AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science December 12 2008, Vol.322


ルール違反は伝染しやすい(Contagious Rule-Breaking)

他人があからさまに社会規範(ルール)に反するのを見ると、“皆がやっているのになぜ自分だけ”と思い、その人もたやすくそのルールを破るであろう。では、他人があるルールを破った場合、人は他のルールあるいは法律さえも破る可能性が高くなるのであろうか?Keizerたち(p.1681, 11月20日のオンライン出版参照)は、6つのフィールド実験をオランダのGroningenで行った。その実験では、被験者はごみの投棄、落書き、禁止されている場所での花火など社会的違反行為を見たり聞いたりした後、他のルールを守るか違反するかを選ばなければならない。ルール違反の痕跡がある場所では、ルールを破りたい気持ちが高まることが実証され、落書きを見ることでごみの投げ捨て、窃盗が倍増した。(NK,Ej)
The Spreading of Disorder
p. 1681-1685.

輸送体の力学(Transporter Mechanics)

細胞膜を通過するような輸送タンパク質には2種類あることが最近の研究で分かってきており、一つはチャネル型で、もう一つは輸送体型である。その両方とも数個のαらせん輸送膜領域が細胞内と細胞外ループから成っている。チャネル型には数種類があるが、輸送体型には少なくとも2種類あり、細胞の内側から近づくことができる型と外側から近づくことができる型(細胞内の物質を外に掃き出す型、細胞外の物質を中に取り込む型)があるらしい。細胞膜を通過する2次的な輸送体は基質の動きを触媒するが、これはイオンの濃度勾配と基質の通過のカップリングに依っている。最近明らかにされた膜の構造から、外向きの孔と、内向きの孔が交互に開閉することで輸送体の動きを可能にしているらしい。Singh たち(p. 1655; およびDiallinasによる展望記事参照)は、薬理学的に重要な神経伝達物質とナトリウムの共輸送体のモデルとして、LeuTに関する構造と機能上の広範な研究を披露した。中に入って行くアミノ酸は、外に出る高次構造の場合にだけ近づけるゲートの開閉制御残基と一時的に結合した。アミノ酸は、次で一次結合部位に移動し、基質で閉鎖された状態の形成が可能となるが、トリプトファンのようなもっと大きな競合阻害薬の場合には立体的にその形成を阻害する。この閉鎖状態は入れる状態に異性化して、細胞質に基質を遊離することを可能にした。(Ej,hE,so)
A Competitive Inhibitor Traps LeuT in an Open-to-Out Conformation
p. 1655-1661.
BIOCHEMISTRY: An Almost-Complete Movie
p. 1644-1645.

組織化、注入、反応、再構成(Assemble, Inject, React, Reform)

表面分子の自己組織化は、しばしば弱い相互作用を通して生じており、そして構成分子の反応性は、通常変化をしないままである。Maksymovychたち(p. 1664)は、単結晶の金表面上で長鎖(5分子長まで)中で自己組織化するジメチルジスルフィド(CH3SSCH3)分子に関して反応性が変化するという異常な例を報告している。走査トンネル顕微鏡のチップにより電子をその鎖の一方の末端に注入すると、その鎖の末端にある分子中のS-S 結合のみを破壊するばかりでなく、その反応が鎖の下側に伝播する。その末端の断片は孤立したままであり、そして内部の断片はジメチルジスルフィド分子に戻って新しいパートナーと再組織化する。理論計算から、この連鎖反応に対する障壁が非常に低いことが示され、これはなぜエネルギー緩和過程に対抗して連鎖反応が伝播できるかを説明する助けとなる。(hk,KU,nk)
Collective Reactivity of Molecular Chains Self-Assembled on a Surface
p. 1664-1667.

癌エピジェネティクス101(Cancer Epigenetics 101)

ヒストンをメチル化するタンパク質は、いわゆる 「後成的(エピジェネティック)」なメカニズムによって遺伝子発現を制御するための重要な役割を演じるが、これにはDNAの配列を変えるというよりはクロマチン構造を変化させることも含まれる。ヒストンメチル基転移酵素 EZH2(enhancer of zeste homolog 2)はヒトのガンのサブセット中で過剰発現することがあるが、特に、転移した場合に良く見られる。Varambally たち(p. 1695,および、11月13日電子版参照)は、特定なmicroRNA, miR-101においてEZH2の発現が抑制されることを報告している。前立腺ガンの進行中にガンがゲノム欠失によってmiR-101を失うと、制御メカニズムは妨害されるように見える。miR-101がEZH2を制御するお陰で、ガン細胞の後成的制御を可能にしている。(Ej,hE)
Genomic Loss of microRNA-101 Leads to Overexpression of Histone Methyltransferase EZH2 in Cancer
p. 1695-1699.

ダイナミックなカルシウム(Dynamic Calcium)

海底堆積物中の炭酸カルシウムがほぼ永久に埋もれたままになることは、長い期間で見ると火山からの噴出CO2を吸収する主要過程であり、大気中のCO2量を変動はするが限定された範囲内に保つ働きをしている。Griffith たち(p.1671) は、海水中のCaの同位体の濃度データを紹介し、過去2800万年間に、これが大きく変化したことを示した。海水中のCa濃度はこの期間に大きく変化したが、最大の動きは酸素と炭素の同位体の成分の変化に示される気候変動の時期に起きた。これは、海洋の地球化学的変動周期が気候との関連を強く示すものである。(Ej,nk)
A Dynamic Marine Calcium Cycle During the Past 28 Million Years
p. 1671-1674.

スマトラの地震(Sumatran Earthquake)

2004年12月にスマトラを襲った巨大な瞬間マグニチュード(Mw)9.2の地震は、破壊的な津波を起こし、プレート境界部の西端を破断した。それに引き続いて起きた2つの地震、内一つは8.4等だったが、は 境界から東の方向のセクションへ順々と破砕領域を伸ばしていった。東の領域が過去最後に破砕されたのは1797年と1833年の2つの大地震である。震動は数メートルの局所的な隆起と関係しており、サンゴ礁の浅瀬をあらわにする。Siehたち(p.1674)は、これらのサンゴ礁にある帯模様(bands)の正確な年代測定を行い、震動の履歴を再現した。幾つかの大きな震動が1300年代に起こり、そして再び約200年後に発生した。判明している震動の事実により、この記録は、この地域における大きな震動は200年離れて連続する事象として現れることを示唆している。(TO,nk)
Earthquake Supercycles Inferred from Sea-Level Changes Recorded in the Corals of West Sumatra
p. 1674-1678.

細胞骨格と基質の剛さ(Cytoskeleton and Substrate Stiffness)

基質の剛さは細胞により感知され、運動や形態、及び細胞の運命に影響する。フィラメント状(F)のアクチンと細胞外の基質を結び付けている分子は「クラッチ」として作用し、牽引力を伝達したり、F-アクチンの逆行性の流れ(F-アクチンからG-アクチンへの脱重合)を緩慢にすると考えられている。Chan and Oddeたち(p.1687;Aratyn-Schaus and Gardelによる展望記事参照)は、クラッチ分子と基質の双方をフック的なスプリング(Hookean spring)としてモデル化することで基質の剛さの影響を考えている。このモデルは、クラッチの動力学における基質の剛さ-依存性の変化が、剛い基質においてはより低い牽引力と共に大きな逆行性の流れに、一方柔らかな基質においてはより緩慢な逆行性の流れになることを示唆している。予想通り、ニワトリの胚性前脳ニューロンにおいて、F-アクチン動作の切り替えが弾性係数、約1キロパスカルで観測された。(KU,so)
Traction Dynamics of Filopodia on Compliant Substrates
p. 1687-1691.
BIOPHYSICS: Clutch Dynamics
p. 1646-1647.

分子の針に糸を通す(Threading a Molecular Needle)

針の眼に糸を通すことは、両手を使っても厄介なことである。Deutmanたち(p.1668)は、このプロセスの分子類似体に関するメカニズムを研究しており、そこでは線形のポリマー(糸)と大環状分子(針の眼)が外部からの助けを借りずにお互いを見つけなければならない。驚いたことに、中程度の鎖の長さで相手を見つける割合が向上し--分子鎖7原子の鎖よりも22原子鎖の分子がより速く糸を通す--、長さが更に伸びるとポイント-ポイントのホッピング機構による予期される長さ依存性にによって再び低下する。この影響は、最初に大環状分子の外面に結びつき、その後に眼の周りや中に折れ曲がるという中程度の長さの鎖の能力に由来するようだ。このような機構に一致するように、大環状分子の外面への結合親和性が強くなると眼を通る割合も増加する。(KU)
Mechanism of Threading a Polymer Through a Macrocyclic Ring
p. 1668-1671.

遺伝子、トリグリセリド、及び心臓の健康(Genes,Triglycerides,and Heart Health)

トリグリセリド(食事性脂肪の主要なる分子)の高い血中濃度はヒトの心疾患と関連している。食事性トリグリセリドの体内処理における個人間の差異に寄与する遺伝子を同定するため、ランカスターのアーミッシュのボランティアの人々からのゲノムワイド・アソシエーション研究を行い、Pollinたち(p.1702)はボランティアのミルクセーキを食べる前後での血中トリグリセリド濃度を測定した。最も低い血中トリグリセリドの人は、トリグリセリドの加水分解阻害因子(アポリポタンパクC-Ⅲ(apoC-Ⅲ)と呼ばれる)をコードしている遺伝子において、無発現変異のヘテロ接合性のキャリアであることが見出された。このような人はapoCの量を正常値の半分しか作らず、好ましいコレステロール特性と冠動脈硬化の値を示しており、循環器病の発生も少なくなることを示唆している。(KU,so)
A Null Mutation in Human APOC3 Confers a Favorable Plasma Lipid Profile and Apparent Cardioprotection
p. 1702-1705.

インバリアント鎖の遊走コントロール(Invariant Chain Migration Control)

免疫応答に関する時空間的制御はまったく不明である。Faure-Andre'たち(p.1705;Lukacs-Kornek and Turleyによる展望記事参照)は、インバリアント鎖(MHCクラスⅡ分子による抗原プロセシングと提示の主要制御因子である)が、また樹状細胞の固有の遊走能力を制御していることを示している。微速度イメージング法を用いて、ミクロに形成された基板上でマウスモデルから得られた樹状細胞の挙動研究において、インバリアント鎖により樹状細胞が高・低の運動相を切り替える非連続的な遊走モードに入る。インバリアント鎖によるこのような樹状細胞の遊走制御はアクチンを基本としたモータータンパク質、ミオシンⅡとの結びつきに由来する。抗原プロセシングと細胞の運動性に関するこれら共通の制御因子の利用が、時間と空間においてこの二つの機能を協調できる道を樹状細胞に与えたものであろう。(KU)
Regulation of Dendritic Cell Migration by CD74, the MHC Class II-Associated Invariant Chain
p. 1705-1710.
IMMUNOLOGY: Chaperone Puts the Brakes On
p. 1640-1641.

カハール体を閉じ込める(Corralling the Cajal)

真核細胞の核は膜結合小器官を含んでいないが、その核細胞質は均質な媒体ではない。核細胞質はいろいろの高度に動的な構造へと区画化されていて、その中には、局在化した核内機能を果たすための多くの小さな場所も含まれている。そうした構造はいかにして生み出され維持されているのか? Kaiserたちは、核内低分子リボ核タンパク質の生物発生と再利用に関与しているカハール体の組立を分析した(p. 1713,10月23日オンライン出版)。個々のカハール体タンパク質とRNAは染色質に繋ぎとめられていて、カハール体の他の成分にとっての「餌」として利用されていた。すべてが、似たような動態によって、確実なるカハール体の新たな核形成を行うことができた。つまり、この核小体の組立は、直接的で階層的な様式では生じていなかったのである。(KF,so)
De Novo Formation of a Subnuclear Body
p. 1713-1717.

形を整える(Shaping Up)

植物のシュート頂端分裂組織は、その植物の上向きの成長の原因になっている。幹細胞のこの小さな集団はまた、外側への枝分れや開花構造を導くものでもある。Hamantたちは、この微小管ネットワークのパターン形成を行っている力を解析し、このネットワークが細胞壁の発生をガイドしているらしい(p.1650; また、Mulderによる展望記事と表紙を参照のこと)。この微小管ネットワークと植物ホルモンであるオーキシンによるシグナル伝達の双方が、シュート頂端分裂組織の機能に影響している。頂端分裂組織におけるストレス及び原基の成長期間におけるストレスに関する理論的計算は、微小管のパターン形成に類似していた。ストレスのパターンを変化させるために各細胞の切除などの介入を行なうことで、微小管ネットワークが一般に細胞に課された物理的ストレスのパターンに従っているということが確認されたのである。(KF,Ej)
Developmental Patterning by Mechanical Signals in Arabidopsis
p. 1650-1655.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: On Growth and Force
p. 1643-1644.

染料を作る金の経路(A Golden Route to Dyes)

鮮やかな色のアゾベンゼン誘導体は色素の重要な成分であるが、この効率的な光異性化の振る舞いは分子デバイス研究に利用されてきた。しかし、2個のアリル環がN=N基によって架橋された化合物を合成することは、おびただしい数の、時には有毒な副産物を伴うような化学量論的量の酸化剤に頼らざるを得ない。Grirrane たち(p. 1661) は、チタン酸化物に担持された金のナノ粒子が、アニリン誘導体と酸素から色鮮やかな分子を直接合成するための強い選択性を持った触媒物質として作用することを見出した。さらに、同じ触媒が芳香族ニトロ化合物のクリーンな還元からアニリンを生成することが知られており、これはこの芳香族ニトロ化合物前駆物質から2段階の還元-酸化を単一の反応容器内でアゾベンゼンを作る別ルートとなる。(Ej,hE,KU)
Gold-Catalyzed Synthesis of Aromatic Azo Compounds from Anilines and Nitroaromatics
p. 1661-1664.

衝突によるクレーター形成(Impact Cratering)

衝突によるクレーター形成は、太陽系全体にわたる主要な地質形成過程のひとつであり、表面の年代を定め、近傍の惑星内部を調べる主要な方法である。衝突を通じてどのように変形するかを理解することは、これらの相互作用を把握する上で決定的である。最近、東部アフリカの大きなクレーターである、Bosumtwi Crater内部に穴を掘ることで、大規模衝突構造の中心を貫く眺望を得ることができた。Ferriere たち (p.1678)は、これらのデータと衝突の数値モデルとを組み合わせて、衝突前の地質を再構成するとともに、その衝突からの衝撃波がどのように伝播するかを計算した。それらのデータを統合すると、それらのデータを統合すると、そのクレーターの中心の隆起は岩石の脆性破壊によることが示唆される。(Wt,nk)
Shock Metamorphism of Bosumtwi Impact Crater Rocks, Shock Attenuation, and Uplift Formation
p. 1678-1681.

作用中の減数分裂(Meiosis in the Making)

ヒトを含む二倍体の生物体には、どの体細胞にも染色体が2セットある。性のある生物体は必然的に一倍体の配偶子--染色体を1セットしかもたない精子と卵--を作り、つまり配偶子が胚を形成すべく融合する際に2倍体状態が維持される。この、配偶子を産生する特殊化した細胞分裂プロセスは、減数分裂として知られ、外因子レチノイン酸によって引き起こされている。Linたちは、マウスのRNA結合タンパク質であるDAZL(無精子症様では除去されている)が、減数分裂の開始の際に、新しく生じた生殖細胞-細胞状態である減数分裂-形質転換受容性始原生殖細胞において相補的内因子として作用していることを示している(p. 1685)。つまり、哺乳類における減数分裂の開始は、細胞内因性の応答能因子DAZLと、外因性の誘発シグナルであるレチノイン酸によって支配されているのである。(KF,so)
Germ Cell-Intrinsic and -Extrinsic Factors Govern Meiotic Initiation in Mouse Embryos
p. 1685-1687.

コイルドコイルとダイニンの動力学(Coiled-Coil and Dynein Dynamics)

ダイニンとは、多様な荷物を、ATP加水分解による動力によって微小管のマイナスの端に向けて移動させる分子モーターである。重合体結合部位と触媒部位が1つの領域内に収まっているキネシンやミオシンと違って、ダイニンでは、15-nmのコイルドコイルによって、AAA+ATP分解酵素領域の環が微小管結合領域(MTBD)から分離されている。このたびCarterたちは、そのMTBDとコイルドコイルの一部分の構造を決定し、コイルドコイルの延長や短縮が運動性にどう影響するかを研究した(p. 1691;またAmosによる展望記事参照のこと)。その結果は、ATP分解酵素領域とMTBDとがコイルドコイルのレジストリー(coiled-coil registry)におけるシフトを介して情報交換している仕組みの存在を支持するものであり、驚くべきことに、ATP分解酵素領域よりはむしろMTBDこそが移動の方向を決定しているということを示唆するものであった。(KF)
Structure and Functional Role of Dynein's Microtubule-Binding Domain
p. 1691-1695.
BIOCHEMISTRY: Pressing Levers or Pulling Strings?
p. 1647-1648.

認知増強の背後にある仕組み(The Mechanisms Behind Cognitive Enhancement)

認知の制御についての神経生理学的モデルは、生物における順応性機能を促進させるように、脳幹におけるその機能的状態によって行動状態を調節している青斑核に、重要な役割があると仮定してきた。霊長類における電気生理学的研究は、青斑核における低トーンかつ高位相の神経活動状態が高い課題志向の機能活用モードにとって最適なこと、またトーンがより高く、位相が弱い神経の活性は、課題志向性が低い探索的な行動状態に向いているということを明らかにした。青斑核の自己受容体活性化を増すために、Minzenbergたちは、脳中でのノルエピネフリンの再取り込みを抑制することで認知を増強する薬として知られるモダフィニルを、機能的磁気共鳴画像法で観察中の被験者に投与した(p. 1700)。この薬理的介入は、青斑核活性のトーン性から位相性へのモードの切り替えを促進するだけでなく、青斑核と前頭前野の間での協調活動をも促進したが、これは、皮質の機能と認知についての青斑核活性の制御的役割のモデルに基づく予言に合致するものであった。(KF)
Modafinil Shifts Human Locus Coeruleus to Low-Tonic, High-Phasic Activity During Functional MRI
p. 1700-1702.

古くからある分裂のためのESCRT(Ancient ESCRT to Division)

真核生物のESCRT(輸送に必要とされるエンドソーム性ソーティング複合体)タンパク質は、ウイルスの発芽などの細胞膜操作や、エンドソーム輸送、高度の真核生物における細胞質分裂の最終段階における膜器官脱離など、さまざまなプロセスを仲介している。Samsonたちは、ESCRTタンパク質が、真核生物に限定されることなく、古細菌領域のcrenarchaeal界においても見出されることを明らかにしている(p. 1710、11月13日オンライン出版)。古細菌のESCRTは細胞周期によって制御されており、分裂中の細胞のmid-cellに局在していて、その変異体成分が発現すると、それら原核生物の生物体における細胞分裂を妨害することになる。つまり、crenarchaealのESCRTは古細菌の細胞分裂機構の主要な要素である。(KF)
A Role for the ESCRT System in Cell Division in Archaea
p. 1710-1713.

Airによる沈黙(Airy Silence)

いくつかの巨大な非翻訳(nc)RNAは、2倍体ゲノム中で母系由来あるいは父系由来の遺伝子が停止されることとなる哺乳類において、刷り込まれた遺伝子発現を制御する役割を果たしていることが知られている。Air非翻訳RNAは、マウスの染色体17上のcisに刷り込まれた一連の遺伝子のサイレンシングに関与している。Naganoたちは、マウスの刷り込まれた遺伝子クラスターが、核中のAirRNA発現領域内に含まれ ていることを示している(p. 1717、11月6日オンライン出版)。さらに、このAirRNAは、刷り込まれた標的遺伝子の1つ、Slc22a3のプロモータに結合し、ヒストン・メチル基転移酵素G9aをそのプロモータに補充するよう作用している。G9aは、抑圧的染色質標識であるヒストンH3リジン9上のヌクレオソームをdi-およびtri-メチル化し、遺伝子発現を停止させるのである。(KF)
The Air Noncoding RNA Epigenetically Silences Transcription by Targeting G9a to Chromatin
p. 1717-1720.

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