AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science February 25 2011, Vol.331


アンデスの森林(Andean Forests Over Time)

熱帯地方の気候と植生の歴史について理解度が進展しているにも関わらず、いくつかの重要な地域や地質時代に関する記録はいまだ不完全である。Ca'rdenasたちは(p.1055)、前回の氷河期と間氷期の間の生物多様性のホットスポット(訳注:生物多様性について重要であるが、危機に瀕している地域)における植生の構成について報告している。エクアドルアンデス山脈の東側に位置する、海抜1900mのエラゾ調査地域は、およそ324,000から193,000年前の中期更新世の時代を示している。沈積花粉化石によって、この地域の森林は氷河期と間氷期のいずれにも存続していたこと、しかし気候の僅かな揺れに対して主要な植物群落が激しく変化したことが明らかになった。(Uc,KU,nk)
The Response of Vegetation on the Andean Flank in Western Amazonia to Pleistocene Climate Change
p. 1055-1058.

溶鉱炉としての硫黄(Sulfur for the Smelter)

地質学的な時間スケールの間に、金や銅、プラチナなどの貴金属に対する硫黄の親和性によって、大きな鉱床を形成することができる。こうした金属は、硫黄種(sulfur species)と結び付いて高温の液状物質を通して運ばれ、液状物質が冷却されると金属は濃縮され、硫黄は硫化物や硫酸塩鉱物として凝固する。PokrovskiとDubrovinskyは(p.1052,Manningによる展望記事参照)は、別の硫黄の化学種(chemical species)、S3-イオンがそのような液体物質中で最も主要な硫黄種であることを示した。(TO,KU,Ej,nk)
The S3- Ion Is Stable in Geological Fluids at Elevated Temperatures and Pressures
p. 1052-1054.

古代遺跡(Ancient Remains)

北アメリカの初期人類の遺骨は殆ど無く、新しい情報をもたらしうる墓地は一般にあらされており、理解を難しくしている。Potterたちは(p.1058)、ほぼ 11,500 年前の中央アラスカの半地下の住居の中に埋葬されていた子供の火葬された遺体について報告している。この遺跡には他にもたくさんの数の人工遺物が存在していた。この墓地や住居のデザインそして人工遺物は、北アメリカの他の遺跡よりも同時代のカムチャッカ、ロシアのそれと似ている点が多いようだ。(Uc,nk,bb)
A Terminal Pleistocene Child Cremation and Residential Structure from Eastern Beringia
p. 1058-1062.

活動中のDNMT1を捕まえる(DNMT1 Caught in the Act)

真核生物において、DNAのメチル化は一般的にCpGジヌクレオチドのシトシン塩基上で起こるが、多数の重要な細胞プロセスの後成的制御において重要である。このDNAメチル化のパターンは、各世代を通じてDNAメチル基転移酵素(DNMT1)か、あるいはそのホモログの一つにより一義的に保存されている。Song たち (p. 1036, 12月16日号電子版; Godley および Mondrago'nによる展望記事参照)は、マウスからヒトまでのDNMT1 の構造を、遊離の状態とCpGを含む二本鎖DNAと結合した状態の両方で解析した。この構造解析から、DNMT-1が両方の鎖上のメチル化されていないCpGをもつ部位をメチル化するのを避けて、むしろCpGが一方の鎖(親DNA)でメチル化されているが、他方(娘DNA)ではメチル化されていない部位を好んでターゲットにする様子が明らかになった。(Ej,hE,KU,nk)
Structure of DNMT1-DNA Complex Reveals a Role for Autoinhibition in Maintenance DNA Methylation
p. 1036-1040.

5価鉄窒化物(An Iron(V) Nitride)

酵素は酸化および還元作用の触媒として作用する場合、鉄におおいに依存している。鉄は最も一般的には2価および3価の酸化状態で存在するが、その反応性は、ごく短い時間の4価および5価への変化状態によって決まっている。このような高い価数の状態のモデル化合物は、それらの挙動の理解の手助けになるであろう。Scepaniak たちは (p.1049) 、5価の酸化状態での窒化鉄錯体を作成し、その構造の特徴について述べている。4配位の鉄中心は1個の窒素原子に対し3重結合を形成し、低温においても水や電子供与体に触れることによりアンモニアを効率的に遊離した。(Sk)
Synthesis, Structure, and Reactivity of an Iron(V) Nitride
p. 1049-1052.

最初の星もそんなにひとりぼっちじゃなかった(Not So Lonely First Stars)

われわれの宇宙において、最初の星はどのように形成され、そして進化したのだろうか?理論計算は、初期の星はほとんどの場合単独であり、時たま連星系が形成されたと示唆していた。Clark たち (p.1040, 2月3日号電子版) は、数値シミュレーションにより原始の星は重力的に不安定な円盤に取り囲まれていて、それが複数個の固まりに分裂するという結果を与えている。このシミュレーションは、原始円盤がこの段階を超えてどのように進化するかまでは示してはいないが、しかし現時点での恒星形成に関する知識に基づくと、この過程が二連星系、あるいは多連星系に導いた可能性があり、したがって宇宙の最初の恒星の生涯も初めに思われていたほど淋しいものではなかったと考えるのは合理的であろう。(Wt,KU,nk)
The Formation and Fragmentation of Disks Around Primordial Protostars
p. 1040-1042.

時間を守る(Keeping Time)

光格子時計は、対向するレーザー光によって形成された光格子に配置された原子で構成されており、従来のマイクロ波原子時計よりも動作周波数が高いことと、より多くの原子を用いることができる為により正確に時間を計ることができる。しかしながら、原子同士の相互作用がある場合、その周波数にずれが生じ、そのずれは通常原子密度に比例することが知られている。Swallowsらは(p.1043、2月3日の電子版)予想外にも反対の相互作用効果を見出した。十分に相互作用が強い系においては、周波数シフトが抑制されるという。ストロンチウムを用いたフェルミオン格子時計では、周波数シフトとそれに伴う周波数の広がりが一桁抑えられたことが実証されている。(NK,nk)
Suppression of Collisional Shifts in a Strongly Interacting Lattice Clock
p. 1043-1046.

3次の問題(Third-Order Problem)

ボース-アインシュタイン凝縮(BEC)は、構成原子がある転移温度以下でいっせいに作用するエキゾチックな状態の物質である。原子の“結合性”の程度を表現する厳密な方法はそれらの長距離相関を計測することであり、その長距離相関は転移温度以上と以下で異なった振舞いをするはずである。BECの長距離コヒーレンスは2次まで実証されていた。今、Hodgmanら(p. 1046)は準安定なヘリウム原子を使って、直接3次の相関を測定し、そして転移温度以下では、コヒーレンスが3次でも依然として維持されることを発見した。この発見は、BECが全ての次数で長距離コヒーレンスを維持しているという考えを支持している。(hk,KU,nk)
Direct Measurement of Long-Range Third-Order Coherence in Bose-Einstein Condensates
p. 1046-1049.

カモフラージュしたマウス(Mice in Camouflage)

自然状態における脊椎動物の色パターンの変動は、適応性に関連する最も目立つ形質の一つであである。自然母集団のシロアシネズミ属マウスの遺伝的・機能的解析を利用して、Manceau たち(p. 1062)は、肉食動物からはカモフラージュとして役立つ、色パターンの確立とこれに引き続く進化のメカニズムを明らかにした。成体の皮膚において色素のスイッチングの機能に含まれることが知られているアグーチ(Agouti)タンパク質が胚発生期間に分子の予備パターン(prepattern)に係わり、成体の色パターンを形成する。アグーチの胚発現の時間、場所、レベルの違いによって、成体の色パターンが変化し、そして局地的なマウス集団のカモフラージュ色の違いを説明している。(Ej,KU)
The Developmental Role of Agouti in Color Pattern Evolution
p. 1062-1065.

蟻が橋頭保を越えて行く(Ants Cross the Bridgehead)

ヒアリ(Solenopsis invicta)は南アメリカ原産の毒針を持つアリであるが、この侵入性の集団は生態系や農業系にますます問題を引き起こしている。ヒアリの集団はほぼ90年前から合衆国の南部に帰化している。しかしながら、ごく最近になって、この集団はカリフォルニア、中国、台湾そしてオーストラリアにも定住するようになった。原産地及び移住した地域全体からの75のヒアリ集団に関する遺伝子研究から、Ascunceたち(p. 1066)は合衆国集団の源がアルゼンチンであることを同定することが出来た。新たに移り住んだ集団の総てが合衆国南部の集団に由来しており、主に独立した別々の侵入による。このことは古典的な橋頭保効果(bridgehead effect)(これは侵入した集団が次の侵入の源として働く)を示すものである。(KU,nk)
Global Invasion History of the Fire Ant Solenopsis invicta
p. 1066-1068.

回転する卵(Spinning Eggs)

昆虫や鳥は陸上のライフスタイルに適合するために卵形の卵を産む。しかしながら、卵は球形として発生するものが多い。彼らは、どのようにして楕円形を獲得しているのだろうか?Haigo とBilder(p. 1071,1月6日号電子版)は、キイロショウジョウバエにおいて発生中の卵の生きた状態での可視化を行い、そして卵が長軸の周りで回転していることを見出した。このような回転により、卵の成長を一定の方向に導いて、楕円形を形成し、かつ維持するように取り囲んでいる細胞外基質を構築する。(KU)
Global Tissue Revolutions in a Morphogenetic Movement Controlling Elongation
p. 1071-1074.

進化に対抗する薬剤(Anti-Evolution Agents)

蚊に感染する菌類はマラリア防除の努力を支援する潜在的な道具である。このような生物的薬剤を遺伝的に改変して、これらをより効果を高めるように作り変えたり、マラリアの抵抗性進化に反撃したり、ホストの蚊の内部に一連の外来性のタンパク質を発現させることが出来る。Fangたち(p. 1074)は、蚊の菌類 Matarhizium anisoliae 中に毒性と抗体の遺伝子を挿入し、結果として外来性のタンパク質が蚊の血リンパ中に発現し、媒介昆虫である蚊の中でマラリア寄生虫の発生が激減した。(KU,nk)
Development of Transgenic Fungi That Kill Human Malaria Parasites in Mosquitoes
p. 1074-1077.

心臓を再生する(Rebuilding the Heart)

カエル、イモリ、魚類は心筋が損傷を受けた後、驚くほどの再生能力を発揮する。これは哺乳類のような高等脊椎動物ではずっと昔に失われた有用な能力である。マウスの新生児の研究から、哺乳類にも出生後に、心臓が再生機能を有する短い時間的な小手段があることが明らかになった。Porrello たち(p. 1078)は、誕生後1日のマウスの心室の一部を除去すると、解剖学的、かつ、機能的に正常な心室を再生するための修復応答を引き起こすことを示した。この応答は心筋細胞の増殖を含んでいるが、マウスが生後7日になるとこの機能は失われる。この一過性の修復能力は、ヒトの心臓が病気で損傷を受けて修復を必要とする時、新たな治療法を示唆している。(Ej,nk,ok)
Transient Regenerative Potential of the Neonatal Mouse Heart
p. 1078-1080.

場所こそが重要(Location, Location, Location)

真核生物のメッセンジャーRNA(mRNA)は、細胞質内の特異的細胞内区画にターゲットされ、そこで局在化した翻訳が行なわれる。原核細胞では、遺伝子の転写と翻訳は、mRNA転写物の内因性特徴によってではなく、むしろタンパク質の内因性特徴によって駆動されるタンパク質局在化と密接に結び付いている、と一般に考えられている。しかしながら、Nevo-Dinurたちはこのたび、生きている大腸菌細胞の中では、タグ付けられたmRNAが、それらがコードしているタンパク質が機能する細胞中の位置に輸送されていくことを示した(p. 1081; Ramamurthiによる展望記事参照のこと)。つまり、細菌中のタンパク質の局在化は、翻訳に依存しない方法で、mRNAターゲティングのレベルで決定されることがあるのだ。(KF)
Translation-Independent Localization of mRNA in E. coli
p. 1081-1084.

同じ差異でもレベルはいろいろ(The Same Difference)

ホモプラシー(成因的相同、異物同形)は、共通の祖先がないにも関わらず、生物学的な表現型あるいは機能が類似しているときに生じる。そうした類似は、収斂進化 (convergent evolution) か逆転 (reversal) かを介して生じることがある。Wakeたちは、ホモプラシー的形質の進化の歴史を記録、追跡しようとした多くの試みをレビューしている(p. 1032)。表現型の類似性を生み出す原因となった仕組みはさまざまなレベルでの組織化、たとえば生物体まるごとのレベルや発生中の表現型、さらには後成的なレベル、遺伝子のレベルでの表現型など、において見出されるのである。(KF,tf)
Homoplasy: From Detecting Pattern to Determining Process and Mechanism of Evolution
p. 1032-1035.

鳥なくば花なく、花なくば鳥なし(Bird Loss ←→ Plant Loss)

植物と動物の相利共生がうまくいかなかったことによってもたらされる、生物多様性に対するカスケード的(連鎖)効果については、広く関心がもたれてきた。ニュージーランドで得られた準-実験的な事例を用いて、Andersonたちは、トリによる受粉の消失のせいで生じた低木種の集団の減少の証拠を提示している(p. 1068,2月3日号電子版; またSekerciogluによる展望記事参照のこと)。この消失は導入された新しい種による外圧と人類による環境変化によってもたらされた。人類によって変えられてしまったニュージーランド本島に対する、研究のための「対照地」として、沖合いの島に複製されたトリの保護区が用いられた。トリの個体数の多さから始まり、花へのトリの訪問頻度や一花あたりの果実、種子の量、野原における実の存在量、さらには5年間にわたる種子の追加実験など、生殖の鎖のすべての段階におけるデータによって、植物減少の原因が明らかにされたのである。(KF,nk,ok)
Cascading Effects of Bird Functional Extinction Reduce Pollination and Plant Density
p. 1068-1071.

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