AbstractClub - 英文技術専門誌の論文・記事の和文要約


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Science May 4, 2007, Vol.316


色素体の窮迫のシグナル(Plastid Distress Signal)

植物の葉緑体を含めて色素体は、その多くを核ゲノムの制御のもとで作られ、かつ操作されている。例外はあるが、ほとんどの色素体は彼ら自身の残余のゲノムを持っており、窮迫事に応答する。Koussevitzkyたち(p.715,3月29日のオンライン出版;Zhangによる展望記事参照)は、色素体から核への災難のニュースを伝える幾つかのシグナル伝達経路が、実際にそのニュースが葉緑体から発生する前に、或る一つのシグナル伝達経路に集中することを示している。かくして、核は葉緑体の機能の幾つかの側面を統合するコヒーレントな報告を受け取る。Gun1タンパク質は、葉緑体内部の鍵となる統合因子として同定され、かつABI4は遺伝子転写を変えることで、そのニュースに応答する核内での鍵となる転写因子として同定された。(KU)
Signals from Chloroplasts Converge to Regulate Nuclear Gene Expression
p. 715-719.
PLANT SCIENCE: Signaling to the Nucleus with a Loaded GUN
p. 700-701.

プラズマの冷たい側面(The Cold Side of Plasmas)

イオン化ガス、すなわちプラズマ、は宇宙全体に、多様な密度と温度を有して存在している。あるものは太陽のコロナのように極端に高温であり、白色矮星内に見つかっているように極めて高密度のプラズマである。Killian (p. 705) は、低温での中性化した電子背景中のイオンの動きのような特異なプラズマの種類について最新の研究をレビューした。このようなイオンは、全体として極めて多様な動きを示し、これを計算することは今のところ極めて困難な状況であるが、惑星内部やレーザー圧縮された物質における現在の疑問点のいくつかには答えられるかもしれない。(Ej,hE)
Ultracold Neutral Plasmas
p. 705-708.

水星の溶融した核(Mercury's Molten Core)

水星は溶融した金属の核とケイ酸塩のマントルを持っていると期待されている。しかし、熱的モデルによると、この核の物理的状態について、モデルの予測範囲は極めて広い。磁場があることから、溶融金属核のダイナモが出来ている可能性が伺えるが、磁場は残留磁気によって出来ている可能性もある。Margot たち (p. 710; 表紙、および Solomonによる展望記事も参照) は、レーダースペックル干渉という新規な技術を利用して、水星の回転運動を測定した。水星は88日の回転周期に同期して経度方向に揺らいでいる。惑星の自転軸と揺らぎの共鳴と軌道から、水星のマントルは、少なくとも部分的に溶融している核と分離していることを示唆している。(Ej,hE,KU,tk)
Large Longitude Libration of Mercury Reveals a Molten Core
p. 710-714.
PLANETARY SCIENCE: Hot News on Mercury's Core
p. 702-703.

ダイナミックな量子ビット結合(Dynamic Qubit Coupling)

大規模な量子情報処理においては、量子コヒーレンス状態を保持しながら、個々の量子ビット間の相互作用を制御することが必要である。量子ビットのダイナミックな結合は、回路を簡易化しかつシステムをより小さい単位で構成できる。Niskanenたち(p. 723)は、3番目の中間的量子ビットにより二つの超伝導フラックスの量子ビットの結合をダイナミックにスイッチングすることを実証し、系に入り込もうとしているハッカーを検知する量子化アルゴリズムの操作によるコヒーレンスな状態保持を説明している。(hk,KU)
Quantum Coherent Tunable Coupling of Superconducting Qubits
p. 723-726.

もつれた量子状態の測定(Entangled Quantum Metrology)

量子力学系においてもつれ状態を利用することは、古典的物理学手法で達成できる以上の精度に到達できる可能性がある。Nagata たち(p.726) は4つのもつれ光子を利用して、利用されている光子波長の1/4のパターンを解像できるかを実証した。この結果から多数のもつれ状態の量子測定法への応用が可能であることを開拓した。(Ej,hE)
Beating the Standard Quantum Limit with Four-Entangled Photons
p. 726-729.

高指数の面を持つ白金のナノ結晶(Platinum Nanocrystals with High-Index Facets)

触媒的な応用において、金属は表面積を高めるため、かつ反応の活性部位として働く高度に密なステップ状と欠陥を得るためにナノ粒子として用いられている。にもかかわらず、金属のナノ結晶表面のほとんどは「低指数」の、例えば表面が平坦で比較的欠陥の少ない{111}面(facet;ファセット)である。Tianたち(p.732;Feldheimによる展望記事参照)は、ガラス電極上に析出したより大きなPtナノ球から、テトラヘキサへドラル(THH)な白金ナノ粒子(直径100nm程度)を作る電気化学的な方式を報告している。一連の方形波のレドックスパルスにより、高度にステップ状の{730}、或いは{530}面といった24の高指数面を示すより小さなナノ結晶が生ずる。丸まったPtナノ球に比べ、THH粒子は同じ表面積でギ酸やエタノールの電界酸化において遥かに高い活性を示す。(KU)
Synthesis of Tetrahexahedral Platinum Nanocrystals with High-Index Facets and High Electro-Oxidation Activity
p. 732-735.
CHEMISTRY: The New Face of Catalysis
p. 699-700.

道路から離れて進む(Going Off Road)

道路の密度や分布は、生態環境、天然資源の利用、そして都市計画や交通機関計画における論点の重要な核心である。時を経た変化(change over time)の比較や分析に対して利用しやすい定量尺度は、規模に相対的な依存しないことや、ある地域内の道路の数や分布の両方に鋭敏であることが必要である。Watts等(p. 736)は、限定された地域内において道路までの距離に基づく測定基準(metric)を開発した。それはその地域でのボリューム(道路は無限な長さがあるとすると、道路までの距離は、対象地域の面積を表します。面積は2次元のボリュームと見なされ、エコロジカルな活動の単位と見なせます)を表す。彼らは、米国内の全ての地域に対して、そして人口1人当たり等価なものとして、この測定規準を適用した。(TO,Ej)
Roadless Space of the Conterminous United States
p. 736-738.

外因性の発生に関するパターン形成(Extrinsic Developmental Patterning)

ハエや虫、及びカエルの胚は母系性の因子に蓄えられた情報により、初期の非対称性と軸発生を特殊化するが、しかしながら、哺乳類の胚における非対称性が前もってパターン化されているのか、或いは軸が発生の後に特殊化されるのかどうかに関して意見が分かれている。Kurotakiたち(p.719,3月19日のオンライン出版;Behringerによる展望記事参照)は、実時間での細胞全体の追跡と標識された染色体を持つトランスジェニックマウス系統を用いて、in vitroとin vivoでの細胞系譜を調べた。系譜依存性は胚の軸に関して4-細胞期までは観測されなかった;しかしながら、細胞系列と胚の軸は透明帯による物理的な制限によって影響を受けた。このように、初期のマウス胚の軸の位置決めは、胚の外側の因子によって特殊化されており、割球内部の因子ではない。(KU)
Blastocyst Axis Is Specified Independently of Early Cell Lineage But Aligns with the ZP Shape
p. 719-723.
DEVELOPMENTAL BIOLOGY: Dance of the Embryo
p. 697-698.

光合成エネルギー転換のモデル化(Modeling Photosynthetic Energy Conversion)

光合成の反応中心における最初のエネルギー転換のステップは、励起したドナーから隣接するアクセプターへの電子伝達である。この電子移動速度を、初期状態と電荷-分離状態の間の静的な障壁に基づいてモデル化することは難しかった。Wangたちは、タンパク質動力学がこの反応速度を支配していることを明らかにしている(p. 747; またSkourtisとBeratanによる展望記事参照のこと) 。彼らは、電子移動の際のタンパク質の緩和反応を測定し、野生型およびいくつかの変異体細菌の反応中心における電子移動速度が、そうした動力学を取り込んだ電子移動の反応拡散モデルに定量的に一致した。(KF)
Protein Dynamics Control the Kinetics of Initial Electron Transfer in Photosynthesis
p. 747-750.
BIOCHEMISTRY: Photosynthesis from the Protein's Perspective
p. 703-704.

τの減少と認知の減退(Tau Reduction and Cognitive Decline)

アルツハイマー病の脳病理には、タンパク質τの豊富な神経原線維変化と、アミロイド-βペプチド(Aβ)を含むプラークの双方が関係しているが、認知障害に対するそれぞれの相対的寄与ははっきりしていない。Robersonたちは、アルツハイマー病の2つの遺伝子導入マウスモデルにおける認知および神経細胞の欠陥が、内在性のτの産生が除かれるか50%減少すれば、防げることを発見した(p. 750)。τ減少のこの効果は、これらモデルにおけるτの変異、過剰リン酸化や過剰発現、さらには神経原線維変化への凝集がない場合であっても、ロバストであった。これらモデルにおけるτの変異、過剰リン酸化や過剰発現、さらには神経原線維変化への凝集がない場合であっても、τ減少のこの効果は大きかった。(KF,hE)
Reducing Endogenous Tau Ameliorates Amyloid ß-Induced Deficits in an Alzheimer's Disease Mouse Model
p. 750-754.

アダプタに順応する(Adapting the Adapter)

アダプタ・タンパク質は複数の細胞シグナル伝達経路に含まれるタンパク質を結び付けている。T細胞では、アダプタ・タンパク質ADAPが、インテグリン接着受容体の機能に影響を与えるT細胞受容体(TCR)からのある種のシグナルを制御している。Medeirosたちは、ADAPがまた、もう1つ別のアダプタであるCARMA1に直接的に結合していることを発見した(p. 754)。このCARMA1は、TCRシグナル伝達を核の転写制御因子NF-κBの活性化に結び付ける膜結合タンパク質である。この結合には、ADAPの非存在下では形成に失敗し、またNF-κBの活性の障害と対応する、多タンパク質複合体の組立が関与していた。この研究は、TCR活性化と感染症への転写反応とを結び付ける経路の調整の鍵となる、新しいステップを導き入れている。(KF,hE)
B Activation in T Cells via Association of the Adapter Proteins ADAP and CARMA1
p. 754-758.

シナプスのコミュニケーション(Synaptic Communication)

興奮性である錐体神経細胞についての伝統的な見方は、それらが下流の標的細胞だけを興奮させられる、というものである。しかしながら、Renたちは、皮質性の錐体神経細胞がもう1つ別の隣接する錐体神経細胞中に抑制性のシナプス電流を誘発できる、と報告している(p. 758) 。こうした異常な応答は、シナプス後錐体細胞の細胞体の上または付近に位置しているγ-アミノ酪酸(GABA)放出性神経終末への、軸索−軸策2シナプス性結合(axo-axonic disynaptic connection)が原因となって生じる。これらいわゆる錐体間抑制性シナプス後電流は、著しく大きくて頻繁であり、これはそれらが重要な役割を果たしていることを示唆している。(KF,hE)
Specialized Inhibitory Synaptic Actions Between Nearby Neocortical Pyramidal Neurons
p. 758-761.

圧力下で成長する(Under Pressure to Grow)

半導体ナノワイヤーは、しばしば共融温度以下の温度で成長するが、このような成長が生じるメカニズムに関して多々議論されている。Kodambakaたち(p.729;SchmidtとGoeseleによる展望記事参照)は、共融温度が気体-液体-固体(VLS)成長への抑制ではないこと、更に一般に重要な因子とは見なされていなかった成長圧力が、実際にこの成長モードを決定する鍵であることを示している。熱履歴によっても影響される触媒の状態が、成長が生じるかどうかを評価する鍵である。(KU)
Germanium Nanowire Growth Below the Eutectic Temperature
p. 729-732.
MATERIALS SCIENCE: How Nanowires Grow
p. 698-699.

破片の野(Fields of Debris)

Mars Exploration Rover Spirit は、過去に、Home Plate の地図を作成した。このHome Plate は、Gusev クレーター内にあり、露出した層状の岩石からなる大規模な明るい色調の台地である。Rover のすべての装置からのデータを用いて、Squyresたち (p.738) は、Home Plate は、火山爆発にその起源を有すると結論している。目の粗い下部の地層は、目の細かな上部地層の下に敷かれており、粒子の選別、球状化、そして、交差した層状化を示しており、これらは、風による堆積と整合している。この構造は、おそらくは、火山噴火からの層状の堆積物を表しており、玄武岩の溶岩が表面下の水と接触した時に、生成したものであろう。(Wt)
Pyroclastic Activity at Home Plate in Gusev Crater, Mars
p. 738-742.

ホームとアウェイ(Home and Away)

サンゴ礁に棲む魚の幼生は小さく、かつ外洋で成長しながら数週間〜数ヶ月過ごすために、幼生の分散を評価する標識付け-再捕獲の研究が困難であった。Almanyたち(p.742)は幼生を標識付けする方法--分散前に母魚から幼生への稀な、安定な同位元素の遺伝--を用いてこの問題に取り組み、小さな海洋保護区に棲む二種類のサンゴ礁の魚の集団にかんする直接的な分散を測定した。二種の魚において、幼魚の60%は、海洋で数週間〜数ヶ月過ごしたにもかかわらず、産まれたサンゴ礁に戻ってきた。その保護区に入り込んだ残り40%の幼魚はサンゴ礁から少なくても10km程度離れて分散していた。このように、小さな海洋保護区ですら多くの海の魚の持続性を保証するものであり、保護区で産まれた若魚の輸送により境界の外の領域にも利点となる。(KU)
Local Replenishment of Coral Reef Fish Populations in a Marine Reserve
p. 742-744.

MILI--ゲノムの保護者(MILI--The Genome Guardian)

未来の世代に受け継がれるDNAの貯蔵庫である生殖系列のゲノムは、トランスポゾン(易動姓遺伝因子)といった寄生虫のDNA配列の侵入から保護される必要がある。piRNAsは最近発見されたクラスの小さな非翻訳RNAで、PiwiクラスのArgonauteタンパク質が結合している。piRNAsは生殖系列中でもっぱら発現し、ショウジョウバエにおいて、piRNAsはトランスポゾンの発現を抑制する役割を果たしている。Aravinたち(p.744,4月19日のオンライン出版)は、哺乳類のpiRNAsが雄性の生殖系列において似たような機能を持っていることを示している。精子形成期間の初期に発現し、マウスのMILIPiwiタンパク質の結合したpiRNAsは、その後に遅れて発現したものと異なり、特異的なファミリーの反復配列の中に濃縮されていた。更に、MILIの変異体は、これら同じ反復エレメントのサブセットの脱メチル化と活性化に導いた。反復piRNAsは、トランスポゾンmRNAの分解促進とpiRNAs発現を増殖するという増殖ループと一致する特徴を示している。(KU,hE)
Developmentally Regulated piRNA Clusters Implicate MILI in Transposon Control
p. 744-747.

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