AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science April 30 2010, Vol.328


金星のホットスポット(Hotspots on Venus)

金星の表面には火山活動の明らかな証拠が見られる。だが、現在でも金星で火山活動が起こっているのだろうか?この疑問に対する答は、この惑星の気候の進化や惑星内部のダイナミクスについての我々の理解に影響するだろう。金星探査機「ビーナスエクスプレス」によって得られた表面熱放射率のデータによって、Smrekarたちは(p.605,8月8日電子版)、金星の3つのホットスポット(惑星内部から高温物質が熱柱状に上昇している箇所)に着目した。これらのホットスポットは、ハワイのような地球のホットスポットと同様の類似点をもつことから識別することができた。つまり、マントルの熱流上に位置しており、火山活動が起こっている可能性が最も高い地点であると考えられている。この3つのホットスポットの溶岩流は周囲と比べると非常に高い熱放射率を有している。低い放射率の領域は通常、金星の腐食性大気によって表面変質が起こっている領域であると考えられている。一方、高い放射率の領域は、それほど表面変化が起こっていないことを示している。つまり、ホットスポットは250万年以内という最近の時期に火山活動があったことを意味している。(Uc,nk)
Recent Hotspot Volcanism on Venus from VIRTIS Emissivity Data
p. 605-608.

草原の出現(Grassland Emergence)

草のC3光合成経路からC4経路への進化により、後期中新世(300〜800万年前)の温暖な気候で草原が発達するきっかけとなった。これは植物の進化の歴史の主要な出来事であり、葉の生産能力が高まった結果、草食動物の高い消費レベルを保持してきた。過去10年間、このC4草原の生態系理解が大きく進展し、これら生態系の地質学的歴史も蓄積し、草の系統発生学の理解も深まった。Edwards たち(p. 587)は学際的研究領域をレビューし、このように開けつつある草の進化に関する新しい知識を、植物と生態系との生態学という観点で、まとめ上げようとしている。(Ej,nk)
The Origins of C4 Grasslands: Integrating Evolutionary and Ecosystem Science
p. 587-591.

タグ付けされた細胞分裂装置(Division Machinery Tagged)

人工的なバクテリア染色体 を哺乳動物細胞中に導入してタグ付けしたタンパク質を発現させることにより、哺乳動物のタンパク質機能を大規模にスクリーニングすることが出来るか、国際的なコンソーシアムによるテストが実施されてきた。タグのおかげで、Hutchinsたち(p. 593, および、4月1日の電子出版号も参照) は、顕微鏡で局所的にタグ付きタンパク質をモニターすることに成功し、相互作用タンパク質を単離し、その結果結合しているパートナーを質量分析器で同定することも出来た。この技術を利用して細胞分裂の制御に関わっているタンパク質に適用した結果、有糸分裂に必要な約100個のタンパク質複合体が明らかになった。(Ej,hE,Kj,nk)
Systematic Analysis of Human Protein Complexes Identifies Chromosome Segregation Proteins
p. 593-599.

ほこりっぽいクエーサー(Dusty Quasars)

クエーサーは活発なエネルギー源であり、太陽質量の10億倍ものブラックホールへの物質の降着によって燃料が供給されていると考えられている。あるクエーサーは、それを取り囲むガスとダストの雲により検出することが困難である。あまりに見つけにくいため、このクラスのクエーサーはいまだに性質がはっきりしないままである。X線、可視光線、中赤外線のデータの収集とその整理の結果に基づき、Treister たち (p.600, 3月25日号電子版; Primack による展望記事を参照のこと) は、宇宙開始からのクエーサーの進化は、ガスの豊富な銀河が合体する間に起こることを示している。そして、クエーサーが直接見えるおよそ1億年前にはガスやダストに覆い隠された時期が存在した。上記と類似の、極めて明るい赤外銀河を含めて、他の天体もさまざまな波長で検出されている。この赤外銀河は、大質量銀河のガスの豊富な状況での合体によって生み出されるものとして知られている。(Wt,nk)
Major Galaxy Mergers and the Growth of Supermassive Black Holes in Quasars
p. 600-602.

乳酸を無機化学的に作るアプローチ(Approaching Lactate Inorganically)

バイオマスを付加価値のある化合物への変換は、今日その多くを醗酵に依存している。化学工業の一次原材料としての石油の全面的な置き換えには、別の変換技術が必要である。Holmたち(p. 602)は、メタノール中に懸濁されたルイス酸ゼオライト誘導体がグルコースや果糖、及びショ糖のメチル乳酸(商業製品に対する多用途の合成中間体)への選択的な変換を触媒することを見出した。この触媒は生成物の混合体から容易に分離され、また反応と再生のサイクルを6回繰り返しても変性しないことが判明した。(KU,nk)
Conversion of Sugars to Lactic Acid Derivatives Using Heterogeneous Zeotype Catalysts
p. 602-605.

季節風にのって(Riding the Monsoon)

対流圏から成層圏への空気の流れの殆どは熱帯地方で起こっている。しかし更なる空気輸送が、強い対流による上昇流が起こる領域で発生しているのかもしれない。Randelたちは(p.611、3月25日電子版)衛星により、アジアの夏季節風が発生する領域に渡っての大気中のシアン化水素を計測した結果について報告している。その結果、空気は表層から成層圏深部にまで運ばれていることがわかった。このメカニズムによれば、汚染物質が地球成層圏にまで通じる道筋が存在することを示している。そして、汚染物質は成層圏でオゾンの化学反応やエアロゾル (煙霧質) の特質や放射特性に影響を与えているのかもしれない。(Uc)
Asian Monsoon Transport of Pollution to the Stratosphere
p. 611-613.

私はピンク、貴方はグリーン(Pink for Me, Green for You)

アブラムシは異なる色で生まれ、色素沈着がその運命にかかわるゆえに重要な問題となる:赤いアブラムシはテントウムシに、緑のアブラムシは寄生ハチに襲われる。アブラムシの色はフラミンゴのピンクの色を作るものと同じグループの化合物であるカロテノイドによって決定される。フラミンゴ(ピンクの色を留めるために色の付いた餌を食べる必要がある)と異なり、アブラムシは自分自身で色素を作る。カロテノイドは、装飾色を作るためだけではなく、視物質及び免疫系の修飾因子としてその酸化防御的特質の面からも、動物にとって極めて重要な化合物である。アブラムシのゲノムを探ることにより、Moran and Jarvik(p. 624;Fukatsuによる展望記事参照)は、カロテノイドを作る機構が菌類からの水平遺伝子伝達において祖先により獲得されたものであることを発見した。野生の黄色の変異アブラムシは赤のカロテノイド色素トルレン(torulene)を生合成する配列を未だ所有しているが、この配列は赤色への切り替えを中止する単一の点変異を持っていることが分かった。(KU,nk,Kj)
Lateral Transfer of Genes from Fungi Underlies Carotenoid Production in Aphids
p. 624-627.

一緒に働くことを学ぶ(Learning to Work Together)

グループが努力する際に、全体としてグループのより大きい利益を図って働くことと、一個人の利益のために働くこととの間にはしばしば緊張がある。これらの方向性は時には一致し、また時には一致しない。さらに、他のメンバーが取る選択は、あるメンバーがどちらの路線を選択するかの計算に影響する。現在、一対の研究が、実験と理論の視点からこのチャレンジな課題に対してアプローチしている。森林あるいは漁場において、木や食物の収穫には空間的不均一性と同様に、資源回復の特質を考慮する必要がある。グループメンバ間のコミュニケーションは、違反者を罰して励行させる方策と、収穫を維持できる割合の設定、の双方に対してのキーであることを、Janssenたち(p. 613; Puttermanによる展望記事参照)が示している。Boydたち(p. 617; Puttermanによる展望記事参照)は、代償の多い行為である罰が、グループメンバの承認の元で実行されたとき最も効果的に行われることを示すモデルを開発している。すなわち、メンバーが協調して行う処罰は全体の利益を向上させる方向に向けて働くが、一方個々に罰するだけでは効果が上がらないのである。(hk,KU,nk)
Lab Experiments for the Study of Social-Ecological Systems
p. 613-617.
Coordinated Punishment of Defectors Sustains Cooperation and Can Proliferate When Rare
p. 617-620.

今日はバイオフィルム作り、明日は分解(Biofilm Today, Gone Tomorrow)

細菌の多くは、バイオフィルムとして知られている複雑な、マトリックス−含有の多細胞性コミュニティーを形成しており、これは抗生物質にさらされるといった環境ストレスから仲間を保護している。しかしながら、バイオフィルムが古くなると、栄養物が制限され、かつ老廃物がたまり、バイオフィルムの分解が始まる。Kolodkinたち(p. 627)は、枯草菌の成熟したバイオフィルムの調整培養液で見出されたD-アミノ酸がバイオフィルムの形成を妨げ、そして既存のバイオフィルムの解体をトリガーすることを見出した。(KU,Kj)
D-Amino Acids Trigger Biofilm Disassembly
p. 627-629.

光による構造(Light Structures)

光合成の反応中心による光の吸収により、構造変化と一連の電子移動反応が生じ、その後の化学反応に必要な膜内外電位差が発生することが知られている。最初の電子移動により電荷分離状態が生じるが、再結合によるエネルギーの失活を防ぐためにもその分離状態を維持・安定化しておく必要がある。Wohriらは(p.630)時間分解ラウエ回折結晶学を用いて、ミリ秒領域で生じるバクテリオクロロフィル分子二量体の光酸化に伴うコンフォメーション変化を観測した。この二量体は、Blastochloris viridisの光合成の反応中心における“特殊対(special pair)”として知られている。特殊対近傍に移動する保存されたチロシン残基の脱プロトン化によって安定化が起こっていることが示唆された。(NK)
Light-Induced Structural Changes in a Photosynthetic Reaction Center Caught by Laue Diffraction
p. 630-633.

カエルのゲノム(Frog Genome)

アフリカツメガエル Xenopus tropicalis はゲノム配列が得られた最初の両生類である。Hellsten たちは (p. 633 , 表紙を参照) そのゲノムのドラフト・アセンブリーの解析結果を提示した。発生生物学の重要なモデル系であるそのカエルのゲノムは、20,000以上のタンパク質コード遺伝子を所有し、そのうちの1,700以上の遺伝子はヒト疾患との結びつきが同定されている。このタンパク質コード遺伝子と他の四肢動物(ヒトやニワトリ)との中身の詳細な比較は、全染色体にまたがって広範に共有化されるシンテニーを明らかにした。(Sk,KU)
【訳注】シンテニー:ゲノム間で遺伝子位置が相同であること
The Genome of the Western Clawed Frog Xenopus tropicalis
p. 633-636.

炭素プールからの一すくい(A Dip in the Carbon Pool)

カンブリア紀になって動物の多様性が爆発する前、地球の炭素周期は、地球全体にわたっての複数回の氷河期によってあきらかに強い変化をこうむっていた。Swanson-Hysellたちによって測定されたオーストラリアの岩石から得られた炭素同位体の構成比情報によって、予期されていたよりも数億年以上も前に、2回の世界的氷河作用、すなわち「全地球凍結(スノーボール地球)」の間で有機物性炭素貯蔵の仕組み(有機炭素リザーバー)が形成されていた、ということが示唆された(p. 608)。融解する氷河から流れ出る水量の増加によって引き起こされた無酸素性硫酸塩の少ない水が、細菌の呼吸を抑制し、有機物性炭素が蓄積されるのを助けていた可能性がある。有機物性炭素レベルが落ちると、二酸化炭素が遊離され、大気が温まり、それ以上の氷河作用を妨げて、ついには海洋中の酸素の蓄積が可能となり、これがカンブリア爆発を導くことになったのである。(KF,KU)
Cryogenian Glaciation and the Onset of Carbon-Isotope Decoupling
p. 608-611.

スズメバチとミツバチ(The Wasps and the Bees)

ミツバチやスズメバチの性発生は、それらが一倍体の未受精卵(オスになる)と二倍体の受精卵(メスになる)のどちらから発生したかどうかに依存している。こうした倍数関係の発生過程がミツバチやスズメバチでは保存されているが、オスになるかメスになるかの直接的な発生の経路はかなり異なったものである。寄生スズメバチNasoniaにおける性決定遺伝子を調べることによって、Verhulstたちは、母系性の、あるメッセンジャーRNA(mRNA)が、雌性経路を開始するのに必要であることを示している(p. 620)。このmRNAは保存されていた母系性および父系性遺伝子と一緒になって作用してメスを産み出していて、これがメスが二倍体である理由である。未受精卵では、遺伝子転写物の母系側からの供給のレベルが低すぎて、雌性経路を開始するには至らないのである。(KF)
Maternal Control of Haplodiploid Sex Determination in the Wasp Nasonia
p. 620-623.

これこそが血筋である(Runs in the Family)

ゲノム配列決定によって病気に関与している変異を検出する能力は、子孫と親との間に生じる可能性がある特異的な変異を発見する能力と組み合わせることによって増強される。Roachたちは、2つの遺伝的障害、ミラー症候群と原発性線毛機能不全によって影響された2人の子をもつ家族の遺伝子配列を提示している(p. 636、3月10日号電子版)。子どもとその親の配列解析によって、世代間での変異率が予期されたよりも低いことが示されただけでなく、組換え部位と珍しい多形性の出現があることも明らかにされた。(KF)
Analysis of Genetic Inheritance in a Family Quartet by Whole-Genome Sequencing
p. 636-639.

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