AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 9, 2008, Vol.320


水と氷(Water and Ice)

氷河の氷床の底部から融解する水は氷と地表の間の摩擦を滑らかにし、氷床が氷河下流に向かってより速く容易に地上を滑るようになるが、氷河の質量流失へのその役割は不明である。氷床の質量損失は気候変動の影響をどのように受けているのだろうか?Dasたち(p.778, 4月17日オンライン出版参照)は、2006年夏にグリーンランドでの氷河の上にできた大きな湖(supraglacial lake)が驚くべき速度で消滅したこともついて記述している。平均するとナイアガラ瀑布を上回るほどの奔流となって、湖の下にあるキロメートルという厚みの氷床の隙間に飲み込まれてしまったのである。さらに広い見通しを論じているJoughinたち(p.781,4月17日オンライン出版参照)は、グリーンランドの氷の動きに関する広範囲な整理されたデータを統合することで、氷床が表面の融解にどのように反応しているかを示し、そしておそらく当面の間、表面融解は破滅的ではないが、明らかにグリーンランド氷床の質量損失の増大を引き起こすことを示している。(TO,KU,nk)
Fracture Propagation to the Base of the Greenland Ice Sheet During Supraglacial Lake Drainage
p. 778-781.
Seasonal Speedup Along the Western Flank of the Greenland Ice Sheet
p. 781-783.

さほど嬉しくも無い記念日(A Not-So-Happy Anniversary)

AIDSの原因としてヒト免疫不全ウイルス(HIV)の発見以来、今年でちょうど1/4世紀である。この25年間の間、世界的な流行を抑えるためのワクチン開発に多大な努力がなされてきたが、未だ先が見えない。昨年もアメリカ国立保険研究所とメルクによって共同開発され、多くの関係者が今までで最も有望とみなしていたワクチン試行が失敗した。WalkerとBurton(p.760)は、今日までHIVワクチンの研究を導いてきたその原理をレビューし、そしてウイルスへの有効な防御免疫を作るうえで科学者集団が今当面している主要な障壁を考察している。(KU,nk)
Toward an AIDS Vaccine
p. 760-764.

サハラ砂漠の形成(The Making of the Sahara)

北アフリカにおける中期および後期完新世の環境と気候の変化の解析は、ここ数千年の間のサハラの極端な乾燥状態によって阻まれてきた。堆積の記録を残したかもしれない個所の殆どが、この乾燥により消え去ってしまったからである。この空白を埋める試みとして、北東チャド(Northeast Chad )の Ounianga にあるサハラ最大の湖を調査すれば古気候が明らかとなる可能性に賭けて、いくつかの探検が企てられた。Kroepelin たち (p.765; Holmes による展望記事を参照のこと; 表紙)は、これらの湖の一つである Yoa 湖からの、過去6000年にわたる気候と生態系の変化に関する連続した、かつ、年代の明確な記録を与えている。解析によると、現在の砂漠はおよそ2700年前に確立されたものであり、予想に反して、湿潤から乾燥への地球の生態系の変化パターンは突然のものではなく、漸進的な変化であったことを示唆している。(Wt,nk)
Climate-Driven Ecosystem Succession in the Sahara: The Past 6000 Years
p. 765-768.
ECOLOGY: How the Sahara Became Dry
p. 752-753.

ナノスケール・サーマルモータ(Nanoscale Thermal Motors)

超小型デバイスであるナノ・エレクトロメカニカル系を動かすには、電気エネルギーを意図した方向への動きに変換するコンパクトな方法が必要である。Barreiroたち(p. 775,4月10日のオンライン出版)は、両端に電極を付けた多層カーボンナノチューブ(MWNT)を運動のガイド軸として使うリニアモータについて述べている。MWNTの一部は金属プレートで覆われ、そして大きな電流を流すことで金属プレート部以外の残りの外壁は蒸発し可動性のスリーブが内側のチューブにはめ込まれた形で残る。このアセンブリに低電流を流すことで、熱勾配による駆動力が発生し、このスリーブが一方の電極に向かって移動する。その動きは移動と回転ステップからなり、そしてその全体の動きの方向は供給電流のバイアスとは無関係であった。(hk,KU,nk)
Subnanometer Motion of Cargoes Driven by Thermal Gradients Along Carbon Nanotubes
p. 775-778.

量子ドットオプトエレクトロニクス(Quantum Dot Optoelectronics)

一方の系の量子状態をもう一方の系の量子状態で制御できるアーキテクチャーを開発することが大きな関心を集めている。中でも、単一量子ドットの光学特性、電荷、スピン状態を制御できる技術が、そのアーキテクチャー開発における理想的な候補であるとされてきた。Robledlら(p.772)は、一方の量子ドットの光学応答が隣接する他方の量子ドットによって制御される自己組織化量子ドット対の相互作用制御に成功した。Fushmanらによる研究では(p.769)、フォトニッククリスタル共振器に組み込まれた単一量子ドットにより、単一フォトンの光学位相をπ/4ラジアンまでシフトできることが示されている。量子ドットのオプトエテクトロニクス特性の制御は量子ロジック構築の必須要素である。(NK)
Conditional Dynamics of Interacting Quantum Dots
p. 772-775.
Controlled Phase Shifts with a Single Quantum Dot
p. 769-772.

前クロビス期における南部(Pre-Clovis South...)

チリのモンテベルデ(Monte Verde)には、広範囲に広まった古インディアンのClovis文化以前の、アメリカ原住民の初期の居住の証拠が存在する。Dillehay たち(p. 784)は、この場所の時代を直接示す放射性炭素の証拠を示し、初期アメリカ人たちは多様な海産資源を利用していたことが解った。この場所から多様な海藻が回収され、14000年前の当時の最も近い海岸から15kmの距離にあった。海藻を入れた道具も見つかっている。このことから、モンテベルデの重要性が認識されると同時に、初期の住民が海岸に沿って急速に南方に移動する助けとして海産資源に頼っていたことがわかる。(Ej,hE)
Monte Verde: Seaweed, Food, Medicine, and the Peopling of South America
p. 784-786.

前クロビス期の北部(...and Pre-Clovis North)

北アメリカに人類が急速に広まる約13000年前のクロビス期以前については謎であった。Gilbert たち(p. 786, および、4月3日オンライン出版参照) は、オレゴンの洞窟から採集されたクロビス期を1000年ほど遡る人類の糞石(coprolite)から、内容物の復元から遺伝型まで報告している。この糞石が人間のものであることはいくつかの方法で確認され、14Cにより直接に年代が決定され、さらにミトコンドリアDNA断片も採取されたが、それは18000年前に現れたと考えられている原アメリカ人たちのハプログループ(塩基配列の変異を共有する型)に整合していた。(Ej,hE,nk)
DNA from Pre-Clovis Human Coprolites in Oregon, North America
p. 786-789.

分割して統治せよ(Divide and Conquer)

分裂の間、細菌の細胞分裂は機械的に分裂部位として桿状の細胞の中心を選択し、そして物理的に娘細胞を分離するためにタンパク質のアレイを用いている(Lutkenhausによる展望記事参照)。MinEとMinDを含む幾つかのタンパク質成分が、分裂部位の選択に役割を果たしていることが知られている。Looseたち(p.789)は、再構築された系において自己組織化の挙動と動的なパターン形成の出現について記述しており、その系では細菌のMinタンパク質であるMinEとMinD、支持された脂質二重層、及びATPの形でのエネルギーのみが含まれている。in vitroにおいて、このタンパク質は反応-拡散メカニズムにより動的なパターンを形成し、このことは細菌の細胞分裂部位の選択におけるこれら同じタンパク質挙動を説明するものであろう。チューブリン相同体のFtsZはほとんどの細菌や古細菌種における一次細胞分裂タンパク質である。このタンパク質はFtsAにより膜に繋ぎ止められており、12個の他のタンパク質と共にZ環を組み立て、収縮して細胞分裂を引き起こす。収縮にはFtsZ以外のタンパク質が必要かどうかは不明であった。始原的な分裂機構を反復するある一つの系において、Oosawaたち(p.792、2008年4月17日のオンライン出版)は、リポソームにおいて膜-ターゲットFtsZのみからなるZ環を再構築し、この環が収縮力を発生させることを示した。(KU,nk)
BIOCHEMISTRY: Tinkering with Acellular Division
p. 755-756.
Spatial Regulators for Bacterial Cell Division Self-Organize into Surface Waves in Vitro
p. 789-792.
Reconstitution of Contractile FtsZ Rings in Liposomes
p. 792-794.

みんなで変われば怖くない(Birds of a Feather Adapt Together)

気候変動に関する生物学的な応答についての最近の研究は、種の数や分布の変化、及び適応性についての進化的変化に大きく焦点が当てられている。Charmantierたち(p.800)は、ほぼ50年にわたる野生鳥--英国の森林に住むシジュウカラ--の継続した研究からのデータを用いて、表現型の可塑性が激変する気候に集団が応答する別の有効なる手段であることを示している。個体変異、集団レベルでの応答、自然選択、そして食料供給の時期に関する情報を関連付けることで、彼らは、集団の適応は環境変化にぴったりと追随していること、更に英国のシジュウカラ集団は広範囲な条件にわたって変化する環境のあとをほぼ完璧に追随していることを示している。(KU,nk)
Adaptive Phenotypic Plasticity in Response to Climate Change in a Wild Bird Population
p. 800-803.

家とは温もりのあるところ(Home Is Where the Hearth Is)

線虫(Caenorhabditis elegans)は、自分が成長した際の温度を「記憶する」ことができ、後に温度勾配に曝された際には、その温度のところを探し出すようになる。こうした行動を可能にする神経細胞の回路を定めようと努める中で、Kuharaたちは、AWCという呼び名で知られているニューロンが温度を感知する重要な役割を担っていることを発見した(p. 803、4月10日オンライン出版)。このことは驚きだったが、それと言うのも、AWC細胞はまた嗅神経細胞として機能していると知られてもいたからである。この細胞は匂い物質と温度に独立に応答することができた。温度を感知する際には、このニューロンは嗅覚応答に用いられるのと同様の、Gタンパク質によって仲介される細胞内シグナル伝達系を用いてはいたけれども。(KF)
Temperature Sensing by an Olfactory Neuron in a Circuit Controlling Behavior of C. elegans
p. 803-807.

受容体-リガンドの対を同定する(Identifying Receptor-Ligand Pairs)

細胞表面上で受容体と相互作用する分泌タンパク質は、あらゆる生物学的過程を制御していて、治療介入の標的を提供してくれるものである。Linたちは系統的なアプローチで、これまで知られていなかったリガンド-受容体の対を探した(p.807)。彼らは分泌されるタンパク質をコードしているらしい遺伝子から組換えタンパク質を作り出し、次にそれらタンパク質を試験管内アッセイの範囲で個別に、効果を示すかどうか検証した。 新しいサイトカインであるインターロイキン34(IL-34)を同定してから、著者たちは次に、およそ1600もの膜貫通タンパク質の組換え型細胞外領域への結合を探し求め、これによって、コロニー刺激因子1(CSF-1)受容体へのIL-34の結合を検出した。CSF-1受容体を介してのIL-34の生物学的効果は、さらなる研究によって確認された。つまり、著者たちのアプローチは、重要な調節タンパク質とその受容体とを同定できるものなのである。(KF)
Discovery of a Cytokine and Its Receptor by Functional Screening of the Extracellular Proteome
p. 807-811.

光を消す(Lights Out)

植物は、光合成の効率を無駄に犠牲にせずに、明るい条件の下でも過剰な光エネルギーを無害に散逸させることのできる、精巧に調節可能な仕組みを進化させてきた。Ahnたちは、光化学系II内の選択的に変異させられた集光アンテナの一過性吸収を超高速に測定することで、この消光プロセスの分子基盤を明らかにするという前進を示している(p. 794)。消光は、3つの個別の小アンテナ複合体(CP24, CP26,CP29)すべてで、電子的に共役な葉緑素発色団のペアからゼアキサンチン分子への電荷移動を介して生じている。つまり、2つの葉緑素の相対的高次構造におけるそのようなシフトが、調節可能な集光機構の基礎となっているのである。(KF)
Architecture of a Charge-Transfer State Regulating Light Harvesting in a Plant Antenna Protein
p. 794-797.

破壊のためのウイルスの戦略(Viral Subversion Strategy)

ウイルスは、細胞機能を支配し制御するための賢い戦略を多数用意している。Humeたちは、ヒトサイトメガロウイルスUL97が、サイクリン-サイクリン依存性キナーゼ(リン酸化酵素)複合体のものと同様の細胞分裂周期を介して、進行に影響を与えていることを発見した(p. 797)。UL97は、それ自体、網膜芽細胞腫抑制因子タンパク質をリン酸化し失活させるタンパク質キナーゼである。つまりUL97は、サイクリン依存性キナーゼのように増殖を促進するよう作用するが、細胞が内在性サイクリン依存性キナーゼを制御するのに通常用いているフィードバック制御を欠いているのである。(KF)
Phosphorylation of Retinoblastoma Protein by Viral Protein with Cyclin-Dependent Kinase Function
p. 797-799.

大掛かりな熱ショック(Wholesale Heat Shock)

高くなっていく温度にさらされることは、細胞にダメージを与える可能性があるので、個々の細胞は、適切なタンパク質フォールディング維持を助ける保護的シャペロンタンパク質を合成することで熱ショックに応答している。Prahladたちは熱ショックに対する細胞個々の自主的応答ではなく、生物体全体としての応答を示した線虫(Caenorhabditis elegans)における実験結果を報告している(p. 811)。熱ショックタンパク質の合成は、高まる温度に応答して行動に影響を与えると従来知られていた感覚ニューロンの機能を破壊する変異を担う動物においては、抑制された。熱ショック応答は、成長と代謝を制御する耐性幼虫フェロモンへの応答においても変化した。つまり、線虫は、生物体の熱ショック応答を複数の環境要因と協調させる制御系をもっているらしい。(KF)
Regulation of the Cellular Heat Shock Response in Caenorhabditis elegans by Thermosensory Neurons
p. 811-814.

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