AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 11 2009, Vol.326


エフリン-受容体相互作用を解剖する(Dissecting Ephrin-Receptor Interaction)

エフリンとは、隣接する細胞上のエフリン受容体を結合する膜貫通タンパク質であり、こうすることで両方の細胞内部での生化学的情報伝達を可能にする。Jorgensen たち(p. 1502)は、受容体とリガンドのどちらかが発現するように遺伝子操作された細胞を混合したとき、それを区別するため、また、双方向性の情報伝達をモニターするため、異なる同位体でペプチドをラベル付けし、質量分析によって追跡する方法を開発した。その結果、情報伝達ネットワークが明らかになり、相互作用する2種の細胞タイプによる情報処理がモデル化された。このデータ起動型モデルで表せるネットワークは、混合された細胞間の情報伝達が非対称であること、そして、異なる細胞型は異なるチロシンキナーゼを利用し、細胞接触によって情報処理が起動される。(Ej,hE)
Cell-Specific Information Processing in Segregating Populations of Eph Receptor Ephrin-Expressing Cells
p. 1502-1509.

転写活性因子の反復順序(TAL Order)

ザントモナス(Xanthomonas)細菌は自身の転写活性因子様(TAL)タンパク質を宿主の細胞核に送り込み、植物の遺伝子制御を変えることによって攻撃する(Voytas と Joungによる展望記事参照)。Moscou とBogdanove (p. 1501,10月29日号発行の電子版参照)、および、Boch たち(p. 1509, 10月29日号電子版参照)は、TALタンパク質内の類似しているが同一ではない反復配列が、どのようにしてその標的を見つけるためにタンパク質にとって必要なその特異性をコードするのかを発見した。各々の反復は1つのDNA塩基対に特有であり、高可変性領域内の異なるアミノ酸によってコードされるいくつかの反復を組み合わせることで、新しいDNA部位を標的とする新たなエフェクターが生成できる。(Ej,hE)
A Simple Cipher Governs DNA Recognition by TAL Effectors
p. 1501.
Breaking the Code of DNA Binding Specificity of TAL-Type III Effectors
p. 1509-1512.

目星をつけられたマイクロクエーサー(Microquasar Spotted)

マイクロクエーサーは連星系である。そこでは、通常の恒星が中性子星かブラックホールに物質を注ぎ込んで、X線放射と相対論的な速度で移動するジェット状の物質を生成している。これまで、マイクロクエーサーは、高エネルギーガンマ線(>100MeV)の領域では検出することが困難であった。Fermi Large Area Telescope を用いて、Abdo たち (p.1512, 11月26日号電子版;Bignami による展望記事を参照のこと) は、マイクロクエーサー Cygnus X-3からの変化するガンマ線を検出したことを報告している。ガンマ線束は、Cygnus X-3 の軌道周期で変調されており、その変化は、マイクロクエーサーの相対論的なジェットに起源を有する電波放射と相関がある。(Wt)
Modulated High-Energy Gamma-Ray Emission from the Microquasar Cygnus X-3
p. 1512-1516.

変革のある変わった種類(An Odd Sort of Revolution)

Joseph Hookerは、Charles Darwin とAlfred Wallaceが自然淘汰による生物進化のアイデアを公表した時期に、キュー王立植物園の園長であった。Hooker は Darwin の良き友人であり、進化論的な考えの熱心な賛同者の一人であったが、彼は自然淘汰が分類学者の努力(taxonomist's endeavor)に対してほとんど影響を与えないだろうということに気付いていた。Endersby(p. 1496)は、19世紀に分類学で行われていたことについて再評価し、進化論の概念は、生物の様々な変種を単一の種にグループ分けするか、あるいは種を果てしない変種に分割するのかについての激しい論争の中においては、些細な論争に過ぎなかったと論じている。一方では、Hookerは、非細分主義者(Lumper)であり、種は絶えず現れてくるという考え方は、種の豊富さの全世界的なパターンに関する彼の分析を妨げるため、認めることが難しいと気付いた。しかし他方では、地球上の生物の系譜を明らかにすることでダーウィンの考え方は生物分類に関して対立していた二つの説を融和するものであった。(TO,KU,nk)
Lumpers and Splitters: Darwin, Hooker, and the Search for Order
p. 1496-1499.

高速のスピンフリップ(Quick Spin Flips)

量子コンピューティングは、従来のコンピューターの効率を大幅に改善できると期待されている。量子情報の格納および操作を実現するための固体材料のなかで、室温動作で数ミリ秒の持続が確認されているダイヤモンド中の窒素欠陥が特に注目されている。このコヒーレントな時間を有効に活用するためには、スピンの操作を迅速に行う技術が必要である。Fuchsらは(p.1520、11月19日号電子版;GerardotとOhbergの展望記事参照)マイクロ波の強磁場パルスを用いて、窒素欠陥中心における単一スピンのダイナミクスを調べた。強磁場領域では非線形応答をすることが観測され、ナノ秒以下の非常に高速のスピンフリップが生じることが明らかとなった。単一スピンにおいて、コヒーレント時間内に百万回程度の演算処理ができる可能性が示唆された。(NK)
Gigahertz Dynamics of a Strongly Driven Single Quantum Spin
p. 1520-1522.

初期恐竜発見!(Early Dinosaur Discovery)

特にジュラ紀や白亜紀の恐竜のデータの豊富さに比べると、初期恐竜の進化を理解するにはデータが乏しいという問題がある。Nesbittたちは(p.1530)、ニューメキシコで発掘されたほぼ完全な骨格を基にして、三畳紀後期のある獣脚類(theropod)について完璧な描写を行っている。この恐竜によって初期の獣脚類同士の関係が明らかにされ、また、獣脚類のいくつかの顕著な特徴はこの時期には既に発現していたことが示されている。三畳紀の恐竜の動物相(fauna)と他の初期種の比較によれば、三畳紀の北アメリカ大陸の動物相は多様であったが、しかし北アメリカ固有の種ではなく、恐らくこの時期より以前に南アメリカ大陸からの移動があったことを示唆している。(Uc,KU)
A Complete Skeleton of a Late Triassic Saurischian and the Early Evolution of Dinosaurs
p. 1530-1533.

ガス漏れ検知(Gas Leak Inspection)

地球の固体部分は原始太陽系で形成された物質や塵の降着物(重力を及ぼす天体の周りに形成される物質)から構成されていた。原初地球の進化は、地球の内部物質の分化と原始大気の発生を包括している。大気中の重い希ガスは、初期の降着過程の間に捕らえられた可能性がある。また、後に重力による揮発性物質の捕獲を通じて蓄積されたのかもしれない。Hollandたちは(p.1522)、上部マントルにトラップされているクリプトンとキセノンが、原始太陽系物質の同位体的特性(特定元素の放射性/安定同位体の特徴的な比)の特性を有していることを示している。これは現在の大気や海洋の同位体シグニチャよりも、隕石のそれに近似している。つまり、原初地球の内部に取り込まれた希ガスは、後の地球大気組成には関与しなかったのだ。(Uc,og)
Meteorite Kr in Earth’s Mantle Suggests a Late Accretionary Source for the Atmosphere
p. 1522-1525.

有機エアロゾルの変化に対する枠組み(Framework for Change)

有機エアロゾルは対流圏の粒子質量の20~90%を構成し、気候と人の健康の双方における重要な因子である。しかしながら、その発生源や移動経路は極めて不確かであり、かつその大気中での進化に関しても殆ど解明されていない。有機エアロゾルの動的な経時変化をシミュレートする計算モデルやフィールド及びラボでのデータに基づき、Jimenezたち(p. 1525;Andreaeによる展望記事参照)は、有機エアロゾルの大気中での成分進化に関する総合的なフレームワークに関して報告している。粒子は含酸素有機エアロゾルになるにつれて、時間経過と共により酸化され易く、より吸湿性となり、そしてより不揮発性となる。これらの結果は気候や空気の質に関するより優れた予測に導くであろう。(KU,nk)
Evolution of Organic Aerosols in the Atmosphere
p. 1525-1529.

アミロイド形成を解明する(Dissecting Amyloid Formation)

アミロイド繊維はアルツハイマー病からⅡ型糖尿病に至る臨床病と関係している。アミロイド繊維の自己組織化は、核形成依存的な重合と断片化を考慮した基本的反応方程式によって記述されている。Knowlesたち(p. 1533)は、この基本方程式への分析に基づく解を与えておるが、それによるとアミロイドの成長速度は、初期の核形成速度以上に断片化の速度によって制限されていることを示している。加えるに、この結果は系の特性間の関係を明らかにしており(スケーリング則)、アミロイドの成長のみならず、プリオン病等の関係する自己組織化のプロセスに関するメカニズム的な洞察を与えるものである。(KU)
An Analytical Solution to the Kinetics of Breakable Filament Assembly
p. 1533-1537.

ホモサピエンスの初期移動のパターン(Patterns of Early Migration)

地球で最も大きな大陸であるアジアへのホモサピエンスの移動と引き続く居住の過程で起こった様々な移住に関する洞察を得るために、HUGO Pan-Asian SNPConsortiumは、73のアジアの集団と非アジアの2集団を代表するほぼ2000人の遺伝子変異を分析した。その結果は、アジアには一回の主要な人の移動があったこと、そしてその後大陸を東南アジアから更に北上して中国の方への移動があったことを示唆している。同じ言語的なグループに由来する集団の多くは同族性の観点でより大きな群れを形成する傾向があり、一方幾つかの集団では言語ではなく、代わりに地理的な隣同士ゆえに群れを形成したりしており、このことは集団間での近年における実質的な婚姻関係、或いは言語上の取り替えがあったことを示唆している。更に、台湾の土着の集団に由来するデーターから、台湾の土着の集団がオーストロネシア(太平洋中南部諸島)の集団の祖であるという考えとは一致しない。(KU,bb,Ej)
Mapping Human Genetic Diversity in Asia
p. 1541-1545.

神経支配する小さなRNA(An Innervative Small RNA)

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、筋肉の動きを制御する運動ニューロンの進行性変性によって特徴づけられる容赦ない病気であり、筋萎縮や麻痺へと至らしめる。 Williamsたちは、骨格筋に選択的に発現する小さな非翻訳RNAであるmiR-206が運動ニューロンの傷害あるいは損失を感知し、神経筋のシナプスの再生を促進することによって、結果として生じた筋損傷の回復を助けていることを示している(p. 1549; またBrownによる展望記事参照)。miR-206の発現は、ALSのマウスモデルにおいては劇的に誘発されたが、遺伝的操作によってこのRNAがマウスから除去されると、その病気はより速く進行した。miR-206の有益な効果は、線維芽細胞増殖因子修飾因子とヒストンデアセチラーゼ4とを含む、筋細胞内のシグナル伝達経路を介して仲介され、この経路の活性化が神経-筋肉間の相互作用を促進する因子の遊離を導びいているらしい。(KF,KU)
MicroRNA-206 Delays ALS Progression and Promotes Regeneration of Neuromuscular Synapses in Mice
p. 1549-1554.

Norbinのノックアウト(Norbin Knockout)

代謝型グルタミン酸受容体(mGluRs)は、学習や記憶などの中心的神経機能や、神経系の病気に関係しているとされる非常に重要な神経伝達物質である。Wangたちは、mGluR5aと相互作用するタンパク質を探索し、その受容体シグナル伝達複合体の従来認識されていなかった成分を同定した(p. 1554)。そのタンパク質Norbin(神経突起伸長因子)はその受容体と直接的に相互作用していた。マウスあるいは培養細胞からのNobrinの欠損により、細胞膜中でのmGluR5aの蓄積、及びシナプス可塑性の正常な調節やいくつかの行動性応答のためにNorbinが必要であることが明らかになった。(KF,KU)
Norbin Is an Endogenous Regulator of Metabotropic Glutamate Receptor 5 Signaling
p. 1554-1557.

フレキシブルな有機フラッシュメモリ(Flexible Organic Flash Memory)

有機エレクトロニスクにおける進歩は、フレキシブルなプラスチック基板上にいつかのコアデバイスを製作することを可能にしていた。これらには、トランジスタと発光ダイオードとアクチュエータとセンサーがある。Sekitaniたち(p. 1516)は、薄い金属酸化物と自己組織化膜とからなる低温ハイブリッド誘電体を用いて、小さいプログラムとイレース電圧で動作可能なフレキシブルなフローティングゲートメモリトランジスタを開発した。このトランジスタをフレキシブルな圧力に敏感なゴムシートからなる大規模エリアセンサ内に集積化することで、外部圧力の値を蓄積することができる。(hk,KU)
Organic Nonvolatile Memory Transistors for Flexible Sensor Arrays
p. 1516-1519.

雑種不稔性の理解(Understanding Hybrid Sterility)

生殖に関する障壁の開始、すなわち雑種不稔性は、分離された集団間の遺伝的不適合性を増強し、種分化へと導く1つの手段である。雑種不稔性の基盤をなす一握りの遺伝子が発見されてきたが、その分子機構は一般にまだはっきりしていない。BayesとMalikは、サテライト-DNA結合タンパク質をコードする雑種不稔性遺伝子Odysseus部位ホメオボックス(OdsH)が、Drosophila mauritianaとDrosophila simulansという2つの種の間で、異なったDNA結合パターンを示すことを明らかにしている(p. 1538、10月22日号電子版)。D. mauritiana由来のOdsHはD. simulansのY染色体に局在化するが、一方D. simulans由来のOdsHではそういうことはない。OdsHタンパク質のこの不正確な発現、局在化、それと持続性が混血のオスの精子形成に影響を与えており、これによってこれら種間の雑種不稔性の根底にある仕組みが説明される。つまり、サテライト-DNAとその結合タンパク質の間の遺伝的不適合性が、動物における雑種不稔性の一般的基盤を代表している可能性がある。(KF)
Altered Heterochromatin Binding by a Hybrid Sterility Protein in Drosophila Sibling Species
p. 1538-1541.

選択の影響(Ghosts of Selection)

グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)の欠乏は、ヒトにおいてもっともありふれた酵素欠損症であり、アフリカの熱帯熱マラリアにおいてその影響を発揮しているものだと長く疑われてきた。同様に、過去のほんの数千年の間にマラリア地帯に移ってきたタイのカレン人の間での、G6PD-Mahidolの487A対立遺伝子の有病率の増加は、三日熱マラリア(P. vivax)による選択の結果である可能性がある。P. vivaxは最近、これまで考えられてきたよりも重い病気に関与しているとされ、死亡率による直接の選択効果と、罹病率および生殖の失敗を介した間接的な選択効果の両方をもたらしている。Louicharoenたちは、3000人のカレン人についての家族を基礎とした8年をかけた調査において、ポジティブ選択を支持する集団-遺伝的証拠を結び付け、G6PD-Mahidolの487A対立遺伝子の存在と感染者の血流中を循環しているP. vivax寄生虫の密度との間に、関連があることを明らかにしている(p. 1546)。この変異は、熱帯熱マラリアではなくP. vivaxによって好まれるニッチである、未成熟な赤血球の生理に対して効果を発揮しているらしい。(KF)
Positively Selected G6PD-Mahidol Mutation Reduces Plasmodium vivax Density in Southeast Asians
p. 1546-1549.

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