AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science November 30, 2007, Vol.318


畳むべきか、畳まざるべきか。。。(To Fold or Not to Fold...)

分子シャペロンはタンパク質の折りたたみの間違いを防ぐだけでなく、タンパク質の折りたたみの経路において積極的な役割を演ずる。しかし、シャペロンがこの経路にどのような影響を与えているかはあまり解明されてない。Bechtluftたち(p. 1458)は、実験と計算の両方を組み合わせ、シャペロンSecBがマルトース結合タンパク質(MBP)の折りたたみや、折りたたみの解除経路に及ぼす影響を単分子レベルで研究した。SecBはMBPをモルテングロビュール様の構造中に保持しており、このため細胞膜を通過して転位する際に安定な3次元構造を分裂させるためのエネルギーは不要である。(Ej,hE,so)
Direct Observation of Chaperone-Induced Changes in a Protein Folding Pathway
p. 1458-1461.

ダイアモンドが導電特性で息を吹きかえす。(Breathing Conductivity into Diamonds)

ダイアモンドは優れた電気的な絶縁体である。しかしながら、この20年ほどの間、研究者たちは、水素-終端ダイアモンドの表面が空気に被爆された、または、空気に晒された後に導電性をもつという観測結果に困惑していた。最近、この現像はデバイス設計に適用されていたが、その根底となる化学的な納得できる説明はないままであった。Chakrapaniたち(p. 1424; Nebelによる展望記事参照)は慎重なる電気化学的な測定により、表面にある水性の膜に溶解している酸素への電子移動によって、導電性に寄与する正孔キャリアが発生することを明らかにしている。同様な界面電荷移動の平衡現象が、他の固体半導体においても作用している可能性がある。(hk,Ej)
Charge Transfer Equilibria Between Diamond and an Aqueous Oxygen Electrochemical Redox Couple
p. 1424-1430.

電気的にスピンを制御する(Controlling Spin Electrically)

量子ドットに格納された単一電子のスピン操作は、量子情報プロセッシングにおいて根本的な課題であった。コヒーレントなスピン操作を磁気的に行うことは既に報告されていたが、集積システムにした場合の個々の電子のスピンを磁気的に操作することは困難であった。Nowackたち(p.1430、11月1日オンライン出版)は、局所電界を量子ドットに印加し、コヒーレントなスピン操作を行うことに成功した。彼等は、観測されたラビ振動がスピン-軌道相互作用の電気変調に起因すると述べている。(NK)
Coherent Control of a Single Electron Spin with Electric Fields
p. 1430-1433.

上昇中のマントル流中のヘリウムを追跡する(Helium Tracing of Rising Mantle Fluids)

マントル中のヘリウムは3He/4He比が高いが、地殻の同位体の影響を受けると、この比が小さくなる。Kennedy と van Soest (p. 1433; およびHiltonによる展望記事参照) は、北アメリカのBasin and Range Province全般にわたってヘリウム同位体の地理的分布を調べた。その結果、3He/4比の濃度勾配は地殻の活動中の変形量と相関が高く、拡張応力・せん断応力が最大のところが、この比も最大であることがわかった。この発見から、変形によって岩石圏の透過性が高まり、ヘリウムのような流体がマントルからしみだし、火山活動がなくても浸透することが推測される。この同位体比の高いところは地殻の透過性が高いところであり、地熱エネルギー開発候補地として価値があるかもしれない。(Ej,hE)
Flow of Mantle Fluids Through the Ductile Lower Crust: Helium Isotope Trends
p. 1433-1436.

結晶成長のスナップ写真(Snapshots of Crystal Growth)

複雑な合金が結晶化するとき元素の分配が液相と固相間で起きるはずであるが、これらの変化を計測することは困難な実験課題であった。Eswaramoorthyたち(p.1437)は、 透過型電子顕微鏡によるその場観測を行いながら、自動車や航空機に利用されるAl-Si-Cu-Mg合金の結晶化過程を追跡しつつ、エネルギー分散型X線分光法を利用して測定した。彼らはナノスケールの試料を様々な温度に加熱し、安定な、あるいは準安定な相の境界を観測し、各相における化学組成を測定した。この手法は、ナノワイヤや関連構造の成長メカニズムを解明するのに利用されるであろう。(Ej,hE,nk)
In Situ Determination of the Nanoscale Chemistry and Behavior of Solid-Liquid Systems
p. 1437-1440.

絶滅した霊長動物の行動の解析(Parsing Extinct Primate Dynamics)

初期原人の社会的特質を推定することは困難であるが、これは化石が極めて少なく、あっても散在したものであり、集団的な行動を明らかにするようなものもまれにしかないためである。より信頼に値する一つの指標は、雄と雌の間での発生上のパターンであり、他の霊長類との比較により、この種の知見が社会的な戦略や繁殖戦略に関する示唆を与えるものである。Lockwoodたち(p.1443)は、200万年前ほどに生存していたヒト族パラントロプス・ロボストス(Paranthropus robustus)の顔の化石サンプルから、この種の雄が雌よりもゆっくりと成長していたことを示している。霊長類において、社会的なグループのほとんどが雌であり(一頭か数頭の雄と共に)、そして雄の死亡率が高かったことをこのパターンは示唆している。(KU)
Extended Male Growth in a Fossil Hominin Species
p. 1443-1446.
   

たんぱく質デフェンシンと犬の毛色(Defensins and Dog's Coats)

犬の毛色にかんする「優性黒色」の遺伝にはある一つの遺伝子が関与しており、この遺伝子は通常の色素沈着系の成分をコードしている遺伝子とは異なるが、相互作用はしているものである。この所謂K座位の変異により、38を超える数の犬の品種における黄色や黒、及びぶち色間の差異が説明される。犬の進化史を解明する遺伝的な戦略を用いて、Candilleたち(p.1418, 10月18日のオンライン出版;Dorin とJacksonによる展望記事参照)は、この座位がβ-デフェンシンのメンバーをコードしているという顕著な発見を見出した。このたんぱく質は別の種において微生物に対する防御に関与しているタンパク質のファミリーである。CBD103が、色素のタイプの切り替えを制御しているたんぱく質、メラノコルチン受容体におけるリガンドであるというメカニズム上の研究も明らかにされた。(KU)
A β-Defensin Mutation Causes Black Coat Color in Domestic Dogs
p. 1418-1423.

ホウ素と植物(Boron and Plants)

理由はよく分かっていないが、ホウ素は植物にとって重要な微量栄養素である。しかしながら、ホウ素の毒性に関しては赤道地帯や乾燥地帯において特に明白なことである。Suttonたち(p.1446)は、オオムギ由来のホウ素輸送体のクローンを作り、ホウ素に異常な耐性を示すオオムギの変異種がこの遺伝子の余分なコピーを持っていることを見出した。Miwaたち(p.1417)は、関連するホウ素輸送体を過剰発現するように遺伝子操作を行ったシロイヌナズナが、ホウ素に更なる耐性を持つことを見出した。このように、穀類にホウ素耐性を持つよう遺伝子操作することで、限界ぎりぎりの土地での植物成長の改善ができる可能性がある。(KU)
Boron-Toxicity Tolerance in Barley Arising from Efflux Transporter Amplification
p. 1446-1449.
Plants Tolerant of High Boron Levels
p. 1417.

DNAメチル化の状態の解明(Putting Weight on DNA Metylation State)

近年のゲノム-ワイドアソシエーションの研究により、共通の障害を引き起こす恐れのある遺伝子変異が同定されている。最も関心の高いものの一つは、いまだ機能的な役割が不明なFTO(体脂肪率と肥満に関係)遺伝子における肥満−関連配列変異体である。Gerkenたち(p.1469, 11月8日のオンライン出版)は、FTOがDNAからメチル基を取り除く酵素である2-オキソグルタル酸-依存性の核酸脱メチル化酵素をコードしていることを示している。FTOの細胞内及び組織発現パターンは、DNA修飾と生物のクネルギ−バランスにおけるこのタンパク質の潜在的な役割と一致しているが、しかしながらこれらの役割が機能的にどのように結びついているかは不明である。(KU)
The Obesity-Associated FTO Gene Encodes a 2-Oxoglutarate-Dependent Nucleic Acid Demethylase
p. 1469-1472.

ネアンデルタール人の赤毛(Neandertal Redheads)

メラノコルチン1受容体は、メラニンを産生する経路に関与しており、ヒトの皮膚色の主要な決定要因の一つである。Lalueza-Foxたちは、ヒトのその遺伝子に対応するネアンデルタール人のDNAを解析し、現代の人類には知られていない新たな対立遺伝子の証拠を発見した(p. 1453、10月25日オンライン出版された; また、Culottaによる10月28日のニュース記事参照のこと)。この変異体の機能解析によって、ヨーロッパの血統において見られるのと同様の水準で機能の減少が示された。つまり、ネアンデルタール人は色素沈着レベルが低くなっていて、現代人と似たような淡い皮膚色または赤っぽい髪色になっていた可能性がある。(KF)
A Melanocortin 1 Receptor Allele Suggests Varying Pigmentation Among Neanderthals
p. 1453-1455.

濡れると還元(Reducing When Wet)

構造上の節約の不可解な事例だが、自然界では酸化と還元の双方における電子往復運動のために、タンパク質の同一の鉄-硫黄クラスター・モチーフを利用している。Deyたちは、X線吸収分光法と理論モデルを用いて、高ポテンシャルな鉄-硫黄タンパク質(HiPIP)の酸化電位とフェレドキシンの還元電位とを生理的な範囲にシフトさせる環境因子を探求した(p. 1464)。彼らは、水に曝されることによる水和がその変化の大部分になっていることを発見した。フェレドキシンにはより多くの水和した活性部位があるが、乾燥させた試料では、HiPIPに見られるレベルに近い鉄-硫黄共有結合能(これは酸化しやすさと相関する)を示した。同様に、HiPIPは変性を介して水に曝されることで、共有結合能の減少を示した。(KF)
Solvent Tuning of Electrochemical Potentials in the Active Sites of HiPIP Versus Ferredoxin
p. 1464-1468.

超伝導性における揺らぎ(Fluctuations in Superconductivity)

空間的に系が拘束されるにつれて、系の特性の揺らぎが起き始め、バルクの材料特性とは全く異なる挙動となる。超伝導金属の場合は、試料の空間次元が減少すると転移温度の周期的な揺らぎに至る可能性がある。Koshnick たち (p.1440)は、一次元の超伝導性アルミニウムリングの走査型磁場計測について報告している。その計測は、秩序パラメータの揺らぎの存在を確認するものであり、また、異なるメカニズムの揺らぎの研究を可能とするものである。(Wt,nk)
Fluctuation Superconductivity in Mesoscopic Aluminum Rings
p. 1440-1443.

栄え損ねる(Failure to Thrive)

遺伝子水平伝播は、微生物進化の推進力の1つであるが、遺伝子伝播に対する潜在的障壁は、未だに同定されていない。Sorekたちは、79種もの異なった細菌ないし古細菌種からの25万個にもなる遺伝子の、宿主大腸菌への実験的伝播の試みを分析している(p. 1449、10月18日オンライン出版; また、McInerneyとPisaniによる展望記事参照のこと)。これら遺伝子のある集合の過剰発現は大腸菌の増殖を抑制したが、このことによって、これら遺伝子がクローン化できない理由の一端が説明できる可能性がある。ある遺伝子がクローン化できないことの根底にあるこの要因が、これら遺伝子が生物体の間で水平方向に伝播できるかどうかの基礎であるかもしれない。(KF)
Genome-Wide Experimental Determination of Barriers to Horizontal Gene Transfer
p. 1449-1452.

末端の感知(Sensing the End)

細胞の生得的免疫センサーは、病原体から発せられる外来性シグナルを検出する。Nallagatlaたちは、中心的感覚性タンパク質(pivotal sensing protein)である二本鎖RNA-活性タンパク質キナーゼ(PKR)が、多くの細菌やウイルス内に存在する一本鎖RNA分子の5'三リン酸構造を認識するよう精密に調整されている、と報告している(p. 1455)。この認識戦略は、最近見出された別の感覚性タンパク質、RIG-Iによる核酸 5'末端検出と同様のものである。これらキーとなるセンサーが、どのようにして細胞内病原体への最適な細胞応答を仕立てるに至っているかは正確には明らかになっていない。(KF)
5'-Triphosphate-Dependent Activation of PKR by RNAs with Short Stem-Loops
p. 1455-1458.

クラスターの生化学が明らかに(Cluster Biochemistry Revealed)

生物学的な鉄-硫黄クラスターは、炭素や窒素、水素の地球規模での循環にとって必須な触媒であるが、そうした複雑な金属クラスターを含むこの酵素の詳細な機能は、未だ不十分にしかわかっていない。JeoungとDobbekは、CO2-結合中間体の構造を含む3つの酸化状態における一酸化炭素脱水素酵素の結晶構造を報告しており、これはCO酸化とCO2還元の機構を一緒に明らかにするものである(p. 1461)。反応の逆転は大きな構造変化無しに生じており、これによって、ニッケルや鉄を含むCO脱水素酵素に典型的に見られる高い代謝回転数が説明できる。(KF)
Carbon Dioxide Activation at the Ni,Fe-Cluster of Anaerobic Carbon Monoxide Dehydrogenase
p. 1461-1464.

ミエリンの継ぎ目の縫い付け(Tacking Myelin Seams)

シュワン細胞は、神経軸索の周りのミエリンの層を包み込んで電気的絶縁性を付与することで、活動電位の伝導効率を増している。シュワン細胞間のギャップには、電気的インパルスが飛び越えないといけない節がある。そうした節の場所では、ミエリン層は絶縁性シールを提供するために、とりわけしっかりと抑えつけられている。Scheiermannたちはこのたび、血管内皮細胞と腸の細胞の間の接着において役目を果たしていることで知られている接合部接着タンパク質JAM-Cを、ミエリン鞘のそうした縁を封着する役割を果たしているタンパク質の1つとして同定した(p. 1472)。(KF,KU)
Expression and Function of Junctional Adhesion Molecule-C in Myelinated Peripheral Nerves
p. 1472-1475.

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