AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 13 2009, Vol.326


性的な斑点特徴(Sexual Blotch)

性の決定メカニズムは動物種によって異なるが、この違いがどのように進化したのかはよく判かってない。性の対立が生じやすい場合、進化の過程で新規の性決定因子の侵入を促進することがあり得る。Roberts たち (p. 998,10月1日号電子版参照)は、アフリカのMalawi湖にいる性差が2つの形態を取るcichlidという魚類のいくつかの種において、このモデルを支持するデータを得た。岩礁環境に住むこの種のメスにはオレンジ色の斑点(orange-blotch:OB)が進化しており、これが藻類に覆われた岩礁の色のカモフラージュになっている(自然淘汰)。しかし、斑点を持つオスが滅多にいないのは、この形質が普通つがい選択におけるオスの特徴であるブルーの縞模様と干渉するからであろう(雌雄淘汰)。このメスにおける自然淘汰とオスにおける雌雄淘汰の間のこのような対立する色素沈着パターンは、Pax7遺伝子のシス制御領域(cis-regulatory region)での変異に起因しており、これが優勢な性決定者であるメスと密接に関連している。実験室で育てると、斑点を持つオスは本来の母系のOBハプロタイプを遺伝しており、このOBを有する染色体が子孫のメスの性を決定する。つまり、オスは別のメカニズムによって性転換されて生じるように見える。(Ej,hE,KU)
Sexual Conflict Resolved by Invasion of a Novel Sex Determiner in Lake Malawi Cichlid Fishes
p. 998-1001.

量子の分割(Quantum Division)

量子力学の世界では、変数は整数値で記述される。たとえば量子流体においては、渦はスピン分極と位相が量子化されており、渦が一回転するとそれぞれの量子数が2の倍数で増えることになる。理論的解析では、いくつかのケースにおいて、渦中心を妨げるような励起をした場合、位相とスピン分極がπの倍数で記述される半量子渦が存在すると予言されている。Lagoudakらは(p.974)エキシトン−ポラリトン凝縮の観測から、長年理論予測されてきた半量子渦の存在を明らかにした。(NK)
Observation of Half-Quantum Vortices in an Exciton-Polariton Condensate
p. 974-976.

形を叩き変える(Biffed into Shape)

BiFeO3は、非常に大きな強誘電性を持っていることで知られている。現在、多くの圧電効果素子に利用されているチタン酸ジルコン酸鉛は、最近の環境意識の高まりから鉛を含まない代替材料が模索されており、この代替案としてBiFeO3が期待されている。このバルク材料の基底状態は菱面体構造をしており、電気的極性は[111]方向であるが、薄膜やエピタキシャル応力の下では正方晶系の[001]方向を示す。Zeches たち(p. 977) は、これら薄膜に圧縮応力を加えて極めて安定な単斜晶系に変え、この結晶が技術的に重要な強誘電性を示す、いわゆるモルフォトロピック相境界(morphotropic phase boundary)と同じ対称性を持つことを示した。この研究は、現在の大きな圧電効果の系を鉛の無い系に変革する可能性を持っている。(Ej)
A Strain-Driven Morphotropic Phase Boundary in BiFeO3
p. 977-980.

衛星GRACEと移動測定の両方を用いて(GRACE and Movement Together)

グリーンランドの氷床質量減少率に関する近年の計測結果は、約300%も値が異なることがある。このような矛盾を解消するためには、現在の氷床の質量バランスを求め、将来の海水面上昇を見積もることが不可欠である。Van den Broekeたちは(p.984)二つの独立した手法によって、矛盾のない結論を導き出した。その手法の一つは、モデル計算を結びつけて行った氷河の移動観察結果に基づくものであり、もう一つは双子の衛星GRACE(Gravity Recovery and Climate Experiment) を用いた重力測定によるものである。さらにまた、これらの研究結果を結びつけることによって、二つの主要な氷河質量減少の要因、氷河の動的挙動と表面プロセスによる各々の影響を解明している。(Uc,KU)
Partitioning Recent Greenland Mass Loss
p. 984-986.

免疫過剰を抑制する(Outfoxing Immune Excess)

免疫応答は、様々なメカニズムによりFoxp3を発現するCD4+-調節性T細胞(Tregs)によって防御されている。特異的な転写制御因子の発現により、Tregの応答を種々のTヘルパー細胞系列に指令する;しかしながら、特定のヘルパー系列を制御しているその転写制御因子は完全には解明されていない。Chaudhryたち(p.986,10月1日号電子版)は、転写制御因子Stat3(この因子はTH17-エフェクターT細胞の最初の分化に必要である)もまた、TH17‐介在の免疫応答に関するTreg細胞‐仲介の抑制に必要であることを示している。Stat3におけるTreg細胞‐特異的な欠損を持つマウスは、制御不能のTH17応答によってもたらされる腸の炎症性疾患に罹る。このように、様々なクラスの免疫応答はヘルパー系列‐特異的な転写制御因子に由来している。(KU)
CD4+ Regulatory T Cells Control TH17 Responses in a Stat3-Dependent Manner
p. 986-991.

睡眠とアルツハイマー病(Sleep and Alzheimer's Disease)

脳におけるアミロイドβ(Aβ)の蓄積が、アルツハイマー病(AD)の病変形成の初期事象と考えられている。Aβはニューロンによって主に可溶性の単量体の形で分泌されるペプチドであり、毒性型へと変るその凝集は濃度依存性である。シナプス活動がin vivoでのAβの遊離を制御している。しかしながら、生理的な、および環境的なプロセスが、どのようにしてAβのレベルの制御に関与しているかは分かっていない。Kangたち(p.1005,9月24日号電子版)は、in vivoでの微小透析を行いながら自由に動き回る動物の睡眠‐覚醒の研究をすることで、脳間質液中のAβのレベルが有意に覚醒状態と相関があり、睡眠とはネガティブに関係していることを見出した。更に、比較的短期間(3週間)の断眠により、アミロイド班の沈積がアミロイド前駆タンパク質トランスジェニックマウスにおいて著しく促進された。このように、睡眠‐覚醒の行動がAβのレベルに結びついており、そして異常な睡眠がアルツハイマー病の病変形成と関係しているらしい。(KU)
Amyloid-β Dynamics Are Regulated by Orexin and the Sleep-Wake Cycle
p. 1005-1007.

末端を隠蔽する(Shelterin' the Ends)

直線的な染色体には2つの固有な問題がある。1つは、DNAポリメラーゼが染色体のいちばん端では作用できないということで、そのせいで細胞分裂のたびに遺伝子材料が失われる可能性があるのだ。2つめは、そうした染色体の端が壊れたDNAと取り違えられて、損傷があるというシグナル伝達と修復経路を活性化してしまい、悲惨な結果をもたらしかねないということだ。De Langeは、こうした潜在的な問題を解決するために細胞が進化させてきた解決策をレビューしている(p. 948)。それらは染色体末端にキャップ形成するテロメアの進化によるもの、およびテロメアを不適切に認識することを避けることによるものである。「末端保護」は、shelterin複合体と染色体末端を隠蔽するいくつかの種における特殊なt-loop構造の形成との組み合わせによって達成されている。(KF)
How Telomeres Solve the End-Protection Problem
p. 948-952.

適応すべき生活史(Life Histories to Suit)

線形動物はそれ自身の生活史を、いくつかの方法で大いに操作することができる。たとえば、線虫、Caenorhabditis elegansには2つの性別があり、1つはオス、もう1つは雌雄同体である。この独特の交配系の進化についてのいくつかの手がかりが、Baldiたちによって明らかにされたが、彼らは近縁種であるCaenorhabditis remaneiのメスを、精子を作るのに関与する遺伝子と、精細胞を活性化するのに必要な別の遺伝子とを修飾することによって雌雄同体へと転換したのである(p. 1002)。さて、大部分の動物では、生殖系列は成人期の間にじゅうぶんに確立され、生殖系列の加齢と卵母細胞の生存率によって、少なくとも部分的に、特定の生殖期間が決まってしまう。雌雄同体のC. elegansの生殖期の長さは、飢餓によって少なくとも15倍も伸びることがある。AngeloとVan Gilstは、飢餓状態の線虫において、生殖系の生殖系列成分が、保存された幹細胞のごく小さな集合を除いて、積極的に殺されることを発見した(p. 954、8月27日号電子版; またOgawaとSommerによる展望記事参照のこと)。線虫が再び摂食可能状態になると、その保存された幹細胞が、まったく新しい機能する生殖系列へと再生するのである。しかし、これですべてではない。Kimたちは、耐性幼虫フェロモン中の構造的に関連した分子の複雑な混合物のサブセットが、ある別のGタンパク質-結合受容体を介して作用し、神経内分泌の軸を調節することによって発生と生理に長期的な影響を引き起こしたり、あるいは神経細胞の応答を変化させることによって行動への短期的、かつ急性の効果のいずれかを引き起こしている、ということを示している(p. 994、10月1日号電子版; また、OgawaとSommerによる展望記事参照のこと)。(KF)
Mutations in Two Independent Pathways Are Sufficient to Create Hermaphroditic Nematodes
p. 1002-1005.
Starvation Protects Germline Stem Cells and Extends Reproductive Longevity in C. elegans
p. 954-958.
Two Chemoreceptors Mediate Developmental Effects of Dauer Pheromone in C. elegans
p. 994-998.

太陽圏で起きていること(What's Happening in the Heliosphere)

太陽の影響は、その惑星軌道よりはるかに遠くまで及んでいる。太陽風は太陽から発せられた荷電粒子の流れである。この流れは、星間空間中に太陽圏として知られているバブルを作り、太陽系全体を包んでいる。太陽圏の先端部は、太陽風が星間空間と相互作用する領域であるが、ほとんど探索されていない。Voyager1号 と 2号とが、それぞれ、2004年と2007年とに横切り、 詳細ではあるがごく局所的な情報を与えている。この号のScienceで (表紙を参照のこと)、McComasたち (p.959, 10月15日号電子版) や、Fuselier たち(p.962,10月15日号電子版)、Funstenたち (p.964,10月15日号電子版)、Mobiusたち (p.969,10月15日号電子版) は、NASA の Interstellar Boundary Explorer(IBEX)によって得られたデータを与えている。2009年の初めから、IBEX は、太陽圏と星間物質の間の境界で生み出された高エネルギー中性原子の放射に関する全天地図を作成した。予想外にも、これらの地図は、0.2 〜0.6 KeV の範囲のエネルギーにおいて、二つのVoyager の位置を二分するような狭い放射帯を見出した。この放射帯からの放射は、その外部のものに比べて、2倍から3倍明るいものである。これは、今日のモデルが天空全体でも、その変動はずっと少ないと予測しているのとは大きく異なっている。IBEX の観測を太陽圏のモデルと対比させることにより、Schwadron たち (p.966, 10月15日号電子版) は、現在のところ観測を完全に説明するモデルがないことを示している。彼らが進めているモデルでは、星間磁場が以前考えられていた以上の強力な役割を果たしていることを示唆している。全天地図に加えて、IBEX は、星間物質から太陽圏への H、He、O の流れの跡を測定している。関連する報告の中で、Krimigis たち(p.971, 10月15日号電子版) は、土星の周回軌道にあるCassini 宇宙船に搭載された Ion and Neutral Camera で得られた 6KeV から13KeV 間の領域のエネルギーを有する高エネルギー中性原子の全天画像を与えており、それは、IBEX で得られた構造の一部が、高エネルギーまで伸びていることを示している。これらのデータは、太陽圏の形状が以前考えられていたような銀河の中を航行する太陽の方向に沿った彗星状のものとは一致していないことを示している。(Wt,KU,nk)
Global Observations of the Interstellar Interaction from the Interstellar Boundary Explorer (IBEX)
p. 959-962.
Width and Variation of the ENA Flux Ribbon Observed by the Interstellar Boundary Explorer
p. 962-964.
Structures and Spectral Variations of the Outer Heliosphere in IBEX Energetic Neutral Atom Maps
p. 964-966.
Direct Observations of Interstellar H, He, and O by the Interstellar Boundary Explorer
p. 969-971.
Comparison of Interstellar Boundary Explorer Observations with 3D Global Heliospheric Models
p. 966-968.
Imaging the Interaction of the Heliosphere with the Interstellar Medium from Saturn with Cassini
p. 971-973.

ガラス状態の結晶化を捉える(Catching Glassy Crystallization)

結晶化の初期段階は非常に小さな距離と時間スケールで生じるために、初期段階を原子スケールの小さな集合体で研究することが困難である。測定は表面や、或いは類似体としてのコロイド用いたりして行われるが、しかしながら理想的にはバルク中のナノスケールでの原子の固体状態においてその結晶化の現象を観測したいものである。Leeたち(p.980;Gibsonによる展望記事参照)は揺らぎ透過型電子顕微鏡を用いて、進行中の結晶化における核形成の役割を研究し、そして臨界半径以下の大きさの核の形成が結晶化プロセスに強く影響していることを観察した。(KU)
Observation of the Role of Subcritical Nuclei in Crystallization of a Glassy Solid
p. 980-984.

BubR1がその役割を広げる(BubR1 Broadens Its Remit)

哺乳類体細胞の有糸分裂の際、紡錘組立チェックポイントのシグナル伝達や、染色体と紡錘体微小管との間の接触の確立にとって、BubR1は不可欠である。Homerたちは、第一減数分裂の際のマウス卵母細胞において、BubR1が、前期I期抑止を持続するためだけでなく、第一減数分裂の完了を促進するのにも必要だということを発見した(p. 991)。どちらの効果も、後期促進複合体として知られる、多量体ユビキチンリガーゼのCdh1活性化補助因子に集中し、どちらの機能も受胎性のある卵の産生にとって必要とされるのである。(KF)
A Spindle Assembly Checkpoint Protein Functions in Prophase I Arrest and Prometaphase Progression
p. 991-994.

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