-Dimensional Model of Salmonella’s Needle Complex at Subnanometer Resolution
p. 1192-1195.
A Sorting Platform Determines the Order of Protein Secretion in Bacterial Type III Systems
p. 1188-1191.

飢えた馬(Hungry Horses)

新生代(過去6千5百万年)におけるウマの進化は、最もよく研究された、長期の脊椎動物放散の一つである。彼らの進化は、草地が拡大する際の入手可能な餌と、そしてその餌の研磨性の変化と関係すると考えられている。Mihlbachlerたち (p. 1178)はこれらの変化を追跡するために、ウマの歯の化石 (歯は卓越した化石記録を有している) の磨耗状態を目安に用いた。ウマ集団の殆どは比較的歯の減り具合が少なく、食餌の圧力が全体的に低かったことを示唆している。しかしながら、幾つかの種にはより大きな減り具合を示している時期があり、特に著しく発達した大臼歯を持つウマのグループが出現する前の2千3百万年〜5百万年前の中新世時代には顕著な歯の磨滅が見られる(KU,Uc,nk)
Dietary Change and Evolution of Horses in North America
p. 1178-1181.

目に見えるのこぎり波(A Visible Sawtooth)

高周波(RF)発生装置は、単一周波数の正弦波から、何オクターブにもまたがる周波数が混じり合って発生する矩形波やのこぎり波まで、多くの異なる形状の振動パターンを発生させるようにプログラムすることができる。レーザー光源は、通常、何オクターブも離れた多数の相互に干渉する成分を作り出すことはできないため、光学的波長の電磁波に対する同様な操作はかなり困難である。Chan たちは (p. 1165, 1月20日号電子版版; Yavuz による展望記事参照)、今回、水素セル中のラマンシフトに由来する青色から中間赤外までの分離した5種類の倍音の光コムを組み合わせることにより、光学的なのこぎり波や矩形波のパルスを作成することに成功した。そして、線型の相互相関に基づくそのような波形の特徴づけの方法を示した。(Sk,nk)
Synthesis and Measurement of Ultrafast Waveforms from Five Discrete Optical Harmonics
p. 1165-1168.

羽のサイズを制御するシグナル(Sizing Signals)

ショウジョウバエの羽の成虫原基(imaginal disc:その最終形に到達すると成長を停止するような内在機構を持つ)の増殖制御は、デカペンタプレジック(Dpp)のモルフォゲンの勾配に決定的に依存している。この段階的機能を持つDppシグナルがどのように細胞で翻訳され、組織の均質な成長を制御するかは不明であった。Wartlickたち(p. 1154;Le Goffand Lecuit)はこの疑問に対処するために、成虫原基の成長期間中のDpp濃度とシグナル伝達活性の空間的・時間的変化を測定し、成虫原基中の細胞増殖パラメータを数量化した。モデルと実験的知見の双方から、Dpp濃度とシグナル伝達の勾配は組織のサイズと共に大きくなり、そこでは平均的に、細胞周期の開始からDppのシグナル伝達レベルが50%ほど増加した時に、有糸分裂の開始が起きることが示唆される。(Ej,KU)
Dynamics of Dpp Signaling and Proliferation Control
p. 1154-1159.

ベクター伝播に至る経過(Tangents to Vector Transmission)

多様なヒト寄生虫は、その生活サイクルの一部を昆虫ベクター内で達成しているが、延命した寄生虫の生存と感染ステージに対する投資の間のバランスを取る必要がある。Matthews (p. 1149) は、ベクター由来の寄生虫の間の多様なグループ間の共通テーマを概観し、そしてベクター中での寄生虫の発生に影響する異なる因子から、寄生虫が昆虫を介して通る際に彼らがとる経路、免疫応答や急激な環境の変化による寄生虫が直面する困難な局面まで、様々な最近の進歩にハイライトを当てて論じた。これらのプロセスの絡み合った影響により昆虫感染の割合は低下するが、睡眠病, マラリア、および、デング病のように、昆虫由来のヒト病気を妨げるほど十分低くなる訳ではない。(Ej,KU,nk)
Controlling and Coordinating Development in Vector-Transmitted Parasites
p. 1149-1153.

明らかとなった宇宙の石の歴史(Space Rock History Revealed)

隕石中のカルシウムとアルミニウムに富む包有物(calcium, aluminum-rich inclusion, CAIs)は、太陽系における最も古い固体と考えられている。それは、惑星や他の固体が形成される前の原始太陽系星雲中で起こった事象の手がかりを保存している。Simon たち (p.1175) は、CV3 Allende 隕石からの CAI内の酸素同位体の変化を測定した。包有物のコアとその縁の両方において、酸素同位体の相対的成分量の系統的な変化が示された。その成分量の変化は、太陽系内で形成されたすべての固体の観測値の範囲に渡っている。この観測は、その隕石が形成されたときは、この CAI が異なる同位体環境を経てきたことを示唆している。おそらく、その隕石は太陽系星雲のさまざまな領域を通過して輸送されたためであろう。(Wt,nk,tk)
Oxygen Isotope Variations at the Margin of a CAI Records Circulation Within the Solar Nebula
p. 1175-1178.

中心小体を解析する(Dissecting the Centriole)

ほとんどの動物細胞内で、中心小体は鞭毛や繊毛における9組の微小管タブレットを鋳型とし、そして中心体-微小管-組織化センターの核を形成している。中心小体形成の初期段階は9つのスポークを持った中心ハブの形成である。SAS-6はこのハブのタンパク質成分であり、そして構造研究に基づいて、van Breugelらは(p.1196 1月27日号電子版)、遺伝子組み換え型SAS-6が車輪に似たような構造に自己組織化することを示している。この変異原性の結果は中心小体組立に重要とされているその観測された相互作用と一致している。(NK,KU)
Structures of SAS-6 Suggest Its Organization in Centrioles
p. 1196-1199.

巻きつけて滑らせる(Wrap and Slide)

ロタキサン(ナノスケール合成マシーンの形成場における中心的な構築ブロックである) において、分子環は分子棒に沿って前後に動くが、両端部にあるかさ高いストッパーグループによって落ちないようにされている。Ganたち(p. 1172)は、このような構造体の変異体を考案したが、そこでは分子の環がしっかり巻かれた螺旋体によって置き換えられている。巻き戻し速度が相対的に遅いので、螺旋体は、形状的には開構造のままにもかかわらず、棒の結合部位間をスライドする。このストラテジーは組立プロセスに融通性を与え、そして化学反応で面倒な環を閉じたり、あるいはまたストッパー付加する反応はもはや必要としない。(hk,KU)
Helix-Rod Host-Guest Complexes with Shuttling Rates Much Faster than Disassembly
p. 1172-1175.

古い記憶の改善(Improving Old Memories)

記憶は改善されるのだろうか? 島皮質中のタンパク質キナーゼMζ(PKMζ)の薬理学的抑制を用いた生体実験で、長期条件付けされた味覚嫌悪の記憶がブロック可能である事が明らかにされてきた。このたび、Shemaたちは、ラットの島皮質におけるPKMζの過剰発現が、その酵素が過剰発現されるずっと前に形成された記憶を含めて、記憶を増強するということを示している(p. 1207)。この増強は単一の記憶以上のものに影響を与えるらしい。つまり、PKMζの調節は、初期のコード化から何ヶ月も経ってから、記憶を変化させることがあるのだ。(KF)
Enhancement of Consolidated Long-Term Memory by Overexpression of Protein Kinase Mζ in the Neocortex
p. 1207-1210.

古代の海を開拓する(Exploiting Ancient Seas)

新世界への初期の入植者は広範囲の、多様な肉食資源を開拓した--多くの考古学的遺跡から、巨大動物やより小さな動物を狩猟した証拠が残っている。広範囲の海洋食物に関する初期の証拠が、南アメリカで主に観察されていた。Erlandsonたち (p. 1181) は、カリフォルニアの北側チャネル諸島において、12,000年前頃の長期間にわたって海洋食物の利用を示す遺跡に関して記述している。その時代に、これらの島は数キロメートルの沖合いにあり、島にたどり着くにはボートが必要であった。多様な道具は海鳥や、哺乳類、甲殻類及び魚を捕獲した証拠を示している。(KU,nk)
Paleoindian Seafaring, Maritime Technologies, and Coastal Foraging on California’s Channel Islands
p. 1181-1185.

運動するようにできている(Made to Move)

ダイニンは、環状のAAA+ATP分解酵素から進化してできた、大きな細胞骨格モータータンパク質で、微小管にそって移動し、繊毛の拍動や細胞内の物質を輸送する力をもたらす機能を果たしている。長いコイル状のコイルの柄が、そのAAA+環を微小管結合部位に繋いでいる。Carterたちは、酵母の細胞質ダイニンの運動性領域の二量体の構造を記述している(p. 1159、2月17日号電子版; またSpudichによる展望記事参照のこと)。その構造は、ATP結合と加水分解に関わる環の立体構造変化が、どのようにコイル状のコイルを介して微小管結合領域へと引き継がれるかを示唆するものであり、運動性の仕組みのモデルを導くものである。(KF)
Crystal Structure of the Dynein Motor Domain
p. 1159-1165.

破壊して、吐き出せ(Break It Down, Sweep It Out)

細菌やウイルスで、特定の植物種には病気を引き起こすのに、別の種ではそうできないものがあるのは何故だろうか? Fanたちは、シリンゲ菌のある系統が、シロイヌナズナに感染できないようにされている抵抗の仕組みを分析した(p. 1185)。その分析により、3遺伝子の細菌性オペロン、saxが突き止められた。シロイヌナズナの防御化合物の分析によって、イソチオシアン酸塩(脂肪酸グルコシノレイトの分解産物)がキーであると同定された。同様の化合物はまた、草食性昆虫に対する防御にも役立っている。細菌の侵入はシロイヌナズナにそれら防御性化合物の放出を引き起こしているらしい。その際、うまくやる病原性微生物の場合はsaxオペロンを用いて、自分自身からその有害な薬剤を吐き出す流出システムを作り出し、植物の防御をかいくぐっているのである。(KF,KU,nk)
Pseudomonas sax Genes Overcome Aliphatic Isothiocyanate-Mediated Non-Host Resistance in Arabidopsis
p. 1185-1188.

免疫記憶を詳細に調べると(A Closer Look at Immune Memory)

適応性免疫系の特徴の一つは、長寿命のメモリーBリンパ球の形成であり、それが再感染に対する保護を提供している。しかしながら、抗原特異性細胞の数が少ないために、内在性免疫応答の際のメモリーB細胞の産生や維持、機能の追跡は難しい。Papeたちはこのたび、このハードルを克服する濃縮技術について記述している(p. 1203,2月10日号電子版)。この技術を用いることで、内在性メモリーB細胞の応答が2つの抗原特異性集団の産生をもたらすことが明らかになった。一方の集団は親和性成熟と、IgMからIgGやIgE、或いはIgAへの免疫グロブリンアイソタイプ切り替えとを経て、より親和性の高い免疫グロブリンをもたらすことになる。もう一方の集団は、IgMの発現を維持し、より長期間にわたって多数を持続させた。つまり、短期記憶応答はアイソタイプを切り替えられるメモリーB細胞によって支配され、長期記憶はIgMを発現し続けるメモリーB細胞によって提供されるのである。(KF)
Different B Cell Populations Mediate Early and Late Memory During an Endogenous Immune Response
p. 1203-1207.

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