AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 18 2009, Vol.326


バイオ-ダイオード(Bio-Diodes)

内向き整流性カリウムチャネルは内部の負の膜電位によりカリウムイオンを細胞へ伝導する。しかしながら、内部の正の膜電位ではそれらは細胞内多価イオンによってブロックされる。これらのチャネルは静止膜電位を制御するとともに、多くの電気的に刺激を受ける細胞の正常な機能を保つために必要とされる。変異は、たとえば心臓欠陥の原因となる一過性麻痺を起こすことになる。Taoたち(p. 1668)は、人間のと良く似た構造を持つ、にわとりの内向き整流体Kir2.2について分解能3.1オングストロームでの構造を報告している。電気生理学的 データと伝導性と抑制性のイオン結合部位の知見を結びつけることで、これらの長く研究されてきたチャネルの作用メカニズムが最終的に説明され、かつ治療薬設計に対する基盤を提供するとともに、Kir2.2チャネルが毒素不感応性をどのようにして保っているかを明らかにしている。(hk,KU,nk)
Crystal Structure of the Eukaryotic Strong Inward-Rectifier K+ Channel Kir2.2 at 3.1 Å Resolution
p. 1668-1674.

黒い度合い(Degrees of Darkness)

アフリカのショウジョウバエは住んでいる地域の高度が高いほど黒くなる傾向があるが、これはメラニン沈着が選択優位性を持っているためである。ウガンダのキイロショウジョウバエの一部に見られる黒い色素沈着はebony遺伝子の発現が欠けているためで、発現すれば黄色い角質が生じる。Rebeiz たち(p. 1663;および、Pennisiによるニュース記事参照)は、翻訳領域でなく、シス調節エレメント中の変異によって色が黒くなることを示した。モジュラーエンハンサーエレメント中の一連の5つの変異によって、ebony 発現のレベルが変化する:既存の3つの変異を持つ個体は明るい色で、最近獲得した特異的な黒の個体は更にもう2つの置換を有し、これら全体は大きな影響を持つ対立遺伝子を形成し、ショウジョウバエ集団中で高い頻度を占めるに至った。(Ej,hE)
Stepwise Modification of a Modular Enhancer Underlies Adaptation in a Drosophila Population
p. 1663-1667.

水っぽい世界(Watery Worlds)

水蒸気は、さまざまな星の原始惑星円盤において検知されている。われわれの惑星形成に対する理解に影響を与えるため、その起源を説明することは重要である。Bethell と Bergin (p.1675) は、この水が円盤の上層で起きる光化学現象により発生していると提案している。これらの領域では、水が生成される割合は、紫外線放射により破壊される割合を上回っている。円盤上層で生成された水は、円盤内部の水蒸気を紫外線から守り、内部で水蒸気が惑星を形成する物質と作用し、そしておそらく若い惑星に取り込まれることを可能にする。(Wt,nk)
Formation and Survival of Water Vapor in the Terrestrial Planet-Forming Region
p. 1675-1677.

居住地は炉端のあるところ(Home Is Where the Hearth Is)

ヒトの知的能力の一面として、我々の生活と活動の空間を整える能力がある。一般的には、この能力は過去10万年程度の間に現代人とともに生じたと考えられている。しかし、 Alperson-Afil たち(p. 1677) は、80万年前の更新世におけるヨルダン渓谷に残るヒトの野営地において、居住区域が用途ごとに分けられていた証拠を発見した。焼けた石ころの跡を取り囲んで、多様な植物や動物の食材の遺物が見つかった。その中には果物、種子、カメ、ゾウ、小さなげっ歯類なども混ざっていた。炉端の周りでは特定の形の石器が置かれ、そこでは木の実の焼かれた跡やカニや魚が消費された証拠もあった。炉からもっと遠方には集中的な石工や食物を切り刻んだ徴候もあった。(Ej,hE,bb,nk)
Spatial Organization of Hominin Activities at Gesher Benot Ya’aqov, Israel
p. 1677-1680.

食用の種子(Seed for Food)

食料としては、果物やナッツより穀類植物の種子を収穫することの方が難しい。人類が何時頃から穀類に多くを頼るようになったかはよく解ってない。Mercader (p. 1680) はモザンビークの洞窟において、澱粉がフィルム状に付着した約10万年前の石器を見つけた。この澱粉は野生のソルガム(アフリカ原産のイネ科の穀物)のものと一致しており、人類が今まで考えられていたよりずっと前に穀類に依存していたことを示唆している。このモザンビークのソルガムの利用例は、世界で最も古い穀類の食物利用例を示している。(Ej,hE,bb,nk)
Mozambican Grass Seed Consumption During the Middle Stone Age
p. 1680-1683.

移動する境界(Moving Boundaries)

微細粒子金属の古典的なモデルでは、粒子境界を静的な物体とみなしている。しかし、このような考え方は近年の実験による観察結果から問題があると考えられてきている。破壊力学の分野で用いられている技術を適用し、Rupertたちは(p.1686)、変形時に特定の形状に応じて応力または歪みの集中が起こるアルミニウムの自己保持膜に対する実験結果を報告している。近年のシミュレーション結果を検証するとともに、ずり応力が粒界運動の重要な制御因子であることが分かった。(Uc,nk)
Experimental Observations of Stress-Driven Grain Boundary Migration
p. 1686-1690.

湿った炭酸を一瞥する(A Glimpse of Wet Carbonic Acid)

二酸化炭素と炭酸水素塩の両者は生化学反応や地球化学反応において極めて広範囲な役割を果たしている。それ故に、これら二つの化合物の水が介在する相互変換における中間体である炭酸が、水溶液中で今まで解明されていないことは驚くべきことである。Adamczykたち(p. 1690,11月12日号電子版)は、水溶性のフォト酸(photoacid:光吸収により過渡的により酸性となった化合物)を溶解した炭酸水素塩と反応させることで、この曖昧だった炭酸の一瞥に成功した。赤外分光法を用いて、彼らは炭酸の生成物が数ナノ秒間持続することを示している。生成反応の解析から、直接的なpKa値は3.5であり、全体的な炭酸水素塩/二酸化炭素の平衡状態からの測定で得られた有効値(pKaが6.35)より遥かに酸性である。(KU)
Real-Time Observation of Carbonic Acid Formation in Aqueous Solution
p. 1690-1694.

ファンコニ経路の架橋反応(Fanconi Closs-Links)

ファンコニ貧血は、骨髄機能不全や、発生異常、及び劇的なガン感受性の増加によって特徴付けられる稀な遺伝病である。ファンコニ貧血患者由来の細胞は、DNA鎖間のクロスリンクを引き起こす薬剤に敏感で、正常な環境下では、ファンコニ経路はDNA損傷の修復を制御していることを示している。Knipscheerたち(p. 1698、11月12号電子版)は、二つのファンコニ貧血タンパク質、FANC1とFANCD2が細胞抽出液中で鎖間のクロスリンクに関するDNA複製-関連の修復を促進していることを見出した。FANC1-FANCD2複合体はクロスリンクをはずす切断と、切断中にその損傷した鋳型塩基の向きあった側へのヌクレオチド挿入に必要であった。(KU)
The Fanconi Anemia Pathway Promotes Replication-Dependent DNA Interstrand Cross-Link Repair
p. 1698-1701.

君に慣れ親しむ(Growing on You)

人の胃と皮膚は多様な微生物のコミュニティーを宿しており、個々人で大きく異なることが知られている。Costelloたち(p. 1694、11月5日号電子版)は、同一人間の人体の幾つかの異なった生息部位(胃、口、耳や鼻の中、及び皮膚を含む)における微生物の多様性を様々な時間で解析した。彼らは、人体の生息部位が時間的な差異や個人差よりも微生物のコミュニティー成分により影響を持っていることを見出した。人差し指や膝の後、及び足の裏等、幾つかの皮膚の場所が、時には腸や口腔以上に微生物の多様性に富んでいる。(KU)
Bacterial Community Variation in Human Body Habitats Across Space and Time
p. 1694-1697.

もっと安あがりな協力(Cheaper Cooperation)

参加メンバー全員が貢献的に仕事をすればグループでは大きな成果が得られる、という「公共財ゲーム(社会や人間行動を模擬するためのゲームのひとつ)」では、直接的な罰によってグループの利益に反する悪い行いは防止できるとは限らず、罰を与えるためのコストという、グループにとって更なる損失が生じる。もう一つの方法として、罰を与える代わりに貢献したメンバーに報償を与えるという戦略はグループ内の更なる協力関係を奨励し、維持するという点で有効であり得るし、罰を与えるコストというグループ成果の損失が消えるという付帯利益まである。しかしUleたちは(p.1701)、他メンバーに対する以前の振る舞いによって扱われ方が違うという状況下では、時に罰を与える選択権を保有させるという戦略によって、他メンバーへの貢献を省みない「離反者」よりも、より良く貢献する「協力者」の方が報われるようになる、ということを実験的に確認した。(Uc,nk)
Indirect Punishment and Generosity Toward Strangers
p. 1701-1704.

特別な形質のその土地による選択(Local Selection of Magic Traits)

生態学的相互作用は特殊分化に有利に働くことがあり、性選択が生殖分離を誘発することもある。しかしながら、そうしたプロセスは個々それだけでは、新しい種を生み出すには不十分である。それら二つは、互いに協調してかつ同じ遺伝子に作用しなければならない。Van Doornたちは、大きな集団の中で、つがいの相手を選ぶ際の好みが、その土地の生態学的条件への順応度合いを示している性的装飾が有利になるように進化する、という理論モデルを提示している(p. 1704、11月26日号電子版; またMankによる展望記事参照のこと)。そうした性的装飾の例は、たとえば、オスの鳥の豊かな鳴き声であって、それは、その土地の種子を食べるのに適した嘴の大きさを持っているので、食べ物を簡単に得ることができることを示しているのである。ひとたび、つがいの相手の選択がその土地への順応を示すシグナルに基づいて行われるようになると、自然淘汰および性選択は、お互いを強化するようになり、ついには種分化をもたらすようになるのである。(KF,nk)
On the Origin of Species by Natural and Sexual Selection
p. 1704-1707.

言葉にされない憎悪(Silent Hate)

非常に多くの情報が言語を介さずにやりとりされている。Weisbuchたちは、実験や保存記録、さらには調査による研究も用いて、人気テレビ番組における人種偏見の非言語的コミュニケーションが視聴者の間に暗黙の人種差別を永続させている、ということを発見した(p. 1711; またDovidioによれう展望記事参照のこと)。それに引き続いてのフィールド・データの分析によって、米国視聴者の視聴率とFBIの反黒人ヘイトクライム(憎悪による犯罪)記録との相関が得られた。(KF)
The Subtle Transmission of Race Bias via Televised Nonverbal Behavior
p. 1711-1714.

多数ならよいが少数だと困る(More Is Different, Few Is Exotic)

理論物理学は強力ではあるのだが、相互作用する数個の粒子の振る舞いを記述しようとすると3個で既につまづいてしまう。この少数体物理はいくつもの分野、中でも特に原子核の内部相互作用、原子と分子の相互作用など、と関連して興味ある問題である。2体束縛状態が形成されるぎりぎりの所での共鳴作用の縁という特別な場合について40年昔に予言されていたのであるが、エフィモフ3量体が観測されたのはようやく最近超低温ボーズガスにおいてであった。それに続いて多くの研究が行われ、複数の3量体状態、更には4量体でさえも、存在することが分かった。今回ポラックらはリチウム共鳴の付近で11個もの多量体状態を発見したが、それらはそれぞれが異なる数体相互作用過程と直接関係していると考えられる。各多量体の粒子相互の位置は理論による予想と素晴らしい一致を見せた。ただ、短距離作用に起因するらしい理論との不一致がみられ、将来のより詳細な理論モデルの課題となっている。(NK,Ej,nk)
Universality in Three- and Four-Body Bound States of Ultracold Atoms
p. 1683-1685.

偽キナーゼについて解き明かす(Solving Pseudokinases)

タンパク質キナーゼLKB1の変異はヒトの癌に付随して生じる。多くのキナーゼはリン酸化によって活性化されるが、LKB1は偽キナーゼであるSTRADによって活性化される。STRADは、タンパク質キナーゼに似ていて、ATPに結合するが、基質をリン酸化することはない。LKBを含む活性化している複合体の結晶構造を解き明かすことによって、Zeqirajたちは、STRADがもう1つのタンパク質MO25と一緒になって、LKB1を活動的な高次構造に保っていることを明らかにした(p. 1707、11月5日号電子版)。この結果は、偽キナーゼの進化的起源や他の偽キナーゼの生物学的役割、さらにはLKB1における病気の原因となる変異を説明する助けになるだろう。(KF)
Structure of the LKB1-STRAD-MO25 Complex Reveals an Allosteric Mechanism of Kinase Activation
p. 1538-1541.

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