AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science July 11, 2008, Vol.321


雪崩の原因(Making Avalanches)

平面雪崩は、突然の気象変動によって、底雪と深雪の間に低密度の雪や氷の層が形成されると生じる。このような層が、覆いかぶさっている雪の重みによって崩壊すると雪原に突然ぼこっと窪みが生じる。あるいは、覆った雪が板状にすべり、表層雪崩を起こす。この雪崩が生じる条件は傾斜角度だけが決定要因であると信じられていた。Heierli たち(p. 240) は、物質が反対方向の歪みを受けたとき、雪が亀裂を正常に伝達する方向と逆方向に変形し、その結果粘着性の喪失と局所的な密度の変化をもたらすという、抗亀裂概念を利用して、雪の崩壊過程を解析した。この解析の結果から、雪崩を起こす要因は傾斜量だけではないらしい。亀裂を人工的に生じさせると、雪崩が生じる亀裂の臨界長は、傾斜が小さくなってもほとんど変化しなかった。このように、長距離の亀裂が雪崩の引き金となっているらしい。(Ej,hE,nk)
Anticrack Nucleation as Triggering Mechanism for Snow Slab Avalanches
p. 240-243.

酵素の働き(Enzymes at Work)

最近の構造生物学の進歩によって、細胞膜を構成する脂質二重層でできた疎水性-親水性境界に存在して機能しているタンパク質を初めて覗き見ることが可能になってきた。Forneris and Mattevi (p. 213) は、膜の関連する酵素の結晶構造について、その機能別に分類し、この多様なタンパク質の共通の戦略を採用し、膜の内部での加水分解や、膜の疎水性基質を酵素の活性部位に輸送しているかをレビューした。(Ej,hE)
Enzymes Without Borders: Mobilizing Substrates, Delivering Products
p. 213-216.

自閉症の原因(The Makings of Autism)

自閉症は、子供の社会的技能や交流を妨げる共通の発達障害の1つである。しかし、この自閉症の根本的原因は不明なままであり、多様で複合的な遺伝的要因が関与していると思われる。Morrow たち(p. 218, 表紙、および、Sutcliffeによる展望記事参照) は、ホモ接合性マッピングを行い、自閉症への感受性と関連する遺伝的部位を同定した。この発見によって、活性制御される遺伝子の発現の欠陥が、多くの外見的に多様な自閉症の変異と関連していると思われる。(Ej,hE)
Identifying Autism Loci and Genes by Tracing Recent Shared Ancestry
p. 218-223.
GENETICS: Insights into the Pathogenesis of Autism
p. 208-209.

超新星に向かって(Going Supernova)

超新星は、恒星が核燃料を使い尽くし、崩壊するときに発生する大質量の恒星の爆発である。そのほとんどは、爆発が始まってから検出されるのだが、これでは、どのように爆発が始まるのか、そして恒星を形成する外側の物質を通る衝撃波の通過に関して、得られる情報量は限られたものとなる。Schawinski たち (p.223,7月12日にオンライン出版) は、超新星を見出すことを目的とした可視光領域での探査を利用して、可視光領域の光度曲線に先行する同じ星からの紫外光を探索した。最近の一つの超新星に対しては、光学領域での検知の2週間前に強い信号が観測された。このデータは、恒星の表面を衝撃波が通過するちょうどその時点での爆発の姿を明らかにするもので、また、超新星は前駆体となる大きな赤色巨星から形成されたことを示唆している。(Wt,nk)
Supernova Shock Breakout from a Red Supergiant
p. 223-226.

励起子論理演算(Excitonic Logic)

電子とは異なり、励起子(電子と正孔がクーロン引力により束縛された状態)は光学活性であり、直接光とエレクトロニクスをカップリングすることができる。バルクな半導体材料内で発生する直接励起子に比べて、量子井戸構造で発生する間接励起子は長寿命で空間的に制御可能である。Highたち(p.229、6月19日にオンライン出版)は、間接励起子を用いた“励起子回路”をパターン化した電気接点を用いて作り、これら回路が光学的入出力信号を用いて簡単な論理演算を処理することができることを示している(NK)
Control of Exciton Fluxes in an Excitonic Integrated Circuit
p. 229-231.

太陽電池の改善 (Improving Solar Cells)

太陽電池は太陽光をより広範囲に収集し、かつ電池に集積しさえすればより多くの電気を発生することができるはずである。ミラーの利用は一つの解ではあるが、トラッキング制御を必要とし、また赤外光を集積することになり不必要な熱を発生させることになる。もう一つのアプローチは、ルミネセンス型太陽集光器を使うことである。その集光器は光を吸収し、それに続いての再吸収を避ける波長で再発光する色素分子を含んでいる導波路である。実際には、自己吸収損失は高いと言う欠点がある。今回Currieたち(p. 226)は、より低い色素濃度とリン光放出状態において光をごく僅かしか吸収しないリン光色素によるFoersterエネルギー移動(フェルスター機構:励起分子とその光を吸収する分子間での無放射エネルギー移動)を利用することによって、これらの損失の多くを避ける有機ルミネセンス型集光器を創り上げた。(hk,KU)
High-Efficiency Organic Solar Concentrators for Photovoltaics
p. 226-228.

ロディニアの地理学について(The Geography of Rodinia)

2億5千年前、大陸の総てが巨大な超大陸、パンゲア(Pangea)として合体していた。その分裂は様々に分かれた大陸の地質学的進展に影響をもたらし、そして進化や地球気候にも影響した。10億年ほど前にも、やはり総ての大陸が超大陸、ロディニア(Rodinia)に合体していたものと考えられている。ロディニアの分裂は古生代の地質学的および進展の歴史を支配した。ロディニア地理学、特に北アメリカの西側縁に沿ってどこが合体していたかは不確かで、議論が多々なされている。Goodgeたち(p.235)は、Transantarctic Mountainsにおける有機堆積物に関する地球化学的データを報告しており、そしてそこでの砕屑岩を同定しているが、それらは北アメリカで露出している特有の一連の花崗岩との関係を与えるものである。これらのデータは、南極大陸(その南側で)とオーストラリアが北アメリカの西側に沿って相接していたというモデルを支持している。(KU,Ej,nk)
A Positive Test of East Antarctica–Laurentia Juxtaposition Within the Rodinia Supercontinent
p. 235-240.

これで十分(Enough’s Enough)

ほぼ総ての細胞が細胞外分子の効率的かつ特異的な取り込みを行なっている--これには過剰な蓄積を止める制御系が必要とされる。細菌の膜輸送体、ModBCはATPを加水分解して、オキシアニオンであるモリブデン酸塩とタングステン酸塩を細胞質に運ぶ。Gerberたち(p.246, 5月29日のオンライン出版)は、ModCサブユニットのC末端にある制御領域がモリブデン酸塩に結合しており、そうする事でModCサブユニットの残りの領域によるATPの加水分解を阻害する。モリブデン酸塩-抑制ModBC複合体の結晶構造の内部で、2個のモリブデン酸塩イオンが二つの制御領域間の界面に配置されている。ATP結合部位はこれらの領域の界面で形成されるので、モリブデン酸塩-結合ModBCはATPに結合できなくなる。(KU)
Structural Basis of Trans-Inhibition in a Molybdate/Tungstate ABC Transporter
p. 246-250.

共翻訳膜ターゲティングから翻訳後の膜ターゲティングへの調節(Adapting from Co- to Posttlanlational Membrane Targeting)

膜タンパク質のほとんどは、通常保存されたリボ核タンパク質のコアを持つシグナル認識粒子(SRP)によって膜内に共翻訳的に挿入される。しかしながら、最も豊富にある膜タンパク質のファミリー、光を取り込む葉緑素a/b-結合タンパク質(LHCP)は葉緑体(cp)中に移入され、その後でcpSRPによりチラコイド膜へとターゲットされる。cpSRPはRNAを含んであらず、しかしながらSRPコアタンパク質の葉緑体相同体であるcpSRP54とこのターゲティング複合体に関与するタンパク質であるcpSRP43との間のヘテロ二量体である。Stengelたち(p.253)は、cpSRP43のみの場合とLHCP由来の内部シグナルペプチドとの複合体における高分解能の構造に関して報告している。全体としての形状とcpSRP43の電荷分布はSRP RNAに似ている。更に加えて、SRP43はLHCPペプチドにおける特異的な形態を認識して、LHCPタンパク質の翻訳後のターゲティングを行うために保存されたSRP系を調節している。(KU)
Structural Basis for Specific Substrate Recognition by the Chloroplast Signal Recognition Particle Protein cpSRP43
p. 253-256.

汝自身を知れ(Know Thyself)

病原性細菌プロテウス・ミラビリスの細胞は、凝集して塊となり、コロニーを形成するが、このコロニーは他のコロニーと出遭うと、自己と他者とを区別できるのである。プロテウス属は、同じ種に属する侵入者を、proticinesと呼ばれるポリペプチドを武器にして、検出、阻止できるのだ。Gibbsたちは、プロテウスのこの自己-非自己認識システムの遺伝的基礎を調べて、一般的および特異的な認識の決定要因を構成するとおぼしき6つの遺伝子の座位だけでなく、アクセサリ遺伝子の座位も発見した(p. 256)。 感染した宿主において、プロテウス・ミラビリス感染は通常クローン的なものであるので、この認識システムは、確立されたクローンが他のクローンによって重感染されるのを防ぎ、競合を回避するための方法となっているのである。(KF)
Genetic Determinants of Self Identity and Social Recognition in Bacteria
p. 256-259.

抵抗するか持続するか(Resist or Persist)

感染への応答として惹き起こされるキーとなる免疫経路の多くは、転写制御因子NF-κbの活性化とともに始まる。従って、少なくともある種の病原体が、この経路を妨害する手段を進化させてきたものと予期される。Kravchenkoたちは、日和見性細菌の緑膿菌が、小さなシグナル伝達タンパク質C12を産生することを実証したが、これは、NF-κb活性の制御にとって決定的なタンパク質の代謝回転を弱めている(p. 259、6月19日オンライン出版)。これによってもたらされるキーとなる免疫応答遺伝子の転写の減少は、緑膿菌または別の細菌による持続感染に有意な影響をもたらしうるのである。(KF,KU)
B Signaling by a Bacterial Small Molecule
p. 259-263.

幸運な偶然を利用する(Exploiting Happy Coincidences)

治療薬による患者の処置結果とその副作用についての注釈は、それら化学薬品がヒトの生理にいかなる影響を与えるかについて、大量の情報を与えてくれる。Campillosたちは、現在市場にある700以上の薬品についてのデータを分析し、副作用が共通であることは、化学的に異なってはいても標的タンパク質に対する作用機序を共有している可能性があるということから、それを薬の有用性についての予想に使えるかどうか、判断しようとした(p. 263)。実際、標的が共通である20のペアのうち13ペアが、同じ標的タンパク質に対して試験管内で結合をしていることが確認された。さらなる分析は必要だが、ヒトに対して安全であることが確 立された現存の薬剤は、別の治療目的に対しても、おそらくは用いることができるはずである。(KF)
Drug Target Identification Using Side-Effect Similarity
p. 263-266.

振動を消す(Voiding Vibrations)

レーザ冷却技術は、原子をほぼ静止状態の近くまで緩慢な動きにさせ、これによりコヒーレントな課題に関する広範囲な操作の道が開かれる。同じ技術を分子に適用するのはかなり問題があり、それは分子の併進運動は抑えられてもかなりの量の回転と振動のエネルギーを保持しているためである。Viteauたち(p.232)は、電子励起を含むある方法に関して記述しており、この方法は最低振動レベルにおけるCs分子の高速、かつ効率的な蓄積が可能である。(KU)
Optical Pumping and Vibrational Cooling of Molecules
p. 232-234.

穏やかな分析(Gentle Dissection)

質量分析のもっとも普通の利用は、試料に含まれるもともとの成分をその成分の断片をユニークに同定することによって分析すること、次に、しっかりと確立された断片化(フラグメンテーション)の振る舞いを基礎にしてもとの分子を再構成すること、に頼っている。Barreraたちは、別の方向での著しいステップ、すなわちリボソームとウイルスのこれまでの質量分析に勝るやり方を、洗浄性ミセル(detergent micelle)内に埋め込まれた膜タンパク質複合体の分析を文書化することによって記述している(p. 243、6月12日オンライン出版)。このやり方における条件は、その複合体(ビタミンB膜輸送体)がATPに特異的に結合できる能力を残したままでいられるくらい、穏やかなものなのである。(KF)
Micelles Protect Membrane Complexes from Solution to Vacuum
p. 243-246.

位置こそ重要(Position Matters)

生産物阻止( product inhibition)においては、酵素によって触媒された反応の産物の集積が、活性部位において結合を求める基質と競合することによって、その経路を介しての前向きの流動を減少させることになる。では、栄養が細胞に取り込まれる際のように、産物と基質が同じ種であって、その位置が違うだけの場合、これはいかにして作用しうるのだろうか? Kadabaたちは、ATP結合カセット輸送体タンパク質という巨大ファミリーのメンバーであるそんな系の1つ、細菌性メチオニン・インポーターMetNIの結晶構造を決定した(p. 250)。MetNの細胞質領域内に位置するメチオニン-結合部位は、ATP加水分解をブロックする高次構造を採用していて、それが次には、膜貫通成分であるMetIを介してのメチオニンの移動をブロックしているのである。(KF)
The High-Affinity E. coli Methionine ABC Transporter: Structure and Allosteric Regulation
p. 250-253.

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