AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 21 2011, Vol.331


羽の色は飾りだけじゃないよ(Not Purely Decorative)

羽の色の斑点のような表現型のシグナルは動物にとっては一般的であり、これは生殖に関する資質/特性を示している。また、動物は環境から集めた材料から構造を構築することにより動物自身の資質(または特性)を誇示している。トビの巣を飾る行動を詳しく研究した結果、Sergio たち(p. 327)は、巣の中に最も白いプラスチック片を置いたトビは子孫の数が最も多かっただけでなく、攻撃的な鳥からより良い縄張りを持つことが分かった。このプラスチック片の個数は年齢と共に減少し、資質/特性が劣った個体は、驚いたことに、実験的に巣の中に置かれた素材をわざわざ取り除いて他の鳥を「ごまかそう」とはしないのである。(Ej,hE,kj,ok)
Raptor Nest Decorations Are a Reliable Threat Against Conspecifics
p. 327-330.

移動性動物による病気(Disease on the Run)

移動性動物は、西ナイルウイルス、トリインフルエンザ、ヘンドラウイルス及びエボラウイルスのようなヒト病原体を含む感染症を新しい地域へと拡大する。移動に関する生理的ストレスにより、免疫低下と結果的に高い率での感染症へと導いていくが、別の面では移動により寄生体の感染から逃がれられる。Altizerたち(p. 296)は、移動が動物集団における感染症の空間的拡大と有病率及び重症度を変えてしまう生態学的、免疫学的、及び進化学的メカニズムをレビューしている。(hk,KU,nk)
Animal Migration and Infectious Disease Risk
p. 296-302.

ニューロンを作る(Making Neurons)

転写制御因子は特異的な最終分化プログラムの必須の促進因子である。しかしながら、異所性発現における分化プログラムを促進する転写制御因子の能力は、細胞の状況によって制限されることが多く、このことが随意に細胞型を産生しようとする我々の能力を妨げている。線虫における遺伝子スクリーニングアプローチを用いて、Tursunたち(p. 304,12月9日号電子版;Stromeによる展望記事参照)は、染色質因子の除去により転写制御因子が生殖細胞を直接、特異的なニューロン型に再プログラムできることを見出した。(KU,kj)
Direct Conversion of C. elegans Germ Cells into Specific Neuron Types
p. 304-308.

深海におけるメタンの酸化(Methane Oxidation at Deepwater)

2010年6月のメキシコ湾で起こった石油掘削施設「ディープウォーター・ホライゾン」の原油流出は、この事件がなければ不可能であったかも知れない多くの海洋プロセスを研究する舞台を提供した。掘削孔からの大量のメタンの流出は、海床の自然な湧出域やガスハイドレートからの稀な、しかし潜在的に起こる可能性のある危険な大量のメタン放出事象に類似している。Kesslerたち(p. 312,1月6日号電子版)は原油流出期間中、及び掘削孔に蓋がされた後の海水を調べ、そして最初の原油流出の〜120日以内に、そして掘削孔に蓋がされるやいなや僅か〜40日以内に流出したメタンの総てをバクテリアが分解していたことを見出した。海洋の深さ方向における低酸素という異常性の存在とメタン栄養へのバクテリアコミュニティーの構造変化により、この大きな出来事に対する生態学的応答が、予測されたよりもより迅速に、かつより効率的に生じていることを示唆している。(KU,kj)
A Persistent Oxygen Anomaly Reveals the Fate of Spilled Methane in the Deep Gulf of Mexico
p. 312-315.

月のコアを処理する(Processing the Moon's Core)

アポロ月震計測実験(Passive Seismic Experiment:PSE)により、1970年代半ばまでの月の大地の運動が測定されている。それ以降、このユニークな一群のデータから、月の内部に関する入手可能なすべての情報を抽出するためにさまざまな努力がなされてきた。計算手法と方法論の最近の発展により、年代のたった地震のデータを再処理すると、その中に隠れていたこれまでは得がたい情報を与える可能性があることが示唆されている。この目的に向け、Weber たち (p.309, 1月6日号電子版) は、地震に関する地球上のアレイデータを処理するために特に用意された方法を用いて、アポロのデータを再解析した。そのデータは、地球のコアと同様に月のコアは、固体の内部コアと溶融した外部コアからなっていることを示している。しかしながら、地球と違って、月では、外部コア上に厚く部分的に溶融した層が存在している。(Wt,tk)
Seismic Detection of the Lunar Core
p. 309-312.

水のスピン(Spinning in Water)

ほぼ1世紀前に、 Stern と Gerlach は、原子に拘束された電子が、不均一な磁場を通過する際に二つの方向のうちのどちらか一方に偏向する現象を引き起こす、スピンと呼ばれる変わった2値の性質を持つことを実証した。直に、ある種の核もスピンを持つことが見出され、核磁気共鳴分光法の発見につながった。今回 Kravchuk たちは(p. 319)、Stern-Gerlach の装置と同様な磁気装置を用いて、水の核スピン異性体を分離した。具体的には、キャリアガス中に希釈された冷たい、急速な水のビームが、磁場領域を通過するように送られた。オルト異性体(H2Oの両方のH原子が同じスピン方向をもつもの)は中心に集中する一方で,パラ異性体は異なる経路をたどり、それらが分離された。その技術はメタンにも適用することができ、小さな分子の純粋なスピン集合体に関する今後の詳細な研究の見通しが示された。(Sk)
A Magnetically Focused Molecular Beam of Ortho-Water
p. 319-321.

オスとメスの化石(His and Hers Fossils)

生殖形態(modes of reproduction)の詳細は勿論のこと、化石に性の痕跡が残ることは稀であるため、絶滅した種やグループの性によって異なる形質(sexual dimorphism)や活動を理解することは難しい。Luたち (p. 321)は、骨盤のそばに卵の化石がある、翼竜類のメスの確かな化石を発見した。そのダルウィノプテルス(Darwinopterus)化石の年代は1億6000万年前であり、中国遼寧省(Liaoning Province)の堆積岩から収集され、とさか(crest)が欠けていたことから、とさかがオスの特徴であることを示唆している。卵は、その翼竜類の体格からすると比較的小さく、そしてその殻は鳥のように固くはなく、他の爬虫類の卵により近い羊皮紙のような柔らかさであった。(TO,nk,kj)
An Egg-Adult Association, Gender, and Reproduction in Pterosaurs
p. 321-324.

移動中(On the Move)

通常は温暖化が進むに従い、植物や動物種は気候における生態的地位を維持しようとしてその生息域を高地や高緯度地域に移動させようとするであろう。しかしながら、分布域が低地化する傾向を有する少数種の存在により、高地化のパターンに例外があることが言及されている。1930年代から現在までの植生のデータを比較することによって、Crimminsたちは(p.324)、20世紀の間に広範囲かつ相当の温度上昇があったにも関わらず、米国カリフォルニアの山岳植物種の大多数にとっての最適な海抜高度が、約80mも低地化したことを示している。この一見矛盾に見える現象は、植物種の生育高度を気候で決まる水の平衡量と関連付けることで説明できるかもしれない。20世紀の間の降水量の増加が、温度上昇で増加した植物の蒸発の必要量を上回り、北カリフォルニア全体にわたり必要な水が得られる範囲を広げたのだ。(Uc,nk)
Changes in Climatic Water Balance Drive Downhill Shifts in Plant Species’ Optimum Elevations
p. 324-327.

免疫回避戦術(Immune Evasion Tactic)

細胞に侵入したウイルスを認識し抗ウイルス性免疫応答を生じるには、パターン認識受容体が決定的役割を持つが、ウイルスは無数の戦略を展開して認識されることを免れ、抗ウイルス性免疫の誘導を逃れようとする。Gregory たち(p. 330)は、Karposi肉腫に付随するヘルペスウイルス(KSHV)(幾つかのヒトガンの病原体)が、NLRP1に相同的な遺伝子(Orf63)をコードすることを見つけた。NLRP1はヌクレオチド結合領域の一員であり、パターン認識受容体のファミリーを含むロイシンに富む反復配列(NLR)である。Orf63はNLRP1と相互作用し、これのオリゴマー化を防止し、下流の抗ウイルス性応答の活性化を抑制する。このように、KSHVは宿主中での重要なウイルス検出経路を抑制することで免疫応答を免れている。(Ej,hE)
Discovery of a Viral NLR Homolog that Inhibits the Inflammasome
p. 330-334.

将棋を指すとき(Playing the Game)

ボードゲームなど、認知が関わるさまざまな分野の専門家は、意味ある入力パターンをすばやく知覚することだけでなく、それに対する適切な応答をすばやく生み出す点においても、秀でた能力を示す。おおかた無意識に自動化された、すなわち「直観的」なプロセスが、そうしたすぐれた能力にとって必須である。Wanたちは、将棋を指している被験者の脳の活性状態を分析した(p. 341)。アマチュアと比較すると、プロ棋士は、将棋の局面模様を素早く読み取って、頭頂葉で脳の特異的な活性化(状態)を示した。次の最善手をとにかく急いで見つけるように仕向けると、エキスパートは尾状核における活性化を示した。しかしながら、与えられた局面を時間をかけて意識的に評価する際には、プロ棋士とアマチュアのどちらも、脳の活性化は前頭前野と他の皮質領に限定されたのである。(KF,ok)
The Neural Basis of Intuitive Best Next-Move Generation in Board Game Experts
p. 341-346.

極端な環境で生きる生命(Living Life in the Extreme)

好塩性古細菌(haloarchaea)は、塩が蒸発した窪地をカロテノイド色素でピンク色に染めているのが、よく見つかる。この原核生物は、たとえば、グルタミン酸やポリエステルのような浸透圧保護性化合物の蓄積による水貯留のための多様な分子性戦略など、極端な環境で生きていくのに必要な特有の特徴をいくつも備えている。Khomyakovaたちはこのたび、浸透圧保護性貯蔵化合物が炭素同化に使う、今までとは別の経路を記述している(p. 334; またEnsignによる展望記事参照のこと)。 ハロアーキュラ・マリスモルツイ(Haloarcula marismortui)では、古典的なクエン酸回路とグリオキシル酸回路が、キーとなる酵素、グルタミン酸ムターゼとメチルアスパラ酸アンモニアリアーゼを獲得することによって、イソクエン酸でのメチルアスパラ酸回路へと分化している。(KF,kj)
A Methylaspartate Cycle in Haloarchaea
p. 334-337.

助けに来るクロストリジウム(Clostridium to the Rescue)

消化(GI)管は、免疫系と一緒になって感染から保護するために働き、さらに免疫恒常性を維持するためにも重要な、多様な共生細菌の宿る場所である。特異的ミクロフローラが、消化管における免疫細胞恒常性にどのように影響しているかは、理解の緒についたばかりである。マウスを扱って、Atarashiたちはこのたび、常在性のクロストリジウム種が、結腸内で調節性T細胞(Treg cell)の産生を促進していることを示している(p. 337,12月23日号電子版; 表紙参照; またBarnesとPowrieによる展望記事参照のこと)。無菌マウスでは、クロストリジウムによるコロニー形成によって救い出されるはずの結腸のTreg細胞の数が減少してしまった。(KF)
Induction of Colonic Regulatory T Cells by Indigenous Clostridium Species
p. 337-341.

特異な量子材料(Exotic Quantum Materials)

量子臨界転移は温度が絶対零度に到達したときに生じる現象であり、熱的ではなく量子的揺らぎに起因する。転移点近傍では、対象材料はしばしば特異な伝導特性を示すことが知られている。通常、圧力や磁場といった外部パラメーターを微調整したり、化学ドーピングによって非化学量論的材料に微調整することで、量子臨界転移を実現している。Matsumotoらは(p.316) β-YbAlB4化合物を用いて,このような微調整することなく量子臨界性を実現した。これまでとは異なり、この重フェルミオン材料は混合原子価特性を持つために特異な量子臨界相へ転移したと考察している。(NK)
Quantum Criticality Without Tuning in the Mixed Valence Compound β-YbAlB4
p. 316-319.

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