AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science January 14 2011, Vol.331


インフルエンザ飛行中(Influenza in Flight)

鳥インフルエンザは養鶏業者を直撃し、野生の鳥の生態数を脅かし、人病原体として発生する変異体の蓄積場所を提供する終わりの無い問題である。Lyallたちは(p.223)、インフルエンザウイルスの前方感染を防ぐ遺伝子導入ニワトリを創るための最初のステップを踏み出している。複製に不可欠なウイルスのポリメラーゼ酵素の配列を有する「おとり」RNAが作成された。これに感染したニワトリでは、ウイルスは感染を移すほど十分効果的に複製することはできなかったが、しかしそのニワトリはインフルエンザによって結局死亡してしまい、それ故、効果的な耐インフルエンザ群をつくるのにはある種の改良が必要であろう。にもかかわらず、この戦略はワクチン作成に関する重要な進歩をもたらす可能性を有し、ウイルスの変異、未発症伝染や耐性のリスクを避けるものである。(Uc,KU)
Suppression of Avian Influenza Transmission in Genetically Modified Chickens
p. 223-226.

作用表面の再構築を観察する(Watching the Restructuring of Working Surface)

もし、無機物質の表面が反応性ガスの気体内で加熱されると(これは、工業上の触媒が、通常使用される際に出会う条件であるが)、その表面は再構築される場合が多い。このような再構築プロセスの実験室での研究は難題で、その理由は、表面を高感度で観測する手段が高真空下で最も良く機能するからである。最近、ほぼ1気圧に近い分圧の気体の存在下で、表面構造が研究可能な技術が開発された。Tao and Salmeron (p. 171)は、真空環境が亜酸化窒素、一酸化炭素、及び水素等の反応性ガスで置換された時に、ナノ粒子や金属表面、及び触媒で生じる変化の幾つかをレビューしている。(KU)
In Situ Studies of Chemistry and Structure of Materials in Reactive Environments
p. 171-174.

炎症の制御(Controlling Inflamation)

炎症反応に介在する脂質は、酵素5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)によりアラキドン酸から合成される。5-LOXの本質的な不安定さが、その活性を制御していると提唱されてきた。関連する酵素の構造から、C末端がその酵素を貫通し、C末端残基の主鎖のカルボン酸が触媒作用の鉄に結合していることが示された。Gilbertたち(p. 217)は、5-LOXのC末端の配向を不安定にするような或る配列を同定し、そしてこの配列を置換することで、安定な酵素を精製し、そしてその結晶構造を決定することが出来た。その構造は酵素の不活性化に関する提唱されたメカニズムと一致し、そして5-LOX-特異的阻害薬の設計の基礎を与えるものである。(KU)
The Structure of Human 5-Lipoxygenase
p. 217-219.

もっと本を!(Books, Books, and More Books)

印刷された文字は啓蒙に強い力がある。しかし個人にとって、本に現われる文字情報によって明らかにされる言語的・文化的な変化を解析する定量的手法を採用することは別として、書かれた全ての本のうちの一部分しか読む事が出来ない。Michelたちは(p.176,12月16日号電子版)、1800年から2000年の間に印刷された全ての本のうちの約4%の本について、情報学的解析を行った。そして、文法の進化や言葉の衰退、どのような人がいつ、どのくらいの期間有名になったかという点に関する解析を行った。彼らはまた、検閲や出版禁止の影響、特にナチス時代のそれに関しても解析(著者らの用語によるとculturomics:文化の網羅的解析」)を行った。この解析によって、本や文章だけではなく、文化、歴史、そして社会科学に関しても考察できる新しい手法が提案されている。(Uc,KU)
Quantitative Analysis of Culture Using Millions of Digitized Books
p. 176-182.

ハエからコンピュータサイエンスを学ぶ(Computer Scientists Learn from Flies)

複数のコンピュータが問題を解決するために協調して働く分散ネットワークの設計において、入力情報の全てを受け取ったり、出力情報の全てを観測できる単一プロセッサが何等存在しないとすると、その設計は難しいとされている。Afekたち (p. 183)は、ショウジョウバエの体表の感覚剛毛(sensory bristles)が形作られるプロセスが、この課題と類似していることを示す。著者たちは、このハエの発生上のプロセスを調べ、そのメカニズムをモデル化することによって、無線ネットワークの設計に役に立つ、いわゆる"最大独立集合"を見つけるコンピュータサイエンス上の問題を効率よく解くアルゴリズムを導き出した。(TO)
A Biological Solution to a Fundamental Distributed Computing Problem
p. 183-185.

半整数量子の測定(Quantum Half-Measures)

フェルミオン系の超流動性は、ボース・アインシュタイン凝縮を発現するフェルミオンのペアリング(対形成)に由来する。通常ペアリングは反対のスピンを持つフェルミオン同士が形成する。そのような超伝導体が磁場にさらされた場合、外部磁場をはじき出す、あるいは各自が丁度量子化された磁束にまたがるような渦格子を形成する。特異な超伝導体Sr2RuO4で観測されたスピン三重項相の場合、整数化された渦量1ではなく渦量子1/2を示唆するものであった。Jangらは(p.186)環状のSr2RuO4サンプルの磁化を測定し、通常の変化幅の 1/2 の高さの磁化ステップを観測し、渦量子1/2の存在を示す結果を得た。これらの発見は将来の量子コンピューティングに活用できるであろう(NK,nk)
Observation of Half-Height Magnetization Steps in Sr2RuO4
p. 186-188.

トルエンの変化(Toluene Transformation)

溶媒としての機能に加えて、芳香族炭化水素のトルエンは様々な医薬品、化粧品、或いは農薬の合成における原材料である。しかしながら、今日適用されている酸化方法は、幾分非効率であり、そして腐食性の条件を必要とすることが多い。Kesavanたち(p. 195)は、金とパラジウムの混合物からなるナノ粒子が、トルエンの商業的に有用なエステルやベンジルベンゾエートへの酸化反応を高い収率、かつ高選択性で持って触媒することを示している。この反応は酸化剤として酸素を用い、溶剤のない条件で進行する。(KU,nk)
Solvent-Free Oxidation of Primary Carbon-Hydrogen Bonds in Toluene Using Au-Pd Alloy Nanoparticles
p. 195-199.

ヤヌス粒子の振る舞いの制御(Harnessing Janus Behavior)

原子や粒子の集団は、ある意味で、単一の原子や粒子と塊になった物質の中間的な振る舞いをするであろう。Chen たちは(p.199)、片側半分を帯電した表面に、他の半分を疎水性の表面にしたコロイド状のヤヌス粒子を作った。この二面的な性質により、粒子は特異的な配置で集まったり、詰め込まれたりするようになり、それは塩の添加により制御することができた。力が適当にバランスすると、隣接する粒子間の結合がこわれされて再生される時に、偶発的な右手-左手系の切り替わりが自発的に生じ、キラル(鏡像異性)ならせん体が形成された。(Sk,nk)
【訳注】ヤヌス粒子:1つの微粒子の中に2つの面を持つ粒子
Supracolloidal Reaction Kinetics of Janus Spheres
p. 199-202.

対流の力(The Strength of Convection)

北大西洋における深水形成のその速度は、大西洋の逆転する循環に大きな影響をもたらし、これが次に世界的な気候に影響を与える。海洋の逆転する循環に関する詳細な情報は、海水の放射性炭素の量を全深さに渡って測定することで得られる。Thornalleyたち(p. 202;Sarntheinによる展望記事参照)は、2万2千年〜1万年前の間の北大西洋における5箇所の深水部位からの放射性炭素の記録を求め、北大西洋の深水形成の歴史を再構築した。そのデータは、逆転する循環の強さと、様々な深水質量の起源、及び大気循環のパターン(これが陸地の温度と世界的な気候に強い影響を持っているが)の間の結びつきを示唆している。(KU,nk)
The Deglacial Evolution of North Atlantic Deep Convection
p. 202-205.

恐竜の勃興(Rise of the Dinosaurs)

恐竜が出現したのは三畳紀のころで、約2億2000万年前頃の三畳紀末に向けて支配的なものとなった。恐竜の初期の進化を留めている最良の記録は西北アルゼンチンのIschigualasto層に保存されている。この時期の初期の進化の制御機構を理解するため、Martinezたちは恐竜や他の脊椎動物の、量、出現時期、絶滅時期を追跡し、そして初期恐竜の関係を明確化する基本的な獣脚竜について記述している。2億3000万年前頃に、この地域で恐竜は支配的な肉食動物であり、かつ小さな草食動物でもあった。他の草食動物は徐々に地域ごとに絶滅して行ったことから、恐竜が空のニッチを急激に占めたのではないことが推測される。(Ej,KU)
A Basal Dinosaur from the Dawn of the Dinosaur Era in Southwestern Pangaea
p. 206-210.

不安を書いて解消しなさい(Write Your Worries Away)

多くの人にとって、テストや試験はストレスになる。試験で「息苦しくなる」学生は、自身の知識でできるはずの成績を下回ることがある。そうした結果が積み重なると、学業成績や能力への期待が低くなってしまう。数学の試験を受ける若年成人を調べることによって、RamirezとBeilockは、これから受ける予定の試験について、短時間で自分自身の不安を書くことによって、試験での成績が良くなるということを発見した(p. 211)。おそらく、自分自身の恐怖と向き合うことで、学生は気を散らすような情動をなだめることができたのである。(KF)
Writing About Testing Worries Boosts Exam Performance in the Classroom
p. 211-213.

サケたちの死(Death of the Salmon)

漁獲量の大きな削減にも関わらず、カナダの野生のサケ資源は、産卵に至るまでに高水準の致死率のままになっている。放卵の場所に至るまでに、40%から95%のサケが死んでいくのである。Millerたちは、サケの死亡率と特異的なゲノムの発現シグナルとの間に成り立つ一貫した関連を発見した(p. 214)。過去10年間はそれまでなかったほど川の温度は温かく、サケは川に沿った「ホットスポット」で、おそらく酸素供給の不足や病気によって、そしてその際に、サケのある遺伝子集団は他のものより強く影響を受けることによって大量に死んできたのである。(KF,nk)
Genomic Signatures Predict Migration and Spawning Failure in Wild Canadian Salmon
p. 214-217.

女性の涙の力(The Power of Women's Tears)

情動性の涙は、唯一人間だけが流すものだと考えられていて、何年にもわたって生物学者や心理学者を悩ませてきた。女性の情動性の涙とコントロールとして生理食塩水を用いた二重盲検比較試験によって、Gelsteinたちは、人間の涙がある種の化学シグナルを伝達している可能性があるのではないかということを調べた(p. 226,1月6日号電子版)。涙の匂いを感じ取ることはできなかったが、それにもかかわらず涙は、女性の顔の性的アピールを減少させた。女性の涙はまた男性の性的興奮を抑え、テストステロンのレベルを減少させた。それに引き続いての脳イメージング研究の結果は、脳の機能の活性における差を強調するものだった。情動性の涙は、つまるところ、ソシオセクシュアル(sociosexual)な行動に関わる化学受容性シグナルを含んでいるらしい。(KF,nk)
Human Tears Contain a Chemosignal
p. 226-230.

ねじれた電子ビーム(Electron Beams with a Twist)

光学的ビームに角運動量を付与することができるようになったことは、画像技術、顕微操作、通信技術における応用を拡大させた。波動と粒子の二重性により、電子もまた、光学的波長よりずっと短い特徴的な波長という見方で記述することができる。McMorran たちは(p.192; Herring による 展望記事参照 )、イオンビームを使って、電子を回折することのできるナノ構造のホログラフ回折格子を作製した。格子の周期性を制御し、設計された分岐状の欠陥を組み込むことにより、電子がその格子を通過する際に制御された量の軌道角運動量を与えることができた。そのような電子の渦は、それらの長波長版である光学ビームと同様に、広範な応用先を見出すであろう。(Sk)
Electron Vortex Beams with High Quanta of Orbital Angular Momentum
p. 192-195.

時計を合わせる(Synchronize Your Watches)

生体時計は、およそ24時間周期であるが、日長と同期していくために、光に曝されることによる同調化に頼っている。Rustたちは、ラン藻ではそうした同調化が、少なくとも部分的には、アデノシン三リン酸(ATP)のアデノシン二リン酸に対する相対的濃度を増加させる、光合成に対する光の影響に結び付いていることを示している(p. 220)。ラン藻の時計は、ATPが基質であるリン酸化反応を介して制御されるたった3つのタンパク質によって、試験管内に再構成することができる。それらタンパク質の1つであるKaiCは、KaiA成分との相互作用によって内在性時計の状態を統合でき、細胞の代謝性状態とは、その基質のATPへのKaiCの結合の競合的抑止を介して、統合される。光によるこの時計の同調化を再現する数学的モデルが開発されている。(KF)
Light-Driven Changes in Energy Metabolism Directly Entrain the Cyanobacterial Circadian Oscillator
p. 220-223.

銅酸化物の縞模様から超電導が出現(Superconductivity from Cuprate Stripes)

銅酸化物(cuprate)の複雑な化学的、構造的性質から、この高温超伝導の特性はいくつかの層序が相互作用したものとして特徴づけられる。その典型例はLa2-x-yEuySrxCuO4であり、この場合電荷とスピンの縞模様の整合性が超伝導と競合している。Fausti たち(p. 189) はテラヘルツのレーザーパルスを使って、縞模様が特に明白で超電導が抑圧されているこの化合物の超電導性を回復させた。数ピコ秒間のジョセフソンプラズマ共鳴の出現と共に、超伝導が出現した。(Ej)
Light-Induced Superconductivity in a Stripe-Ordered Cuprate
p. 189-191.

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