AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science October 30 2009, Vol.326


薄くスライスされた超伝導(Superconductivity Sliced Thin)

高温銅塩超伝導体に関する初期の特性解明以来、興味あるチャレンジは超伝導状態を保持するのに必要とされる最小数の酸化銅の平面を決定することであった。金属性酸化物と絶縁体との界面での超伝導性を観測することによって、この疑問に答えるための道筋が提供される。Logvenovたち(p. 699)は、ランタン(La)と銅(Cu)をベースとした金属と絶縁性の酸化物の層を交互に層状に合成する方法について述べている。厚み3ユニットセルをもつ層は、32ケルビンの転移温度をもつ超伝導性を維持していた。次いで、選択された層へ亜鉛原子(Zn)を注入すると、超伝導性が失われ、界面の超伝導性が単一の酸化銅面から生ずることが示された。(hk,KU)
High-Temperature Superconductivity in a Single Copper-Oxygen Plane
p. 699-702.

平等主義の起源(Origins of Egalitarianism)

現代の豊かな社会には多様な不平等が存在しているが、その中でも北欧諸国のように比較的平等な国もあれば、アメリカ合衆国のように最高収入の人と最低の人の差が大きな国もある。Borgerhoff Mulderたち(p. 682;および、Acemoglu and Robinsonによる展望記事参照) は、主なる生計手段が狩猟、牧畜、農業、または園芸である4種類の小さな社会形態において、社会的人間関係、土地と資産、肉体的知能的水準という3つの財産が世代間に伝達されていく様子を記述する基本的モデルを作った。大規模な歴史的、民族学的データの分析から推定したパラメータをモデルに当てはめ、4つの型の社会の存在が明らかになった。それによると、田舎の小規模な農業経済社会では富の世代間伝達の不平等はきわめて大きく、現代の最も不平等な工業社会さえも上回るほどの不平等であるが、園芸や狩猟の社会では不平等は限られており、現代のもっとも平等な工業社会と同等である。その社会における人々が拠って立つ技術や生活手段の違いやノルマが噛み合わさって、この不平等さに影響を及ぼしている。(Ej,hE,nk)
Intergenerational Wealth Transmission and the Dynamics of Inequality in Small-Scale Societies
p. 682-688.

翻訳中のリボソームが捉えられた(Ribosomes Caught in Translation)

タンパク質を合成するために、リボソームは、メッセンジャーRNA(mRNA)鋳型との塩基対形成に基づいて同族の転移RNA(tRNA)を選択し(解読として知られるプロセス)、ペプチド結合を形成し、さらにそのmRNAを動かさなければならない。これがそのリボソームに関するtRNA組立である(転位置として知られるプロセス)。解読と転位置には複数のタンパク質GTP分解酵素(GTPase)が必要であり、リボソームの高分解能構造はリボソームの機能についてのわれわれの理解を大きく進めてくれてはいるが、伸長サイクルにおけるそれらGTPaseの詳細な働きの仕組みはまだ明らかになっていない。2つの研究論文がこのたび、細菌タンパク質合成におけるこのステップに関する、より明快な見方を与えてくれている(Liljasによる展望記事参照のこと)。Schmeingたちは、伸長因子-Tu(EF-Tu)とアミノアシルtRNAに結合したリボソームの結晶構造を提示していて、これは、EF-Tuがいかにして正確な解読に貢献しているかについての洞察を与えるものである(p. 688、10月15日号電子版)。Gaoたちは、抗菌フシジン酸によって転位置後状態にトラップされた伸長因子-G(EF-G)に結合したリボソームの結晶構造を記述していて、これは転位置に際してEF-Gがいかに機能しているかについての洞察を与えるものである(p. 694、10月15日号電子版)。(KF)
The Crystal Structure of the Ribosome Bound to EF-Tu and Aminoacyl-tRNA
p. 688-694.
The Structure of the Ribosome with Elongation Factor G Trapped in the Posttranslocational State
p. 694-699.

行ったり来たりする電子(Electron Comings and Goings)

コンピューター化学の発展により、複雑な分子中の電子の空間配列の詳細を予測することが可能となった。しかしながら、これら電子軌道配列を実験的に確かめることは非常に困難であった。特に、近年注目を集めている有機半導体開発でよく用いられるような基板表面に結合した分子膜ではなおさらである。Puschnigらは(p702、9月10日号電子版)、銅基板上にデポした多環式芳香族分子(結晶性ペンタセン等)から放出される光電子の軌道をマッピングし、またこれらの電子が放出される電子軌道の空間プロファイルを得ることに成功した。この手法は位置と運動量との間の単純なフーリエ相関を利用したもので、走査トンネル顕微鏡に基づく軌道イメージング技術を補うものである。(NK,KU)
Reconstruction of Molecular Orbital Densities from Photoemission Data
p. 702-706.

亜鉛をベースとした塩基(Zinc-Based Base)

炭化水素化合物からプロトンを剥す通常の方法では、中間生成物としてアルカリ金属の配位したカルボアニオンが生じる。しかしながら、あるケースでは、この中間生成物が更に価値のある合成物を作る前に分解してしまう。Kennedyたち(p.706,Marekによる展望記事参照)は、このような場合に亜鉛イオンが有効な安定剤として作用することを示している。特に、ナトリウムと亜鉛のイオンの二つを含んだ二種の金属塩基が、ありふれた環状エーテルであるテトラヒドロフランやテトラヒドロピランの脱プロトン化反応に用いられた。カルボアニオンへの亜鉛の配位により、環状エーテル化合物の急速な開環分解反応が抑制された。同様にして、亜鉛‐カリウムの組み合わせにより、エチレンの脱プロトン化反応が促進され、安定な生成物として得られた。(KU)
Synergic Sedation of Sensitive Anions: Alkali-Mediated Zincation of Cyclic Ethers and Ethene
p. 706-708.

収束電子線ビームによる動的構造解析(Converging on Dynamics)

電子線回折は原子レベルの構造解析に有用な多用途の技術であるが、その回折データーは電子によって集められたミクロンレベルの領域の平均化したものであり、それ故に厳密には周期性の無い系においては局所的な識別が不明瞭となる。このような問題を最小限に抑える最近の方法は、試料に衝突する電子ビームを収束させることであった。Yurtsever and Zewail(p.708)は、超高速電子線回折装置に収束フォーカシング技術を適用し、これによって数十ナノメートルにわたる局所領域におけるピコセコンドの動的な構造を解明することが出来た。この技術は、レーザ加熱された結晶シリコンにおける不均一な熱的変化を調べるのに用いられた。(KU)
4D Nanoscale Diffraction Observed by Convergent-Beam Ultrafast Electron Microscopy
p. 708-712.

原始地球の鉄と酸素について(Of Ancient Iron and Oxygen)

原初の海洋・大気化学成分の進化とそれらの生命進化への関与について理解するためには、非常に多くの不明瞭な領域が残されている。原始地球上の環境はどのようなものであったのか?その議論の元となる証拠は、しばしば、わずかな岩石サンプルしかない。Reinhardたちは(p.713)、オーストラリアの25億年前の頁岩から得た鉄の化学状態のデータと、この頁岩と近辺の地層から得た硫黄の放射性同位体データの双方を検討し、酸素の化学反応は、従来推測されていたような鉄を豊富に含む海洋ではなく、主に酸素欠乏性硫化物に富んだ水柱状領域で起きたことを示した。このように、熱水噴出孔から期間をおいて集中的に放出される還元鉄がそのまわりに形成された縞状鉄鉱層の要因であり、そして、新しく進化してきた藍藻の繁茂による大気中酸素の生成を長期間維持するのに十分な緩衝効果をもたらしたのかもしれない。(Uc,KU,nk)
A Late Archean Sulfidic Sea Stimulated by Early Oxidative Weathering of the Continents
p. 713-716.

インフルエンザのたくみな計略(Flu's Tricky Tricks)

A型インフルエンザウイルスに対するワクチン接種のあと、赤血球凝集素(ホスト細胞表面でシアル酸分子に結合するウイルス分子)において1個のアミノ酸の置換した変異体が選択的に発生し、ポリクローナル抗体応答による中和作用を逃れる。Hensleyたちは(p.734) マウスを用いた実験で、これらの変異がシアル酸に対するウイルスの結合力を増加させることを発見した。繰り返しの免疫回避と結合力調節の間に発生するアミノ酸の置換により、このような抗原変異が促進される。このインフルエンザウイルスの止むことなく起こる進化によって毎年ワクチン成分を変えることが必要となる。馬インフルエンザについてParkたちは(p.726)、ウイルスとワクチン株の適合性が時間経過によって不十分になるに従い、感染率と感染期間の長さが増加し、その結果、感染爆発地域が拡大することを示している。だとしても、ワクチン接種率の増加によって、特に抗ウイルス薬を同時に用いている場合に、不十分な抗原適合性を補うだけの十分な集団免疫がもたらされる。Yangたちは(p.729、9月10日号電子版)、米国の家庭内伝播によって、2009年インフルエンザA型(H1N1)(現在の大感染状態の「豚インフル」)が、過去の季節性・大感染株に比べて、より高いウイルス感染能の状態になっている、と見積もっている。このように、今秋の感染状態収束を目指して、大人に先立って子供に優先的にワクチンを受けさせるべきである。そして、全体人口の70%の接種率を目指す必要がある。(Uc,KU)
Hemagglutinin Receptor Binding Avidity Drives Influenza A Virus Antigenic Drift
p. 734-736.
Quantifying the Impact of Immune Escape on Transmission Dynamics of Influenza
p. 726-728.
The Transmissibility and Control of Pandemic Influenza A (H1N1) Virus
p. 729-733.

みんな一緒に(All Together Now)

汚染ガスは、放射強制力に関する特性によって気候に影響を与える。このガスの排出をどのように変えていくかを決定するには、これらの排出の影響を定量的に判っている必要がある。これまでの多くのこのタイプの計算は、単に特定の物質の排出に関する放射強制力とそれの大気中での寿命のみを考慮したものである。Shindell たち (p.716; Arneth たち、および、Parrish と Zhu による展望記事を参照のこと) は、精緻な大気の化学的モデルと気候モデルを用いて、どの程度までガスとエアロゾルとの相互作用が大気の放射特性に影響するかを決定した。その結果は、メタンや一酸化炭素、窒素酸化物の排出に対する標準モデルとは顕著に乖離していることを見出した。これらの発見は、人類起源の排出量を減少させることによって地球温暖化を緩和するために、どのような戦略を取ることが最適かを定めていくことに役立つであろう。(Wt)
Improved Attribution of Climate Forcing to Emissions
p. 716-718.

鉄センサー(Iron Sensor)

細胞内の鉄は多くのタンパク質にとって必須な補助因子であるが、巨大分子にダメージを与えることもあるので、その濃度は注意深く制御されないといけない。細胞の鉄分の恒常性は、鉄の取り込みと貯蔵に関与する遺伝子の発現を制御する鉄分調節タンパク質によって仲介されている。しかし、細胞がいかにして鉄の生物学的利用能を感知しているのかは、はっきりしていない(Rouaultによる展望記事参照のこと)。別々のアプローチによって、Salahudeenたち(p. 722、9月17日号電子版)とVashishtたち(p. 718、9月17日号電子版)は、Fボックスタンパク質FBXL5をヒトの鉄センサーとして同定した。FBXL5は、鉄分調節タンパク質の分解を制御し、それによって細胞の鉄のレベルを制御するE3ユビキチンリガーゼ複合体の一部分である。それは鉄と結合するヘムエリトリン領域を含んでいて、鉄依存性の調節性スイッチとして作用し、鉄が少ない条件下ではFBXL5の分解を引き起こす。鉄恒常性の制御に関するこの代替性の経路は、正常な細胞生理と病気の際の双方についてそれぞれ意味をもっているのである。(KF)
An E3 Ligase Possessing an Iron-Responsive Hemerythrin Domain Is a Regulator of Iron Homeostasis
p. 722-726.
Control of Iron Homeostasis by an Iron-Regulated Ubiquitin Ligase
p. 718-721.

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